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第13話 アニエシアの聖女

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 仕方がないので、俺たちは建国祭の見物をすることにした。

 まずは神殿の屋台を見て回っているのだが、ここには十人、いや、二十人ほどの女性が集まっている。

 女性たちはこれでもかと高そうなドレスで着飾っており、じゃらじゃらとたくさんの宝石も身に着けている。ただ、こんなことを言うのも申し訳ない気もするが、その、なんというか、まあ、そうじゃない人もいるのだけれど、ちょっと下品というか……。

 ただ、そんな女性たちと比較しているのもあってか、俺的には陽菜が一番可愛いと思う。

 そうなると、やっぱり気になるのは自分と女性たちの付き人との違いだ。付き人たちはみんなしっかりした身なりをしており、なんというか、大人の男性といった感じだ。そんな彼らと比べると、どうしても自分は見劣りしてしまう。

 ……俺、このままじゃダメだよな。

 屋台だって俺があの人たちのようにお金持ちならあんなことしなくてよかったわけだし、ちゃんとした身なりをしていたらあんな風には絡まれなかったかもしれない。それに、もっとスマートに解決することだってできたかもしれない。

 今でこそ陽菜はこうして一緒にいてくれるが、もし陽菜好みのお金持ちのイケメンが来たら、フツメンの俺なんか捨てられてしまうかもしれない。

 そう考えただけで胸をかきむしりたくなるほどの焦燥感に駆られてしまう。

 ダメだ! しっかりしないと!

「祥ちゃん、どうしたの? 怖い顔して」
「え? あ、いや……ちゃんと稼がなきゃって」
「うん。そうだね。あたしも一緒に頑張るよー」
「うん」
「何? なんだか浮かない顔してるよ?」
「まあ、ちょっとね。どうやって稼げばいいかなって思ってさ」
「何よー。もう屋台はできないんだし、ちょっとは稼げたじゃない。せっかくなんだから、お祭りを見て楽しもうよ? 異世界のお祭りなんて、帰ったら絶対に見られないよ?」
「……そうだね」

 すると陽菜は俺の手を握ってきた。

「ほら、あっち」
「うん」

 俺は陽菜に引っ張られ、ぶらぶらと屋台を見て回る。食事の屋台もあれば物を売っている屋台もあるが、どの屋台も値段が銀貨一枚からになっている。

 しかもソーセージ一本や、パンにチーズを乗せただけのものでその値段なのだ。

 これは……!

「あはは。祥ちゃん、もっと高くすればよかったねー」
「うん。まさかこの値段とは……」

 きっと俺たちのサンドイッチは大銀貨一枚でも売れたと思う。

 一方の物を売っている屋台はというと、やはり女性もののアクセサリーやスカーフなんかが多い。それ以外にもお皿やグラスなどの食器、それに絵画なども売っているのだが、それらはどんなに安いものでも小金貨一枚からのスタートだ。

 とても手が出ない。

「あたしはこういうの、あんまりいらないかなー。ねえ、次はあっちに行ってみようよ」

 俺は陽菜に引っ張られ、他の屋台を見て回る。しばらくそうしていると、突然神殿の鐘が鳴り響いた。

 その鐘の音を合図に、神殿に向かう通路にいた人たちが一斉に端へと移動していく。

「ねえ、祥ちゃん。何かな?」
「さあ。でも、なんか道を空けたほうが良さそうじゃない?」
「うん」

 よく分からないが、俺たちも同じように端に移動した。

 それからしばらく待っていると、神殿の外からラッパの音が聞こえてきた。その音が少しずつ近づいてきている。

「なんだろう?」
「ね! 楽しみだね!」

 二人でワクワクしながら待っていると、やがて門の前にラッパを吹きならす兵士たちが現れた。その後ろからはぞろぞろと武装した兵士たちが行進していて、さらにその後ろには馬に乗った兵士たちも続いている。

 どうやら兵士たちのパレードが行われるらしい。

 ただ、彼らの格好は門番をしていた人たちとは違ってかなり派手だ。あれはパレード用の衣装だろうか?

 やがてラッパを吹いている兵士は門のところで止まり、まるで門番をするかのように左右に分かれた。他の兵士たちはそのまま神殿の中に入ってきて、神殿の入口の前で整列していく。

 しばらくすると整列が終わり、ラッパの音も鳴り止んだ。すると今度は神殿の中から荘厳なパイプオルガンの音が聞こえてきてくる。

 やがて演奏が終わると、今度は再び神殿の鐘が鳴り響く。

 すぐに神殿の扉が開き、ぞろぞろと神官たちが出てきた。神官たちが兵士たちの前に立つように横に並んだが、その中央はぽっかりと一人分のスペースが空いている。

 あそこに誰か来るのだろうか?

 興味津々で見ていると、彼らの後ろから神官っぽい服を着た小柄な少女がやってきて、その空いているスペースに立った。

 すると周りの人たちが一斉に両膝をつき、祈るようなポーズを取った。

「あれ?」
「祥ちゃん、あたしたちもやったほうが良さそうじゃない?」
「うん。そうしよう」

 俺たちも周りの人を真似て同じポーズを取った。

 するとすぐに少女は小さく手を上げ、おもむろに口を開く。

「皆の者、苦しゅうない。こうしてアニエシアが建国百周年を迎えられたこと、心より嬉しく思うぞえ」

 少女ははっきりとよく通る声でそう俺たちに呼び掛けた。

 ……つまり、あの少女がここの聖女様なのだろう。

「国民一人一人がお互いに支え合い、健やかに過ごし、アニエシアの益々の発展に力を尽くすように」

 聖女様はそう言うと、目を閉じて祈るように両手を前で胸元で組んだ。するとぼんやりとした淡い光が少女の体から立ち昇る。

 光はかなり弱いが、あの光は太田さんが放っていたのと同じ光のように見える。

 やがて聖女様が祈りを止め、白い光も消えた。すると集まっている人たちからは大歓声が上がり、聖女様はそれに手を振って応える。

 それから一、二分後、再びラッパが鳴り響いた。それを合図に聖女様の前に整列していた兵士たちが整然と動いて左右に分かれ、そこを馬車がゆっくりと進んでくる。

 馬車は聖女様の前で止まり、聖女様はその馬車に乗り込んだ。

 どうやらパレード用の馬車らしく、窓がかなり大きい。そのおかげで聖女様の姿は外からでもよく見える。

 再びラッパが鳴り響き、兵士たちが整然と行進を始め、聖女様を乗せた馬車も兵士たちと一緒に神殿の敷地から出ていった。

 それからしばらくすると残りの兵士たちも神殿の敷地から出ていき、それを見送った神官たちは神殿の中へ戻っていくのだった。
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