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第二章
第二章第9話 迷宮の今
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「やあ、良く来たね。体調はもう大丈夫かい?」
「はい。問題ありません」
かなり離れた場所へと移動していた冒険者ギルドの天幕へ行くと、カリストさんが俺を見つけて声をかけてきてくれた。
「それにしても、随分と様子が様変わりしましたね」
「……そうだね。どうやら僕たちが挑んでいたときと比べて迷宮の様子がかなり変わったらしいんだ」
「え? どういうことですか?」
「僕たちが脱出してから数日経った頃かららしいんだけどね。出現する魔物に変化が起きたそうなんだ」
「変化、ですか?」
「ああ。前はゴブリンがほとんどで、罠としてガーゴイルがいたくらいだっただろう?」
「そうですね。ゴブリンばかりだったからこそ前に進むって決断ができたんですもんね」
「そうだね。でもそれが今やゴブリンの上位種にレッサーデーモンまで出現するようになったらしいんだ」
「レッサーデーモンまで、ですか?」
「そうなんだ。レッサーデーモンは通常の物理攻撃も普通の攻撃魔法も効きにくいからね。今は僕たちがガーゴイルと戦ったあのホールが最前線の基地になっているのだけれど、苦戦していて負傷者もかなり出ているんだ」
「それで、長期戦になりそうだと見込んでここに本格的な拠点を作ろうとしているんですね」
「その通りだよ。それに、魔物が強くなったという事は迷宮が成長してその力を増したということだからね」
「どうしてそんな急に?」
「もちろん正解はわからないけれど、僕はフリオ君が原因だと思っているよ」
「フリオが?」
「ああ。あの時の戦いでフリオ君は悪魔の力を失っただろう? その力を迷宮が吸収したんじゃないか、というのが僕たちの仮説だよ」
なるほど。ある意味、フリオは迷宮が成長する手助けをしてしまったという事か。
「もし違ったとしてもこの迷宮は危険だからね。それに、このペースで迷宮に成長されては破局的迷宮氾濫を食い止められないかもしれない。しかもアントニオさんが戦えなくなってしまったんだ。特にレッサーデーモン相手にはディーノ君のその装備は効果てきめんだろう? 期待しているよ」
「……がんばります」
これは責任重大だ。何としてでも魔物を倒さねば。
「さて、早速少し倒しに行くかい?」
「そうですね。行きます」
「よし。それじゃあ行こうか」
「はい」
それから俺はギルドに届け出を済ませると迷宮へと足を踏み入れたのだった。
****
俺たちはガーゴイルと戦ったあのホールにやってきた。そんな俺たちを見つけたリカルドさんとルイシーナさんが声を掛けてくる。
「おう、ディーノ」
「ディーノくん。久しぶり。もういいの?」
「ご心配をおかけしましたがもう大丈夫です。今日から少しずつ慣らしていこうと思います」
「おう。初っ端名から無茶すんなよ。『断魔』サン」
「あ、はい……」
リカルドさんにそうからかわれたが、そもそもそんな無茶をする気はない。
「あれ? メラニアさんは?」
「メラニアは多分負傷者の治療していると思うよ」
俺の質問にカリストさんが答えてくれた。
「それほどの状況ですか……」
俺がそう呟いたそばから担架に乗せられた一人の男がテントから運び出されていった。
「見ての通り、あんな感じだよ。日に何人もああいうことになって外に運び出しているんだ。迷宮の中で死ねば迷宮の糧にされてしまうからね。傷ついた冒険者を治療する役をメラニアがしてくれているんだ」
なるほど。俺が想像していたよりもずっと状況は厳しいようだ。
「さあ、それじゃあ行くよ。準備はいいかい? 第三層の階段付近の駆除だ」
「はい。わかりました」
「おう。待ってたぜ」
「ディーノくん。頼りにしてるわよ」
「はい!」
こうして俺はメラニアさんを除いた三人と一緒に第三層へと向かった。
****
久しぶりの第三層の様子はすっかり様変わりしていた。というのも、魔物の影が明らかに濃くなっている。
