103 / 122
第103話 有名税
しおりを挟む
火災現場で必要な証拠の撮影を終え、俺たちは警備隊の本部へと戻ってきた。するとそこにはすでに麻薬の押収を終えたダルコさんたちが戻ってきていた。
ヴィヴィアーヌさんの手配してくれた応援は、処分業者のほうでは空振りとなってしまったが、どうやら倉庫のほうは上手くいったようで、あっという間にすべての証拠を押収できたそうだ。
「そうでしたか。まさか先手を打たれるなんて。私がもう少し早く応援を呼べていれば……」
ヴィヴィアーヌさんは責任を感じているようだが、それは違うと思う。
「いや、ヴィヴィアーヌはよくやってくれた。あの手際の良さからすると、我々があの倉庫に踏み込むという情報を直前でキャッチしていたのだろう」
「そう、ですか……ありがとうございます」
ウスターシュさんの慰めにヴィヴィアーヌはなんとか笑顔を作ってくれた様子だ。
「証拠はほとんど燃やされてしまったが、ブノワが裏切っており、口封じで殺されたということは間違いない。今後はブノワの周囲を捜査することになるだろう。これが分かっただけでも捜査は進むはずだ」
「……そうっすね。それより、リリス様の調子が悪そうなんすけど、大丈夫っすか?」
突然ダルコさんが俺の体調を心配してきた。
「え? はい。大丈夫です。ちょっと強い魔法を使ったので……」
「ねえねえ、聞いて! リリスちゃんったら、ものすごい火事を魔法で消火しちゃったのよ。そのおかげで、ブノワが刺殺されてたってことが分かったの。燃え尽きてたらきっと火事で逃げ遅れたって思われてたと思うわ」
「えっ!? 魔法で火事、消せるんすか? やっぱ使徒ってすげえっすね」
「そりゃあアルテナ様が直接遣わせた使徒だもん。すごいに決まってるわよ。それに今はアルテナ様にとって大切な時期だし、たくさん力をお借りできるはずよね」
ダルコさんとレオニーさんが勝手に会話を進め、周囲もうんうんと頷いており、俺のことをそっちのけで納得している様子だ。
「ところでリリス様」
「なんですか? ウスターシュさん」
「今日はあれほどアルテナ様のお力をお借りしたのですから、きっと体にかなりご負担がかかっておられるはずです。今日明日はお休みされてはいかがでしょう?」
「え? ああ、はい。そうですね。じゃあ、お言葉に甘えて……」
単にお腹が空いているだけなのだが、たまには休むのもいいだろう。
こうして俺は一足先に警備隊の本部を後にし、ホテルへと戻ったのだった。
◆◇◆
その日は夕食をたっぷり食べたにもかかわらず空腹感は収まらず、ベッドに寝転んで無理やり寝たのだが、なんとも不思議なことに朝起きると空腹感はきれいさっぱりなくなっていた。
これは、一体どういうことだろうか?
まだ多少お腹が空いているような気もするが、このくらいであれば特になんの問題もなさそうだ。
というわけで、今日は久しぶりの休みを満喫しようと思う。
さて、何をしようか? とりあえず……そうだな。久しぶりに散歩にでも行ってみよう。
最近は飛んでの移動がほとんどだったし、たまには町を歩くのもいい気分転換になるだろう。
となるとまずは……ラ・トリエールに行ってパンを買おう。
そう考え、俺はホテルを出発した。今日の服装は例のサイズが合っていない町娘風の格好で、フードをすっぽりと被っている。これならば誰も俺とは気付かず、太った女が歩いているくらいにしか思われないはずだ。
……なんというか、太っていると思われていると思うと微妙に腹が立つが、仕方がない。少なくとも麻薬組織や犯罪者たちに恨まれているリリス・サキュアだとバレるよりはマシなはずだ。
それにこの格好であれば他人の視線を集めずに済む。
というわけで、俺は普段よりも少し軽い気持ちで町中を歩きだしたのだが……。
「あ、あの、すみません」
ホテルを出てすぐに道を歩く女性に声を掛けられた。
「はい? どうしましたか?」
「リリス・サキュア様ですよね?」
「へっ!?」
ど、ど、ど、どうしてバレたんだ?
「やっぱり! リリス・サキュア様だ! あ、あのっ! いつも悪者を退治してくれてありがとうございます! ファンです! 握手してください!」
「へ? あ、はい」
俺は思わず差し出された女性の手を握った。
「やった! ありがとうございます! 今日は手、洗いません!」
「はぁ」
女性は顔を赤くし、まるでアイドルかイケメン俳優と握手したかのような反応をしている。
「ありがとうございました! あの! 応援してます!」
女性はそう言い残し、ハイテンションのまま立ち去っていった。
……これは一体?
