21 / 182
第21話 謎の宝玉
しおりを挟む
ゾンビの出現範囲の中央あたりを調査していると、衛兵さんの一人が声を上げた。
「隊長! 何か変なものがあります!」
「どうした?」
ヘクターさんが彼のところへと向かい、私たちもそれに続く。
「ここの木のうろを見てください。赤い宝玉があります」
衛兵さんは焼け落ちた木の根元の部分にある大きなうろを指さしている。
「お? 本当だ。なんだ? これは」
ヘクターさんが怪訝そうな表情で木のうろを覗き込んでいる。私もヘクターさんの脇から覗き込むと、木のうろの中にまるで血のように真っ赤な何かがあるのがちらりと見えた。
その瞬間、私の背筋に悪寒が走る。
「うっ……」
私は思わず自分の両肩を抱き、屈みこんでしまった。
あれは、良くないものだ。
私の第六感が強烈な警告を発している。
「ホリー?」
「ホリーちゃん?」
ニール兄さんたちが心配そうに私を見下ろしている。
「あ、そ、その、あれは……」
「ん? あれって?」
ヘクターさんが聞き返してくるが、上手く言葉が出てきてくれない。
あの宝玉を見ると不安と恐怖が込み上げてくる。
「ホリー、あの宝玉はダメなんだな?」
私はなんとか首を縦に振る。
「隊長」
「ああ、そうだな。ホリーちゃんがここまでになるってことは、俺たち魔族にはわからない何かがあるんだろう。ニール、ホリーちゃんを連れて離れろ」
「はい。ほら、ホリー。立てるか?」
「……うん」
私はニール兄さんに支えてもらい、ゆっくりと立ち上がる。そしてあの恐ろしい宝玉から遠ざかろうとしたそのときだった。
再び得も知れない悪寒が私の背筋を駆け抜ける。
慌てて宝玉のほうを振り返ると、なんとあの宝玉がわずかに光っていた!
「なんだ!?」
「光ってる?」
ヘクターさんたちは警戒しつつもその様子を見守っている。
するとすぐに光は消え、宝玉の置いてあった木を挟んで向こう側二十メートルくらいのところに熊のゾンビが現れた。
「え?」
「ゾンビが現れた?」
ゾンビはすぐに私たちに気付き、ゆっくりとこちらに向かってくる。
「おい!」
「はい!」
衛兵さんたちがすぐさま魔法で足を切り落としてゾンビの動きを封じた。
「ホリーちゃん、いけるかい?」
「は、はい。やります」
私は熊のゾンビに近づくと、すぐさま奇跡で浄化する。
「あの、もしかしてあの宝玉が……」
「そうかもしれないね。あと三時間待ってみよう。ホリーちゃん、大丈夫かい?」
「はい」
そうして宝玉を監視することきっかり三時間後、あの赤い宝玉は再び光を放った。今度は数百メートル離れた場所に鹿のゾンビが現れる。
「どうやらあれがゾンビを生み出している元凶だね」
「はい。でもどうすれば……」
「ホリーちゃんの奇跡でどうにかできないかい?」
「すみません。ちょっとわかりません。おじいちゃんが遺してくれた本にはなかった気がしますけど……」
「そうか。じゃあ、一旦戻るしかないかな」
「あの、割って壊したりしちゃダメなんですか?」
「壊すのも手ではあるけれど、こういった魔道具の類はちゃんと無効化しないと暴走するからなぁ」
ヘクターさんは困り顔でそう教えてくれた。
「わかりました。私も一度家に帰って調べてみますね」
「うん。そうしよう」
こうしてゾンビの発生原因を特定した私たちはホワイトホルンへと引き揚げるのだった。
◆◇◆
翌朝、私はヘクターさんに調査結果を伝えるため、衛兵の詰め所にやってきた。
「ヘクターさん、残念ながら本には何も……」
