上 下
115 / 124
第二章

第二章第58話 悪夢

しおりを挟む
 MP ポーションを飲んで MP を全回復させた俺は第二十九階層への階段を降りた。そしてフラウの道案内に従って通路をゆっくりと進んでいく。

『あとちょっと。あとちょっとだよっ!』
「ああ」

 まだ無事でいてくれるだろうか?

 俺たちの姿を見たらどんな反応をするのだろうか?

 泣いて喜んだりするのだろうか?

 いや、意外といつも通り悪態をついてくるかもしれないな。

 そんなことを考えながら進んでいくと、目の前に妙な黒いうねうねした触手のような塊が現れた。

『え!? 何これ?』
「フラウも知らないのか?」
『うん。でも、この奥がエレナのいた場所なの……』
「え? この触手の先に通路があるのか?」
『あのね。あたしとエレナが連れてこられた部屋、ここなの』
「……行く、しかないな」

 手に持った断魔の聖剣で触手を斬りつけた。すると何の手応えもなくあっさりと触手は切断され、その向こう側にはぽっかりと真っ暗な空間が広がっていた。

 明かりをその中に差し入れるとそこは小さな部屋だった。だがその壁は黒いうねうねした触手でびっしりと覆われており、部屋の中央には黒い巨大な繭のようなものが鎮座している。

 そして、その繭の前にはエレナの剣が転がっている!

「エレナ!」

 思わず部屋の中に足を踏み入れようとした次の瞬間、突然黒い繭に縦の切れ込みができたかと思うと中から白い手がにゅっと伸びてきた。

 その手は二本に増え、黒い繭をぐいと押し開くと燃えるような赤い髪を持つ少女が中から姿を現した。

 エレナだ。

「お、おい。エレナ?」

 そう声をかけるが、エレナは俺のことなど気付いていない様子で黒い繭の中からでてきた。

 そして転がっていた剣を拾うとヒュンヒュンと何度か素振りをした。

「ケケケ。素晴らしい」
「エレ……ナ……?」

 それは確かにエレナの声なのに、でもその声色はまるで別人のようだ。

「さあ、これであとは迷宮核を弄るだけだ。ケケケ」

 そう呟いたエレナに黒い繭が絡みつき、やがてそれは服の形を成していった。

 黒い、体のラインを強調したきわどい露出の服だ。光沢素材でできているのか、その服は鈍い輝きを放っており、首元には髑髏どくろの飾りがあしらわれている。

 なんだ? あれは……!

 少なくとも、普段のエレナならば絶対に着ないであろうことだけは確かだが……。

「ん?」

 俺たちに気付いたのか、エレナがゾッとするような冷たい視線で睨み付けてきた。

「お、おい。エレナ! どうしたんだよ!?」
「お前は……ウルサイ」

 な、なんだ?

 うるさいって、どういうことだ?

「ケケケ。そうか。お前がディーノだな。いいだろう。この場で殺して、永遠に一緒にいられるようにしてやろう。お前自身の手でな」
「え? おい。エレナ? 何を言ってるんだ?」

 エレナが意味不明なことを口走っている。

 いつもよくわからない理由で殴られてはいたが、ここまで支離滅裂なことを言うやつじゃなかったはずだ。

『ディーノ! 危ない!』

 フラウの言葉に俺は慌てて飛び退り、そこにエレナの横薙ぎの攻撃が通過した。エレナの攻撃は俺の首筋をぎりぎりかすめており、避けていなかったら確実に俺の首は飛んでいただろう。

 つまり今の一撃は……完全に俺を殺そうとしていた。

 今まで散々殴られた身として、その違いははっきりわかる。

「お、おい! エレナ。お前、一体どうしたんだよ?」
「ええい。ウルサイ!」

 まただ。

 また意味不明なことを言っている。

『ディーノ! エレナはどう考えても正気じゃないよっ! 早く止めてあげないと!』
「わかってる! わかってるけど!」
「死ね!」

 踏み込んできたエレナは右左と連撃を打ち込んできたが、俺はそれを何とか受けてしのいだ。

 これを受けきることができたのははっきりいって奇跡だ。二度目があるとは到底思えない。

「おい! エレナ! 落ち着け! 俺だ! 助けに来たんだぞ!」
「ケケケ。お前はここで死ぬんだ!」
「エレナ! ああ、くそっ!」

 いくら助けが遅かったからって、こんなところで俺を斬ったって仕方ないだろうが!

