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第5話 異世界のディナー

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 滞在許可証を発行してもらった俺たちは見習い神官の少年に案内され、宿泊所の建物にやってきた。

 ここに来るまでにすれ違った神官はすべて男性で、女性は一人もいなかった。ファンタジーな格好の巫女さんやシスターさんがいるのかもと少し期待していたのだが……。

 そして宿泊所にやってきてようやく何人かの女性を発見した。どうやら宿泊客のようで、彼女たちは見るからに高そうなドレスを着て、町の女性たちと同様に何人ものイケメンや屈強そうな男を引き連れている。

 彼女たちもこちらに気付いたようで、俺たちのほうをちらりと見てきた。だが感じ悪いことに、俺たちを見ては勝ち誇ったような笑みを浮かべてくる。

「なんなんだろうね?」
「さあ? 知らない」

 陽菜も不機嫌そうに答えた。

 そんなことがありつつも、俺たちは三階の一室に案内された。

「こちらがヒーナ様とショータさんのお部屋となります。鍵はこちらです。お休みの際は必ず鍵をおかけください。また、夕食はお部屋までお持ちいたします。それではどうぞごゆっくり」

 それから見習い神官は俺たちに一礼すると、足早に立ち去っていった。

「祥ちゃん、入ろっか? あたし、もうクタクタ」
「そうだね」

 俺は渡された鍵で扉を開け、中に入る。部屋は驚くほど広く、床には柔らかいカーペットが敷かれてる。よく分からないが、これってかなりすごい部屋なんじゃ……?

「すごいね!」
「うん」

 陽菜は部屋に駆け込み、設備の確認を始めた。

 ダイニングテーブルとタンス、それにソファーと四~五人は寝られそうな特大のベッドがしつらえられている。

 おや? あっちの扉はなんだ?

 扉を開けてみると、何やら床に丸い蓋が置かれている。

 おや? これはなん……うっ!? 臭っ!

 蓋を開けるとものすごい悪臭が漂ってきた。どうやらここはトイレのようだ。

 ああ、でも良かった。ちゃんとトイレがあるってことは、中世ヨーロッパのように排泄物を窓から投げ捨ているわけではないらしい。

「祥ちゃーん、そっちは何ー?」
「トイレだったー」
「そっかー」

 すると陽菜がこちらにやってきた。

「うえっ、臭ーい!」

 俺は急いで蓋を閉める。

「あれー? ここにもない」
「何が?」
「お風呂」
「お風呂? ああ、そういえばホテルってお風呂がトイレと一緒なんだっけ」
「うん。そのはずなんだけど……」
「うーん、じゃあ大浴場があるんじゃない? 夕食のときに聞いてみようよ」
「そだねー」

 それから粗方の部屋の探索を終え、俺たちはソファーに腰かけるのだった。

◆◇◆

 それからしばらくして、夕食が運ばれてきた。運んできてくれたのは、案内してくれたのとは別の見習い神官の少年だ。

「今日のメニューは干し肉とジャガイモのスープです」

 少年はそう説明し、ダイニングテーブルにスープの入った小皿を置いた。他にはちょっと硬そうなパンとチーズだ。

「ありがとうございます。ところで、ちょっといいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「あの、お風呂とかって……」
「はい? オフロー? それはなんでしょうか?」
「え? えっと、お湯が出て体を綺麗にできる場所のことなんですけど……」
「……ええと?」

 ダメだ。まったく通じていない。

「あの、体と髪を洗いたいんですけど……」

 するとようやく少年は言いたいことを理解してくれたようだ。

「そういうことでしたか。それでしたら、そちらにお手洗いがございますので、そちらをご利用ください。タオルはあちらのチェストに入っております」
「あ、はい。ありがとうございます」
「いいえ、どういたしまして。それではごゆっくり」

 そう言い残すと、少年は退出していった。

「あそこで洗うのかぁ。ちょっとやだなぁ」
「俺も……」

 俺たちは顔を見合わせ、ため息をつく。

「なあ、陽菜」
「何?」
「とりあえず、お風呂は忘れて食べよっか」
「……うん。そうだね。いただきます」
「いただきます」

 俺はパンを掴み、千切っ……ん? か、硬い!?

 ぬおおおおおお!

 力いっぱい引っ張り、ようやくパンがブチッと千切れた。

 な、なんて硬さだ。

 そしてスープにパンをつけて、口に入れる。

 うっ!? しょ、しょっぱい!? それに強烈なハーブの香りがして、何を食べているのか分からなくなる。

 な、なんだこれ!?

「祥ちゃん……」

 陽菜が涙目でこちらを見てくる。

 俺はもう一度スープを舐めてみる。それから肉片を口に含み、なぜそうなったのかを理解した。

「これ、たぶん肉が古いんだ。塩漬け肉なんだと思うけど、臭みを消すために大量のハーブを使ってるんだと思う。しかも大量の塩で誤魔化してるから……」
「うえぇ」
「ほ、ほら。きっとチーズは大丈夫なんじゃないかな?」

 俺はパンを千切り、チーズと一緒に食べてみる。

 ……ま、まあ、こっちは許容範囲内な気がする。それでもしょっぱくてコクがなくて、全然クリーミーじゃないけど。

「うん。これなら食べられるかも……」

 とはいえ、陽菜の顔は曇っている。

「……オムライス、作ろうか?」
「え? いいの!? あ……でもいい。祥ちゃんも疲れてるでしょ? もったいないし」
「でも、美味しくないでしょ?」
「うん。でも、タダで泊めてもらっているに残したら悪いもん」
「そっか。そうだね」

 こうして俺たちは食事を続けるのだった。
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