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第26話 ゴブリン掃討戦(後編)

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 北の森の中を目印を頼りに進み、ゴブリンの巣へとやってきた。ゴブリンの巣に到着する頃にはすでに日は陰り、森の中はかなり薄暗くなってきている。

 この時間帯を選んだのはゴブリンたちが昼行性で夜は巣に戻ってくるからだ。

 こうして集まった大量のゴブリンたちが寝静まったころを見計らい、一網打尽にするのだ。

 一匹、また一匹と草などを積み上げた寝床の上で眠りについていき、そして月明かりに照らされるのみとなったところでカリストさんが攻撃の指示を出した。

 俺たちは松明に火をつけると巣の中に突入した。人によっては照らす役と攻撃する役という感じに役割分担をしているが、俺は自分の盾に松明を括りつけて自分で灯りを確保している。

 そして俺たちは寝入っているゴブリンたちを次々に突き刺して倒していった。

 俺が五匹ほど倒したところでゴブリンたちは異変に気付いたのか叫び声を上げ、そして次々と目をさましていく。

 だが寝起きで状況が把握できておらず、そして混乱状態のゴブリンたちはまるで脅威にはならなかった。

 まるで作業をしているかのように淡々と倒し続けて、気が付けばゴブリンたちは全滅していた。

 あまりにもあっさりと倒せてしまったことに驚きを禁じ得ないが、やはりこれはカリストさんの作戦勝ちなのだろう。

 ゴブリンメイジもカリストさんがしっかりと討ち取ってくれていたようで、こちらの死者はおらず、怪我人は多少出たもののメラニアさんが治癒魔法で治してくれたおかげでこちらの損害はゼロだ。

「さあ、みんな魔石を回収して死体と巣の処分をしよう」

 カリストさんの号令で俺たちは魔石を回収し、死体を巣の中心部に積み上げていった。報酬は均等分配という事になっているので魔石は一度リーダーであるカリストさんに預かってもらう。

 そして作業が終わって巣に使われていた草や葉っぱを集めて火を点けると、肉の焦げた匂いが辺りに漂う。

「よし、撤収するよ」

 こうして任務を果たした俺たちは森を後にしたのだった。

 そして町に戻った俺たちを待っていたのは信じられない報告だった。カリストさんが支部長から聞いた話によるとどうやら領主様の軍が討伐に失敗してしまったらしい。メインの巣を攻めた軍で多数の死者と行方不明者が出ているそうだ。

 特に傭兵として参加した者たちは誰一人として戻っていないらしく、フリオもその中に含まれているのだそうだ。傭兵の中にはフリオのようにFランク冒険者としてくすぶっていた人が多数含まれており、冒険者ギルドとしても対応に追われているらしい。

 俺としてはフリオが死んだかもしれないという事を聞くとさすがに複雑な気持ちになる。事あるごとに絡まれ、暴力を振るわれてきたとはいえそれでも一応は昔からの知り合いだ。

 ムカつく奴ではあるが死なれると寝覚めがあまりよろしくないのでできれば無事でいて欲しいものだ。

 また、メインの巣の討伐は引き続き領主様の軍が行うらしい。そのため冒険者に、特に俺のような低ランクの者に出番があるのかはまだわからない。

 だが念のためしばらくは冒険者ギルドに毎日顔を出すように指示を受けたのだった。

****

 時は遡りディーノたちがゴブリンの巣を襲撃する少し前、領主軍に率いられたメインの巣の討伐隊は予定通りに攻撃を開始した。

「傭兵諸君! 突入せよ! 手柄を多く立てた者には褒美を与える!」

 指揮官の掛け声と共に剣を持った傭兵たちが巣に突撃を開始した。突撃する部隊の中にはフリオの姿もある。

「オラッ!」

 フリオは目の前にいるゴブリンを貸し出された剣を使って次々と斬り捨てていく。

「ハハハッ。見ろ! 俺だってやればできるんだ! あのハズレ野郎と違って俺にはギフトがある!」

 やや陶酔した様子ではあるがしっかりとゴブリン達を斬り捨てていくその様はとても初陣とは思えない。

「そうだ。俺を評価しない冒険者ギルドが悪い。手柄を立てて騎士になって、そうしたら女を、それにエレナだって!」

 一人でブツブツと呟きながら次々とゴブリンを斬り捨てるその異様な姿に周りの傭兵たちは気付いていない。

「それにあのハズレ野郎だ。あいつは俺が騎士になったらどういたぶってやろうか。クハハハハ」

 そうフリオが一人で笑い声を上げたその瞬間だった。フリオの、周りの傭兵たちの動きが突然重くなる。

「なっ!? こ、これは……いきなり体が重く!?」
「う、動けない……」
「う、うわぁぁぁ」

 動きの重くなった人間たちに対し、ゴブリンたちの動きは変わらない。そうして今度は人間が狩られる番となった。

「く、来るなっ!」

 一人、また一人とゴブリンの攻撃に倒れていく。

「ええい! 撤退だ! かなり高度な結界魔法を使う個体がいる」

 領主軍の指揮官はそう叫ぶとあっさりと傭兵部隊を見捨てて撤退したのだった。

「え? おい? 何で置いて行くんだ! おい!」

 フリオが大声で叫んだが領主軍は一顧だにしない。

「クソッ! 見捨てやがった! くそっ!」

 そう毒づくが助けに来るものはいない。フリオの周りで動いているのはゴブリンだけだ。

「ああっ! どうして俺がこんな目に! 俺は『戦士』のギフト持ちなんだぞ!」

 木の棒を持ったゴブリンの一撃がフリオを襲い、その一撃をまともにくらってしまったフリオは借り物の剣を落とし地面にうつ伏せに倒れた。

「くそっ! そうだ。冒険者ギルドが悪い。俺を置いて逃げた軍のやつらが悪い。それにそうだ。俺を受け入れなかったエレナが悪い。エレナ……そうだ。あのハズレ野郎が悪いんだ。くそっ! くそっ! くそぅ……」

 命の危機に瀕したフリオはそんなことを誰にともなく呟いていると、どこからともなく声が聞こえてきた。

『クケケケケ。憎イ、カ?』
「誰だっ!」
『憎イ、カ?』
「ああ、憎いよ」

 次の瞬間、そう呟いたフリオは後頭部に衝撃が走る。ゴブリンが木の棒で打ち付けてきたのだ。

「くそっ! よくもっ!」
『イイゾ。オマエハ、見所ガ、アル。チカラガ、ホシイ、カ?』
「ああ。欲しい。力さえあれば俺はこんな目には!」
『イイダロウ。ナラバ――』

 そして次の瞬間、フリオの体は闇に包まれたのだった。
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