「エレナ!」

 俺はエレナの細剣を断魔の盾で受け止めると、そのまま盾を力いっぱい押し出した。

 さすがに対格差があるからだろうか。エレナはよろめいて数歩後ろに下がった。

「怒ってるのはわかったから! 今はここを脱出するのが先決だろう? 落ち着けよ!」
「ケケケ。落ち着いているぞ。ディーノ……ああ、ウルサイ! 静かにしろ!」

 そう怒鳴りながらエレナは黒い靄のようなものをその身にまとった。

 そして、自分自身を攻撃しているのか?

「な、何なんだ! エレナ! お前一体何してるんだよ! 落ち着け!」
『ディーノ。やっぱりエレナ。おかしいよ! エレナはあんな技、使えなかったはずだよっ!』
「それはそうだが……」

 あれはどう見てもエレナだ。エレナのはずなのだが……。

 その言動も、強さも、何もかもがまるで別人のように見える。

 一体何がどうなっているというのだろうか?

「ああああああああ!」

 エレナが突然叫びだしたかとう思うと、そのままがっくりとこうべを垂れた。

 え? 何だ? 今度はどうしたんだ?

 近寄って声を掛けるべきか、それともここから声を掛けるべきかを迷っているとエレナはゆっくりと顔を上げた。

 その顔をまるで家族を殺されたかのごとき憎しみに歪んでおり、すさまじい目つきで俺のことをにらんでいる。

「お前さえ、お前さえ殺せば!」
「おい! エレナ!」
「はああああ!」

 エレナは黒い衝撃波を放ち、それに合わせるように俺の間合いへと踏み込んできたのだった。

==============
次回「第二章第59話 決着」は通常通り、2021/05/30 (日) 21:00 の更新を予定しております。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

無能はいらないと追放された俺、配信始めました。神の使徒に覚醒し最強になったのでダンジョン配信で超人気配信者に!王女様も信者になってるようです

やのもと しん
ファンタジー
「カイリ、今日からもう来なくていいから」  ある日突然パーティーから追放された俺――カイリは途方に暮れていた。日本から異世界に転移させられて一年。追放された回数はもう五回になる。  あてもなく歩いていると、追放してきたパーティーのメンバーだった女の子、アリシアが付いて行きたいと申し出てきた。  元々パーティーに不満を持っていたアリシアと共に宿に泊まるも、積極的に誘惑してきて……  更に宿から出ると姿を隠した少女と出会い、その子も一緒に行動することに。元王女様で今は国に追われる身になった、ナナを助けようとカイリ達は追手から逃げる。  追いつめられたところでカイリの中にある「神の使徒」の力が覚醒――無能力から世界最強に! 「――わたし、あなたに運命を感じました!」  ナナが再び王女の座に返り咲くため、カイリは冒険者として名を上げる。「厄災」と呼ばれる魔物も、王国の兵士も、カイリを追放したパーティーも全員相手になりません ※他サイトでも投稿しています

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

弓使いの成り上がり~「弓なんて役に立たない」と追放された弓使いは実は最強の狙撃手でした~

平山和人
ファンタジー
弓使いのカイトはSランクパーティー【黄金の獅子王】から、弓使いなんて役立たずと追放される。 しかし、彼らは気づいてなかった。カイトの狙撃がパーティーの危機をいくつも救った来たことに、カイトの狙撃が世界最強レベルだということに。 パーティーを追放されたカイトは自らも自覚していない狙撃で魔物を倒し、美少女から惚れられ、やがて最強の狙撃手として世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを失った【黄金の獅子王】は没落の道を歩むことになるのであった。

半神の守護者

ぴっさま
ファンタジー
ロッドは何の力も無い少年だったが、異世界の創造神の血縁者だった。 超能力を手に入れたロッドは前世のペット、忠実な従者をお供に世界の守護者として邪神に立ち向かう。 〜概要〜 臨時パーティーにオークの群れの中に取り残されたロッドは、不思議な生き物に助けられこの世界の神と出会う。 実は神の遠い血縁者でこの世界の守護を頼まれたロッドは承諾し、通常では得られない超能力を得る。 そして魂の絆で結ばれたユニークモンスターのペット、従者のホムンクルスの少女を供にした旅が始まる。 ■注記 本作品のメインはファンタジー世界においての超能力の行使になります。 他サイトにも投稿中

最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。 さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。 魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。 神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。 その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

処理中です...