95 / 124
第二章
第二章第38話 幼馴染の申し出
しおりを挟む
「あ、えっと。その……」
「「「……」」」
エレナの、セリアさんの、そしてトーニャちゃんの視線が痛い。支部長はこころなしか嬉しそうに見えるが、もしかするとフラウがいなければトーニャちゃんんことをお姉ちゃんと呼ばずに済むと思っているのかもしれない。
『ほらっ。ディーノ。こんなことだってあるよ! きっと次は神引きだよっ!』
「あ、ああ。そう、だよな。ありがとう。フラウ」
こんな時でもフラウは優しい。
『うんっ。一緒に頑張ろうねっ!』
「ああ。ありがとう。頑張ってお金を貯めてまたガチャを引いて、今度こそ精霊花の蜜を引いてみせるよ」
『うんっ。きっとだよっ!』
そう言って笑ってくれたフラウのおかげで少しだけ元気が出てきた。
そうだ。大爆死などガチャの常だ。運が悪ければこのくらいのことはざらにある。だが、この爆死を乗り越えてこその神引きでもあるのだ。
フラウがついていてくれる俺の心はこの程度の試練で折れるほどやわではない。
「よし。フラウ。帰ろうか」
『うんっ!』
そう言って部屋を出ようとしたが俺はエレナに呼び止められる。
「待ちなさい」
「どうした? エレナ?」
「まだフラウが出てきてないんだけど?」
「いや、今回は上手くいかなかったから無理だ。明日になって MP が回復したらまた呼んでやるからそれまで待ってくれ」
「それじゃ……のよ」
エレナが何かをボソッと呟いたがよく聞き取れなかった。
「え? 何か言ったか?」
「うるさい! いいから早くフラウを呼べるようになりなさいよ!」
なぜか顔を真っ赤にして怒鳴り始めた。一体何なんだ?
「だから、今日は無理なんだって」
「ああ! もう! 一回たった二万七千なんでしょ? そのくらいあげるわよ!」
「は?」
「いいからさっさとフラウを呼びなさいよ!」
そう言ってエレナは先ほど換金した大お金の入った袋を俺の前に差し出した。
「え? え? ちょ、ちょっと待て。これはエレナのお金じゃないか。さすがに受け取れないよ」
「だから! あたしがフラウに会いたいの! それにこんなお金、使いようがないじゃない。あたし、まだ学生なのよ?」
「いやいや。だからこそ貯金しとけって」
「ああ! もう! うるさいうるさい! いいから使いなさいよ! それで早くフラウを呼びなさい!」
またもや顔を真っ赤にして怒鳴り散らすと急に俯いて静かになった。
「それに……(あんたが死んじゃったら意味ないじゃない)……」
エレナがまた何かをぼそりと呟いた。
「何か言ったか?」
「知らないわよ! 早くしなさいよ!」
そう言ってエレナは袋を俺に無理矢理押し付けてきた。
「お、おい。エレナ?」
しかしエレナはプイと横を向いてしまった。セリアさんもトーニャちゃんも支部長も、止めてくれる気は一切なさそうだ。
「な、なあ。フラウ」
『ディーノ。百連くらいならいいんじゃないかな? それに、それくらいならエレナが王都に帰っちゃう前に稼いで返せるでしょ?』
「フラウまで……」
『それにね。エレナの気持ちを無駄にしちゃ可哀想だよ?』
「いや、でも……」
『もうっ! ディーノのヘタレっ!』
「え?」
俺は別にタラシではないが、よりにもよってフラウにヘタレと言われるとは!
フラウの言葉が心にグサリと突き刺さる。
『女の子がここまで言ってくれてるんだよっ! 恥をかかせるなんてダメだよっ!』
女の……子?
ああ、そうか。そういえばそうだった。エレナが女の子だなんて感じたのはトーニャちゃんにやられて弱っていたときくらいな気もするが、言われてみればそうだ。
いや、だがな。いくら返す当てがあるからって、いくら相手がエレナだからって借金は借金じゃないのか?
借金でガチャを引くなんて、破滅へ向かって一直線じゃないのか?
俺はまずトーニャちゃんをちらりと見るが、トーニャちゃんをパチンとウィンクをすると笑顔で頷いた。
くっ。ダメか。
支部長は……興味が一切ないようだ。
こうなったら最後はセリアさんだ。ガチャを引きすぎないようにといつも忠告をしてくれるセリアさんであればきっと止めてくれるはず。
そんな一縷の望みを託してセリアさんを見ると、セリアさんはにっこりと微笑んでくれた。
「ディーノさん。幼馴染の女の子に恥をかかせるのはいけませんよ」
「え?」
「あまりそんなことをしていると、二つ名が『ヘタレ』になっても知りませんよ?」
「ええっ?」
いやいやいや。それは困る。
それにセリアさんまでそう言うってことは、もしかしてこれは俺のほうがおかしいのか?
