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第11話 建国祭の縁日(中編)
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陽菜がいると普通の男は買いに来ないなんて話はなんだったのか。
それから客足が途切れることなく、用意しておいた大銅貨一枚のサンドイッチ二百個はあっという間に完売してしまった。
残っているのは富裕層向けに用意したサンドイッチだが、ターゲットとなる女性客は未だに現れない。
商品の大部分は亜空間キッチンの冷蔵庫に保管しているが、展示しているほうはこのままだとパサパサになってしまいそうだ。
「陽菜、お金持ちはまだみたいだし、ちょっと休憩にする?」
「いいの? でも、あたしなんにもしてないけど……」
「いいって。並べるのとか、手伝ってくれたじゃん」
「うん……」
「じゃ、商品を入れ替えるから、展示してるの食べちゃってて」
「わかったー」
俺は亜空間キッチンに入り、冷蔵庫の中のフルーツサンドを取り出した。
あ、そうだ。どうせなら飲み物もあるほうがいいな。
俺は紅茶を淹れると、ひとまずフルーツサンドだけを持って露店に戻る。
「陽菜、紅茶淹れてるからちょっと待ってて」
「わ、ありがとー。あたしお砂糖二個」
「おっけー」
すぐに亜空間キッチンに戻る。そして紅茶を宿泊所で借りたカップに注いで戻ってきた。
「はい」
「ありがとー。んっ、この紅茶、おいしいね」
「ありがと」
陽菜は紅茶を一口飲むと、美味しそうにフルーツサンドにかぶりつく。
「ん-、おいしー」
陽菜はそう言って幸せそうに目を細めた。
なんというか、やっぱり陽菜って本当に美味しそうに食べるよな。
しかも今は俺の理想の顔をした美少女なのだ。そんな彼女がこんな風にしている姿を見るとそれだけで幸せな気分になり、他のことなんてすべてどうでもよくなってくるのだから不思議なものだ。
美人は人生得するとはよく聞くが、それは本当にそうなんだろうなぁとしみじみ思う。
でも、俺は元々の陽菜だってそれなりに可愛かったと思うんだけど……あれ? 元の陽菜ってどんな顔だっけ?
もう一週間近く今の陽菜と接しているせいでだんだんと記憶がぼんやりしてきた。一重でまな板だったことは覚えているのだが……。
「あれ? 祥ちゃん、なんだか失礼なこと、考えてない?」
「え? い、いや? そんなことないよ?」
び、びっくりした。なんでまな板って考えたことがバレたんだ?
「あ! ほら! やっぱり考えてたでしょ?」
「そ、そんなことは……」
「ホントぉ?」
陽菜がニヤニヤしながら頭を下げ、上目づかいで聞いてくる。
「う……可愛い……」
「え? そう? もー、しょうがないなぁ」
すると陽菜は嬉しそうに笑って許してくれた。
と、そのときだった。
「おーい、店主はいないのか?」
屋台のほうから声を掛けられた。するとそこにはビシッとした身なりの背の高い男が立っている。
三十歳くらいだろうか? 服も髪型もしっかりセットされていて、見るからに金持ちの紳士といった雰囲気だ。
「はい! すみません。休憩していました。なんでしょうか?」
「我らがオリアンヌ様がそちらの女性が召し上がっている食べ物に興味があると仰っている。それはなんだ?」
「こちらはフルーツサンドというもので、ホイップクリームとフルーツのサンドイッチです。今回はイチゴ、桃のシロップ漬け、オレンジの三種類のセットをご用意しています」
「なるほど。一つ貰おう」
「ありがとうございます」
俺はフルーツサンドのセットを手渡し、小銀貨を一枚受け取った。彼は持参しているバスケットにフルーツサンドを入れると、大事そうに抱えて歩いて行った。
その先には二十歳くらいだろうか?
