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第6話 はじめての夜

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 なんとか食事を終え、亜空間キッチンに行って絞ったオレンジジュースを飲んで口直しをし、ようやく人心地が付いた。

 気付けばもう窓の外はすっかり暗くなっており、室内を小さなランプがぼんやりと照らしている。

「なんだか、雰囲気あるね。素敵かも……」

 俺の隣でソファーに座ってくつろぐ陽菜の全身がランプの明かりにぼんやりと照らされていて、その姿が妙に色っぽくて、相手が陽菜だって分かっているのにドキドキしてしまう。

「やることないし、寝よっか。外も灯りは全然ないし、きっと朝早そうじゃない? 朝ごはんのこと何も言われなかったけど、寝坊して食べられないとやだし」
「そうだね」

 この町には電気もなければ水道もなく、当然街灯なんてものもない。きっと日の出とともに起き、日の入りと共に寝る生活を送っているに違いない。

 陽菜は立ち上がり、ベッドへと移動した。

 さて、俺も寝ようかな。

 ソファーから立ち上がり、そこで俺は重大な事実にようやく気付いた。

 あれ? ベッド、一つしかなくね?

 いくら大きいとはいえ、さすがに同じベッドはまずいだろう。

 仕方ない。ソファーで寝るか。

 そう考え、ソファーに横になる。

「あれ? 祥ちゃん? まだ寝ないの?」
「いや、寝るよ」
「じゃあおいでよ」
「えっ?」
「えって何よ? 嫌なの?」
「そうじゃないけど……」

 むしろ、眼が冴えて眠れなそうな気がする。

「ならおいでよ。こんなに広いんだし大丈夫だよ」
「でも……」
「それに、昔は一緒の布団で寝てたじゃない」
「それは小学生のころだろ?」
「中学生のときもしたー」
「いつだよ!? してないって!」
「したよ。ほら、中二のときのお正月。祥ちゃんの家で」
「それ、こたつじゃねーか! あれだろ? みんなでお雑煮食べて、みかん食べたあとだろ?」
「そう! でも一緒に寝たじゃん」
「そうだけど……」
「ほらほら、おいでよ。ソファーよりこっちのが寝心地いいよ?」
「……分かったよ」

 俺は陽菜の押しに負け、ベッドに移動した。これだけ広ければ体が触れ合うこともなさそうなので、意識しなければ寝られそうだ。

 そう思ったところで、俺はなんとも言えないいい香りが漂っていることに気が付いた。

 寝具は……違う。あれ? これって昼間に陽菜がくっついてきたときにした香りと一緒じゃないか?

 でも普段の陽菜からはそんな香りはしないはずだし、石鹸というわけではなさそうだ。

 あれ? ってことはまさか、これって陽菜の……?

 そう考えた瞬間、一気に陽菜のことが気になり始めてしまった。

「おやすみー」
「ああ。おやすみ」
「あれ? どうしたの? なんか声、変だよ?」
「なんでもないよ。おやすみ」
「ん」

 なんとかそう答えて誤魔化すと、俺は心を落ち着けるべく深呼吸をした。

 だがそうしたことでこのなんとも言えないいい香りを吸い込んでしまい、余計に陽菜のことを意識してしまう。

 そ、そうだ。こういうときは素数を数えて気持ちを落ち着けるといいってどこかで聞いた気がする。

 い、いち、さん、ご、なな、きゅう……。

 そうしてかなり大きい数まで数え、ようやく気分が落ち着いてきた。

 ふぅ。これでようやく眠れそうだ。

 と、そう思った矢先に今度はどこからか妙な声が聞こえてきた。

 なんだかくぐもったような高い声が遠くから聞こえてくるような……?

「あんっ! そう! そこっ! そこよっ! もっとっ! もっと突いて! もっと! もっと激しく!」

 っ!?

 こ、これってまさか……。

 目が冴えてしまい、俺は上体を起こした。

 陽菜は……もう寝ているようだ。静かな寝息が聞こえてくる。

 そうだよな。そりゃあ、疲れてるよな。いきなりこんなところに連れてこられて、色々あったし。

「ああんっ! あっ! あっ! あっ!」
「うおおおっ! 〇※△様っ!」

 ああああ! うるせえ! どこのどいつだ! こんな夜中に大声で!

 俺はベッドから出ると、声の聞こえてくる場所を探してうろうろと歩き回る。

 ……こっちのほうに行くと声が大きくなるな。

 俺は部屋の奥へと向かい、そのまま一番奥にある窓の前にやってきた。

 カーテンをめくってみると、なんと窓が半分開いていたではないか!

 どうやらあの喘ぎ声はここから聞こえて来たようだ。

 なんとも言えない気分になりつつも窓を閉める。

 喘ぎ声は聞こえなくなった。

 くそう。最初から戸締りを確認しておけば……。

 俺は落胆しつつもベッドに戻ったのだが、あの喘ぎ声のせいでまたもや意識してしまったのは言うまでもない。

 ああ、くそう。くそう……。

◆◇◆

「おはよう、祥ちゃん。よく眠れ……てなさそうだね。大丈夫?」
「え? ああ、うん。大丈夫。ちょっと戸締りを忘れててさ。騒音があったんだ」
「騒音? あたし、全然気付かなかったなぁ」

 陽菜はこてんと首をかしげる。いつもの何気ない仕草なのに、今の陽菜がやると破壊力が半端ない。そのうえ巨乳が揺れていているものだから、どうにも目のやり場に困ってしまう。

「あれ? 祥ちゃんどうしたの? なんだか顔、赤いよ?」

 すみません、陽菜さん。それはあなたのせいです。

 そう心の中で言いつつも、俺は平静を装って返事をする。

「いや、大丈夫だよ。なんでもない」
「そう? ならいいけど、体調悪かったらすぐに言ってね?」

 陽菜は俺の顔を覗き込み、心配そうな表情でそう言ってくる。俺はなんとか小さくうなずいたのだった。
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