「ディーノさん。男の子は、ちゃんと決めるべきときにビシッと決めないとダメですよ?」
「は、はい」
そうか。やっぱり俺のほうがおかしいのか。
何だか釈然としない気もするが、そうなのかもしれない。
「わかりました」
そう返事をした俺はエレナに向き直る。
「エレナ。ありがとう。せっかくだから百連だけ引かせてもらうよ。でも、ちゃんとお金は返すからな?」
「……そ。ちゃんとやりなさいよ?」
エレナはぶっきらぼうな口調でそう言ったが、その表情は何故か少しニヤケていたのだった。
==============
というわけで、おかわり百連を引くことになりました。その引きや如何に? 次回にどうぞご期待ください。
次回更新は通常通り、2021/04/20 (火) 21:00 を予定しております。
「「「……」」」
エレナの、セリアさんの、そしてトーニャちゃんの視線が痛い。支部長はこころなしか嬉しそうに見えるが、もしかするとフラウがいなければトーニャちゃんんことをお姉ちゃんと呼ばずに済むと思っているのかもしれない。
『ほらっ。ディーノ。こんなことだってあるよ! きっと次は神引きだよっ!』
「あ、ああ。そう、だよな。ありがとう。フラウ」
こんな時でもフラウは優しい。
『うんっ。一緒に頑張ろうねっ!』
「ああ。ありがとう。頑張ってお金を貯めてまたガチャを引いて、今度こそ精霊花の蜜を引いてみせるよ」
『うんっ。きっとだよっ!』
そう言って笑ってくれたフラウのおかげで少しだけ元気が出てきた。
そうだ。大爆死などガチャの常だ。運が悪ければこのくらいのことはざらにある。だが、この爆死を乗り越えてこその神引きでもあるのだ。
フラウがついていてくれる俺の心はこの程度の試練で折れるほどやわではない。
「よし。フラウ。帰ろうか」
『うんっ!』
そう言って部屋を出ようとしたが俺はエレナに呼び止められる。
「待ちなさい」
「どうした? エレナ?」
「まだフラウが出てきてないんだけど?」
「いや、今回は上手くいかなかったから無理だ。明日になって MP が回復したらまた呼んでやるからそれまで待ってくれ」
「それじゃ……のよ」
エレナが何かをボソッと呟いたがよく聞き取れなかった。
「え? 何か言ったか?」
「うるさい! いいから早くフラウを呼べるようになりなさいよ!」
なぜか顔を真っ赤にして怒鳴り始めた。一体何なんだ?
「だから、今日は無理なんだって」
「ああ! もう! 一回たった二万七千なんでしょ? そのくらいあげるわよ!」
「は?」
「いいからさっさとフラウを呼びなさいよ!」
そう言ってエレナは先ほど換金した大お金の入った袋を俺の前に差し出した。
「え? え? ちょ、ちょっと待て。これはエレナのお金じゃないか。さすがに受け取れないよ」
「だから! あたしがフラウに会いたいの! それにこんなお金、使いようがないじゃない。あたし、まだ学生なのよ?」
「いやいや。だからこそ貯金しとけって」
「ああ! もう! うるさいうるさい! いいから使いなさいよ! それで早くフラウを呼びなさい!」
またもや顔を真っ赤にして怒鳴り散らすと急に俯いて静かになった。
「それに……(あんたが死んじゃったら意味ないじゃない)……」
エレナがまた何かをぼそりと呟いた。
「何か言ったか?」
「知らないわよ! 早くしなさいよ!」
そう言ってエレナは袋を俺に無理矢理押し付けてきた。
「お、おい。エレナ?」
しかしエレナはプイと横を向いてしまった。セリアさんもトーニャちゃんも支部長も、止めてくれる気は一切なさそうだ。
「な、なあ。フラウ」
『ディーノ。百連くらいならいいんじゃないかな? それに、それくらいならエレナが王都に帰っちゃう前に稼いで返せるでしょ?』
「フラウまで……」
『それにね。エレナの気持ちを無駄にしちゃ可哀想だよ?』
「いや、でも……」
『もうっ! ディーノのヘタレっ!』
「え?」
俺は別にタラシではないが、よりにもよってフラウにヘタレと言われるとは!
フラウの言葉が心にグサリと突き刺さる。
『女の子がここまで言ってくれてるんだよっ! 恥をかかせるなんてダメだよっ!』
女の……子?
ああ、そうか。そういえばそうだった。エレナが女の子だなんて感じたのはトーニャちゃんにやられて弱っていたときくらいな気もするが、言われてみればそうだ。
いや、だがな。いくら返す当てがあるからって、いくら相手がエレナだからって借金は借金じゃないのか?
借金でガチャを引くなんて、破滅へ向かって一直線じゃないのか?
俺はまずトーニャちゃんをちらりと見るが、トーニャちゃんをパチンとウィンクをすると笑顔で頷いた。
くっ。ダメか。
支部長は……興味が一切ないようだ。
こうなったら最後はセリアさんだ。ガチャを引きすぎないようにといつも忠告をしてくれるセリアさんであればきっと止めてくれるはず。
そんな一縷の望みを託してセリアさんを見ると、セリアさんはにっこりと微笑んでくれた。
「ディーノさん。幼馴染の女の子に恥をかかせるのはいけませんよ」
「え?」
「あまりそんなことをしていると、二つ名が『ヘタレ』になっても知りませんよ?」
「ええっ?」
いやいやいや。それは困る。
それにセリアさんまでそう言うってことは、もしかしてこれは俺のほうがおかしいのか?
「ディーノさん。男の子は、ちゃんと決めるべきときにビシッと決めないとダメですよ?」
「は、はい」
そうか。やっぱり俺のほうがおかしいのか。
何だか釈然としない気もするが、そうなのかもしれない。
「わかりました」
そう返事をした俺はエレナに向き直る。
「エレナ。ありがとう。せっかくだから百連だけ引かせてもらうよ。でも、ちゃんとお金は返すからな?」
「……そ。ちゃんとやりなさいよ?」
エレナはぶっきらぼうな口調でそう言ったが、その表情は何故か少しニヤケていたのだった。
==============
というわけで、おかわり百連を引くことになりました。その引きや如何に? 次回にどうぞご期待ください。
次回更新は通常通り、2021/04/20 (火) 21:00 を予定しております。
5
お気に入りに追加
420
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました
ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。
そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった……
失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。
その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。
※小説家になろうにも投稿しています。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる