174 / 182
第174話 悪魔の所業
しおりを挟む
ヴァージニアさんが落ち着いたところを見計らい、私はダリアさんに声をかける。
「あの、すみません。ダリアさんは聖導のしるしを持っていますか?」
するとダリアさんは不審そうに私を見ると、やや不機嫌そうな様子で短く答えた。
「いえ」
するとヴァージニアさんが補足の説明をしてくれた。
「聖導のしるしは聖女以上の者に与えられるものですわ。それ以外ですと、教皇猊下が特別にお認めになった者くらいしか身に着けておりませんわ」
「そうなんですね」
なるほど。だからダリアさんは呪いに再びかかるということにならなかったのだろう。
「わかりました。それじゃあ、他の牢屋も――」
「ヘレン! ヘレンですわよね!?」
少し先の牢屋を確認しに行っていたシンシアさんの声が聞こえてきた。急いでそちらに向かうと、そこには一人の少女がやはり虚ろな瞳で粗末な木の長椅子に座っていた。
同じように呪いを解いてあげるとヘレンさんも正気を取り戻す。
「シンシア様! おそばを離れてしまってすみません!」
「いいのよ、ヘレン。無事でいてくれて良かった」
シンシアさんも大喜びでヘレンさんのことを抱きしめている。
どうやら聖女と側仕えというのは特別な関係のようだ。
「ホリーさん、他の牢屋にもたくさんいます。ちゃんとは数えていないですけど、多分三十人ちょっとは……」
ショーズィさんが先まで行って確認してきてくれたらしい。
「そんなに……」
あまりの被害者の多さに私は絶句する。
それから私たちは牢屋を一つ一つ確認していった。すると、なんと三十五人もの女性が閉じ込められていたことがわかった。
しかも彼女たちは聖女、聖女見習い、もしくは聖女の側仕えのいずれかで、全員呪いをかけられて洗脳されていたのだ。
その中にはヴァージニアさんとシンシアさんの残りの側仕えの人たちもいた。助けてもらうように頼まれたが、いくらなんでも魔力がもたないので明日にしてもらった。
だが許せなかったのは地下牢の一番奥に行ったときのことだった。
まず、一番奥にはさらに地下に降りる階段があった。そして、降りた先では信じられない光景が私たちを待っていたのだ。
そこで最初に目に飛び込んできたのは大きな装置だ。金属製の巨大な漏斗のようなものがあり、その下には大きな壺が置かれている。
さらにその隣には大きな机があり、あの赤い宝玉が一つ、無造作に置かれていたのだ。
そして!
「……これは?」
「……血の匂い、ですな」
マクシミリアンさんが慎重に巨大な漏斗に近づき、壺の中を確認する。
「なっ!? これはまさか!」
そう叫んだマクシミリアンさんが机の上に飛び乗り、漏斗の上からその中を確認する。
「なんということを!」
マクシミリアンさんが怒りの声を上げる。
「どうしましたか?」
エルドレッド様も机に登って中を確認すると、見るからに不快そうな表情を浮かべた。
「……そういうことですか。ここはあの赤い宝玉の製造現場です。この中にはあの宝玉を作るために殺された女性の遺体があります」
エルドレッド様は巨大な漏斗を指さしてそう言った。
「え?」
「ショーズィさん、降ろすのを手伝ってください」
「はい」
エルドレッド様はそういうとまず、漏斗の上に登り、その上にはまっていた鉄格子を外した。そして登ってきたショーズィさんと一緒に女性の遺体を引っ張り出した。
床に寝かされた女性の遺体のあちこちに刺し傷がある。
つまり、女性を殺してあの中へ……いや、鉄格子をはめていたということは生きたまま入れたということだろうか?
どちらにせよ人とは思えない悪魔の所業だ。
そうして集めた血を使ってあんなものを作っていたということなのだろう。
「……ティナ?」
シンシアさんが突然、ぽつりと呟いた。
「え?」
ダリアさんが慌てて駆け寄る。
「ティナ! ティナ! どうしてこんなことに!」
「ダリア、本当にティナなの?」
「ええ! 私が見間違うはずがありません! 彼女はたしかにティナです!」
「そんな! どうして!」
どうやら知り合いの女性のようだ。
「あの、ティナさんというのは……」
動揺する三人とは違い、そこまで取り乱していないヘレンさんに聞いてみる。
「私は面識がありませんが、かなり年上の聖女見習いの方だと聞いたことがあります」
「そうですか……」
「二十五歳までに聖女になれなかった聖女見習いは還俗するって聞いていましたけど、まさかこんな風に殺されるなんて……」
ヘレンさんはそう言って青い顔をしている。
「この宝玉にはまだ呪いは込められていないようですね」
気が付けばエルドレッド様が赤い宝玉を確認していた。
「才能のない者は殺して道具へ。それが聖導教会のやり方ですか。反吐が出ます」
私はエルドレッド様が吐き捨てるようにして呟いたその言葉に深く同意したのだった。
◆◇◆
私たちが地下牢から出てくると魔王様の軍がすでに到着しており、サンプロミトは完全に私たち魔族が占領していた。
こうして私たちのサンプロミト奇襲作戦は幕を閉じたのだった。
「あの、すみません。ダリアさんは聖導のしるしを持っていますか?」
するとダリアさんは不審そうに私を見ると、やや不機嫌そうな様子で短く答えた。
「いえ」
するとヴァージニアさんが補足の説明をしてくれた。
「聖導のしるしは聖女以上の者に与えられるものですわ。それ以外ですと、教皇猊下が特別にお認めになった者くらいしか身に着けておりませんわ」
「そうなんですね」
なるほど。だからダリアさんは呪いに再びかかるということにならなかったのだろう。
「わかりました。それじゃあ、他の牢屋も――」
「ヘレン! ヘレンですわよね!?」
少し先の牢屋を確認しに行っていたシンシアさんの声が聞こえてきた。急いでそちらに向かうと、そこには一人の少女がやはり虚ろな瞳で粗末な木の長椅子に座っていた。
同じように呪いを解いてあげるとヘレンさんも正気を取り戻す。
「シンシア様! おそばを離れてしまってすみません!」
