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第二章
第二章第58話 悪夢
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MP ポーションを飲んで MP を全回復させた俺は第二十九階層への階段を降りた。そしてフラウの道案内に従って通路をゆっくりと進んでいく。
『あとちょっと。あとちょっとだよっ!』
「ああ」
まだ無事でいてくれるだろうか?
俺たちの姿を見たらどんな反応をするのだろうか?
泣いて喜んだりするのだろうか?
いや、意外といつも通り悪態をついてくるかもしれないな。
そんなことを考えながら進んでいくと、目の前に妙な黒いうねうねした触手のような塊が現れた。
『え!? 何これ?』
「フラウも知らないのか?」
『うん。でも、この奥がエレナのいた場所なの……』
「え? この触手の先に通路があるのか?」
『あのね。あたしとエレナが連れてこられた部屋、ここなの』
「……行く、しかないな」
手に持った断魔の聖剣で触手を斬りつけた。すると何の手応えもなくあっさりと触手は切断され、その向こう側にはぽっかりと真っ暗な空間が広がっていた。
明かりをその中に差し入れるとそこは小さな部屋だった。だがその壁は黒いうねうねした触手でびっしりと覆われており、部屋の中央には黒い巨大な繭のようなものが鎮座している。
そして、その繭の前にはエレナの剣が転がっている!
「エレナ!」
思わず部屋の中に足を踏み入れようとした次の瞬間、突然黒い繭に縦の切れ込みができたかと思うと中から白い手がにゅっと伸びてきた。
その手は二本に増え、黒い繭をぐいと押し開くと燃えるような赤い髪を持つ少女が中から姿を現した。
エレナだ。
「お、おい。エレナ?」
そう声をかけるが、エレナは俺のことなど気付いていない様子で黒い繭の中からでてきた。
そして転がっていた剣を拾うとヒュンヒュンと何度か素振りをした。
「ケケケ。素晴らしい」
「エレ……ナ……?」
それは確かにエレナの声なのに、でもその声色はまるで別人のようだ。
「さあ、これであとは迷宮核を弄るだけだ。ケケケ」
そう呟いたエレナに黒い繭が絡みつき、やがてそれは服の形を成していった。
黒い、体のラインを強調したきわどい露出の服だ。光沢素材でできているのか、その服は鈍い輝きを放っており、首元には髑髏の飾りがあしらわれている。
なんだ? あれは……!
少なくとも、普段のエレナならば絶対に着ないであろうことだけは確かだが……。
「ん?」
俺たちに気付いたのか、エレナがゾッとするような冷たい視線で睨み付けてきた。
「お、おい。エレナ! どうしたんだよ!?」
「お前は……ウルサイ」
な、なんだ?
うるさいって、どういうことだ?
「ケケケ。そうか。お前がディーノだな。いいだろう。この場で殺して、永遠に一緒にいられるようにしてやろう。お前自身の手でな」
「え? おい。エレナ? 何を言ってるんだ?」
エレナが意味不明なことを口走っている。
いつもよくわからない理由で殴られてはいたが、ここまで支離滅裂なことを言うやつじゃなかったはずだ。
『ディーノ! 危ない!』
フラウの言葉に俺は慌てて飛び退り、そこにエレナの横薙ぎの攻撃が通過した。エレナの攻撃は俺の首筋をぎりぎりかすめており、避けていなかったら確実に俺の首は飛んでいただろう。
つまり今の一撃は……完全に俺を殺そうとしていた。
今まで散々殴られた身として、その違いははっきりわかる。
「お、おい! エレナ。お前、一体どうしたんだよ?」
「ええい。ウルサイ!」
まただ。
また意味不明なことを言っている。
『ディーノ! エレナはどう考えても正気じゃないよっ! 早く止めてあげないと!』
「わかってる! わかってるけど!」
「死ね!」
踏み込んできたエレナは右左と連撃を打ち込んできたが、俺はそれを何とか受けてしのいだ。
これを受けきることができたのははっきりいって奇跡だ。二度目があるとは到底思えない。
「おい! エレナ! 落ち着け! 俺だ! 助けに来たんだぞ!」
「ケケケ。お前はここで死ぬんだ!」
「エレナ! ああ、くそっ!」
いくら助けが遅かったからって、こんなところで俺を斬ったって仕方ないだろうが!
