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第58話 穏やかな旅路
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治療を終えてから二日ほどボーダーブルクに滞在した私たちは、オリアナさんの手配してくれた魔動車に乗ってキエルナへと出発した。
「ホリー先生、ニールさん、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
私たちをキエルナまで連れて行ってくれるのはマークさんとスコットさんの二人で、二人ともボーダーブルク軍の兵士だ。
私たちを乗せた魔動車は馬車よりも少し早いくらいのゆったりとしたペースでキエルナへと道を進んでいく。
「あの」
「なんでしょうか?」
「キエルナまでって、どのくらいかかるんですか?」
「そうですね。大体一週間くらいのつもりでいますよ」
「え? そんなにかかるんですか?」
「ええ、そうですね。普通はそのくらいかけるはずですよ。お急ぎですか?」
「いえ、そういうわけじゃなくってですね。行きは一日で来ちゃったので……」
「え? 一日ですか? またまたそんな。いくら魔動車が馬とは違って疲れないからって、一日で着くわけないじゃないですかぁ。先生は冗談がお上手ですねぇ」
マークさんがそう言って楽しそうに笑った。
「あ、そうなんですね……」
「……あれ? もしかして冗談じゃなかったんですか?」
「はい。その、魔道具研究所のニコラさんの試作品に乗せてもらったんですけど……」
「魔道具研究所のニコラ博士!? それって超有名人じゃないですか! 魔動車の生みの親の試作品って、そりゃあ性能が違うの当たり前ですよ」
「そうなんですか?」
「そうですよ。この魔動車、もう百年くらい前のやつですからね」
「そんなに!?」
「ええ、そうです。そもそも、魔動車は高すぎて中々買えないんですよ。うちの軍だってそうポンポン買い替えられませんからね」
「そうなんですね」
「そうですよ。たしか一番安いやつでも十万リーレくらいだったと思います」
じゅ、十万……。
あまりの金額にクラクラしてきてしまう。
「それに古い魔動車でもちゃんと人を運べますし、スピードを出しても危ないだけですから。ゆっくり行かせてください」
「はい。よろしくお願いします」
「もちろんです!」
そんな会話を交わしつつゆっくりキエルナを目指して進んでいると、正面からどこかで見たような魔動貨車が二台やってきた。
「あれ? ニール兄さん、あの魔動車って……」
「ん? あ! あれはニコラさんがキエルナで置いてけぼりにした……」
「だよね……」
マークさんの言っていた一週間かかるということが、なんともピッタリなタイミングで証明されてしまった形だ。
もちろん置いていったことは申し訳ないと思っている。だがニコラさんが暴走していなければ、もしかするとアーノルドさんたち重症の患者さんたちは助からなかったかもしれない。
そう考えるとニコラさんが暴走してくれて良かったとも言えるのだ。
「ま、まあ、ゆっくり行こうか」
「うん」
私たちはなんとも複雑な気分で魔動貨車とすれ違うのだった。
◆◇◆
私たちは本来一週間ほどの道のりを二週間近くかけてキエルナの魔道具研究所に帰ってきた。
というのもマークさんとスコットさんはとても親切にしてくれて、道中では名物料理を食べたり伝統工芸品を見せてもらったり博物館を見学したりとばっちり観光を楽しんだのだ。
しかもその旅費は任務中ということですべてボーダーブルク軍が出してくれたのだ。治療した報酬も受け取っているのにもらいすぎではないかとは思ったものの、私たちよりもマークさんとスコットさんのほうが楽しんでいる様子だったので良しとしようと思う。
それと気になったことが一つある。あれはボーダーブルクを出て一日くらい進んだところだっただろうか?
まるでニコラさんが運転しているかのようなすさまじい速さで暴走する魔動車と一度だけすれ違ったのだ。
あれは一体なんだったのだろうか?
そんなことを思い出しつつも、私たちは魔道具研究所に戻ってきた。
「それでは、ホリー先生、ニールさん。ありがとうございました」
「こちらこそ」
「送っていただいてありがとうございました。オリアナさんにもよろしくお伝えください」
「もちろんです。良かったらまたボーダーブルクに遊びに来て下さい」
「はい。ぜひ」
こうしてお世話になった二人と別れた私たちは従業員寮の中に入った。しかし誰かが出てくる気配はない。今は掃除でもしているのだろうか?