「いいのよ、ヘレン。無事でいてくれて良かった」
シンシアさんも大喜びでヘレンさんのことを抱きしめている。
どうやら聖女と側仕えというのは特別な関係のようだ。
「ホリーさん、他の牢屋にもたくさんいます。ちゃんとは数えていないですけど、多分三十人ちょっとは……」
ショーズィさんが先まで行って確認してきてくれたらしい。
「そんなに……」
あまりの被害者の多さに私は絶句する。
それから私たちは牢屋を一つ一つ確認していった。すると、なんと三十五人もの女性が閉じ込められていたことがわかった。
しかも彼女たちは聖女、聖女見習い、もしくは聖女の側仕えのいずれかで、全員呪いをかけられて洗脳されていたのだ。
その中にはヴァージニアさんとシンシアさんの残りの側仕えの人たちもいた。助けてもらうように頼まれたが、いくらなんでも魔力がもたないので明日にしてもらった。
だが許せなかったのは地下牢の一番奥に行ったときのことだった。
まず、一番奥にはさらに地下に降りる階段があった。そして、降りた先では信じられない光景が私たちを待っていたのだ。
そこで最初に目に飛び込んできたのは大きな装置だ。金属製の巨大な漏斗のようなものがあり、その下には大きな壺が置かれている。
さらにその隣には大きな机があり、あの赤い宝玉が一つ、無造作に置かれていたのだ。
そして!
「……これは?」
「……血の匂い、ですな」
マクシミリアンさんが慎重に巨大な漏斗に近づき、壺の中を確認する。
「なっ!? これはまさか!」
そう叫んだマクシミリアンさんが机の上に飛び乗り、漏斗の上からその中を確認する。
「なんということを!」
マクシミリアンさんが怒りの声を上げる。
「どうしましたか?」
エルドレッド様も机に登って中を確認すると、見るからに不快そうな表情を浮かべた。
「……そういうことですか。ここはあの赤い宝玉の製造現場です。この中にはあの宝玉を作るために殺された女性の遺体があります」
エルドレッド様は巨大な漏斗を指さしてそう言った。
「え?」
「ショーズィさん、降ろすのを手伝ってください」
「はい」
エルドレッド様はそういうとまず、漏斗の上に登り、その上にはまっていた鉄格子を外した。そして登ってきたショーズィさんと一緒に女性の遺体を引っ張り出した。
床に寝かされた女性の遺体のあちこちに刺し傷がある。
つまり、女性を殺してあの中へ……いや、鉄格子をはめていたということは生きたまま入れたということだろうか?
どちらにせよ人とは思えない悪魔の所業だ。
そうして集めた血を使ってあんなものを作っていたということなのだろう。
「……ティナ?」
シンシアさんが突然、ぽつりと呟いた。
「え?」
ダリアさんが慌てて駆け寄る。
「ティナ! ティナ! どうしてこんなことに!」
「ダリア、本当にティナなの?」
「ええ! 私が見間違うはずがありません! 彼女はたしかにティナです!」
「そんな! どうして!」
どうやら知り合いの女性のようだ。
「あの、ティナさんというのは……」
動揺する三人とは違い、そこまで取り乱していないヘレンさんに聞いてみる。
「私は面識がありませんが、かなり年上の聖女見習いの方だと聞いたことがあります」
「そうですか……」
「二十五歳までに聖女になれなかった聖女見習いは還俗するって聞いていましたけど、まさかこんな風に殺されるなんて……」
ヘレンさんはそう言って青い顔をしている。
「この宝玉にはまだ呪いは込められていないようですね」
気が付けばエルドレッド様が赤い宝玉を確認していた。
「才能のない者は殺して道具へ。それが聖導教会のやり方ですか。反吐が出ます」
私はエルドレッド様が吐き捨てるようにして呟いたその言葉に深く同意したのだった。
◆◇◆
私たちが地下牢から出てくると魔王様の軍がすでに到着しており、サンプロミトは完全に私たち魔族が占領していた。
こうして私たちのサンプロミト奇襲作戦は幕を閉じたのだった。
10
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。
みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。
同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。
そんなお話です。
以前書いたものを大幅改稿したものです。
フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。
六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。
また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。
丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。
写真の花はリアトリスです。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
23歳のメルリラは、聖女の任期を終えたばかり。結婚適齢期を少し過ぎた彼女は、幸せな結婚を夢見て婚活に励むが、なかなか相手が見つからない。原因は「元聖女」という肩書にあった。聖女を務めた女性は慣例として専属聖騎士と結婚することが多く、メルリラもまた、かつての専属聖騎士フェイビアンと結ばれるものと世間から思われているのだ。しかし、メルリラとフェイビアンは口げんかが絶えない関係で、恋愛感情など皆無。彼を結婚相手として考えたことなどなかった。それでも世間の誤解は解けず、婚活は難航する。そんなある日、聖女を辞めて半年が経った頃、メルリラの婚活を知った公爵子息ハリソン(6歳)がやって来て――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる