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第五章
ペルケレの闘士
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コンチェイと話があるというマルティスと別れ、私たちは宿へ戻ることにした。
ゼフォンが少し話したいことがあるというので、宿の近くの屋台で食べるものを買い込んで部屋に戻り、3人で遅い昼食をとった。
部屋のテーブルに食べ物を広げて、それをつまみながらゼフォンは話を始めた。
「先程の広範囲魔法だが…。人間の回復士でいえばSS級以上だ。しかもおまえは無詠唱でそれをやってのけた」
「私もこの目で見ました!本当にすごかったです!それにあんなにすごい範囲魔法を使用しても、魔力が尽きたりしないんですね!」
「ああ…そういえば、気にしたことなかったかも」
そういえば、魔力が尽きるとか、考えたことなかった。
これまでそんなことがなかったから。
普通の人はどのくらいで魔力が尽きるものなのか、とイヴリスに聞いてみた。
「私ならば、最初に精霊召喚を行ってしまうと、いきなりドンと魔力が失われてしまいます。召喚魔法は召喚している間もずっと魔力を消費しますので、使いどころを考えながらでないと、途中で魔力切れを起こしてしまうのです。あとは…魔法の種類にもよりますが、最も強力な魔法を使った場合、5、6発撃つと魔力が低下してしまいます。その後は自然回復をしながら武技スキルだけで戦う感じです」
「俺も同じだな。俺の場合は魔法というより武技スキルがほとんどだから、魔力の低下はそれほど気にならんが」
「トワさんの回復魔法は、魔力も回復してくださるので、事実上私たちは無限に魔力を使えるんですよ。これはすごいことですよ!」
イヴリスは嬉々として云った。
「実は、闘技場で、先日トワさんにいただいたこの力を試してみたくて仕方がありませんでした」
「意外と好戦的だな」
「ゼフォンさんだってそうでしょう?」
「否定はしない。だが不要な戦闘ならしないに越したことはない。こんな見世物など、特にな」
ゼフォンは私に視線を移して、話を変えた。
「ところで、おまえとマルティスはどういう関係なんだ?」
「どうって?」
「私も気になっていました。どうも、彼はあなたを利用しているようにしか見えないのですが」
イヴリスのこの発言に、私は笑った。
まあ、そう思われても仕方ないわよね。
「実は私、意識不明で倒れていたらしいの。それから2年くらいずっと眠りっぱなしだったらしいわ。それをマルティスが助けてくれて、意識のない間も、ずっと面倒見てくれてたの。回復士なんかも呼んでくれて、治療に結構お金を使ってくれたんだって。仮に騙されているとしても、せめてその恩くらいは返そうと思ってるのよ」
ゼフォンとイヴリスは顔を見合わせた。
「恩を返すとは、あいつに金を稼がせることか」
「うん。彼がやりたいっていうのなら協力しようと思ってる」
「だが、あいつはお前の価値をわかっていない。本来なら、おまえは一個大隊にでも守られるべき貴重な存在なんだ。それが闘士だと?どうかしてるとしか思えん」
ゼフォンは憤っていた。
そのゼフォンを諫めたのはイヴリスだった。
「だから私たちが守るんですよね?ゼフォンさん」
「ああ…そうだ。俺たちが守る」
「じゃあ、闘技場で私が狙われたら2人に守ってもらおうかな」
私が軽い気持ちで云うと、2人は異口同音に宣言した。
「おまえが狙われたら、俺がおまえの壁になる」
「あなたが狙われたら、私があなたの盾になります」
息ピッタリのシンクロに、思わず笑ってしまった。
「なんだか照れくさいけど、そう言ってくれると心強いわ」
私がそう云うと、2人の身体が短く光った。
「お…っ」
「あれ?またですか?」
するとイヴリスが突然立ち上がって、手足をバタバタさせた。
「あ…あああ!何です?何ですか?これ!またスキルが…!」
「な、何?」私は驚いて彼女を見上げた。
ゼフォンはしばらく考えていたけど、やがて私に話しかけた。
「もしや、それは<言霊>スキルではないか?」
「<言霊>スキル?って何?」
ゼフォンに指摘された私は、彼とだけ少し会話をすることにした。