「エレナ!」
俺はエレナの細剣を断魔の盾で受け止めると、そのまま盾を力いっぱい押し出した。
さすがに対格差があるからだろうか。エレナはよろめいて数歩後ろに下がった。
「怒ってるのはわかったから! 今はここを脱出するのが先決だろう? 落ち着けよ!」
「ケケケ。落ち着いているぞ。ディーノ……ああ、ウルサイ! 静かにしろ!」
そう怒鳴りながらエレナは黒い靄のようなものをその身にまとった。
そして、自分自身を攻撃しているのか?
「な、何なんだ! エレナ! お前一体何してるんだよ! 落ち着け!」
『ディーノ。やっぱりエレナ。おかしいよ! エレナはあんな技、使えなかったはずだよっ!』
「それはそうだが……」
あれはどう見てもエレナだ。エレナのはずなのだが……。
その言動も、強さも、何もかもがまるで別人のように見える。
一体何がどうなっているというのだろうか?
「ああああああああ!」
エレナが突然叫びだしたかとう思うと、そのままがっくりと頭を垂れた。
え? 何だ? 今度はどうしたんだ?
近寄って声を掛けるべきか、それともここから声を掛けるべきかを迷っているとエレナはゆっくりと顔を上げた。
その顔をまるで家族を殺されたかのごとき憎しみに歪んでおり、すさまじい目つきで俺のことを睨んでいる。
「お前さえ、お前さえ殺せば!」
「おい! エレナ!」
「はああああ!」
エレナは黒い衝撃波を放ち、それに合わせるように俺の間合いへと踏み込んできたのだった。
==============
次回「第二章第59話 決着」は通常通り、2021/05/30 (日) 21:00 の更新を予定しております。
『あとちょっと。あとちょっとだよっ!』
「ああ」
まだ無事でいてくれるだろうか?
俺たちの姿を見たらどんな反応をするのだろうか?
泣いて喜んだりするのだろうか?
いや、意外といつも通り悪態をついてくるかもしれないな。
そんなことを考えながら進んでいくと、目の前に妙な黒いうねうねした触手のような塊が現れた。
『え!? 何これ?』
「フラウも知らないのか?」
『うん。でも、この奥がエレナのいた場所なの……』
「え? この触手の先に通路があるのか?」
『あのね。あたしとエレナが連れてこられた部屋、ここなの』
「……行く、しかないな」
手に持った断魔の聖剣で触手を斬りつけた。すると何の手応えもなくあっさりと触手は切断され、その向こう側にはぽっかりと真っ暗な空間が広がっていた。
明かりをその中に差し入れるとそこは小さな部屋だった。だがその壁は黒いうねうねした触手でびっしりと覆われており、部屋の中央には黒い巨大な繭のようなものが鎮座している。
そして、その繭の前にはエレナの剣が転がっている!
「エレナ!」
思わず部屋の中に足を踏み入れようとした次の瞬間、突然黒い繭に縦の切れ込みができたかと思うと中から白い手がにゅっと伸びてきた。
その手は二本に増え、黒い繭をぐいと押し開くと燃えるような赤い髪を持つ少女が中から姿を現した。
エレナだ。
「お、おい。エレナ?」
そう声をかけるが、エレナは俺のことなど気付いていない様子で黒い繭の中からでてきた。
そして転がっていた剣を拾うとヒュンヒュンと何度か素振りをした。
「ケケケ。素晴らしい」
「エレ……ナ……?」
それは確かにエレナの声なのに、でもその声色はまるで別人のようだ。
「さあ、これであとは迷宮核を弄るだけだ。ケケケ」
そう呟いたエレナに黒い繭が絡みつき、やがてそれは服の形を成していった。
黒い、体のラインを強調したきわどい露出の服だ。光沢素材でできているのか、その服は鈍い輝きを放っており、首元には髑髏の飾りがあしらわれている。
なんだ? あれは……!
