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第二章

決闘

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 私たちは城の入口に転移した。
 入口の警備に当たっていた魔族兵たちが私たちを見つけて「いたぞ!」と押しかけてくる。
 すでにホルスから命令が行っていたようで、兵たちは声を掛け合ってどんどん人数が増えていった。
 そこに見えてるだけで200~300人以上はいる。

「わ~!いっぱい来たね~」
「1人何人ずつ倒す?」
「え~いちいち数えんのメンドくさくない?」
「適当でいいだろ」

 テスカとウルクそれにネーヴェのやり取りに、カナンが答えを出した。

 敵の大軍を見ても、聖魔騎士団は意に介さない様子だった。
 彼らは、手に入れた武器を試したくて仕方がないみたいだった。
 外の広場へと向かう大階段を下りていくと、また別の方向から一軍がやってきた。

「また来たわよ…!なんかすごい数なんだけど」
「我々にお任せください」
「私も加勢します」

 開口一番、ロアが弓をつがえて先頭にいた兵を射ち倒した。

 それを合図に、敵は集団で襲い掛かってきた。
 私と魔王を守るためにジュスターが残り、聖魔騎士団とロアたちはその集団を迎え撃つため、突撃していった。
 ウルクは翼で宙に飛び上がり、外側に刃の付いた投擲とうてき武器・チャクラムを次々に飛ばして複数の兵たちを切り刻む。

 同じように空中からクナイという暗器を投擲するクシテフォンは、その合間に敵の放つ魔法を吸収しては撃ち返している。彼が遠距離に特化した武器を選んだのは正解だったようだ。投げたクナイは、まるで紐が付いているかのように彼の手元に真っすぐ戻ってくるので回収する手間もないみたい。そういえば魔王の武器は各々のマギを流し込んでいるって云ってたから、まるで自分の手足みたいな感じで使えるのだろう。

 鎖のついた鉄球を飛ばして敵の武器を奪ったアスタリスの後ろから、拳に爪のついたナックルを装着したシトリーがその兵を殴り飛ばす。いい連携だ。
 さらに肉体を<超硬化>したシトリーが拳を地面にたたきつけると大階段に地割れが起こり、何人かの兵がその裂け目に呑み込まれていった。それを見た魔王は「修理費はホルスの給料から差っ引こう」などとぼやいていた。

 死神が持つような大鎌デスサイズを振り回しているのは小柄なテスカだった。
 黒い翼があるため、本当に死神か悪魔みたいだ。
 彼は空を飛び、笑いながら大鎌デスサイズを振り回している。しかもその大鎌の刃先に触れると毒状態になってしまうというから恐ろしい。いつもはおっとりしている彼だけど、武器を持つと性格が変わるみたいで、「死ね死ね死ねーー!」とか叫んでいる。目が血走っていて、まるで別人みたいに狂暴化している。まさに殺戮天使だ…!

 カナンは両手に剣を持つ二刀流で、流れるように軽やかに戦っている。まるで剣舞を見ているみたい。その隣で、ユリウスも両手に曲刀を装備して舞うように華麗に戦っている。
 彼らの後方から、魔女っ娘が持つような小ぶりの魔法杖のスティックを持ったネーヴェが風の魔法を素早く繰り出している。それはかまいたちとなって、兵士たちに襲い掛かった。その繰り出す魔法の速度は、もはや早送り状態だ。

 これがいわゆる無双状態か…!
 まるでテレビゲームの画面を見てるみたいに、大勢の兵士がドカーンドカーンと吹っ飛んでいく。
 うう、これがゲームなら二刀のカナンかトリッキーなクッシーあたりを使いたいものだ。
 魔王も彼らの戦いを見てウズウズしたみたいで、「我も戦いたいぞ!」とジタバタと暴れていた。

「魔王様がここで魔法を放ったら魔王城が吹き飛びます」

 ジュスターはそう云って魔王を押しとどめた。
 …ジュスターって、魔王が攻撃魔法を使う所を見たことがあるのかな?

 そうしている間に彼らは、まるで武器の使い心地を楽しむかのように、襲ってきた兵士たち全員を倒してしまった。
 武器を得たことで、彼らの能力は以前より格段に上がっている。
 彼らの戦いっぷりを見て、後から来た一団が、恐れをなして来た道を引き返して行くほどに。
 私のポリシーは、人間だろうが魔族だろうが、できるだけ命は助けたいってことなんだけど、時と場合による、と注釈をつけることにした。
 それは、大事な仲間ができたから。
 彼らの命が何より最優先になったからだ。優先順位を間違えちゃいけないと思う。全部が全部助けられるなんて己惚れてもいない。
 だけど、こんな大勢に囲まれても彼らは明らかに手加減をしている。
 大勢の魔族兵たちが倒れているけど、たぶん、死んでる人はいないんじゃなかろうか。元々魔族は人間よりずっと体が強いしね。
 回復して助けてあげたいところだけど、追いかけてこられても困るので、スルーすることにした。

「死にたい奴はかかって来な!」と死神みたいなテスカが挑発している隣で、
「死にたくない奴は逃げろ!」とカナンが叫んでいるのが滑稽だった。

 すると、その2人に恐れを抱いたのか、周りを囲んでいた魔族兵たちは、私たちの行く道をサッと開けてくれた。
 私たちは、追われている身だとは思えないほど、本城の大階段をのんびりと歩いて広場へ降りていった。その後を兵士たちが攻撃もせずに恐る恐る、ぞろぞろと付いてくるという、なんともおかしな光景になった。
 団員たちはそんな魔族兵たちを気にすることもなく、武器の話で盛り上がっている。どこまで余裕なんだか。

 本城前の広場までくると、慌てた様子でダンタリアンとホルスが武装兵たちを率いてやってきた。

「来たな」

 魔王は杖を手にした。
 息を弾ませて、ダンタリアンは魔王の前で立ち止まった。

「魔王、様…」
「ほう、まだ我をそう呼ぶのか」
「もはや、言い訳はしない。後悔したところでもう引き返せない。あなたを倒して、この国の統治者になるしか道はないのだ」

 ダンタリアンが云うと、後ろにいた兵士たちがざわつき始めた。
 そんな話、聞いてないぞ、という反応だ。彼らは目の前にいる少年が魔王だとは聞かされていないようだった。

 その機を逃さず、私はカイザーを巨大なドラゴンの姿で広場に出現させた。

「おおお!魔王様のドラゴンだ!」

 兵士たちは一斉に後ろへ退いた。

『魔王に逆らう裏切り者は前へ出ろ。この私が丸焼きにしてくれる』

 そう凄んで一声咆哮すると、ダンタリアンとホルスが引き連れてきた大勢の兵士たちは、ほぼ全員が武器を放り出してその場に平伏した。

 私の隣にいた魔王が、杖を手に前へ出ようとしていた。
 皆の見ている前で、ダンタリアンと戦うつもりなんだ。
 そう思った瞬間、私は少年魔王の体を背後から抱き留めた。

「トワ…?どうした?」
「やっぱり戦わないで。お願い」

 私に止められた魔王は戸惑ったような複雑な表情をしていた。
 それを見たカイザーは、その場でボンッ!と青年魔王の姿に変化した。
 その場にいた全員が、突然の魔王の出現にどよめいた。それは彼らの知っている魔王の姿だったからだ。

『ダンタリアン、お前の相手は魔王に代わって私がしよう』
「…おお!こうなれば武人らしく最期まで戦うのみだ」
『構わぬな?魔王よ』
「まあ…よかろう」

「では、ホルス殿の相手は私がしよう」

 長刀を手にしたジュスターが名乗り出た。

「ふん、無名の戦士ごときが。私も舐められたものだな」

 ホルスは髪をかき上げながら侮蔑を込めて云った。

 そうして2組の戦士たちが広場に立った。

「よいか、この決闘は手出し無用。手を出す者は、この弓で射抜かれると思え」

 ロアが弓をつがえたまま、その場にいる全員に宣言した。

 ダンタリアンとカイザーは睨みあって対峙した。

「なぜその姿になれるのかは知らぬが、全力で行かせていただく」
『フッ、魔王の姿で殺されることを光栄に思うがいい』
「では行く!」

 ダンタリアンは背をそらせて咆哮し、全身をその髪色と同じ黄金色に変化させた。
 色だけでなく、その肉体は鋼以上の頑丈さとしなやかさを持つものに変わった。シトリーの肉体鋼鉄化と似たスキルだが、よく見るとその体からはビリビリッと小さな雷光を発していた。たぶん、あの体に直接触れると感電するのだろう。

 ダンタリアンの武器は自らの拳だった。
 拳を繰り出すたび、小さなつむじ風が起こり、それは電撃を伴って空を切り裂く。
 カイザーは物理攻撃無効と魔法攻撃無効を持っているため、傷ひとつ負うことはない。しかもその動きは素早く、ダンタリアンの拳をひらり、ひらりとかわしていく。
 ダンタリアンの攻撃とは対照的に、カイザーの攻撃は主に魔法だった。
 火と風属性を持っているカイザーは、小刻みに火炎弾を叩き込むが、ダンタリアンの腕に装備した盾に吸収されているように見えた。
 すると、今度は同じ火炎弾<ファイアーボム>をその盾からカイザーに向かって連続で撃ち返した。
 それはカイザーが撃ったものよりも威力が上がっている。
 クシテフォンの<魔法吸収・放出>と似ているが、その変換威力は大きいようだ。
 ダンタリアンの腕に付けた盾は、受けた魔法攻撃を吸収し、自分の力を乗せて威力を増した状態で撃ち返す力を持っていた。こちらが強い魔法を撃てば撃つほど倍返しされるというものだった。
 これでは魔法を中心に戦うカイザーが不利だろう。だが、クシテフォンの能力と違うのは、この盾を使うと魔力を消費するということだった。
 ここまでは一見、ダンタリアンが優勢に見えた。

 でもカイザーはたぶん、本気出してない。
 戦うことを楽しんでいるみたいで、顔が笑っている。

 ふと、彼らの戦いを見守っていた私の横で、魔王が囁いた。

「トワ、扇子を持っておけ」

 私は云うとおりに、ダイヤの嵌った扇子を手にした。
 やっぱりこれを持つと力がみなぎってくる感じがする。
 でもなぜ急にそんなことを云うんだろう?
 それから間もなく私は、その意味を理解することになった。
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