ウェーブがかった長い茶髪と派手なドレスでとても目立っている背の高い女性が、五人くらいの身なりのいい男性に囲まれて佇んでいる。
あの人がきっとオリアンヌ様なのだろう。
彼は女性と一言二言会話を交わすと、そのまま一緒に神殿のほうへと歩いて行った。
◆◇◆
それから時間が経つとともに神殿に来る客層が変わっていき、気付けば立派な身なりをした男性をぞろぞろと連れた女性たちばかりになっていた。
客層の変化に合わせ、高級品を販売する屋台も開くようになった。
そのおかげかフルーツサンドも少しずつ売れ始めたのだが、ここで想定外の事態が発生した。
なんとフルーツサンドよりもハンバーグサンドのほうが先に売り切れてしまったのだ。
「まずい! ちょっと急いで作ってくる!」
「え? 大丈夫なの?」
「ハンバーグは無理だけど、ハムサンドくらいならすぐできるから」
「え? でもハムサンドって安いからダメなんじゃないの?」
「そっか……あ! じゃあ生ハムとサラミのイタリアンサンドにしよう。あれなら! 陽菜、ちょっと店番をお願い」
「おっけー! 任せて」
俺は大急ぎで亜空間キッチンに向かうと、材料を魔法で作り出した。
玉ねぎはスライスして水にさらし、トマトとオリーブの実も薄くスライスする。レタスは細かく切って、今のうちにイタリアンドレッシングに和えておこう。
続いてバタール――バゲットよりも少し短いフランスパンだ――を半分に切り、具を挟んでいく。
まずはレタスをたっぷり敷いたらプロシュット(豚もも肉の生ハム)とコッパ(豚肩ロースの生ハム)をたっぷり乗せる。その上に薄切りパルジャミーノ・レッジャーノを乗せたら水をふき取った玉ねぎ、トマト、オリーブの順で乗せ、バゲットの上半分を乗せてサンドする。
最後にラップで包み、半分にカットすれば完成だ。
ふう。急いでやったにしては上出来かな。
俺はバタール十本分のイタリアンサンドを作り、大急ぎで屋台に戻るのだった。
それから客足が途切れることなく、用意しておいた大銅貨一枚のサンドイッチ二百個はあっという間に完売してしまった。
残っているのは富裕層向けに用意したサンドイッチだが、ターゲットとなる女性客は未だに現れない。
商品の大部分は亜空間キッチンの冷蔵庫に保管しているが、展示しているほうはこのままだとパサパサになってしまいそうだ。
「陽菜、お金持ちはまだみたいだし、ちょっと休憩にする?」
「いいの? でも、あたしなんにもしてないけど……」
「いいって。並べるのとか、手伝ってくれたじゃん」
「うん……」
「じゃ、商品を入れ替えるから、展示してるの食べちゃってて」
「わかったー」
俺は亜空間キッチンに入り、冷蔵庫の中のフルーツサンドを取り出した。
あ、そうだ。どうせなら飲み物もあるほうがいいな。
俺は紅茶を淹れると、ひとまずフルーツサンドだけを持って露店に戻る。
「陽菜、紅茶淹れてるからちょっと待ってて」
「わ、ありがとー。あたしお砂糖二個」
「おっけー」
すぐに亜空間キッチンに戻る。そして紅茶を宿泊所で借りたカップに注いで戻ってきた。
「はい」
「ありがとー。んっ、この紅茶、おいしいね」
「ありがと」
陽菜は紅茶を一口飲むと、美味しそうにフルーツサンドにかぶりつく。
「ん-、おいしー」
陽菜はそう言って幸せそうに目を細めた。
なんというか、やっぱり陽菜って本当に美味しそうに食べるよな。
しかも今は俺の理想の顔をした美少女なのだ。そんな彼女がこんな風にしている姿を見るとそれだけで幸せな気分になり、他のことなんてすべてどうでもよくなってくるのだから不思議なものだ。
美人は人生得するとはよく聞くが、それは本当にそうなんだろうなぁとしみじみ思う。
でも、俺は元々の陽菜だってそれなりに可愛かったと思うんだけど……あれ? 元の陽菜ってどんな顔だっけ?
