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第16話 呼び出し

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 翌日の夕方、まだ夕食の時間でもないというのに部屋の扉がノックされた。

「はーい」
「私です。ファビアンです」
「今出まーす」

 俺は鍵を開け、ファビアンさんを迎え入れた。するとそこにはファビアンさんのほかに、箱を抱えた数人の執事っぽい服装の少年たちがいた。

「ええと……」
「彼らは宮殿の侍従たちです。実は先日の示談の件なのですが……」
「はい。どうかしたんですか? 示談書ができたんですか?」
「いえ、そうではなく、実は今牢屋に入れられているあの男の父親から異議申し立てがございまして……」
「はぁ」
「それを受け、聖女様が直接ヒーナ様から事情を聞きたいと仰せなのです」
「えっ? 聖女様がですか?」
「はい。本来は正装をしていただく必要があるのですが、お二人は荷物を無くされたとおっしゃっていましたよね? そこで宮殿の倉庫に眠っている使われていない服の中から、お二人にサイズが合いそうなものを集めて参りました」

 すると少年たちは次々と箱を扉の横に積み重ねていく。

「こちらはお貸ししますので、明日の謁見までに着替えておいてください。朝、三つの鐘が鳴るころお迎えに上がります」

 そうして一方的に用件だけを告げ、ファビアンさんたちは帰っていった。

「あれ? 祥ちゃん、ファビアンさんが来たんじゃなかったの?」
「うん。なんか――」

 俺は言われたことを説明した。

「あー、そうなんだ。そうだよねぇ。やっぱり全財産の十五パーセントなんて、高すぎるよね。あたしもそうなんじゃないかって思ってたもん」
「でもファビアンさん、普通だって言ってたよ?」
「そうだけど、それで恨まれたらヤじゃない?」
「まあねぇ」

 俺は返事をしつつ、箱を室内に運んでいく。

「そんなことよりさ。ちょっと見てみようよ」
「え? あっ、そうだね。正装かぁ。どんなのがあるんだろうね」

 陽菜が運び込んだ箱を開けた。

「あっ! すごーい! ブルーのドレスだ。レースがすごい! あ! こっちは赤だ! ねぇねぇ、祥ちゃん! どっちの色が似合うと思う?」

 豪華なドレスにテンションが上がった陽菜は片っ端に箱を開け、俺に聞いてくる。

 待って。俺、今運んでるとこだから。

 こうして俺は運びながら陽菜のドレス品評に付き合うのだった。

◆◇◆

 翌朝になった。俺たちは貸してもらった正装に身を包み、ファビアンさんの到着を待っている。

 陽菜は肩を出すデザインの鮮やかな赤のドレスに白いストールを羽織るというスタイルだ。

 まあ、なんというか、巨乳と相まってものすごくセクシーだ。

 ただ、実は陽菜はこのドレスではなく、肩を出さないエレガントなデザインの青いドレスのほうが気に入っていた。しかし、残念ながら胸の部分がきつくてそのドレスは着ることができなかった。

 いや、まあ、正確に言うと、今着ている赤のセクシーなドレス以外、すべてのドレスをちゃんと着ることができなかったのだが……。

 というのも、陽菜の胸に合わせるとウエストがぶかぶかでシルエットが崩れてしまうし、かといってウエストに合わせると、今度は胸が入らないのだ。

 薄々そうだろうとは思っていたが、どうやら陽菜の胸はこちらの人の基準でもかなり大きいらしい。

 ちなみになぜそんなことを知っているかというと、陽菜の着替えを散々手伝ったからだ。

 さすがに着替えを手伝うのには抵抗があったのだが、そもそも渡されたドレスはすべてウエストを締める紐が後ろにあり、誰かに脱ぎ着を手伝ってもらうことが前提の作りになっていたのだから仕方がない。

 もちろんおかげで陽菜の体を触ることになり、嬉しい反面息子の衝動を抑えるのに苦労したわけだが……。

 あ、ちなみに俺の服は選んでいない。なぜならサイズ違いのものがいくつかあっただけで、デザイン自体は一種類しかなかったからだ。

 要するに招いたのは女性である陽菜で、添え物の男など適当でいいということなのだろう。

「えへへ、祥ちゃん、カッコいいよ」
「ありがとう。でも、陽菜もすごく似合ってる」
「ホント? ありがとう。でも、ちゃんと支えてよ? ハイヒールってかなり歩きづらいんだから」

 陽菜は少し不安げな色を瞳に宿しつつ、そう言ってきた。

 だったらハイヒールなど履くな、と思うかもしれないが、渡された靴がすべてハイヒールだったのだから仕方がない。

 ちなみに昨日試しに歩いたときは、まるでペンギンのようなよちよち歩きになっていた。

 女バレで運動神経も悪くないはずの陽菜がこんなになるとは……ハイヒールというのはそれほどまでに歩きにくいのだろう。

 それに、俺たちは聖女様に会うのだ。転んだりしたら大変だし、ここはしっかり俺がサポートしてあげなくちゃな。

「分かってるって。任せてくれ」
「お願いします、祥ちゃん王子」
「おいおい。王子様にちゃん付けかよ」
「いいでしょ。祥ちゃんは祥ちゃんなんだもん」

 そう言って陽菜は楽しそうに笑う。

 ああ、本当に可愛いなぁ。気持ちに気付いたからか、尚更そう感じる。

 と、部屋の扉がノックされた。

「ヒーナ様、ショータさん、お迎えに上がりました。準備はよろしいですか?」
「はい。大丈夫です。陽菜、行こう」
「うん」

 俺はソファーから立ち上がり、陽菜の手を取って立ち上がらせた。元々陽菜は背が高いほうなので、ハイヒールを履いた陽菜の身長は俺とそう変わらない。

 俺は陽菜が左腕にしっかり捕まったのを確認すると、歩調を合わせてゆっくりと扉に向かって歩き出す。

 そして扉を開けると、ファビアンさんが待っていた。

「おや、おはようございます」

 ファビアンさんはそう言って何やら生暖かい目で俺たちを見てきた。

「ファビアンさん、おはようございます。あの、まだ三つ目の鐘は鳴っていませんけど……?」
「はい。少し早めに参りました。準備は終わっているようですし、行きましょう。謁見は四つ目の鐘が鳴るころですが、早まることもありますからね。宮殿の控室にて待機していると良いでしょう」
「分かりました」

 こうして俺たちは宮殿へと向かうのだった。
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