魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結】

一色孝太郎

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第158話 愛ゆえに

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 攻めてくるであろう魔王を奇襲するために待ち構える宅男のところに一人の伝令がやってきた。 

「伝令です! サンプロミトが魔族の奇襲を受け、ゾンビが町を!」
「えっ!?」

 宅男の顔が一瞬にして真っ青になった。

「魔族がどこからか大聖堂に侵入してきました。奴らは赤い雨を降らせ、その雨を浴びた人々は瞬く間にゾンビとなっています」
「そんなっ!」
「さらにルーカス隊長は行方不明です。教皇猊下につきましては未確認ですが、魔族どもに討たれたとの報が入っております」
「なんだって!? クラウディアは!? クラウディアは!?」
「だ、大聖女様の安否については不明です。ですがこのままですとフォディナからの攻撃を受けた際に退路がなくなります。一刻も早くこの場から安全な場所に移動を――」
「そんなことできるか! 僕はクラウディアを助けに行く!」
「お待ちください! 勇者様! 危険です! 雨を浴びるだけでゾンビにさせられてしまうのですぞ!」
「うるさい!」

 宅男は全力で身体強化を発動すると、瞬く間に持ち場を放棄してサンプロミトへと向かってしまった。

「ゆ、勇者様。我々は……」

 残された聖騎士たちは呆気にとられた様子で宅男のいなくなった方向を見つめていたのだった。

◆◇◆

「はぁはぁはぁ。あれが……なんて禍々しい。魔族め。やっぱりあいつらがゾンビの原因じゃないか」

 宅男はサンプロミトの城壁の上に登り、状況を確認していた。

 空は赤黒く禍々しい雲に覆われており、町の中には血のように赤い雨が降り注いでいる。

 その雨の降る領域はサンプロミトのほぼ全域に達しており、あと数分で宅男の立っている城壁にもその範囲は広がるだろう。

 町の中では人々が赤い雨を浴びて次々とゾンビになっていく。

「魔族め。よくもっ!」

 宅男は体に魔力で膜のようなものを作ると身体強化を発動し、赤い雨の中へと躊躇ちゅうちょなく飛び込んだ。

 宅男にはクラウディアを助けに行く以外の選択肢などなかったのだ。

「クラウディア! どうか無事でいてくれ! 僕はクラウディアがいなきゃ!」

 そうつぶやいた宅男の脳裏にはクラウディアの笑顔が浮かんでいた。

 初めて会ったあの日のはにかんだ笑顔が、優しく微笑んでくれたあの笑顔が、プロポーズを受けてくれたときの涙でぐしゃぐしゃの笑顔が。

 そのどれもが宅男にとっての宝物だった。

 運動が苦手で、勉強ができるわけでもない。太っていて容姿がいいわけでもなければ話が面白いわけでもない。

 さらに奥手でクラスメイトの女子とすらまともに話したことすらなく、彼女なんてものとは一切無縁の人生を送ってきた。

 そんな宅男にまるで画面の中から出てきたかのような絶世の美女が一目惚れをしたと言ってくれ、そして自身の属する宗教を抜けていいとまで言って愛してくれたのだ。


 宅男の生み出したバリアによって赤い雨は防がれているものの、赤い雨に濡れたバリアからはシューシューと煙が上がっている。

「くそっ! バリアを溶かそうとしてるのか!」

 宅男はバリアを補強しつつも、大聖堂を目指してゾンビの群れの中を一直線に駆けていく。

「クラウディア……」

 宅男は心配そうにそう呟くと、速度を上げて大聖堂を目指してひた走るのだった。

◆◇◆

「姫様! 一刻も早く祭壇へ!」

 マクシミリアンさんが慌てた様子で私にそう促している。

 窓から見える外には血のように赤い雨が降っており、その雨を浴びた人たちが次々とゾンビになっているのだ。

 まるで悪夢のような光景だ。

「姫様! リリヤマール王家の正統なる後継者である姫様であればきっと、この雨をお止めできるはずですじゃ! どうか!」
「ホリーさん、あの雨は範囲を広げています。このままではいずれ、山を越えて魔族領にも達する可能性があります。使えるかは別として、早く祭壇とやらに行ってみましょう」
「……はい」

 私はエルドレッド様にも促され、ゆっくりと歩きだした。

 だが人が生きたままゾンビへと変わるあの光景があまりにショックで、つい気分が落ち込んでしまう。

「ホリー、辛いな」
「うん」

 ニール兄さんがそっと私に声をかけてくれた。そっとそう言ってくれる優しさが心に染み入る。

「大丈夫です。俺、ちゃんとホリーさんを守りますから」
「あ、はい。ありがとうございます」

 そういうことではないが、ショーズィさんも私を気遣ってくれているようだ。

 そうしてマクシミリアンさんに案内されて祭壇に向かっていると、エルドレッド様が警戒態勢に入った。

 続いてショーズィさん、ヘクターさんが警戒態勢を取った。

「来ますよ!」
「え?」
「ホリー、俺の後ろに」
「うん」

 私がニール兄さんの後ろに隠れたのと同時に激しい金属音が鳴り響いた。

 その音のしたほうを見ると、なんとそこにはあのミヤマーがおり、エルドレッド様がミヤマーの剣を受け止めていた。

 エルドレッド様が剣を押し返すとミヤマーはひらりと舞い、数メートル後方に着地する。

 それからミヤマーは血走った目で剣をこちらに向けてきた。

「魔族め! 見つけたぞ! よくもサンプロミトを!」
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