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第78話 飛行魔法

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 森を出て街道まで戻ってくると、イストレアのほうからこちらに向かって走ってくる兵士たちを見つけた。

 何やら急いでいるようだが、何かあったのだろうか?

 そう疑問に思いつつも俺はイストレアのほうへと歩いていく。そして兵士たちとすれ違ったのだが、なぜか一部の兵士たちが俺の行く手に立ちふさがった。

「え?」

 しかも残りの兵士たちは俺をぐるりと取り囲んできたではないか!

「大人しくしろ! 森を燃やそうとしたのはお前だな?」
「はい?」

 あまりに突拍子もないことを言われ、思わず聞き返す。

「しらばっくれるな! 森の中で火柱が上がる直前にお前が森に入っていったと通報があった!  放火をするなど、一体何を企んでいる!」
「ええっ!?」

 なんだそれ? 滅茶苦茶じゃないか!

 たしかに火柱を発生させたのは俺だが、きちんと消火した。放火をしたなんて人聞きが悪い。

「さあ、もう逃げられないぞ」
「あの、放火なんてしていませんけど……」
「やかましい! こちらには証人がいるんだ!」

 そんなことを言いながら槍の切っ先を俺に向けてきた。

「証人って、私が火をつけたところを見た人がいるんですか?」
「そうだ!」
「でも、森は燃えていないじゃないですか。私が放火したのならもう火事になっていなきゃおかしいんじゃないですか?」
「う、うるさい! ともかく、お前は放火の現行犯だ! 詰め所まで来てもらうぞ!」

 至極真っ当な反論をしたのだが、聞く耳を持ってくれない。どうやらなんとしてでも俺を犯人にしたいらしい。

 って、おや? よく見ると兵士たちがニヤニヤしながら俺の胸を見ているような?

 あ! しかも股間の息子がすでにもっこりしている奴までいるじゃないか。

 ……なるほど。どうやら末端の兵士たちの中にはならず者のような連中もいるらしい。

 うーん、このまま精気を搾り取ってやってもいいが、戻してやれないのが困り者だ。

 ミニョレ村のときのように襲われたわけでもないし、かといってこいつらに従って詰め所に行ったらろくでもないことをされるのは間違いない。何しろ末端とはいえ、イストール公国の兵士だ。それに詰め所で暴れるわけにもいかない。

 となれば!

 俺は先ほどの要領で光の翼を展開し、宙に浮き上がった。

「なっ!?」

 そのまま五メートルほどの高さまで移動すると、ならず者の兵士たちの上空を通りすぎるとそのままイストレアへと向かって全力で移動する。

 そう。逃げるが勝ちだ。兵士が話を聞いてくれないなら、味方になってくれそうな人のところに行けばいい。

「待て! 逃げるな! 止まれ!」

 止まれと言われて止まるなら最初から逃げたりはしない。

 兵士たちを置き去りにし、あっという間にイストレアの門の前までやってきてしまった。

 見張りの兵士たちは俺の姿を見上げ、あんぐりと口を開けている。

 ならず者たちは……大丈夫だ。振り返っても姿は見えない。

「こんにちは。リリス・サキュアです。入れてもらえますか? 今日の午後、アスタルテ教の聖女レティシア様と約束があります」

 すると兵士たちはがくがくと首を縦に振ったので、高度を上げて街壁の上を飛び越えた。そしてそのままレティシアのいる大聖堂へと向かう。

 それにしても、空を飛べるようになっておいて良かった。また墜落するかもしれないという恐怖はもちろんあるが、移動も速いしトラブルからも逃げ出せるし、それに何より空撮動画はいいネタになりそうだ。

 そうしているうちに大聖堂前にある以前炊き出しを手伝った広場の上空に到着したので、着陸すべくゆっくり高度を下げていく。

「あれー? ママー、人が飛んでるよー?」

 そんな子供の声で人々が一斉に俺のほうを見上げた。そして次の瞬間、広場にいた人たちの一部が俺に向かって祈りを捧げ始めたではないか!

 あー、ええと、まあ、うん。そうだな。たしかに神々しいもんな。気持ちは分からんでもない。

「ママー、何してるの? あのお姉ちゃん、パン屋さんの人だよね?」
「こら! 記録の女神アルテナ様の使徒様ですよ! ちゃんと頭を下げてお祈りしなさい!」
「えー?」
「いいから!」

 そう言って若いお母さんが四~五歳くらいの男の子にお祈りをするように言っている。

 着地した俺は翼の展開を止め、二人に声を掛けた。小さい子にわざわざそんなことをさせなくていいと伝えてあげるためだ。
 
 だが、俺の口からは思いもよらない言葉が飛び出す。

「私に祈る必要はありません。どうかその祈りは記録の女神アルテナ様に捧げてください」

 それと同時に俺は満面の笑みを浮かべていることに気が付く。

 ……あー、あれか。駄女神様の呪いってやつか。まあ、今さらだよな。別に滅茶苦茶なことをやらされているわけじゃないしな。

 もはやあきらめの境地に達した俺はレティシアに会うべく、大聖堂の中へと入るのだった。
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