上 下
23 / 54

第23話 ガール(?)ズトーク

しおりを挟む
 翌朝、俺は眠い目をこすりながらなんとか起きて陽菜の着替えを手伝った。本当はもう少し寝ておきたいところだが、陽菜は他の男に着替えさせてもらうのに抵抗があると言っているし、俺だって他の男が陽菜に触れるのは嫌だ。

 であれば多少の無理はしてでも、俺たちだけで済ませてしまったほうがいい。

 それから朝食に体力回復のサンドイッチを作って二人で食べ、俺は訓練に向かった。

 これからしばらくの間は剣の訓練と魔法の訓練、そして付き人としての訓練を続けることになる。

 早くこの生活に慣れなくちゃ!

◆◇◆

 その日の午後、陽菜は再び中庭のガゼボで聖女と二人でテーブルを囲んでいた。

「ヒーナ、どうだったかえ? 上手くいったであろう?」
「それが……」
「なんじゃ。ベッドで弱音を吐きながら抱きついたのじゃろう? それでも手を出されなかったのかえ?」
「はい」
「勃起はしとったかえ?」
「え? ぼっ……」
「む? 言葉が通じぬかえ? ならば、股間の棒は硬くなっておったかえ?」
「えっ? あ、えっと、その……」

 陽菜は顔を真っ赤にしながら小さくうなずいた。

「ふむ。ならばショータはヒーナに魅力を感じておることは間違いないのう」
「でも……告白もしてくれないし……だからだと思います」
「む? なんじゃ? そのコクハークとやらは」
「えっ? えっと、その、お互いに好きですっていう気持ちを伝え合うんです。そうしたら彼氏彼女になれて……」
「む? なんじゃ? 彼氏はいいが、カノージョとはなんじゃ?」
「あたしたちの住んでいた日本だと、男女一人ずつでカップルになるんです。だから男の人にとって、大事なパートナーの女の子のことを彼女っていうんです」
「ふむ。なるほどのう。ということは、そのコクハークとやらを済ませば良いのではないかえ?」
「えっと、はい。そうなんですけど……」
「む? ならば簡単であろう?」
「えっ? どういうことですか?」
「どうもこうも、ヒーナがそう命じてしまえば良かろう?」
「えっ? そんな! 命じるだなんて……! 彼氏彼女ってそんなのじゃないんです。もっと、こう、お互いに恋して、燃え上がる気持ちみたいな……」
「なるほどのう。異世界は面倒じゃなぁ」

 聖女はうんざりとした表情でそう言った。

「でも……お互いに想い合うカップルって素敵じゃないですか」
「はぁ、そうかえ? 理解できんのう」
「ええ? そうですか?」
「ああ、理解できぬ。じゃが、それならヒーナがコクハークとやらをすればいいのではないかえ?」
「えっ? あ、あたしが? そ、そんな……」
わらわの目にはあの男、そなたに気があるように見えるがのう」
「えっ? で、でも……」
「なんじゃ?」
「でもですよ? もし断られたら……」

 そう言ってうつむく陽菜に、聖女は憐れみの目を向ける。

「意気地のないやつじゃのう。ヒーナよ、男なぞいくらでもおるぞえ? ダメなら次の男を探せば良いのではないかえ?」
「ダメだなんて言わないでください! あたし、あたしはずっと……ずっと祥ちゃんのことが……」

 涙目になってそう訴える陽菜を見て、聖女は大きなため息をついた。

「ヒーナ、そなは今いくつだったかえ?」
「え? 十六ですけど……」
「ふむ。成人したばかりじゃな」
「えっと……」
「案ずるな。そなたはまだ若い。マナも多いようじゃし、これから百年、二百年と時を重ねることになるじゃろう。もし今失敗したとしても、何十年か経てば過去の思い出になるぞえ」
「えっ? あの……聖女様って何歳なんですか? なんだかものすごい年上みたいな言い方ですけど……」
「そりゃあ、年上じゃからな」
「ええっ!?」
「妾は建国祭の日に百歳になったのだぞえ。知らなかったのかえ?」
「ええええっ!? ひゃ、ひゃくさい……?」

 陽菜は目を見開き、口をパクパクしている。

「なんじゃ? 魚の真似かえ?」
「そ、そんなんじゃっ!」
「ほほほ。面白いのう。じゃが、女はそんな風に驚いてはならぬぞ。常に美しくあるのじゃ」
「は、はい……」
「しかし、一体何をそんなに驚いたのじゃ?」
「え? だって、百歳なのにおばあちゃんになってないなんて……」
「なんじゃ? 異世界では女は百歳で老いるのかえ?」
「いえ、みんなもっと早く死んじゃうと思います」
「ほほう。興味深いのう」
「それって、こっちの世界は違うってことですよね?」
「そうじゃな。人の寿命は体内にあるマナの量に応じて決まるからのう。じゃから、女の平均寿命は百歳ほどじゃな」
「え? でも聖女様は……」
「うむ。わらわのマナは普通よりも多少多いからのう。女であれば二百年、三百年と生きる者も多い。容姿もマナが衰えるまではずっと若いままじゃ」
「そ、そうなんですね。あ! じゃあ男の人って……」
「うむ。男は大抵四十くらいで寿命が尽きるのう。マナが多い男ならばもう少し長生きするがの」