少なくとも、普段のエレナならば絶対に着ないであろうことだけは確かだが……。
「ん?」
俺たちに気付いたのか、エレナがゾッとするような冷たい視線で睨み付けてきた。
「お、おい。エレナ! どうしたんだよ!?」
「お前は……ウルサイ」
な、なんだ?
うるさいって、どういうことだ?
「ケケケ。そうか。お前がディーノだな。いいだろう。この場で殺して、永遠に一緒にいられるようにしてやろう。お前自身の手でな」
「え? おい。エレナ? 何を言ってるんだ?」
エレナが意味不明なことを口走っている。
いつもよくわからない理由で殴られてはいたが、ここまで支離滅裂なことを言うやつじゃなかったはずだ。
『ディーノ! 危ない!』
フラウの言葉に俺は慌てて飛び退り、そこにエレナの横薙ぎの攻撃が通過した。エレナの攻撃は俺の首筋をぎりぎりかすめており、避けていなかったら確実に俺の首は飛んでいただろう。
つまり今の一撃は……完全に俺を殺そうとしていた。
今まで散々殴られた身として、その違いははっきりわかる。
「お、おい! エレナ。お前、一体どうしたんだよ?」
「ええい。ウルサイ!」
まただ。
また意味不明なことを言っている。
『ディーノ! エレナはどう考えても正気じゃないよっ! 早く止めてあげないと!』
「わかってる! わかってるけど!」
「死ね!」
踏み込んできたエレナは右左と連撃を打ち込んできたが、俺はそれを何とか受けてしのいだ。
これを受けきることができたのははっきりいって奇跡だ。二度目があるとは到底思えない。
「おい! エレナ! 落ち着け! 俺だ! 助けに来たんだぞ!」
「ケケケ。お前はここで死ぬんだ!」
「エレナ! ああ、くそっ!」
いくら助けが遅かったからって、こんなところで俺を斬ったって仕方ないだろうが!
「エレナ!」
俺はエレナの細剣を断魔の盾で受け止めると、そのまま盾を力いっぱい押し出した。
さすがに対格差があるからだろうか。エレナはよろめいて数歩後ろに下がった。
「怒ってるのはわかったから! 今はここを脱出するのが先決だろう? 落ち着けよ!」
「ケケケ。落ち着いているぞ。ディーノ……ああ、ウルサイ! 静かにしろ!」
そう怒鳴りながらエレナは黒い靄のようなものをその身にまとった。
そして、自分自身を攻撃しているのか?
「な、何なんだ! エレナ! お前一体何してるんだよ! 落ち着け!」
『ディーノ。やっぱりエレナ。おかしいよ! エレナはあんな技、使えなかったはずだよっ!』
「それはそうだが……」
あれはどう見てもエレナだ。エレナのはずなのだが……。
その言動も、強さも、何もかもがまるで別人のように見える。
一体何がどうなっているというのだろうか?
「ああああああああ!」
エレナが突然叫びだしたかとう思うと、そのままがっくりと頭を垂れた。
え? 何だ? 今度はどうしたんだ?
近寄って声を掛けるべきか、それともここから声を掛けるべきかを迷っているとエレナはゆっくりと顔を上げた。
その顔をまるで家族を殺されたかのごとき憎しみに歪んでおり、すさまじい目つきで俺のことを睨んでいる。
「お前さえ、お前さえ殺せば!」
「おい! エレナ!」
「はああああ!」
エレナは黒い衝撃波を放ち、それに合わせるように俺の間合いへと踏み込んできたのだった。
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次回「第二章第59話 決着」は通常通り、2021/05/30 (日) 21:00 の更新を予定しております。
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