「そっか。グラン先生は薬師だし、仕方ないね」
「すみません」
「いいよ。ホリーちゃんが悪いんじゃないから」
「はい……」
「何もわからなかった場合は町長が魔王様に協力をお願いすることになっていたからさ」
「魔王様の?」
「そう。魔王様のところならこういうのに詳しい人もいるはずだしね」
「そうですか」
だといいのだけれど……。
ちなみに魔王様というのはその名のとおり、魔族の住む町を束ねている王様だ。
王様といっても人族たちの国とは違い、魔王様もホワイトホルンの町長と同じようにキエルナという町の町長をしている。
そのため、普段からホワイトホルンのあれこれに口出しをしてくることはない。
ただし今回のように困りごとがあったときに助けてくれたり、町同士でトラブルになったときに仲裁してくれるのだ。
基本的に魔王様の言うことであればどの町の町長も従うので、魔族の町はそうして魔王様を中心に緩くまとまっている。
ちなみに魔王様の言うことに従うのは、魔王様の魔力が魔族の中でもっとも強いからだ。町の町長は町でもっとも魔力が強い人になり、町長たちの中でも一番魔力が強い人が魔王になる。
単純明快な仕組みだが、魔族の社会はこうして回っているのだ。
「伝令を飛ばすからちょっと待ってくれる?」
「はい」
ヘクターさんは予め用意されていた封筒を袖机から取り出した。続いて棚から白い宝玉を取り出し、封筒にくっつけて魔力を注ぐ。
すると白い宝玉は白い鳥に変化し、封筒をその嘴に咥えた。それを確認したヘクターさんが窓を開けると、鳥はそのまま窓から飛び立つ。
これは鳥郵便という魔道具で、予め決められた場所へと手紙を運んでくれるのだ。
「じゃあ、キエルナから返事次第ではもう一仕事お願いするかもしれないけど、大丈夫かい?」
「はい、もちろんです」
こうして調査の仕事は一時中断となり、私は普段の生活に戻るのだった。
「隊長! 何か変なものがあります!」
「どうした?」
ヘクターさんが彼のところへと向かい、私たちもそれに続く。
「ここの木のうろを見てください。赤い宝玉があります」
衛兵さんは焼け落ちた木の根元の部分にある大きなうろを指さしている。
「お? 本当だ。なんだ? これは」
ヘクターさんが怪訝そうな表情で木のうろを覗き込んでいる。私もヘクターさんの脇から覗き込むと、木のうろの中にまるで血のように真っ赤な何かがあるのがちらりと見えた。
その瞬間、私の背筋に悪寒が走る。
「うっ……」
私は思わず自分の両肩を抱き、屈みこんでしまった。
あれは、良くないものだ。
私の第六感が強烈な警告を発している。
「ホリー?」
「ホリーちゃん?」
ニール兄さんたちが心配そうに私を見下ろしている。
「あ、そ、その、あれは……」
「ん? あれって?」
ヘクターさんが聞き返してくるが、上手く言葉が出てきてくれない。
あの宝玉を見ると不安と恐怖が込み上げてくる。
「ホリー、あの宝玉はダメなんだな?」
私はなんとか首を縦に振る。
「隊長」
「ああ、そうだな。ホリーちゃんがここまでになるってことは、俺たち魔族にはわからない何かがあるんだろう。ニール、ホリーちゃんを連れて離れろ」
「はい。ほら、ホリー。立てるか?」
「……うん」
私はニール兄さんに支えてもらい、ゆっくりと立ち上がる。そしてあの恐ろしい宝玉から遠ざかろうとしたそのときだった。
再び得も知れない悪寒が私の背筋を駆け抜ける。
慌てて宝玉のほうを振り返ると、なんとあの宝玉がわずかに光っていた!
