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第二章
第二章第61話 ディーノとエレナ(後編)
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「大切な話?」
「うん。あたしね。小さいころからディーノと一緒に遊ぶの。楽しかったんだ」
「ああ、よく一緒に遊んだもんな」
「でも、いつもフリオが邪魔してきてさ。ディーノのこと、殴ってきたじゃない」
「ああ。そうだな。それをいつもエレナがボコボコにしてくれてたよな」
「……うん」
エレナはそう言ってまた少し沈黙する。
「あたしね。あんな奴、ディーノにかっこよく倒してほしかったの」
「……俺は、弱かったからな」
「うん。でもね。ディーノ、最初に一度負けたらそのまま諦めちゃって。あたしそれがすごくイヤだったの」
「それは……」
あの時の俺は勝てない相手に抗おうなんて思いもしなかった。ガチャで破滅した前世の記憶に照らし合わせ、強い相手に力で立ち向かったってより大怪我をするだけだと諦めていたのだ。
それにいつも近くにもっと強いエレナがいて、すぐに何とかしてくれていたのだ。
だから、どうにかしようとすら思わなかった。縮こまって嵐が過ぎるのを待つのが俺にできる最善のことだと思っていたから。
「でもさ。ディーノ、変わったよね」
「そう、なのかな?」
「うん。きっと前のディーノだったらこんなところまで一人でなんか絶対にこなかったはずよ」
「それは……」
そうだと思う。俺だって今になって冷静に考えれば、全財産を使ってガチャを引いて一人で救出に行くなんて無茶だったと思う。
「だからね。あ……」
「どうした?」
「ごめん。ディーノ。ちょっとあたしを起こしてくれる?」
「ああ。良いが、大丈夫なのか?」
「ええ。お願い」
「わかった」
俺はエレナの背中に手を差し入れるとゆっくりとその状態を起こしてやる。
「あのね。ディーノ」
「なんだ?」
俺が離れる前にエレナが俺の顔をまっすぐで見つめてきた。
「いつ、何があるかわからないから今言っておこうって思ったの」
「ああ」
「えっとね。その、あたしね」
エレナの表情は本当に真剣で、それでいて何かを怖がっているようでもある。
それからしばらくの沈黙の後、エレナは口を開いた。
「あたし、ディーノのことが好きなの。ずっと、ずっと小さいころから」
「え!?」
俺は予想外の告白に思わず固まってしまう。
エレナが……俺のことが好き?
じゃあ、今まで殴られてたのは……ってああ、そういうことか。
さっき説明してくれたもんな。
好きな人が弱いことがもどかしくて、それが上手く言葉にできず手が出ていたってことだよな。
ああ、いや。ええと?
「あ……ダメ……かな?」
上目遣いに悲しそうな表情を浮かべたエレナに思わずドキリとしてしまう。
「いや、そういうわけじゃなくって……」
「じゃあ、良いの?」
「あ、ああ」
俺がそう言うとエレナはぱぁっと華やかな笑顔を浮かべた。
これで良いのかはわからない。だが俺だってエレナのことを嫌いなわけじゃない。
少なくともこうして命がけで助けに来ようと思えるくらいにはエレナのことを大切に想っているのだ。それが恋心なのかはわからないが、少なくともエレナを失いたくはないという気持ちは本物だと思う。
エレナは俺の体にぎゅっと抱きついてきて、俺はそれをそっと優しく抱きしめた。
「……硬い」
「そりゃあ、鎧を着てるからな」
エレナは俺の腕の中でクスリと小さく笑ったのだった。
◆◇◆
「ほら。とりあえず、これを食べろ」
「うん」
俺は運んできた食料をエレナに渡す。といっても、堅パンと干し肉なので特別なものではない。全てガチャ産の食料だ。
「おいしい」
何の変哲もない堅パンと干し肉をかじり、エレナはそうこぼした。
「ずっと食べてなかったからな」
「……うん。でも、ディーノがくれたから」
「あ、ああ……」
どうしよう。何だか、エレナが可愛い。
あ、ええと、いや、その……。エレナの顔立ちは整っているのでもともと可愛いのだが、そういう意味ではなくてだな。何というか、今までのとげとげしい雰囲気が無くなって素直になったので魅力が増したというか……。
うん。まあ、何というか、褒めるのはどうにも恥ずかしい。
「その、なんだ。ゆっくりな。まだちゃんと動けないんだから」
「うん」
そう言って微笑んだエレナはゆっくりと食料を口にしていく。
そこへフラウが戻ってきた。
『あっ! これはうまくいったなーっ!』
ニヤニヤしながら俺の腕の中にいるエレナと俺の顔を交互に見てきた。
「フ、フラウ……。ええと、これは……」
「え? フラウ? フラウが帰ってきたの?」
「ああ、その……」
「えっと、このまま……ね?」
エレナは俺の助けなしには座っていることもままならないようで、食事もまだ半ばだ。
『ふっふっふー。ディーノは愛しいエレナ姫を腕に抱いているのだー』
おどけた口調でフラウはそう言ってきたが、それからすぐにとても優しい表情になってぼそりと呟く。
『えへへ。良かったね。エレナ』
「え? フラウはもしかして最初から?」
『もちろん。気付いていなかったのはディーノくらいだよっ! ずーっとエレナの相談に乗ってたんだからねっ』
な、なんと。だから俺はいつも追い出されていたのか。
まるでその会話が聞こえているかのようにエレナは恥ずかしそうに俺の腕の中で身じろぎをしたのだった。