もう一週間近く今の陽菜と接しているせいでだんだんと記憶がぼんやりしてきた。一重でまな板だったことは覚えているのだが……。
「あれ? 祥ちゃん、なんだか失礼なこと、考えてない?」
「え? い、いや? そんなことないよ?」
び、びっくりした。なんでまな板って考えたことがバレたんだ?
「あ! ほら! やっぱり考えてたでしょ?」
「そ、そんなことは……」
「ホントぉ?」
陽菜がニヤニヤしながら頭を下げ、上目づかいで聞いてくる。
「う……可愛い……」
「え? そう? もー、しょうがないなぁ」
すると陽菜は嬉しそうに笑って許してくれた。
と、そのときだった。
「おーい、店主はいないのか?」
屋台のほうから声を掛けられた。するとそこにはビシッとした身なりの背の高い男が立っている。
三十歳くらいだろうか? 服も髪型もしっかりセットされていて、見るからに金持ちの紳士といった雰囲気だ。
「はい! すみません。休憩していました。なんでしょうか?」
「我らがオリアンヌ様がそちらの女性が召し上がっている食べ物に興味があると仰っている。それはなんだ?」
「こちらはフルーツサンドというもので、ホイップクリームとフルーツのサンドイッチです。今回はイチゴ、桃のシロップ漬け、オレンジの三種類のセットをご用意しています」
「なるほど。一つ貰おう」
「ありがとうございます」
俺はフルーツサンドのセットを手渡し、小銀貨を一枚受け取った。彼は持参しているバスケットにフルーツサンドを入れると、大事そうに抱えて歩いて行った。
その先には二十歳くらいだろうか?
ウェーブがかった長い茶髪と派手なドレスでとても目立っている背の高い女性が、五人くらいの身なりのいい男性に囲まれて佇んでいる。
あの人がきっとオリアンヌ様なのだろう。
彼は女性と一言二言会話を交わすと、そのまま一緒に神殿のほうへと歩いて行った。
◆◇◆
それから時間が経つとともに神殿に来る客層が変わっていき、気付けば立派な身なりをした男性をぞろぞろと連れた女性たちばかりになっていた。
客層の変化に合わせ、高級品を販売する屋台も開くようになった。
そのおかげかフルーツサンドも少しずつ売れ始めたのだが、ここで想定外の事態が発生した。
なんとフルーツサンドよりもハンバーグサンドのほうが先に売り切れてしまったのだ。
「まずい! ちょっと急いで作ってくる!」
「え? 大丈夫なの?」
「ハンバーグは無理だけど、ハムサンドくらいならすぐできるから」
「え? でもハムサンドって安いからダメなんじゃないの?」
「そっか……あ! じゃあ生ハムとサラミのイタリアンサンドにしよう。あれなら! 陽菜、ちょっと店番をお願い」
「おっけー! 任せて」
俺は大急ぎで亜空間キッチンに向かうと、材料を魔法で作り出した。
玉ねぎはスライスして水にさらし、トマトとオリーブの実も薄くスライスする。レタスは細かく切って、今のうちにイタリアンドレッシングに和えておこう。
続いてバタール――バゲットよりも少し短いフランスパンだ――を半分に切り、具を挟んでいく。
まずはレタスをたっぷり敷いたらプロシュット(豚もも肉の生ハム)とコッパ(豚肩ロースの生ハム)をたっぷり乗せる。その上に薄切りパルジャミーノ・レッジャーノを乗せたら水をふき取った玉ねぎ、トマト、オリーブの順で乗せ、バゲットの上半分を乗せてサンドする。
最後にラップで包み、半分にカットすれば完成だ。
ふう。急いでやったにしては上出来かな。
俺はバタール十本分のイタリアンサンドを作り、大急ぎで屋台に戻るのだった。
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