「なんだ!?」
「光ってる?」
ヘクターさんたちは警戒しつつもその様子を見守っている。
するとすぐに光は消え、宝玉の置いてあった木を挟んで向こう側二十メートルくらいのところに熊のゾンビが現れた。
「え?」
「ゾンビが現れた?」
ゾンビはすぐに私たちに気付き、ゆっくりとこちらに向かってくる。
「おい!」
「はい!」
衛兵さんたちがすぐさま魔法で足を切り落としてゾンビの動きを封じた。
「ホリーちゃん、いけるかい?」
「は、はい。やります」
私は熊のゾンビに近づくと、すぐさま奇跡で浄化する。
「あの、もしかしてあの宝玉が……」
「そうかもしれないね。あと三時間待ってみよう。ホリーちゃん、大丈夫かい?」
「はい」
そうして宝玉を監視することきっかり三時間後、あの赤い宝玉は再び光を放った。今度は数百メートル離れた場所に鹿のゾンビが現れる。
「どうやらあれがゾンビを生み出している元凶だね」
「はい。でもどうすれば……」
「ホリーちゃんの奇跡でどうにかできないかい?」
「すみません。ちょっとわかりません。おじいちゃんが遺してくれた本にはなかった気がしますけど……」
「そうか。じゃあ、一旦戻るしかないかな」
「あの、割って壊したりしちゃダメなんですか?」
「壊すのも手ではあるけれど、こういった魔道具の類はちゃんと無効化しないと暴走するからなぁ」
ヘクターさんは困り顔でそう教えてくれた。
「わかりました。私も一度家に帰って調べてみますね」
「うん。そうしよう」
こうしてゾンビの発生原因を特定した私たちはホワイトホルンへと引き揚げるのだった。
◆◇◆
翌朝、私はヘクターさんに調査結果を伝えるため、衛兵の詰め所にやってきた。
「ヘクターさん、残念ながら本には何も……」
「そっか。グラン先生は薬師だし、仕方ないね」
「すみません」
「いいよ。ホリーちゃんが悪いんじゃないから」
「はい……」
「何もわからなかった場合は町長が魔王様に協力をお願いすることになっていたからさ」
「魔王様の?」
「そう。魔王様のところならこういうのに詳しい人もいるはずだしね」
「そうですか」
だといいのだけれど……。
ちなみに魔王様というのはその名のとおり、魔族の住む町を束ねている王様だ。
王様といっても人族たちの国とは違い、魔王様もホワイトホルンの町長と同じようにキエルナという町の町長をしている。
そのため、普段からホワイトホルンのあれこれに口出しをしてくることはない。
ただし今回のように困りごとがあったときに助けてくれたり、町同士でトラブルになったときに仲裁してくれるのだ。
基本的に魔王様の言うことであればどの町の町長も従うので、魔族の町はそうして魔王様を中心に緩くまとまっている。
ちなみに魔王様の言うことに従うのは、魔王様の魔力が魔族の中でもっとも強いからだ。町の町長は町でもっとも魔力が強い人になり、町長たちの中でも一番魔力が強い人が魔王になる。
単純明快な仕組みだが、魔族の社会はこうして回っているのだ。
「伝令を飛ばすからちょっと待ってくれる?」
「はい」
ヘクターさんは予め用意されていた封筒を袖机から取り出した。続いて棚から白い宝玉を取り出し、封筒にくっつけて魔力を注ぐ。
すると白い宝玉は白い鳥に変化し、封筒をその嘴に咥えた。それを確認したヘクターさんが窓を開けると、鳥はそのまま窓から飛び立つ。
これは鳥郵便という魔道具で、予め決められた場所へと手紙を運んでくれるのだ。
「じゃあ、キエルナから返事次第ではもう一仕事お願いするかもしれないけど、大丈夫かい?」
「はい、もちろんです」
こうして調査の仕事は一時中断となり、私は普段の生活に戻るのだった。
11
お気に入りに追加
168
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完)聖女様は頑張らない
青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。
それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。
私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!!
もう全力でこの国の為になんか働くもんか!
異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる