魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結】

一色孝太郎

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第47話 キエルナ町立動物園

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 研究も一段落したということで、今日はニール兄さんとキエルナの町を観光することにした。

 キエルナは魔王様が直接治めている町だけあって、ホワイトホルンとは比べ物にならないほど発展している。

 エルドレッド様からいただいた観光案内によると、私たちがお世話になっている魔道具研究所の他にも色々なことを研究している研究所や大学がいくつもあるそうだ。

 しかも中心部には博物館や美術館、図書館などといった施設もあるらしい。

 こういった施設はホワイトホルンには一つもないので、正直なところちょっと羨ましい。

 他にも劇場では演劇や演奏会などを鑑賞することができ、さらには公園には動物園まであるのだそうだ。しかも驚くことに、なんと動物園では人族の住む南方の動物を見ることができるのだという。

「ニール兄さん。私、動物園に行きたい!」
「ああ、いいな。人族の住んでいる地域の動物、楽しみだな」
「うん!」

 こうして私たちは迷うことなく動物園に行くこととなったのだった。

◆◇◆

 私たちは乗合魔動車を乗り継ぎ、キエルナ町立動物園にやってきた。開園時間に合わせてやってきたというのに、すでに行列ができている。

 小さな子供を連れた家族連れの人が多いようで、元気な子供たちのはしゃぐ声があちこちから聞こえてくる。

 そんな彼らを横目に私たちは入園券売り場にやってきた。

「大人二枚お願いします」
「あいよ。一人十リーレだから、二十リーレだね」

 受付の人はきさくな感じのおばさんで、ニコニコしながらそう言ってきたが、私を見て表情を変えた。

「お兄さん、隣の女の子は難民かい? 難民認定書があればその子は割引が受けられるよ」
「いえ、違います。私はホワイトホルンで薬師をしていて、魔道具研究所に用事があって来ているんです」
「ホワイトホルン? どのあたりにあるんだい?」
「それは――」

 私はホワイトホルンについて簡単に説明した。

「はー、そんな田舎に人族が住んでいるなんてびっくりだねぇ。この町なら難民になった人族をたまに見かけるけどねぇ」
「難民なんているんですか?」
「そうなんだよ。どうしてなのかはよく分からないけれど、たまに難民になった人族が来るらしいんだよ。故郷に帰れないなんて可哀想にねぇ」

 それはそうだ。私だってホワイトホルンに帰れなくなったらすごく悲しいと思う。

「それに人族だと、魔力が弱いでしょう? だから魔道具も使えないし、不便な思いをしているみたいでさぁ。あ! ごめんよ。悪気はなかったから……」
「大丈夫ですよ。私はあまり苦労してませんから」
「そうかい。すまなかったね」
「いえ。それより入園券を……」
「あ! そうだったね。あたしったらつい……」

 私は二十リーレをおばさんに渡し、入園券を受け取った。

「ホリー、ここは俺が払うから」
「え? いいよ。ほら、研究を手伝ったお礼にってエルドレッド様にお金、貰ってるから」

 ニール兄さんが二十リーレを差し出してきたが、私はそれをきっぱり断ってニール兄さんの分である十リーレだけ受け取った。

「でも……」

 ニール兄さんは不満そうな顔をしているが、十リーレというのはかなり痛い出費なはずだ。

 そもそもニール兄さんは衛兵なのでホワイトホルンではそれなりに収入のいい職業なわけだが、それでも月収は百リーレもないはずだ。

 この旅行のために貯金をかなり使っているだろうし、あまり負担はかけたくない。

 それとは別に、ここキエルナの物価はホワイトホルンに比べてかなり高い気がする。

 たとえば私たちが初日に泊まった宿は一泊一部屋十リーレだったが、ホワイトホルンであれば同じくらいの宿に三リーレくらいで泊まれる。それに通りに面した食堂のランチはハワーズ・ダイナーの倍以上の値段していた。

「ニール兄さん、行こ?」
「……ああ」

 私たちは入園券を手に行列に並び、しばらく待っていると開園して行列が前に進み始めた。

 そのまま行列はなんの滞りもなく進み、やがて私たちは動物園の中に入った。

 入口を入るとそこにはすぐに動物を展示している檻が目に飛び込んでくる。

「ねぇ、あそこには何がいるのかな?」
「行ってみようか」
「うん」

 私たちが近づいてみると、そこには小動物たちが展示されていた。狐、ウサギ、ネズミなどが種類ごとに分けられている。説明文を見てみると、どうやらこの動物たちは私たちの住んでいる地域で広くみられる動物たちのようだ。

 なるほど、言われてみればたしかにそうだ。特にあのネズミはゾンビになっているのをよく見かけるし、去年の襲撃のときは公民館にも侵入しようとしていた。

「なんか、普通の動物ばかりだな」
「うん。そうだね。あ、あそこに案内板があるよ」

 私は近くにあった案内板を確認してみる。

 どうやら入ってすぐのこのエリアには魔族領に住む動物しか展示されていないようだ。

 しかもきちんと順路があるようで、小動物、鹿などの大型草食動物、熊などの大型肉食動物、鳥の順でまずは魔族領に住んでいる生き物を観察できるようだ。

 それらを見た後に人族の住む南方の珍しい動植物を観察するといった流れになるらしい。

「ねえ、この首が長い動物って何かな?」

 私は看板に描かれている不思議な動物を指さし、ニール兄さんに尋ねる。

「いや、俺も知らないな。本当にこんな動物がいるのか?」
「ね! 不思議だよね。でも、わざわざ絵が描いてあるってことは、きっといるんだよね?」
「どうなんだろうなぁ。俺はこんな動物、いるわけないと思うけどな」

 南方の動物エリアには見たこともないような動物たちの絵がたくさん描かれており、どれもこれも考えられないような形や色をしている。

「ね、行こ?」
「ああ」

 私たちは期待に胸を膨らませ、奥へと歩いていくのだった。
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