上 下
77 / 122

第77話 魔法の実験

しおりを挟む
 二度目のライブ配信で盛大にやらかした翌日、魔法についてきちんと確認することにした俺は街壁の門にやってきた。すると検問を担当している兵士がすぐに声をかけてくる。

「おや? 君はたしかパン屋の?」
「はい。リリスです。ちょっと外に出たいんですけど」

 そう言って俺は冒険者票を提示する。

「はいはい。ええと、リリス・サキュアちゃん、職業は魔法使いで等級は一般、と。はいはい。依頼かい?」
「いえ、ちょっとそこの森に行くつもりです」
「いつごろ戻るつもりだい?」
「今日のお昼過ぎくらいまでには」
「はいはい。じゃあ、気を付けてね」
「ありがとうございます」

 こうして俺はイストレアの町を出て、物見の塔で見た森へと向かって歩いていく。

 ああ、ちなみに冒険者の等級が一級となっているのは、リオロンでのオーク退治でその実力が認められて昇級したからだ。レティシアは俺を特級にすべきだと進言したそうだが、規定により飛び級は認められていないためできなかったと聞いている。

 そんなこんなで俺は近くの森に入り、少し歩いていたところで小さな池泉を発見した。

 よし、ここにするか。それなりに深さはありそうなので、もし魔法が暴走して引火してもすぐに消火できるだろう。

 そう考えた俺は早速手のひらを上に向け、そこに小さな火が浮かんでいる様子を想像してみる。

 すると手のひらの上に拳大の火の玉が発生し、浮かんでいる。

 ……どういうことだ? 普通にできてしまったぞ?

 ライブのときのようにするには――。

「ひゃっ!?」

 突然火の玉が火柱となり、天高く噴き上がった!

 慌てて止めるとすぐに火柱は消えてくれたが、上にあった枝や葉が焦げており、一部の葉っぱから何やらぶすぶすと白い煙が上がっている。

「いっけない! 早く消さなくちゃ」

 大急ぎで泉の水で消火しようとすると、なんと池の水がまるで消防車の放水のようにものすごい勢いで水が枝に向かって噴き上がり、燻っていた葉っぱを枝ごと吹き飛ばしてしまった。

「……」

 ええと、これは一体どういうことだろうか?

 転生したてのころは小さな火を出したり川の水で噴水を作るくらいしかできなかったはずなのだが……。

 あ、もしかしてあれか? あのエロゲなオークの精気を食べたせいか?

 たしかに精気を食べると自分の力が強まるのは知っていた。精気を搾り取れる距離は長くなるし、今では獲物の居場所がなんとなく分かるようにすらなっている。

 今までそれは俺が淫魔の一種だからだと思っていたのだが、もしかすると精気を食べることで魔力が増強され、そのおかげでそういった能力が強化されていただけなのではないだろうか?

 いや、でも待てよ? レベルのような概念があって、エロフは精気を食べることでレベルアップしていくという説もありかもしれない。

 まあ、どちらにせよ、今の俺はかなり強い魔力を持っていることだけは間違いない。

 それにいくら強い魔力を持っていたとしても、きちんと使えなければ宝の持ち腐れもいいところだ。

 よし! もう少し何ができるのかを確認していこう。

 風は……ここではやめとこう。さっきの感じだともっと広い場所でやらなければ危なそうだ。

 となると次は……そうだ! 配信のときに失敗した飛行魔法を試してみよう。あのとき浮くことはできていたのだから、もう今度は上手く飛べるかもしれない。

 そう考え、配信のときと同じように翼が生えて浮上するイメージで魔法を使ってみる。するとふわりと俺の体が浮上した。

 お? おおお? これは……すごい! 数十センチではるが、体が浮いているぞ! もう少し高く飛べるかな?

 試してみると、なんと行きたいと思った場所に自由に移動できるではないか!

 おお! 素晴らしい!

 そのまま泉の上へと移動し、水面に映る自分の姿を確認する。

 すると俺の体は淡い光に包まれており、背中には鳥のような蝙蝠のような、不思議な形をした光の翼が輝いているではないか!

 自分の顔や体型にはもう慣れているつもりだったが、これはヤバい。神々しいというかなんというか、とにかく次元が違うレベルだ。

 気分が良くなり、そのまま木よりも高い空へと浮上してみる。すると森の向こうにイストレアの街壁と物見の塔が見えてきた。

 おお! すごい!

 よし、もっと高く飛んでみよう。

 そう思ったのだが俺はふと下を見てしまい、あまりの高さに体がひゅっ竦んでしまった。

 と次の瞬間、突然俺はバランスを崩して落下し始める。

「ひえっ!? た、助け……」

 頭が真っ白になり、体が強張って上手く動いてくれない。そして……。

 バシャン!

 池へと落下した。

「ごほっ! んんんんっ!」

 ワンピースが水を吸って重くなり、上手く泳げな……って、あれ? 足、つくじゃん。

 ふう。危なかった。そこまで深くなくて助かった。

 なんとも幸運なことに落ちた場所の水深は俺の肩ぐらい、つまり怪我もせず溺れもしないなんともちょうどいい場所だったようだ。

 足がついたことでようやく落ち着いた俺はワンピースをアバター設定画面から脱ぎ、裸で岸へと上がる。そして再びアバター設定画面からワンピースを選択肢、新品のワンピースに着替え、そして何度かワンピースを着直すことで濡れた体を乾かした。

「はぁ」

 ついため息をついてしまった。楽しい気分で魔法を使っていたが、急にテンションが下がってしまったのだ。

 いや、楽しい気分というのがそもそも良くなかったのだろう。今回はたまたま下が泉だったから助かっただけで、地面だったら大変なことになっていた。魔法が危険だということが分かってここまで試しに来たのだから、もっとしっかりしなければいけなかったのだ。

 そう反省したところで俺はもう日がかなり高い位置にあることに気が付いた。

「もうこんな時間なのね」

 そうつぶやくと、俺はイストレアの町へと向かって歩きだすのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

処理中です...