その証拠に前回はたまに襲われる程度ですんでいたが、今回は降りてきてから一分と経たないうちに十匹の大型のゴブリンが襲ってきた。
「来たよ! ホブゴブリンだ!」
「ディーノ! 油断すんなよ!」
そう言ってリカルドさんが前に出るとホブゴブリンの注意を引き付け、ルイシーナさんが後ろから水の槍を飛ばして攻撃を加える。
そしてホブゴブリンがルイシーナさんに気を取られたところをリカルドさんとカリストさんが切り刻んでいく。
そんな二人の間を抜けて二匹のホブゴブリンがこちらに向かって走ってきた。狙いはルイシーナさんだろう。
俺はルイシーナさんの前に出ると断魔の盾でホブゴブリンの攻撃を受け止め、断魔の聖剣を一振りする。
するとその一撃を受けたホブゴブリンは豆腐のようにスパっと斬れ、その頭部が地面に転がるとすぐに魔石となって消滅した。
返す刀でもう一匹を斬ろうとしたが、そいつは俺を無視してルイシーナさんに攻撃を加えようとしている。
「こいつ!」
俺が追いかけようとするがその頭部をルイシーナさんの水の槍が吹き飛ばした。
「あ、すみません。抜かれてしまいました」
「いいわよ。一匹ならどうにかなるわ。それより早く魔石を拾わないと」
「はい」
俺は床に転がる二つの魔石を拾うと皮の袋に入れる。すると前で八匹のホブゴブリンを相手にしていたはずのカリストさんがこちらに戻ってきた。
「そちらは片付いたようだね」
「はい。何とか。ですが、ホブゴブリンはゴブリンとは違うんですね。俺が前に出ていたのに後ろのルイシーナさんを狙ってきて、危うくルイシーナさんが攻撃されるところでした」
「それは上位種だからね。ホブゴブリンはCランクの魔物だ。だからこそDランクの冒険者にもあれほど被害が出ているんだよ」
「でも前に巣で倒したときは……」
「あの時は夜襲したからね。どんな危険な魔物だってあれほど圧倒的に有利な状況を作れば簡単に倒せるよ」
なるほど。そういうことか。
「わかりました。油断は禁物ですね」
「そうだね。頼むよ、ディーノ君」
こうして俺ははじめて上位種の恐ろしさの片鱗を味わったのだった。
「はい。問題ありません」
かなり離れた場所へと移動していた冒険者ギルドの天幕へ行くと、カリストさんが俺を見つけて声をかけてきてくれた。
「それにしても、随分と様子が様変わりしましたね」
「……そうだね。どうやら僕たちが挑んでいたときと比べて迷宮の様子がかなり変わったらしいんだ」
「え? どういうことですか?」
「僕たちが脱出してから数日経った頃かららしいんだけどね。出現する魔物に変化が起きたそうなんだ」
「変化、ですか?」
「ああ。前はゴブリンがほとんどで、罠としてガーゴイルがいたくらいだっただろう?」
「そうですね。ゴブリンばかりだったからこそ前に進むって決断ができたんですもんね」
「そうだね。でもそれが今やゴブリンの上位種にレッサーデーモンまで出現するようになったらしいんだ」
「レッサーデーモンまで、ですか?」
「そうなんだ。レッサーデーモンは通常の物理攻撃も普通の攻撃魔法も効きにくいからね。今は僕たちがガーゴイルと戦ったあのホールが最前線の基地になっているのだけれど、苦戦していて負傷者もかなり出ているんだ」
「それで、長期戦になりそうだと見込んでここに本格的な拠点を作ろうとしているんですね」
「その通りだよ。それに、魔物が強くなったという事は迷宮が成長してその力を増したということだからね」
「どうしてそんな急に?」
「もちろん正解はわからないけれど、僕はフリオ君が原因だと思っているよ」
「フリオが?」
「ああ。あの時の戦いでフリオ君は悪魔の力を失っただろう? その力を迷宮が吸収したんじゃないか、というのが僕たちの仮説だよ」
なるほど。ある意味、フリオは迷宮が成長する手助けをしてしまったという事か。
「もし違ったとしてもこの迷宮は危険だからね。それに、このペースで迷宮に成長されては破局的迷宮氾濫を食い止められないかもしれない。しかもアントニオさんが戦えなくなってしまったんだ。特にレッサーデーモン相手にはディーノ君のその装備は効果てきめんだろう? 期待しているよ」