「あ! あの! お、俺もファンです! 握手してください!」
「俺も!」
「私もお願いします!」
「え? え?」
気付けば続々と人が集まってきており、あっという間に人だかりが出来ていた。
「あ、えっと、はい」
あまりの押しの強さに圧倒され、俺は延々と握手をし続けるのだった。
ヴィヴィアーヌさんの手配してくれた応援は、処分業者のほうでは空振りとなってしまったが、どうやら倉庫のほうは上手くいったようで、あっという間にすべての証拠を押収できたそうだ。
「そうでしたか。まさか先手を打たれるなんて。私がもう少し早く応援を呼べていれば……」
ヴィヴィアーヌさんは責任を感じているようだが、それは違うと思う。
「いや、ヴィヴィアーヌはよくやってくれた。あの手際の良さからすると、我々があの倉庫に踏み込むという情報を直前でキャッチしていたのだろう」
「そう、ですか……ありがとうございます」
ウスターシュさんの慰めにヴィヴィアーヌはなんとか笑顔を作ってくれた様子だ。
「証拠はほとんど燃やされてしまったが、ブノワが裏切っており、口封じで殺されたということは間違いない。今後はブノワの周囲を捜査することになるだろう。これが分かっただけでも捜査は進むはずだ」
「……そうっすね。それより、リリス様の調子が悪そうなんすけど、大丈夫っすか?」
突然ダルコさんが俺の体調を心配してきた。
「え? はい。大丈夫です。ちょっと強い魔法を使ったので……」
「ねえねえ、聞いて! リリスちゃんったら、ものすごい火事を魔法で消火しちゃったのよ。そのおかげで、ブノワが刺殺されてたってことが分かったの。燃え尽きてたらきっと火事で逃げ遅れたって思われてたと思うわ」
「えっ!? 魔法で火事、消せるんすか? やっぱ使徒ってすげえっすね」
「そりゃあアルテナ様が直接遣わせた使徒だもん。すごいに決まってるわよ。それに今はアルテナ様にとって大切な時期だし、たくさん力をお借りできるはずよね」
ダルコさんとレオニーさんが勝手に会話を進め、周囲もうんうんと頷いており、俺のことをそっちのけで納得している様子だ。
「ところでリリス様」
「なんですか? ウスターシュさん」
「今日はあれほどアルテナ様のお力をお借りしたのですから、きっと体にかなりご負担がかかっておられるはずです。今日明日はお休みされてはいかがでしょう?」
「え? ああ、はい。そうですね。じゃあ、お言葉に甘えて……」
単にお腹が空いているだけなのだが、たまには休むのもいいだろう。
こうして俺は一足先に警備隊の本部を後にし、ホテルへと戻ったのだった。
◆◇◆
その日は夕食をたっぷり食べたにもかかわらず空腹感は収まらず、ベッドに寝転んで無理やり寝たのだが、なんとも不思議なことに朝起きると空腹感はきれいさっぱりなくなっていた。
これは、一体どういうことだろうか?
まだ多少お腹が空いているような気もするが、このくらいであれば特になんの問題もなさそうだ。
というわけで、今日は久しぶりの休みを満喫しようと思う。
さて、何をしようか? とりあえず……そうだな。久しぶりに散歩にでも行ってみよう。
最近は飛んでの移動がほとんどだったし、たまには町を歩くのもいい気分転換になるだろう。
となるとまずは……ラ・トリエールに行ってパンを買おう。
そう考え、俺はホテルを出発した。今日の服装は例のサイズが合っていない町娘風の格好で、フードをすっぽりと被っている。これならば誰も俺とは気付かず、太った女が歩いているくらいにしか思われないはずだ。
……なんというか、太っていると思われていると思うと微妙に腹が立つが、仕方がない。少なくとも麻薬組織や犯罪者たちに恨まれているリリス・サキュアだとバレるよりはマシなはずだ。
それにこの格好であれば他人の視線を集めずに済む。
というわけで、俺は普段よりも少し軽い気持ちで町中を歩きだしたのだが……。
「あ、あの、すみません」
ホテルを出てすぐに道を歩く女性に声を掛けられた。
「はい? どうしましたか?」
「リリス・サキュア様ですよね?」
「へっ!?」
ど、ど、ど、どうしてバレたんだ?
「やっぱり! リリス・サキュア様だ! あ、あのっ! いつも悪者を退治してくれてありがとうございます! ファンです! 握手してください!」
「へ? あ、はい」
俺は思わず差し出された女性の手を握った。
「やった! ありがとうございます! 今日は手、洗いません!」
「はぁ」
女性は顔を赤くし、まるでアイドルかイケメン俳優と握手したかのような反応をしている。
「ありがとうございました! あの! 応援してます!」
女性はそう言い残し、ハイテンションのまま立ち去っていった。
……これは一体?
「あ! あの! お、俺もファンです! 握手してください!」
「俺も!」
「私もお願いします!」
「え? え?」
気付けば続々と人が集まってきており、あっという間に人だかりが出来ていた。
「あ、えっと、はい」
あまりの押しの強さに圧倒され、俺は延々と握手をし続けるのだった。
0
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
性奴隷を飼ったのに
お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。
異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。
異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。
自分の領地では奴隷は禁止していた。
奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。
そして1人の奴隷少女と出会った。
彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。
彼女は幼いエルフだった。
それに魔力が使えないように処理されていた。
そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。
でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。
俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。
孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。
エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。
※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。
※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる