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(74)陰謀3 ☆

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 エルマーは皇宮の部屋まで私を案内してくれた。
 無言で歩く彼の後ろについて歩くうち、私は地下牢での出来事を思い出していた。

 サヤカからの罵詈雑言は、私に結構なダメージを与えていた。
 どうしてあそこまで攻撃的になれるのかな。
 …私もちょっとムキになっちゃったと反省したけど、サヤカもあんなに意固地にならなくてもいいのに。あんな牢の中で、裸で縛られて、辛くないはずないのに…。
 今彼女に起こっている悪い事すべてが私のせいだって思っているみたいだった。
 私の言う事全然聞いてくれないし、まるで言葉が通じない人と話してるみたいだ。
 正直なところ、助け出したとしても、上手くやっていける自信、ないな…。

 私の大きなため息が聞こえたのか、エルマーが振り返った。

「残念なお知らせをせねばなりません」
「…はい?」
「先程のメイドの自白で、大物貴族が関わっている可能性があることがわかりました」
「大物貴族?」
「あなたが皇妃になるのを阻止するのが目的だと思われます」
「え…!?それって誰なんですか?」
「私の口からは言えません」
「だって、自白したんでしょう?それがどうして残念なんですか?」
「自白と言ってもメイドが口にしたのは、自分を直接雇った者の名だけです。ただ、それが有力貴族の家の執事をしている者と同じ名だった、それだけのことです」
「それだけって…」
「貴族というものは、一介のメイドの発言など、簡単にひっくり返す力を持っているんです。城内の官吏にも息のかかっている者が多い。これを証拠とするには弱すぎます」
「え…!それじゃあ、犯人がわかってても捕まえられないんですか?」
「この国の貴族の間では、悪事のもみ消しなど日常茶飯事なんですよ」
「そんなの納得できません…!」
「権力は黒を白にできる。そういうものです」

 エルマーはぶっきらぼうにそう言った。

「泣き寝入りってことですか…?弱い人がいくら声を上げても無駄なんて、間違ってます!」

 彼は静かに頷いた。

「皇帝陛下の治世になって、一部の権力者がより力を持つようになりました。皆そういう者に尻尾を振って権力のお裾分けを狙っているのです」
「皇帝陛下はそういう貴族が嫌いだって言ってました。なのにどうして何も言わないんですか?」
「陛下が即位なさる際、そういった貴族たちの支持を得なければならなかったからです。この国において皇帝は封建的統治者です。有力貴族の支えがあってこその権力者なのです」
「それじゃ、陛下も黙認せざるを得ないってことですか…」
「言いにくい事ですが」

 私がため息をつくと、エルマーは申し訳なさそうに言った。

「皇妃になった後もこういったことは起こります。第一夫人には離宮が与えられるなど、他の夫人と比べると特権が桁違いに多い。第一夫人は常に他の夫人たちから狙われる立場にあるということを覚えておいてください」
「そんな…」
「言わないでおこうと思っていたのですが、あなたの部屋のバルコニーの下に毒草の鉢植えが複数置かれていました。それも葉に触れるだけで皮膚がただれる程の劇薬草です」

 エルマーは険しい顔をして言った。

「え…!」
「先程の見回りの時、処分しておきました。バルコニーから落ちて無事だったとしても、真下に置かれた劇薬草の上に落下すれば、その毒で死んだほうがマシというくらいの苦しみが待っているという、用意周到な仕掛けです」
「…!」

 それを聞いて私は恐ろしくなった。
 それほどまでに悪意を向けられているなんて、思っても見なかった。
 もしかしてエルマーは、私を狙う者がいるかもしれないと思って見回りをしていたの?
 皇妃になるって、こういうことなんだ…。
 …そういえば、サロンの後、アデレイドが言ってた、自分の身は自分で守れないとダメって、こういうことだったんだ…。