ふとベルが目に入ったので、エルドレッド様がやっていたように鳴らしてみる。
すると遠くからパタパタと誰かが走ってくる音が聞こえ、すぐにブリジットさんが現れた。
「お待たせしまし……まぁまぁまぁ! ホリーさん! お帰りなさい! 無事だったのね」
「はい。ただいま戻りました」
私はブリジットさんとハグをして再会を喜ぶ。
「ニールさんも、おかえりなさい」
「ただいま戻りました」
「はい。さあさあ、お二人のお部屋はちゃんと整ってますからね。それにせっかく無事だったんですから、夕食はばっちりおめかしをして――」
「え? さすがにあれはちょっと……」
「あら、そうですか? でもせっかくならちょっとくらいおめかししましょう?」
「え? じゃ、じゃあちょっとなら……」
「決まりですね。さぁさぁ参りましょう」
「ニール兄さん、また後で」
「ああ」
こうして私はブリジットさんに連れられて寮の自室へと向かうのだった。
「ホリー先生、ニールさん、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
私たちをキエルナまで連れて行ってくれるのはマークさんとスコットさんの二人で、二人ともボーダーブルク軍の兵士だ。
私たちを乗せた魔動車は馬車よりも少し早いくらいのゆったりとしたペースでキエルナへと道を進んでいく。
「あの」
「なんでしょうか?」
「キエルナまでって、どのくらいかかるんですか?」
「そうですね。大体一週間くらいのつもりでいますよ」
「え? そんなにかかるんですか?」
「ええ、そうですね。普通はそのくらいかけるはずですよ。お急ぎですか?」
「いえ、そういうわけじゃなくってですね。行きは一日で来ちゃったので……」
「え? 一日ですか? またまたそんな。いくら魔動車が馬とは違って疲れないからって、一日で着くわけないじゃないですかぁ。先生は冗談がお上手ですねぇ」
マークさんがそう言って楽しそうに笑った。
「あ、そうなんですね……」
「……あれ? もしかして冗談じゃなかったんですか?」
「はい。その、魔道具研究所のニコラさんの試作品に乗せてもらったんですけど……」
「魔道具研究所のニコラ博士!? それって超有名人じゃないですか! 魔動車の生みの親の試作品って、そりゃあ性能が違うの当たり前ですよ」
「そうなんですか?」
「そうですよ。この魔動車、もう百年くらい前のやつですからね」
「そんなに!?」
「ええ、そうです。そもそも、魔動車は高すぎて中々買えないんですよ。うちの軍だってそうポンポン買い替えられませんからね」
「そうなんですね」
「そうですよ。たしか一番安いやつでも十万リーレくらいだったと思います」
じゅ、十万……。
あまりの金額にクラクラしてきてしまう。
「それに古い魔動車でもちゃんと人を運べますし、スピードを出しても危ないだけですから。ゆっくり行かせてください」
「はい。よろしくお願いします」
「もちろんです!」
そんな会話を交わしつつゆっくりキエルナを目指して進んでいると、正面からどこかで見たような魔動貨車が二台やってきた。
「あれ? ニール兄さん、あの魔動車って……」
「ん? あ! あれはニコラさんがキエルナで置いてけぼりにした……」
「だよね……」
マークさんの言っていた一週間かかるということが、なんともピッタリなタイミングで証明されてしまった形だ。
もちろん置いていったことは申し訳ないと思っている。だがニコラさんが暴走していなければ、もしかするとアーノルドさんたち重症の患者さんたちは助からなかったかもしれない。
そう考えるとニコラさんが暴走してくれて良かったとも言えるのだ。
「ま、まあ、ゆっくり行こうか」
「うん」
私たちはなんとも複雑な気分で魔動貨車とすれ違うのだった。
◆◇◆
私たちは本来一週間ほどの道のりを二週間近くかけてキエルナの魔道具研究所に帰ってきた。
というのもマークさんとスコットさんはとても親切にしてくれて、道中では名物料理を食べたり伝統工芸品を見せてもらったり博物館を見学したりとばっちり観光を楽しんだのだ。
しかもその旅費は任務中ということですべてボーダーブルク軍が出してくれたのだ。治療した報酬も受け取っているのにもらいすぎではないかとは思ったものの、私たちよりもマークさんとスコットさんのほうが楽しんでいる様子だったので良しとしようと思う。
それと気になったことが一つある。あれはボーダーブルクを出て一日くらい進んだところだっただろうか?
まるでニコラさんが運転しているかのようなすさまじい速さで暴走する魔動車と一度だけすれ違ったのだ。
あれは一体なんだったのだろうか?
そんなことを思い出しつつも、私たちは魔道具研究所に戻ってきた。
「それでは、ホリー先生、ニールさん。ありがとうございました」
「こちらこそ」
「送っていただいてありがとうございました。オリアナさんにもよろしくお伝えください」
「もちろんです。良かったらまたボーダーブルクに遊びに来て下さい」
「はい。ぜひ」
こうしてお世話になった二人と別れた私たちは従業員寮の中に入った。しかし誰かが出てくる気配はない。今は掃除でもしているのだろうか?
ふとベルが目に入ったので、エルドレッド様がやっていたように鳴らしてみる。
すると遠くからパタパタと誰かが走ってくる音が聞こえ、すぐにブリジットさんが現れた。
「お待たせしまし……まぁまぁまぁ! ホリーさん! お帰りなさい! 無事だったのね」
「はい。ただいま戻りました」
私はブリジットさんとハグをして再会を喜ぶ。
「ニールさんも、おかえりなさい」
「ただいま戻りました」
「はい。さあさあ、お二人のお部屋はちゃんと整ってますからね。それにせっかく無事だったんですから、夕食はばっちりおめかしをして――」
「え? さすがにあれはちょっと……」
「あら、そうですか? でもせっかくならちょっとくらいおめかししましょう?」
「え? じゃ、じゃあちょっとなら……」
「決まりですね。さぁさぁ参りましょう」
「ニール兄さん、また後で」
「ああ」
こうして私はブリジットさんに連れられて寮の自室へと向かうのだった。
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