==============
次回「第二章第62話 帰還」は通常通り、2021/06/05 (土) 21:00 の更新を予定しております。
「うん。あたしね。小さいころからディーノと一緒に遊ぶの。楽しかったんだ」
「ああ、よく一緒に遊んだもんな」
「でも、いつもフリオが邪魔してきてさ。ディーノのこと、殴ってきたじゃない」
「ああ。そうだな。それをいつもエレナがボコボコにしてくれてたよな」
「……うん」
エレナはそう言ってまた少し沈黙する。
「あたしね。あんな奴、ディーノにかっこよく倒してほしかったの」
「……俺は、弱かったからな」
「うん。でもね。ディーノ、最初に一度負けたらそのまま諦めちゃって。あたしそれがすごくイヤだったの」
「それは……」
あの時の俺は勝てない相手に抗おうなんて思いもしなかった。ガチャで破滅した前世の記憶に照らし合わせ、強い相手に力で立ち向かったってより大怪我をするだけだと諦めていたのだ。
それにいつも近くにもっと強いエレナがいて、すぐに何とかしてくれていたのだ。
だから、どうにかしようとすら思わなかった。縮こまって嵐が過ぎるのを待つのが俺にできる最善のことだと思っていたから。
「でもさ。ディーノ、変わったよね」
「そう、なのかな?」
「うん。きっと前のディーノだったらこんなところまで一人でなんか絶対にこなかったはずよ」
「それは……」
そうだと思う。俺だって今になって冷静に考えれば、全財産を使ってガチャを引いて一人で救出に行くなんて無茶だったと思う。
「だからね。あ……」
「どうした?」
「ごめん。ディーノ。ちょっとあたしを起こしてくれる?」
「ああ。良いが、大丈夫なのか?」
「ええ。お願い」
「わかった」
俺はエレナの背中に手を差し入れるとゆっくりとその状態を起こしてやる。
「あのね。ディーノ」
「なんだ?」
俺が離れる前にエレナが俺の顔をまっすぐで見つめてきた。
「いつ、何があるかわからないから今言っておこうって思ったの」
「ああ」
「えっとね。その、あたしね」
エレナの表情は本当に真剣で、それでいて何かを怖がっているようでもある。
それからしばらくの沈黙の後、エレナは口を開いた。
「あたし、ディーノのことが好きなの。ずっと、ずっと小さいころから」
「え!?」
俺は予想外の告白に思わず固まってしまう。
エレナが……俺のことが好き?
じゃあ、今まで殴られてたのは……ってああ、そういうことか。
さっき説明してくれたもんな。
好きな人が弱いことがもどかしくて、それが上手く言葉にできず手が出ていたってことだよな。
ああ、いや。ええと?
「あ……ダメ……かな?」
上目遣いに悲しそうな表情を浮かべたエレナに思わずドキリとしてしまう。
「いや、そういうわけじゃなくって……」
「じゃあ、良いの?」
「あ、ああ」
俺がそう言うとエレナはぱぁっと華やかな笑顔を浮かべた。
これで良いのかはわからない。だが俺だってエレナのことを嫌いなわけじゃない。
少なくともこうして命がけで助けに来ようと思えるくらいにはエレナのことを大切に想っているのだ。それが恋心なのかはわからないが、少なくともエレナを失いたくはないという気持ちは本物だと思う。
エレナは俺の体にぎゅっと抱きついてきて、俺はそれをそっと優しく抱きしめた。
「……硬い」
「そりゃあ、鎧を着てるからな」
エレナは俺の腕の中でクスリと小さく笑ったのだった。
◆◇◆
「ほら。とりあえず、これを食べろ」
「うん」
俺は運んできた食料をエレナに渡す。といっても、堅パンと干し肉なので特別なものではない。全てガチャ産の食料だ。
「おいしい」
何の変哲もない堅パンと干し肉をかじり、エレナはそうこぼした。
「ずっと食べてなかったからな」
「……うん。でも、ディーノがくれたから」
「あ、ああ……」
どうしよう。何だか、エレナが可愛い。
あ、ええと、いや、その……。エレナの顔立ちは整っているのでもともと可愛いのだが、そういう意味ではなくてだな。何というか、今までのとげとげしい雰囲気が無くなって素直になったので魅力が増したというか……。
うん。まあ、何というか、褒めるのはどうにも恥ずかしい。
「その、なんだ。ゆっくりな。まだちゃんと動けないんだから」
「うん」
そう言って微笑んだエレナはゆっくりと食料を口にしていく。
そこへフラウが戻ってきた。
『あっ! これはうまくいったなーっ!』
ニヤニヤしながら俺の腕の中にいるエレナと俺の顔を交互に見てきた。
「フ、フラウ……。ええと、これは……」
「え? フラウ? フラウが帰ってきたの?」
「ああ、その……」
「えっと、このまま……ね?」
エレナは俺の助けなしには座っていることもままならないようで、食事もまだ半ばだ。
『ふっふっふー。ディーノは愛しいエレナ姫を腕に抱いているのだー』
おどけた口調でフラウはそう言ってきたが、それからすぐにとても優しい表情になってぼそりと呟く。
『えへへ。良かったね。エレナ』
「え? フラウはもしかして最初から?」
『もちろん。気付いていなかったのはディーノくらいだよっ! ずーっとエレナの相談に乗ってたんだからねっ』
な、なんと。だから俺はいつも追い出されていたのか。
まるでその会話が聞こえているかのようにエレナは恥ずかしそうに俺の腕の中で身じろぎをしたのだった。
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