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第101話 横流し

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 それからも俺は空からのパトロールを続け、さらに貧民街以外にもその範囲を広げた結果、路上で凶悪な犯罪を見かけることはほとんどなくなった。

 お天道様は見ているどころではなく、警備隊が空から監視しているのだ。当然と言えば当然だろう。

 それとイストール公の提案は本当に効果的で、最近は駄女神を悪魔という人数はかなり減り、貧民街でも記録の女神として認知されつつある。

 そんなある日、俺たちは捕らえた売人たちに吐かせた情報から、麻薬の保管庫を突き止めた。そこで漏れた情報が伝わるよりも先に証拠を押さえるため、俺が空を飛んで向かい、保管庫にいた男たちを全員眠らせた。

 その後ウスターシュさんたちが追いつき、保管されていた麻薬を調べ始めたそのときだった。

「あ! これは!」

 ウスターシュさんが突然鋭い声を上げた。

「リーダー、どうしたんですか?」
「ヴィヴィアーヌ、これを見ろ」
「え? なんですか? このマーク」
「これはな。私が廃棄する際に自分で描いておいたものだ」
「えっ!? リーダーが?」

 え? どういうこと?

「リリス様、これは二週間前に処分業者に依頼し、処分させたはずのものです。リリス様に証拠として撮影いただいているはずです」
「え? 本当ですか?」
「はい。このマークはそのために私がデザインして描いたものです。同じものがあるということはあり得ません」
「わかりました。確認してみましょう」 

 俺は言われた日付の麻薬の袋を見ると、たしかに同じマークが同じ位置に描かれている。

「本当ですね」
「……どうやら処分業者が汚職をしていたようですね」

 そう言ってウスターシュさんは渋い表情になった。

「ということは、まさか押収した麻薬は……」
「はい。処分されず、再び密売組織の手に渡っていたのでしょう。いくら検問を厳しくしても麻薬が減らないと思っていましたが……」

 するとヴィヴィアーヌさんが口を挟む。

「なら、処分業者を叩きに行きます? でもこの麻薬を放置するわけにもいかないですよね?」
「ああ。よし、ヴィヴィアーヌ。本部に戻り、ここに応援を呼んでくれ。私はリリス様とレオニーの三人で直接処分業者に向かい、今すぐに証拠を押さえる」
「はい! 処分業者のほうにも応援は必要ですか?」
「ああ、頼む。手配が終わり次第、ヴィヴィアーヌはこちらの現場に戻れ」
「分かりました!」

 返事をするや否や、ヴィヴィアーヌさんは倉庫を飛び出していく。

「リリス様、我々も向かいましょう」
「はい」

 こうして俺たちも倉庫から処分業者の事務所へと向かうのだった。

◆◇◆

「リリス様、こちらです」
「はい!」

 ウスターシュさんとレオニーさんは走り、俺はその後ろを飛びながらついていく。

 ちょっと、いや、かなり目立つがこればかりは仕方がない。

 というのも、エロフにされてからの俺は運動全般がとにかく苦手なのだ。その中でも特にダメなのが走ることで、少しでも走ろうものなら無駄に大きい胸が暴れ、千切れるのではないかと思うほどの激痛に襲われる。

 そもそもそんな俺が走っても二人に追いつけるはずがないし、仮に追いつけたとしても到着までにグロッキーになっている可能性すらあるのだから、飛んだほうがはるかに合理的だ。

 そうして移動をしていると、遠くから煙が上がっているのが目に入った。

「え? 火事、ですか?」
「そのようですね」
「ねえ、あれってあたしたちが向かっている方向じゃない?」
「……嫌な予感がします。リリス様、急ぎましょう」
「はい」

 俺たちはさらにスピードを上げ、町を駆け抜ける。そしてしばらくすると人だかりが出来ているのが目に飛び込んできた。その先では何件もの家々が激しい炎を上げながら燃え盛っている。

「道を開けてください! 警備隊です!」

 ウスターシュさんの言葉に人々はこちらを振り向いた。

「あっ! リリス様だ!」
「おお! あれが!」
「記録の女神アルテナ様の!」

 宙に浮いている俺を見て人々はポジティブな反応を見せてくれる。

「すみません。ちょっと通してもらえませんか」
「は、はい……」

 さっと人垣が割れ、通れるスペースが出来上がったので俺たちはその間を小走りに進み、ついに人垣の向こうに到着した。するとそこにはすでに警備隊の人たちが到着しており、燃えている建物の周囲の建物を破壊していた。

「あれは?」
「彼らは延焼を防ぐため、防火帯を作っているのです。あそこまで燃えては消火のしようがありません」

 なるほど。消防車がなければ放水もできない。だから火事が起きたときにできることはそれぐらいしかないということなのだろう。

「それよりも、問題はあの燃えている建物です」
「え?」
「あの建物が、例の処理業者の事務所です」
「えっ!? じゃあ……」
「はい。恐らく証拠は残っていないでしょう」
「そんな……」

 せっかく手掛かりを見つけたと思ったのに!

「……ねえ、いくらなんでもタイミングが良すぎるんじゃない?」
「ああ、たしかに」

 険しい表情でそう言ったレオニーさんに、ウスターシュさんもまた険しい表情で同意した。

 え? それってもしかして……。

「処理業者は、私たちが横流しに気付いたってことを?」
「はい。どこかで知ったのでしょう。ただ、これほど激しく燃えては……」

 そう言ってウスターシュさんは悔しそうに首を横に振るのだった。
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