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第89話 困ったのでライブ配信してみた(前編)
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2023/05/08 誤字を修正し、あとがきを削除しました
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俺たちはその後も地道な捜査を続け、ついに麻薬の密売人に麻薬を卸していると思われる組織のアジトを特定した。そのアジトはなんと繁華街のど真ん中にあり、表向きは雑貨屋ということになっている。その雑貨屋はかなり昔からあるのだが、最近は店を開けていない日も多いため、そろそろ閉店するのではないかと噂されている。
そんな雑貨屋に偽装したアジトに対し、俺たちは警備隊五十名を動員して強制捜査を行うこととなった。もちろん副長のサイン入りの捜査命令書があり、抵抗する者は殺してよいとなっている。
人が死ぬような事態になってほしくはないが……。
ガンガンガン!
ウスターシュさんが雑貨屋の扉を乱暴にノックした。
……だがなんの反応もない。
雑貨屋の周囲は昨日から警備隊員たちが交代で見張っており、人の出入りがなかったことは確認している。
「警備隊だ! 扉を開けなければ扉を破壊し、強制捜査を行う!」
ウスターシュさんがもう一度呼びかけたが、やはり反応はない。しばらく待ってからウスターシュさんは強制捜査を宣言する。
「総員! 突入!」
ウスターシュさんの号令に従って雑貨屋を取り囲んでいた警備隊員たちが一斉に扉を破壊し、建物の中へと突入する。
俺たちはウスターシュさんの後に続いて雑貨屋の正面から突入した。そこにはいかにも雑貨屋らしい品ぞろえの商品が陳列されているが、肝心の商品はどれも埃を被っており、とても商品として販売できる状態には思えない。
売り場を抜けて奥へと向かう。するとなんと! そこはもぬけの殻だった。
がらんとした室内には人がいないどころか家具も何一つ残されていない。
「そんな……」
つい一週間前まではたしかにこの建物から複数の麻薬の密売人に会っていた複数の男が出入りしていたのに!
「……またやられたわね」
ヴィヴィアーヌさんがぼそりと呟いた。
「え? またって、どういうことですか?」
「これが四度目なの」
「四度目?」
「そうなの。密売人までは捕まえられるんだけど、その先になるとどうしてもできないのよ。どういうわけか、私たちの捜査をまるで知っていたかのように踏み込むといなくなってるのよね」
「そんな……」
「それで前のリーダーは責任を取って辞めさせられて、それで今のリーダーに交代したんだけど……今回もダメだったわね」
うーん。そんなことが……。
それから雑貨屋をくまなく捜索したものの何一つ情報は得られず、俺たちは麻薬の密売組織に煮え湯を飲まされることとなったのだった。
◆◇◆
そのまま捜査は仕切り直しとなったため、早くホテルに戻ってきた俺はベッドに体を横たえながらこれまでのことを振り返ってみる。
だが残念ながら俺は頭がいいほうではない。だからどうして麻薬の密売組織は俺たちが来ることを察知できたのかさっぱり分からない。
もしかすると、魔法で監視されていたりするんだろうか?
いや、だがレティシアの話によると魔法を使える人はかなり少ないはずだ。そんな貴重な人材が麻薬の密売なんかに手を染めるとは……あ、でも金のためならなんでもする奴はいるよな。
俺の親戚にも……いや、その話はまあいいか。そんなことよりも麻薬の密売組織のことを考えよう。
それから色々な可能性を考えてはみるのだが、さっぱりこれだと思える答えにたどり着けない。
いっそのこと、まったく関係のない誰かに話を聞いてもらえればいいんだが……ん? そういえば、ライブ配信なら知らない人たちと話せるよな?
よし、せっかくだし、ちょっとライブで相談してみよう。
今回のライブタイトルは……そうだな。困っているのでアドバイスを下さい、にしよう。
俺はいつものように室内をセッティングし、早速ライブ配信を始める。
それから少し待っていると、接続数が増え、コメントが飛んできたので俺は笑顔でオープニングの挨拶をする。
「始まってますよね? それじゃあ、異世界からこんにちは。リリス・サキュアです」
俺が挨拶をすると次々と「こんばんは」という挨拶が次々と飛んでくる。どうやら日本時間は夜のようだ。
「たんたんさんこんばんは。ジャスミンさん、こんばんは。全裸玉子さん、なつりんさんこんばんは。ニッシーさん、つよぽんさんこんばんは。はるとまんよんじゅうはちさん、こんばんは。初見さんなんですか? 見に来てくれてありがとうございます……あれ? はるとまんよんじゅうはちさん、初見さんじゃないですよね? また見に来てくれてありがとうございます」
それからも挨拶が流れていき、俺はひたすらに挨拶を返していく。
それが落ち着いたところで俺は本題を切り出してみる。
「それでですね。今日のライブなんですけど、ちょっと視聴者の皆さんのお知恵を借りたいと思って配信しています。というのもですね。実は私、今イストレアで問題になっている麻薬の密売事件の捜査をしているんですよ。それで――」
俺はこれまでの捜査の映像を流し、今回の空振りの件を説明した。
「それでですね。アジトだと思って強制捜査をしたらもぬけの殻っていうのが四回も続いているそうなんです。ただ、私だといくら考えてもどうやって強制捜査を察知したのかさっぱり分からないんです。そこで、もしよかったら視聴者の皆さんと一緒に考えて欲しいなって思ったんです」
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俺たちはその後も地道な捜査を続け、ついに麻薬の密売人に麻薬を卸していると思われる組織のアジトを特定した。そのアジトはなんと繁華街のど真ん中にあり、表向きは雑貨屋ということになっている。その雑貨屋はかなり昔からあるのだが、最近は店を開けていない日も多いため、そろそろ閉店するのではないかと噂されている。
そんな雑貨屋に偽装したアジトに対し、俺たちは警備隊五十名を動員して強制捜査を行うこととなった。もちろん副長のサイン入りの捜査命令書があり、抵抗する者は殺してよいとなっている。
人が死ぬような事態になってほしくはないが……。
ガンガンガン!
ウスターシュさんが雑貨屋の扉を乱暴にノックした。
……だがなんの反応もない。
雑貨屋の周囲は昨日から警備隊員たちが交代で見張っており、人の出入りがなかったことは確認している。
「警備隊だ! 扉を開けなければ扉を破壊し、強制捜査を行う!」
ウスターシュさんがもう一度呼びかけたが、やはり反応はない。しばらく待ってからウスターシュさんは強制捜査を宣言する。
「総員! 突入!」
ウスターシュさんの号令に従って雑貨屋を取り囲んでいた警備隊員たちが一斉に扉を破壊し、建物の中へと突入する。
俺たちはウスターシュさんの後に続いて雑貨屋の正面から突入した。そこにはいかにも雑貨屋らしい品ぞろえの商品が陳列されているが、肝心の商品はどれも埃を被っており、とても商品として販売できる状態には思えない。
売り場を抜けて奥へと向かう。するとなんと! そこはもぬけの殻だった。
がらんとした室内には人がいないどころか家具も何一つ残されていない。
「そんな……」
つい一週間前まではたしかにこの建物から複数の麻薬の密売人に会っていた複数の男が出入りしていたのに!
「……またやられたわね」
ヴィヴィアーヌさんがぼそりと呟いた。
「え? またって、どういうことですか?」
「これが四度目なの」
「四度目?」
「そうなの。密売人までは捕まえられるんだけど、その先になるとどうしてもできないのよ。どういうわけか、私たちの捜査をまるで知っていたかのように踏み込むといなくなってるのよね」
「そんな……」
「それで前のリーダーは責任を取って辞めさせられて、それで今のリーダーに交代したんだけど……今回もダメだったわね」
うーん。そんなことが……。
それから雑貨屋をくまなく捜索したものの何一つ情報は得られず、俺たちは麻薬の密売組織に煮え湯を飲まされることとなったのだった。
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そのまま捜査は仕切り直しとなったため、早くホテルに戻ってきた俺はベッドに体を横たえながらこれまでのことを振り返ってみる。
だが残念ながら俺は頭がいいほうではない。だからどうして麻薬の密売組織は俺たちが来ることを察知できたのかさっぱり分からない。
もしかすると、魔法で監視されていたりするんだろうか?
いや、だがレティシアの話によると魔法を使える人はかなり少ないはずだ。そんな貴重な人材が麻薬の密売なんかに手を染めるとは……あ、でも金のためならなんでもする奴はいるよな。
俺の親戚にも……いや、その話はまあいいか。そんなことよりも麻薬の密売組織のことを考えよう。
それから色々な可能性を考えてはみるのだが、さっぱりこれだと思える答えにたどり着けない。
いっそのこと、まったく関係のない誰かに話を聞いてもらえればいいんだが……ん? そういえば、ライブ配信なら知らない人たちと話せるよな?
よし、せっかくだし、ちょっとライブで相談してみよう。
今回のライブタイトルは……そうだな。困っているのでアドバイスを下さい、にしよう。
俺はいつものように室内をセッティングし、早速ライブ配信を始める。
それから少し待っていると、接続数が増え、コメントが飛んできたので俺は笑顔でオープニングの挨拶をする。
「始まってますよね? それじゃあ、異世界からこんにちは。リリス・サキュアです」
俺が挨拶をすると次々と「こんばんは」という挨拶が次々と飛んでくる。どうやら日本時間は夜のようだ。
「たんたんさんこんばんは。ジャスミンさん、こんばんは。全裸玉子さん、なつりんさんこんばんは。ニッシーさん、つよぽんさんこんばんは。はるとまんよんじゅうはちさん、こんばんは。初見さんなんですか? 見に来てくれてありがとうございます……あれ? はるとまんよんじゅうはちさん、初見さんじゃないですよね? また見に来てくれてありがとうございます」
それからも挨拶が流れていき、俺はひたすらに挨拶を返していく。
それが落ち着いたところで俺は本題を切り出してみる。
「それでですね。今日のライブなんですけど、ちょっと視聴者の皆さんのお知恵を借りたいと思って配信しています。というのもですね。実は私、今イストレアで問題になっている麻薬の密売事件の捜査をしているんですよ。それで――」
俺はこれまでの捜査の映像を流し、今回の空振りの件を説明した。
「それでですね。アジトだと思って強制捜査をしたらもぬけの殻っていうのが四回も続いているそうなんです。ただ、私だといくら考えてもどうやって強制捜査を察知したのかさっぱり分からないんです。そこで、もしよかったら視聴者の皆さんと一緒に考えて欲しいなって思ったんです」
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