 それを聞き、陽菜の表情が強張った。

「ああ、安心せい。あの男はかなり魔力が高い。百年は難しいじゃろうが、六十から八十くらいまでは大丈夫じゃろうて」
「え? どうしてそんなこと……」
「そりゃあ、あれだけ濃厚にフェロモンを付けておるのに、まだそなたを襲わないのじゃろう?」
「えっ? なんのことですか?」
「む? なんじゃ。無意識じゃったのかえ?」
「えっと?」
「じゃから、そなたはあの男にこれでもかとフェロモンをつけておるではないか」

 陽菜は心当たりがないようで、首を横に振る。

「ということは、もしやフェロモンを出したこと自体が初めてかえ?」

 陽菜は困惑した表情で小さくうなずいた。

「なるほどのう。ということは周りに女がいない環境で育ったのかえ? それとも異世界の女はフェロモンを出さぬのかえ?」
「えっと……はい。フェロモンなんて……」
「ふむ。左様か。まあ良い。ヒーナよ。女はのう。気に入った男に専用のフェロモンを出し、誘惑しつつマーキングができるのじゃよ。他の女に、この男は自分のモノだから手を出すな、と伝えるためにのう」
「マーキング、ですか?」
「うむ。じゃからあの男は今、他の女からすると少々不快な匂いのする男になっておるのう。ま、浮気防止といったところじゃ」
「浮気防止……」
「なんじゃ? その顔は? ヒーナがやったことじゃぞ? それにフェロモンにはのう。対象とした男にとってはいい香りと認識されるのじゃ。そしてほんの少しじゃが理性を弱め、フェロモンの主に対する性欲を強める効果がある」

 聖女はニヤニヤしながら話しているが、陽菜の顔はとんでもないことをしてしまったと後悔している様子だ。

「あの、それって、大丈夫なんですか? 祥ちゃんに何かあったら……」
「少しならまったく問題ないのう。じゃがあそこまで濃厚につけてしまうと、魔力の低い男は理性を失うかもしれぬなぁ」
「そ、そんな……あたし、なんてことを……」

 陽菜は顔を青くするが、それを見た聖女は楽しそうにころころと笑った。

「ほほほ。知らなかったのじゃな。よほど強く思っておらぬ限りはフェロモンなんぞ出せぬはずなのじゃが……」
「……」
「ま、気にするでない。ショータはかなり魔力が高いゆえ、おかしくなる心配もないじゃろう」
「本当ですか?」
「ああ、本当じゃ。誘惑してもそなたを襲わなかったのがその証拠だぞえ」

 すると陽菜はホッとしたような表情を浮かべる。

「というわけじゃ。あの男に何か変化があるとすれば、精々そなたのフェロモンの香りが好きになるくらいじゃ。じゃから、これからも毎晩フェロモンを出して誘惑してやれば良い。さすればそのうち音を上げるじゃろ」
「え? でも……」
「ああ、もう! じれったいのう。さっさとセックスしてしまえば良いじゃろうに。初めは痛いじゃろうが、すぐに気持ちよくなるぞえ?」
「えっ? でも……恥ずかしい……」

 顔を真っ赤にしてうつむく陽菜に、聖女は大きなため息をつくのだった。

================
 次回更新は通常どおり、2024/02/27 (火) 18:00 を予定しております。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

付与効果スキル職人の離島生活 ~超ブラックな職場環境から解放された俺は小さな島でドラゴン少女&もふもふ妖狐と一緒に工房を開く~

鈴木竜一
ファンタジー
傭兵を派遣する商会で十年以上武器づくりを担当するジャック。貴重な付与効果スキルを持つ彼は逃げ場のない環境で強制労働させられていたが、新しく商会の代表に就任した無能な二代目に難癖をつけられ、解雇を言い渡される。 だが、それは彼にとってまさに天使の囁きに等しかった。 実はジャックには前世の記憶がよみがえっており、自分の持つ付与効果スキルを存分に発揮してアイテムづくりに没頭しつつ、夢の異世界のんびり生活を叶えようとしていたからだ。 思わぬ形で念願叶い、自由の身となったジャックはひょんなことから小さな離島へと移住し、そこで工房を開くことに。ドラゴン少女やもふもふ妖狐や病弱令嬢やらと出会いつつ、夢だった平穏な物づくりライフを満喫していくのであった。 一方、ジャックの去った商会は経営が大きく傾き、その原因がジャックの持つ優秀な付与効果スキルにあると気づくのだった。 俺がいなくなったら商会の経営が傾いた? ……そう(無関心)

元聖女だった少女は我が道を往く

春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。 彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。 「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。 その言葉は取り返しのつかない事態を招く。 でも、もうわたしには関係ない。 だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。 わたしが聖女となることもない。 ─── それは誓約だったから ☆これは聖女物ではありません ☆他社でも公開はじめました

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

今さら帰ってこいなんて言われても。~森に移住した追放聖女は快適で優雅に暮らす~

ケンノジ
ファンタジー
「もうお前は要らない女だ!」 聖女として国に奉仕し続けてきたシルヴィは、第一王子ヴィンセントに婚約破棄と国外追放を言い渡される。 その理由は、シルヴィより強い力を持つ公爵家のご令嬢が現れたからだという。 ヴィンセントは態度を一変させシルヴィを蔑んだ。 王子で婚約者だから、と態度も物言いも目に余るすべてに耐えてきたが、シルヴィは我慢の限界に達した。 「では、そう仰るならそう致しましょう」 だが、真の聖女不在の国に一大事が起きるとは誰も知るよしもなかった……。 言われた通り国外に追放されたシルヴィは、聖女の力を駆使し、 森の奥で出会った魔物や動物たちと静かで快適な移住生活を送りはじめる。 これは虐げられた聖女が移住先の森の奥で楽しく幸せな生活を送る物語。

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

処理中です...