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第103話 有名税

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 火災現場で必要な証拠の撮影を終え、俺たちは警備隊の本部へと戻ってきた。するとそこにはすでに麻薬の押収を終えたダルコさんたちが戻ってきていた。

 ヴィヴィアーヌさんの手配してくれた応援は、処分業者のほうでは空振りとなってしまったが、どうやら倉庫のほうは上手くいったようで、あっという間にすべての証拠を押収できたそうだ。

「そうでしたか。まさか先手を打たれるなんて。私がもう少し早く応援を呼べていれば……」

 ヴィヴィアーヌさんは責任を感じているようだが、それは違うと思う。

「いや、ヴィヴィアーヌはよくやってくれた。あの手際の良さからすると、我々があの倉庫に踏み込むという情報を直前でキャッチしていたのだろう」
「そう、ですか……ありがとうございます」

 ウスターシュさんの慰めにヴィヴィアーヌはなんとか笑顔を作ってくれた様子だ。

「証拠はほとんど燃やされてしまったが、ブノワが裏切っており、口封じで殺されたということは間違いない。今後はブノワの周囲を捜査することになるだろう。これが分かっただけでも捜査は進むはずだ」
「……そうっすね。それより、リリス様の調子が悪そうなんすけど、大丈夫っすか?」

 突然ダルコさんが俺の体調を心配してきた。

「え? はい。大丈夫です。ちょっと強い魔法を使ったので……」
「ねえねえ、聞いて! リリスちゃんったら、ものすごい火事を魔法で消火しちゃったのよ。そのおかげで、ブノワが刺殺されてたってことが分かったの。燃え尽きてたらきっと火事で逃げ遅れたって思われてたと思うわ」
「えっ!? 魔法で火事、消せるんすか? やっぱ使徒ってすげえっすね」
「そりゃあアルテナ様が直接遣わせた使徒だもん。すごいに決まってるわよ。それに今はアルテナ様にとって大切な時期だし、たくさん力をお借りできるはずよね」

 ダルコさんとレオニーさんが勝手に会話を進め、周囲もうんうんとうなずいており、俺のことをそっちのけで納得している様子だ。

「ところでリリス様」
「なんですか? ウスターシュさん」
「今日はあれほどアルテナ様のお力をお借りしたのですから、きっと体にかなりご負担がかかっておられるはずです。今日明日はお休みされてはいかがでしょう?」
「え? ああ、はい。そうですね。じゃあ、お言葉に甘えて……」

 単にお腹が空いているだけなのだが、たまには休むのもいいだろう。

 こうして俺は一足先に警備隊の本部を後にし、ホテルへと戻ったのだった。

◆◇◆

 その日は夕食をたっぷり食べたにもかかわらず空腹感は収まらず、ベッドに寝転んで無理やり寝たのだが、なんとも不思議なことに朝起きると空腹感はきれいさっぱりなくなっていた。

 これは、一体どういうことだろうか?

 まだ多少お腹が空いているような気もするが、このくらいであれば特になんの問題もなさそうだ。

 というわけで、今日は久しぶりの休みを満喫しようと思う。

 さて、何をしようか? とりあえず……そうだな。久しぶりに散歩にでも行ってみよう。

 最近は飛んでの移動がほとんどだったし、たまには町を歩くのもいい気分転換になるだろう。

 となるとまずは……ラ・トリエールに行ってパンを買おう。

 そう考え、俺はホテルを出発した。今日の服装は例のサイズが合っていない町娘風の格好で、フードをすっぽりと被っている。これならば誰も俺とは気付かず、太った女が歩いているくらいにしか思われないはずだ。

 ……なんというか、太っていると思われていると思うと微妙に腹が立つが、仕方がない。少なくとも麻薬組織や犯罪者たちに恨まれているリリス・サキュアだとバレるよりはマシなはずだ。

 それにこの格好であれば他人の視線を集めずに済む。

 というわけで、俺は普段よりも少し軽い気持ちで町中を歩きだしたのだが……。

「あ、あの、すみません」

 ホテルを出てすぐに道を歩く女性に声を掛けられた。

「はい? どうしましたか?」
「リリス・サキュア様ですよね?」
「へっ!?」

 ど、ど、ど、どうしてバレたんだ?

「やっぱり! リリス・サキュア様だ! あ、あのっ! いつも悪者を退治してくれてありがとうございます! ファンです! 握手してください!」
「へ? あ、はい」

 俺は思わず差し出された女性の手を握った。

「やった! ありがとうございます! 今日は手、洗いません!」
「はぁ」

 女性は顔を赤くし、まるでアイドルかイケメン俳優と握手したかのような反応をしている。

「ありがとうございました! あの! 応援してます!」

 女性はそう言い残し、ハイテンションのまま立ち去っていった。

 ……これは一体?

「あ! あの! お、俺もファンです! 握手してください!」
「俺も!」
「私もお願いします!」
「え? え?」

 気付けば続々と人が集まってきており、あっという間に人だかりが出来ていた。

「あ、えっと、はい」

 あまりの押しの強さに圧倒され、俺は延々と握手をし続けるのだった。
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