するとその後、ゼフォンの身体が2回も光った。
「やはり、か」
「…ゼフォンの云うことが本当なら、あんまり迂闊なことは言っちゃいけないってことになるわよね?」
「大丈夫だ。その能力は契約している俺たちにしか有効ではないようだ。マルティスのような邪な人間と契約しなくて正解だったな」
「トワさん、いえ、トワ様!素晴らしすぎます!というか、あなたは神です!もう、他に形容のしようがありません…!」
出たよ、また神発言。
もう慣れたけどね…。
こういうの聞くと、マルティスがまた何かいちゃもんつけそうなんだよね…。
「この話は、マルティスには言うな。言えばあいつのことだ、無理矢理契約しようとしてくるに違いない。そして口八丁でおまえからスキルを引き出そうとするに違いない。なにしろ奴は精神スキルの持ち主だからな」
「…完全に悪役扱いね。だけど、そんなに悪い人じゃないと思うんだ。ただちょっとだけ欲が深いってだけで」
「そこが問題なんだ」
ゼフォンの指摘に、私は苦笑するしかなかった。
宿に顔を出したマルティスは、私たちを闘技場に登録してきたと報告した。
登録名はチーム・ゼフォン。
完全にゼフォンの知名度に乗っかっている。
登録時に、受付係の人に「本当に、あのゼフォンさんが帰ってきたんですか?」と何度も聞かれたという。
「念のため、ゼフォン、あんた個人でも登録しといたぜ」
「…余計なことを」
「今のチャンピオンとやりたいだろうと思ったからさ。ま、気が向いたらやってみな」
今の個人戦のチャンピオンはエルドランという傭兵上がりの魔族だという。
しかもゼフォンと同じ槍使いで、戦闘スタイルが似ていると噂になっていた。
そのゼフォンが戻ってきたとなれば、興行主から高額の報酬で依頼があるに違いないと、マルティスは考えたようだ。
「すべてにおいて金がらみだな、おまえは」
ゼフォンは侮蔑を込めてマルティスに云ったが、「誉め言葉だと思っとくよ」と彼は意に介さなかった。
それからいろいろと手続きに数日を費やした頃、約束通りコンチェイが私たちパーティの武器や鎧を用意してくれた。
そして私専用の魔法具が出来たと、持って来てくれた。
どんなものかとワクドキしていたけど、彼が取り出したのはオモチャのピストルのようなものだった。
「…なにこれ」
「それがお前の武器か!」
マルティスが楽しそうに云った。
コンチェイが使い方を説明してくれたけど、それを聞けば聞くほど私は思った。
「これ、水鉄砲よね…」
「見かけに騙されるなよ?れっきとした魔法具なんだ」
たしかに水鉄砲のわりに水のタンクはついていない。
大気中の水を魔法で精製して、無限に撃てる水の魔法具だという。射程と威力は使用者の魔力に応じて変化するといい、魔力の弱い者のために、横に水の威力を調節するレバーがついている。
うっは!ダサっ!まんまじゃん!
ゼフォンやイヴリスは槍だの剣だのなのに、私だけ『武器:水鉄砲』って!カッコわるぅ~。
「あ、ありがとう…。頑張るわ」
「まあ、一度使ってみなって。見かけよりも結構使えるから。人は急に水を掛けられると動きが止まるもんなんだ」
なぜかコンチェイは絶対の自信を持っていた。
そんな私たちの最初の試合が組まれることになった。
デビュー戦になるわけだけど、下級もいいところだし、注目度は限りなく低い。
だけど、デビュー戦がエントリーされた時は、あのゼフォンが復活して魔族パーティを組むということで、ちょっとした話題になった。
初戦の相手は人間の下級ランクパーティ、チーム・ゲッペルズ。
前衛が重装備の斧、軽装の剣使い、後衛が魔法士、回復士という手堅い構成のチームで、下級トーナメントでは準優勝したこともある。
興味本位で賭ける者は多かったが、賭けのオッズは圧倒的にゲッペルズだ。
何しろ、ゼフォン以外は無名だったし、そもそも個人で戦ってきたゼフォンがパーティ戦などできるのかということで、チームに対する否定的な意見が多かったのだ。
コンチェイは運営側だから賭けに参加はできないけど、幾人かの知り合いに声をかけてチーム・ゼフォンを買うよう勧めたらしい。
チーム・ゼフォンの賭け札を買った彼らも、半分付き合いで、負けを覚悟していた。
しかしもし勝てば70倍になる。
そんなことがあるものか、と諦めつつも彼らは闘技場へと出かけた。
