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第64話 日本では……(12)

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「なあ、昨日の動画見た?」
「ああ、見た見た。見えそうだったのに全然見えなかったよな」
「マジなんでモザイクないのに見えないんだ」
「ホントホント」

 リリスの入浴動画が公開された翌日の放課後、剛たちは屋上に集まってリリスの動画に関する話題に花を咲かせていた。

 近ごろ彼らがリリスの動画の話をするのは放課後の屋上となっているのだが、これは藤田に注意されたということの他にもう一つ理由がある。

 それは新学年となり、いつものメンバーのクラスが別れてしまったこともあるのだ。

「にしてもリリちゃんのスタイル、ヤバかったよなぁ」
「それな!」
「温泉のグラもやべーって」
「な! もうリリちゃん、完全に実写レベルだろ」
「やっぱアレ、AIが頑張ってるんだよな?」
「だろうなぁ」
「しっとりした肌と濡れた髪の質感もヤバかったし」
「あのバスタオルが濡れてるのもヤバいって」
「しかもリリちゃんの胸、浮いてたよな?」
「それな! あんな風になるんだな!」
「惜しかったよなぁ。あのままバスタオルはだけて見えると思ったのに」
「バスタオル無駄に頑張りやがって」
「でも、あれだけでヌけるよな」
「な! まじゴミ箱孕む」
「うわっ! 西川、お前の部屋めっちゃイカ臭そう」
「な、なんだよ! お前らだってそうじゃないのかよ?」

 反論する西川に剛たちは冷ややかな視線を向ける。

「え? マジ!? 俺だけ!?」

 焦る西川を剛たちはニヤニヤと意味深な笑みを浮かべながら見守っている。

「ちょ、ちょっと待て! どうしてるんだか教えろ!」
「西川、彼女できても部屋呼べないな」

 すると西川はショックを受けたような表情になり、必死にその対策法を聞き出そうと剛たちに食い下がるのだった。

◆◇◆

 いつものように朱里の口座からお金を引き出そうとした洋子だったが、通帳に記載された見慣れない「振替」という文字に眉をひそめていた。

「何? これ?」

 するとそこへ若い女性職員が近づいてきた。

「お客様、どうなさいましたか? 何かございましたか?」
「え?」

 突然声を掛けられた洋子はビクッと体を硬直させたが、声の主が郵便局の制服を着ていたことで表情を和らげた。

「この、振替っていうのが見たことなくて……」

 そう言って見せられた通帳の表記を確認した女性職員はにこやかな笑みを浮かべる。

「こちらはお振込みいただいた金額が普通預金でお預かりできる限度額を超えたということ――」
「えっ!? じゃあ超えた分はどうなるの? お金は?」

 洋子は慌てた様子で食って掛かるが、女性職員はにこやかな笑みを崩さない。

「お客様、ご安心ください。また、ここで大きな声を出されると他のお客様のご迷惑となりますので、よろしければあちらの窓口で詳しくご説明させていただけませんでしょうか?」
「え? あ、ああ、そうね。じゃあ、お願いできるかしら」
「かしこまりました。それではどうぞこちらへ」

 洋子は言われるがままに窓口へと移動した。

「私は窓口担当の平井、と申します。お客様、恐れ入りますが通帳を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
「え、ええ。どうぞ」

 洋子の差し出した通帳を平井はパラパラとめくって確認し、パソコンにカタカタと何かを打ち込み始めた。

「ありがとうございます。茂手内朱里様ご本人様でいらっしゃいますか?」
「いいえ、私は保護者よ」
「ではお母さまでらっしゃいますか?」
「違うわよ。あの子の両親と兄が他界したからうちで引き取ったの」
「左様でございますか。それではご本人様の確認ができる書類はお持ちでしょうか?」
「本人確認? ええと、そうね。保険証でいいかしら?」

 洋子は自分の保険証を差し出した。

「はい。ありがとうございます。お子様も同じ住所にお住まいでしょうか?」
「そうよ! もう! なんなの!?」
「お手数をおかけして大変申し訳ございません。こういった確認をしっかりするようにと警察より指導を受けておりますので。大変申し訳ございません」
「そ、そう……」
「それでは身分証明書のコピーを取らせていただきますので、少々お待ちください」

 そう言って平井は保険証を持って奥へと消えていった。洋子はそれを少々引きつった表情で見送る。

「ご提示いただきありがとうございます」

 平井はすぐに戻ってきて、保険証を洋子に返却する。

「それでは金杉様、ご説明させていただきます。こちらの振替という記載でございますが、こちらは法令にて定められております普通貯金の残高千三百万円を超えたことを示しております。今回のゴッドチューブ様からのお振込みでこちらに記載のとおり上限を超えましたので、上限を超えた金額は通常貯金ではなく振替口座へとオートスイング、つまり自動的に移動されております」
「ふうん? その振替口座っていうのはなんなの?」
「振替口座は、事業などで決済を行うかたが主に利用される口座となります。そのため利子がつきませんが、預金保険法に定める決済性預金となるため、万が一の際にも全額が保護される仕組みとなっております」
「ふうん? まあいいわ。じゃあお金がなくなるわけじゃないのね?」
「はい。仰るとおりです」
「ならいいわ。ありがと」

 席を立とうとする洋子を平井は呼び止めた。

「お客様」
「何?」
「こちらの口座はお預かりしているお嬢様の口座で間違いございませんね?」

 すると洋子は眉を釣り上げ、不機嫌そうな声で平井を睨みつけた。

「そうよ? それが何か?」
「かなりの頻度でお引き出しいただいているようなのですが、こちらお嬢様はご存じですか?」
「な、何よ? 保護者なんだから問題ないでしょ? 学校もあって受験も控えてて、あの子は本当にお金がかかるのよ!」
「……左様でございましたか。大変失礼いたしました」
「そう。分かればいいのよ。じゃあ、もう行くわね」

 洋子は乱暴に席を立つと、そのまま郵便局から出ていった。それを笑顔で見送った平井はすぐさま窓口を閉め、奥へと向かうと中年の男性に声を掛けた。

「課長、急ぎの相談なんですけど」
「ん? 聞こうか」

 平井はそのまま中年の男性と一緒に奥の会議室へと消えていったのだった。
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