「……がんばります」
これは責任重大だ。何としてでも魔物を倒さねば。
「さて、早速少し倒しに行くかい?」
「そうですね。行きます」
「よし。それじゃあ行こうか」
「はい」
それから俺はギルドに届け出を済ませると迷宮へと足を踏み入れたのだった。
****
俺たちはガーゴイルと戦ったあのホールにやってきた。そんな俺たちを見つけたリカルドさんとルイシーナさんが声を掛けてくる。
「おう、ディーノ」
「ディーノくん。久しぶり。もういいの?」
「ご心配をおかけしましたがもう大丈夫です。今日から少しずつ慣らしていこうと思います」
「おう。初っ端名から無茶すんなよ。『断魔』サン」
「あ、はい……」
リカルドさんにそうからかわれたが、そもそもそんな無茶をする気はない。
「あれ? メラニアさんは?」
「メラニアは多分負傷者の治療していると思うよ」
俺の質問にカリストさんが答えてくれた。
「それほどの状況ですか……」
俺がそう呟いたそばから担架に乗せられた一人の男がテントから運び出されていった。
「見ての通り、あんな感じだよ。日に何人もああいうことになって外に運び出しているんだ。迷宮の中で死ねば迷宮の糧にされてしまうからね。傷ついた冒険者を治療する役をメラニアがしてくれているんだ」
なるほど。俺が想像していたよりもずっと状況は厳しいようだ。
「さあ、それじゃあ行くよ。準備はいいかい? 第三層の階段付近の駆除だ」
「はい。わかりました」
「おう。待ってたぜ」
「ディーノくん。頼りにしてるわよ」
「はい!」
こうして俺はメラニアさんを除いた三人と一緒に第三層へと向かった。
****
久しぶりの第三層の様子はすっかり様変わりしていた。というのも、魔物の影が明らかに濃くなっている。
その証拠に前回はたまに襲われる程度ですんでいたが、今回は降りてきてから一分と経たないうちに十匹の大型のゴブリンが襲ってきた。
「来たよ! ホブゴブリンだ!」
「ディーノ! 油断すんなよ!」
そう言ってリカルドさんが前に出るとホブゴブリンの注意を引き付け、ルイシーナさんが後ろから水の槍を飛ばして攻撃を加える。
そしてホブゴブリンがルイシーナさんに気を取られたところをリカルドさんとカリストさんが切り刻んでいく。
そんな二人の間を抜けて二匹のホブゴブリンがこちらに向かって走ってきた。狙いはルイシーナさんだろう。
俺はルイシーナさんの前に出ると断魔の盾でホブゴブリンの攻撃を受け止め、断魔の聖剣を一振りする。
するとその一撃を受けたホブゴブリンは豆腐のようにスパっと斬れ、その頭部が地面に転がるとすぐに魔石となって消滅した。
返す刀でもう一匹を斬ろうとしたが、そいつは俺を無視してルイシーナさんに攻撃を加えようとしている。
「こいつ!」
俺が追いかけようとするがその頭部をルイシーナさんの水の槍が吹き飛ばした。
「あ、すみません。抜かれてしまいました」
「いいわよ。一匹ならどうにかなるわ。それより早く魔石を拾わないと」
「はい」
俺は床に転がる二つの魔石を拾うと皮の袋に入れる。すると前で八匹のホブゴブリンを相手にしていたはずのカリストさんがこちらに戻ってきた。
「そちらは片付いたようだね」
「はい。何とか。ですが、ホブゴブリンはゴブリンとは違うんですね。俺が前に出ていたのに後ろのルイシーナさんを狙ってきて、危うくルイシーナさんが攻撃されるところでした」
「それは上位種だからね。ホブゴブリンはCランクの魔物だ。だからこそDランクの冒険者にもあれほど被害が出ているんだよ」
「でも前に巣で倒したときは……」
「あの時は夜襲したからね。どんな危険な魔物だってあれほど圧倒的に有利な状況を作れば簡単に倒せるよ」
なるほど。そういうことか。
「わかりました。油断は禁物ですね」
「そうだね。頼むよ、ディーノ君」
こうして俺ははじめて上位種の恐ろしさの片鱗を味わったのだった。
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