「あなたのような心の優しい方は、本当なら皇妃などになるべきではないと私は思います。ですが陛下が是非にと望まれる以上、仕方がありません」
「は、はあ…」
「ともかくこの件は皇帝陛下に報告しておきます。陛下自身に裁定を委ねるのが良いでしょう」
「言ったところで、陛下でもどうにもできないんですよね?」

 きっと皇帝でも手が出せないような大貴族なんだ。
 そんな人に狙われてるって、私、結構ヤバイのかもしれない。

「そうでもないと思いますよ」
「え?」
「初めてなんでしょうね、自分から他人に好意を持ったのは」
「…あの…?」
「陛下のあなたへの執着は少々強すぎる」

 エルマーは意味深なことを言った。

 部屋の前に着くと、エルマーは礼を取って言った。

「別の部屋を用意させるまで、少しお待ちください。くれぐれもバルコニーには出ないように」
「はい」
「食事も毒見をさせるので、温かいものは期待しないでください」

 それだけ伝えると、私の返事を待つことなく彼はさっさといなくなった。
 本当に無駄話をしない人だな…。
 だけど、彼の言ったことは私をかなりビビらせた。
 何もしてないのに、命まで狙われるって理不尽すぎる。

 エルマーが去って、私は用心のために部屋に入ってすぐ扉の内鍵を閉めた。

「あ…!城壁の変なオジサンのこと聞くの忘れた」

 私はバルコニーから落ちる前に見たことを思い出した。
 城壁の上でおかしな動きをしていた見知らぬ男のことを調べてもらおうと思っていたのに。

「結局あの人何だったんだろう…?」
「おまえを狙ったメイドの仲間に決まっているだろうが」

 私の独り言に、返事があった。

「えっ?」

 驚いて振り向くと、背後にガイアが立っていた。

「ひゃあっ!」

 私は、驚いて思わず声を上げた。

「何を驚く」
「だ、だって急に現れるから…」
「慣れろ」
「無理…」

 言葉の途中で抱きしめられた。
 私も彼の背中に腕を回して抱きしめ返した。
 本当に神出鬼没で、いつもドキドキさせられる。

「さっきはサヤカを説得できなくてごめんなさい」
「いや、居所が分かっただけで十分だ。隙を見て連れ出すつもりだ」
「…サヤカを屋敷に連れて行くの?」
「何だ、ヤキモチか?」
「違うけど…」

 私は唇を尖らせて言った。
 ガイアは私の髪を撫でて額にキスした。

「然るべきところへ連れて行く。心配はいらん」
「そう…。あの、さっきサヤカに会わせたい人がいるって…誰のこと?」
「ああ、あの異界人を誘うために言っただけだ。気にするな」
「そうなの…?」
「そんなことより」

 彼は私の体を横抱きにして抱き上げた。

「きゃっ!」
「寝室は奥だな?」
「え?まだ日が高いのに…」
「構わん。俺はしたい時にする」
「もう…!いきなりなんだから」
「何だ、嫌なのか?」
「ううん。そうじゃないけど…」
「なら黙って抱かれろ」

 そのままベッドに運ばれて、横たえられる。
 そこで熱い口づけをされながら、スルスルと服を脱がされていく。
 ガイアは私の上に乗り、露わになった乳房にかぶりつくように指と舌で愛撫する。

「あっ…」

 乳房をむさぼりながら、彼の手が下腹部へ伸ばされる。

「濡れてるな…。期待してたのか?」
「や…そんなこと…。意地悪…」
「フッ、可愛いな」
「あっ…避妊香は…?」
「必要ない」
「だって…」
「おまえ以外の女を娶る気はないと言ったろ?」

 ガイアの指が陰核クリトリスを刺激し始めた。

「はうっ…ああんっ」

 秘所を刺激しながら、私が喘ぐ様を彼はじっと見ている。

「やだ…見ないで」
「どうしてだ?可愛いぞ?」

 なんだかすごく恥ずかしい。
 彼は私の両脚を広げて、股間を覗き込むように低い姿勢で愛撫を続けた。

「愛液が溢れて来たぞ…」
「嫌、言わないで」

 蜜で溢れ返るそこへ、彼の太い指が入り込んでくる。
 それは一本、二本と増やされ、私の内部を動き回った。

「ああっ、あっ、そこ…っ」

 彼の指がくちゅくちゅと音を立てながら内側のスポットをつつくと、腰の奥が熱くなった。

「ここがいいんだな」

 彼はその場所を何度も突いては悶える私の反応を愉しんでいた。

「やっあッ、ダメ…っ、そこばっかり…おかしくなっちゃう…っ!」

 ガイアの指で絶頂に達すると、私のそこから何かが飛び出す感覚があった。

「や…っ、やだ、漏らしちゃった…!?」
「ククッ、気持ちよすぎて潮を吹いたんだ」
「し、潮?」

 潮って何?
 おしっこじゃないの?

 大人なのに尿を漏らしたような気がして、恥ずかしくて涙が出そうだった。

「やだやだ、恥ずかしい…」
「いいんだ、気にするな。気持ちよかった証拠だ」

 彼は私の頭を撫でて、頬と唇にキスをしてくれた。
 気持ちよくなりすぎるとそうなるんだと彼は言った。
 それからすぐに彼のモノが私の中へと入ってきた。

「あ…っ、ガイアが…入って…」
「サラ…、俺を感じろ…」

 硬くて大きいものが、一気に私の奥に達するのを感じた。
 私は彼の首に両腕でぎゅっと強く抱きついた。

「キスして…」

 私の要望に彼はすぐに応えてくれた。
 口づけを交わしながら、腰をズン、ズン、と入れられる。
 それがすごく気持ちよくて、どうしようもなく声が漏れる。

「んっ…はあっ…あんっ」

 挿入されたまま体を起こされ、ガイアの膝の上に抱え上げられる。
 腰を持たれて上下に激しく動かされると、より深く彼を感じて、自分でもはしたない程の声を上げていた。
 彼は、私の体を弾ませながら奥へ奥へと侵入する。

「ガイア、私、もう…」
「ああ、一緒にイこう…」

 何度も奥まで貫かれて、私が声もなく達すると、彼も私の中に放った。
 そのまま抜かずに抱き合って、何度も何度もキスした。

「ガイア…好き…」
「知ってる」

 やっぱり好きって言ってくれない。
 けど、このキスが言葉の代わりなんだ。
 こんな素敵なキス、好きじゃない子にはしないよね…?

「ねえ、ガイア…このまま連れて行って。もう離れたくない」

 すると彼はもう一度強く私を抱きしめた。

「すまん。今はできない。だがすぐに迎えに来る」
「…そうなの…」
「事情が変わったと言ったろ?大人しく待っていろ」

 それは私が期待した言葉じゃなくてがっかりした。
 皇帝からもアデレイドからも守るって言って、ここから連れ去って欲しかった。
 私はそんな期待外れな彼に意地悪を言いたくなった。

「でも、そうして待たされてるうちに私、皇帝のものになっちゃうかもよ?」
「何だと?」
「だって、皇帝は毎日のように妃になれって言って尋ねて来るんだよ?断るに断れないもん」
「断れ」
「無理よ…」
「誰であろうと他の男に抱かれるのは許さん」

 私の中の彼のモノが再び力を取り戻した。

「あ…っん、また…」
「おまえは俺のものだ。それをおまえの奥に刻み込んでやる」

 ガイアはゆっくりと腰を動かし始め、再び私を蹂躙した。
 嫉妬からなのか、今度は激しく抱かれた。
 私はまた甘い声で啼かされることになった。
 何度目かの絶頂を迎え、彼のものを何度も受け止めた後、私は彼の胸の中で微睡んでいた。

「ねえ、本当に赤ちゃんできちゃうよ…?」
「望むところだ」

 ガイアは王子様で、私はガイアの国じゃ奴隷のままだ。
 結婚なんてできないはずなのに、ガイアはどう思っているんだろう…。
 こんなに近くにいるのに、存在が遠い。

 ガイアは私の頬にキスをして、体を起こした。

「まだ色々片付けねばならんことがある。おまえは皇帝の誘いを断ることだけ考えていろ」
「う、うん…」

 と言っても、実際それが難しかったりするんだよね。

 彼はベッドに脱ぎ捨てられていた自分の衣服を身に着けた。
 そしてマントの中から何かを取り出し、それを私の手のひらに乗せた。

「これを渡しておこう」
「これは…?」

 彼が私の手のひらに乗せたものは、化粧コンパクトのような丸い形の入れ物だった。

「俺の師匠から預かってきた、魔法の粉だ」
「師匠って…ガイアの先生?」
「ああ。俺の魔法の師だ。アレイス郊外の山に籠る世捨て人だが、世界最高の魔法師だ」

 世界最高って、ガイアが言うんだからきっとすごい人なんだろう。
 その入れ物の蓋を開けてみると、中におしろいのような粉が入っていた。

「えっと…これって化粧品?頬紅チーク?」
「それを肌に直接つけるとその個所だけが赤く見えるという魔法具だ。顔に付ければ赤くなって熱があるように見え、触れると実際に熱く感じる。化粧は落とせば無くなるが、これは肌の上で溶けるので触っても洗っても落ちないそうだ。時間で効果が薄れていくので心配はない。皇帝の誘いを断る口実に使えるだろう?」
「あ…!これを顔に塗って熱があるって言えばいいのね?」
「ああ、そうだ。俺が迎えに行くまでそうやって誤魔化しておけ」
「うん。でも、すごいものがあるんだね」
「師匠が光魔法で作り出したもので、この世に二つとない品だ」
「えっ?」

 今、光魔法って言った?

「あ、あの…今、光魔法って…」

 その時、扉にノックがあった。
 咄嗟に扉を見ると、もう一度ノックの音が聞こえた。誰か訪ねて来たようだ。
 振り返ると、ガイアはもうバルコニーから出て行こうとしていた。

「また来る。ではな」
「ガイア、待って…!まだ聞きたいことが…!」

 彼は手摺の壊れたバルコニーから外へ姿を消してしまった。
 光魔法のこと、聞きたかったのに。

 私も服を着て、急いでドレッサーの前で乱れた髪を直してから、扉を開けた。
 そこには皇帝が立っていた。

「あ…!皇帝陛下…!」

 彼は公務の途中だったらしく、緋色のマントを羽織った皇帝らしい服装をしていた。

「命を狙われたと聞いた」
「は、はい…」
「大丈夫か?」
「はい…、でもちょっと具合が悪くて横になっていました」

 扉越しに皇帝の背後に控えるエルマーの姿が見えた。
 彼が皇帝に伝えたんだろう。

「そうか、大事にするが良い」

 皇帝はエルマーを振り返り、再びこちらを向いた時には、眉間に皴を寄せていた。

「おまえをそんな目に遭わせた者を…余を甘く見た連中を、余は決して許さぬ」
「陛下…?」

 皇帝は、私の頬に手を当てた。

「余のものに手を出す者がどうなるか、見せしめてやらねばならぬ」

 なんだか物騒なことを言う。
 彼が言うとシャレにならない気がする。
 でも、確たる証拠がないと皇帝でも動けないんだってエルマーが言ってた。

「陛下、そろそろ執務室にお戻りを」

 エルマーが促すと、皇帝は頷いた。
 公務の途中なのにわざわざ様子を見に来てくれたんだ。

「…あの、お見舞いに来てくださって、ありがとうございます」

 皇帝はそんな私を見下ろして、フッと口元をほころばせた。

「いや。邪魔をしたな。ゆっくり休むが良い」

 そう言うと、彼はマントを翻して去って行った。
 エルマーは私を一瞥すると、皇帝の後に続いた。
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