魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結】

一色孝太郎

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第21話 謎の宝玉

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 ゾンビの出現範囲の中央あたりを調査していると、衛兵さんの一人が声を上げた。

「隊長! 何か変なものがあります!」
「どうした?」

 ヘクターさんが彼のところへと向かい、私たちもそれに続く。

「ここの木のうろを見てください。赤い宝玉があります」

 衛兵さんは焼け落ちた木の根元の部分にある大きなうろを指さしている。

「お? 本当だ。なんだ? これは」

 ヘクターさんが怪訝そうな表情で木のうろを覗き込んでいる。私もヘクターさんの脇から覗き込むと、木のうろの中にまるで血のように真っ赤な何かがあるのがちらりと見えた。

 その瞬間、私の背筋に悪寒が走る。

「うっ……」

 私は思わず自分の両肩を抱き、屈みこんでしまった。

 あれは、良くないものだ。

 私の第六感が強烈な警告を発している。

「ホリー?」
「ホリーちゃん?」

 ニール兄さんたちが心配そうに私を見下ろしている。

「あ、そ、その、あれは……」
「ん? あれって?」

 ヘクターさんが聞き返してくるが、上手く言葉が出てきてくれない。

 あの宝玉を見ると不安と恐怖が込み上げてくる。

「ホリー、あの宝玉はダメなんだな?」

 私はなんとか首を縦に振る。

「隊長」
「ああ、そうだな。ホリーちゃんがここまでになるってことは、俺たち魔族にはわからない何かがあるんだろう。ニール、ホリーちゃんを連れて離れろ」
「はい。ほら、ホリー。立てるか?」
「……うん」

 私はニール兄さんに支えてもらい、ゆっくりと立ち上がる。そしてあの恐ろしい宝玉から遠ざかろうとしたそのときだった。

 再び得も知れない悪寒が私の背筋を駆け抜ける。

 慌てて宝玉のほうを振り返ると、なんとあの宝玉がわずかに光っていた!

「なんだ!?」
「光ってる?」

 ヘクターさんたちは警戒しつつもその様子を見守っている。

 するとすぐに光は消え、宝玉の置いてあった木を挟んで向こう側二十メートルくらいのところに熊のゾンビが現れた。

「え?」
「ゾンビが現れた?」

 ゾンビはすぐに私たちに気付き、ゆっくりとこちらに向かってくる。

「おい!」
「はい!」

 衛兵さんたちがすぐさま魔法で足を切り落としてゾンビの動きを封じた。

「ホリーちゃん、いけるかい?」
「は、はい。やります」

 私は熊のゾンビに近づくと、すぐさま奇跡で浄化する。

「あの、もしかしてあの宝玉が……」
「そうかもしれないね。あと三時間待ってみよう。ホリーちゃん、大丈夫かい?」
「はい」

 そうして宝玉を監視することきっかり三時間後、あの赤い宝玉は再び光を放った。今度は数百メートル離れた場所に鹿のゾンビが現れる。

「どうやらあれがゾンビを生み出している元凶だね」
「はい。でもどうすれば……」
「ホリーちゃんの奇跡でどうにかできないかい?」
「すみません。ちょっとわかりません。おじいちゃんがのこしてくれた本にはなかった気がしますけど……」
「そうか。じゃあ、一旦戻るしかないかな」
「あの、割って壊したりしちゃダメなんですか?」
「壊すのも手ではあるけれど、こういった魔道具の類はちゃんと無効化しないと暴走するからなぁ」

 ヘクターさんは困り顔でそう教えてくれた。

「わかりました。私も一度家に帰って調べてみますね」
「うん。そうしよう」

 こうしてゾンビの発生原因を特定した私たちはホワイトホルンへと引き揚げるのだった。

◆◇◆

 翌朝、私はヘクターさんに調査結果を伝えるため、衛兵の詰め所にやってきた。

「ヘクターさん、残念ながら本には何も……」
「そっか。グラン先生は薬師だし、仕方ないね」
「すみません」
「いいよ。ホリーちゃんが悪いんじゃないから」
「はい……」
「何もわからなかった場合は町長が魔王様に協力をお願いすることになっていたからさ」
「魔王様の?」
「そう。魔王様のところならこういうのに詳しい人もいるはずだしね」
「そうですか」

 だといいのだけれど……。

 ちなみに魔王様というのはその名のとおり、魔族の住む町を束ねている王様だ。

 王様といっても人族たちの国とは違い、魔王様もホワイトホルンの町長と同じようにキエルナという町の町長をしている。

 そのため、普段からホワイトホルンのあれこれに口出しをしてくることはない。

 ただし今回のように困りごとがあったときに助けてくれたり、町同士でトラブルになったときに仲裁してくれるのだ。

 基本的に魔王様の言うことであればどの町の町長も従うので、魔族の町はそうして魔王様を中心に緩くまとまっている。

 ちなみに魔王様の言うことに従うのは、魔王様の魔力が魔族の中でもっとも強いからだ。町の町長は町でもっとも魔力が強い人になり、町長たちの中でも一番魔力が強い人が魔王になる。

 単純明快な仕組みだが、魔族の社会はこうして回っているのだ。

「伝令を飛ばすからちょっと待ってくれる?」
「はい」

 ヘクターさんは予め用意されていた封筒を袖机から取り出した。続いて棚から白い宝玉を取り出し、封筒にくっつけて魔力を注ぐ。

 すると白い宝玉は白い鳥に変化し、封筒をそのくちばしくわえた。それを確認したヘクターさんが窓を開けると、鳥はそのまま窓から飛び立つ。

 これは鳥郵便という魔道具で、予め決められた場所へと手紙を運んでくれるのだ。

「じゃあ、キエルナから返事次第ではもう一仕事お願いするかもしれないけど、大丈夫かい?」
「はい、もちろんです」

 こうして調査の仕事は一時中断となり、私は普段の生活に戻るのだった。
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