しかし、そこで誰も予想しなかったことが起こった。
チーム・ゲッペルズは3分とたたずに敗北したのだ。
ゼフォンが少し話したいことがあるというので、宿の近くの屋台で食べるものを買い込んで部屋に戻り、3人で遅い昼食をとった。
部屋のテーブルに食べ物を広げて、それをつまみながらゼフォンは話を始めた。
「先程の広範囲魔法だが…。人間の回復士でいえばSS級以上だ。しかもおまえは無詠唱でそれをやってのけた」
「私もこの目で見ました!本当にすごかったです!それにあんなにすごい範囲魔法を使用しても、魔力が尽きたりしないんですね!」
「ああ…そういえば、気にしたことなかったかも」
そういえば、魔力が尽きるとか、考えたことなかった。
これまでそんなことがなかったから。
普通の人はどのくらいで魔力が尽きるものなのか、とイヴリスに聞いてみた。
「私ならば、最初に精霊召喚を行ってしまうと、いきなりドンと魔力が失われてしまいます。召喚魔法は召喚している間もずっと魔力を消費しますので、使いどころを考えながらでないと、途中で魔力切れを起こしてしまうのです。あとは…魔法の種類にもよりますが、最も強力な魔法を使った場合、5、6発撃つと魔力が低下してしまいます。その後は自然回復をしながら武技スキルだけで戦う感じです」
「俺も同じだな。俺の場合は魔法というより武技スキルがほとんどだから、魔力の低下はそれほど気にならんが」
「トワさんの回復魔法は、魔力も回復してくださるので、事実上私たちは無限に魔力を使えるんですよ。これはすごいことですよ!」
イヴリスは嬉々として云った。
「実は、闘技場で、先日トワさんにいただいたこの力を試してみたくて仕方がありませんでした」
「意外と好戦的だな」
「ゼフォンさんだってそうでしょう?」
「否定はしない。だが不要な戦闘ならしないに越したことはない。こんな見世物など、特にな」
ゼフォンは私に視線を移して、話を変えた。
「ところで、おまえとマルティスはどういう関係なんだ?」
「どうって?」
「私も気になっていました。どうも、彼はあなたを利用しているようにしか見えないのですが」
イヴリスのこの発言に、私は笑った。
まあ、そう思われても仕方ないわよね。
「実は私、意識不明で倒れていたらしいの。それから2年くらいずっと眠りっぱなしだったらしいわ。それをマルティスが助けてくれて、意識のない間も、ずっと面倒見てくれてたの。回復士なんかも呼んでくれて、治療に結構お金を使ってくれたんだって。仮に騙されているとしても、せめてその恩くらいは返そうと思ってるのよ」
ゼフォンとイヴリスは顔を見合わせた。
「恩を返すとは、あいつに金を稼がせることか」
「うん。彼がやりたいっていうのなら協力しようと思ってる」
「だが、あいつはお前の価値をわかっていない。本来なら、おまえは一個大隊にでも守られるべき貴重な存在なんだ。それが闘士だと?どうかしてるとしか思えん」
ゼフォンは憤っていた。
そのゼフォンを諫めたのはイヴリスだった。
「だから私たちが守るんですよね?ゼフォンさん」
「ああ…そうだ。俺たちが守る」
「じゃあ、闘技場で私が狙われたら2人に守ってもらおうかな」
私が軽い気持ちで云うと、2人は異口同音に宣言した。
「おまえが狙われたら、俺がおまえの壁になる」
「あなたが狙われたら、私があなたの盾になります」
息ピッタリのシンクロに、思わず笑ってしまった。
「なんだか照れくさいけど、そう言ってくれると心強いわ」
私がそう云うと、2人の身体が短く光った。
「お…っ」
「あれ?またですか?」
するとイヴリスが突然立ち上がって、手足をバタバタさせた。
「あ…あああ!何です?何ですか?これ!またスキルが…!」
「な、何?」私は驚いて彼女を見上げた。
ゼフォンはしばらく考えていたけど、やがて私に話しかけた。
「もしや、それは<言霊>スキルではないか?」
「<言霊>スキル?って何?」
ゼフォンに指摘された私は、彼とだけ少し会話をすることにした。
するとその後、ゼフォンの身体が2回も光った。
「やはり、か」
「…ゼフォンの云うことが本当なら、あんまり迂闊なことは言っちゃいけないってことになるわよね?」
「大丈夫だ。その能力は契約している俺たちにしか有効ではないようだ。マルティスのような邪な人間と契約しなくて正解だったな」
「トワさん、いえ、トワ様!素晴らしすぎます!というか、あなたは神です!もう、他に形容のしようがありません…!」
出たよ、また神発言。
もう慣れたけどね…。
こういうの聞くと、マルティスがまた何かいちゃもんつけそうなんだよね…。
「この話は、マルティスには言うな。言えばあいつのことだ、無理矢理契約しようとしてくるに違いない。そして口八丁でおまえからスキルを引き出そうとするに違いない。なにしろ奴は精神スキルの持ち主だからな」
「…完全に悪役扱いね。だけど、そんなに悪い人じゃないと思うんだ。ただちょっとだけ欲が深いってだけで」
「そこが問題なんだ」
ゼフォンの指摘に、私は苦笑するしかなかった。
宿に顔を出したマルティスは、私たちを闘技場に登録してきたと報告した。
登録名はチーム・ゼフォン。
完全にゼフォンの知名度に乗っかっている。
登録時に、受付係の人に「本当に、あのゼフォンさんが帰ってきたんですか?」と何度も聞かれたという。
「念のため、ゼフォン、あんた個人でも登録しといたぜ」
「…余計なことを」
「今のチャンピオンとやりたいだろうと思ったからさ。ま、気が向いたらやってみな」
今の個人戦のチャンピオンはエルドランという傭兵上がりの魔族だという。
しかもゼフォンと同じ槍使いで、戦闘スタイルが似ていると噂になっていた。
そのゼフォンが戻ってきたとなれば、興行主から高額の報酬で依頼があるに違いないと、マルティスは考えたようだ。
「すべてにおいて金がらみだな、おまえは」
ゼフォンは侮蔑を込めてマルティスに云ったが、「誉め言葉だと思っとくよ」と彼は意に介さなかった。
それからいろいろと手続きに数日を費やした頃、約束通りコンチェイが私たちパーティの武器や鎧を用意してくれた。
そして私専用の魔法具が出来たと、持って来てくれた。
どんなものかとワクドキしていたけど、彼が取り出したのはオモチャのピストルのようなものだった。
「…なにこれ」
「それがお前の武器か!」
マルティスが楽しそうに云った。
コンチェイが使い方を説明してくれたけど、それを聞けば聞くほど私は思った。
「これ、水鉄砲よね…」
「見かけに騙されるなよ?れっきとした魔法具なんだ」
たしかに水鉄砲のわりに水のタンクはついていない。
大気中の水を魔法で精製して、無限に撃てる水の魔法具だという。射程と威力は使用者の魔力に応じて変化するといい、魔力の弱い者のために、横に水の威力を調節するレバーがついている。
うっは!ダサっ!まんまじゃん!
ゼフォンやイヴリスは槍だの剣だのなのに、私だけ『武器:水鉄砲』って!カッコわるぅ~。
「あ、ありがとう…。頑張るわ」
「まあ、一度使ってみなって。見かけよりも結構使えるから。人は急に水を掛けられると動きが止まるもんなんだ」
なぜかコンチェイは絶対の自信を持っていた。
そんな私たちの最初の試合が組まれることになった。
デビュー戦になるわけだけど、下級もいいところだし、注目度は限りなく低い。
だけど、デビュー戦がエントリーされた時は、あのゼフォンが復活して魔族パーティを組むということで、ちょっとした話題になった。
初戦の相手は人間の下級ランクパーティ、チーム・ゲッペルズ。
前衛が重装備の斧、軽装の剣使い、後衛が魔法士、回復士という手堅い構成のチームで、下級トーナメントでは準優勝したこともある。
興味本位で賭ける者は多かったが、賭けのオッズは圧倒的にゲッペルズだ。
何しろ、ゼフォン以外は無名だったし、そもそも個人で戦ってきたゼフォンがパーティ戦などできるのかということで、チームに対する否定的な意見が多かったのだ。
コンチェイは運営側だから賭けに参加はできないけど、幾人かの知り合いに声をかけてチーム・ゼフォンを買うよう勧めたらしい。
チーム・ゼフォンの賭け札を買った彼らも、半分付き合いで、負けを覚悟していた。
しかしもし勝てば70倍になる。
そんなことがあるものか、と諦めつつも彼らは闘技場へと出かけた。
しかし、そこで誰も予想しなかったことが起こった。
チーム・ゲッペルズは3分とたたずに敗北したのだ。
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