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第25話 裏切り
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2022/08/30 誤字を修正しました
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俺たちが宿に戻ると、食堂ではミレーヌさんとトマが言い争っていた。
「何を考えている! 冒険者が任務を放棄して逃げるだと!?」
「あんな数を相手にするのは無理だって言ってるんだ!」
「あれほどまでに増えたゴブリンを放置すればこの村も大変なことになる。撤退などあり得ん!」
「命あっての物種だろうが! お前、鮮血の戦乙女なんて呼ばれて調子乗ってんじゃねぇぞ! お前の鮮血は仲間の血か?」
「なんだと! 私がいつ仲間を殺したと言うんだ!」
ミレーヌさんはトマの侮辱に顔を紅潮させた。
「今、これからだよ! 俺はごめんだからな!」
……あいつ、昨日たしか村を守ってやるから夜の相手をしろとか偉そうなこと言ってなかったか?
「俺は明日、帰らせてもらうぜ。おい、ヤニック、ジュゼッペ。撤収準備だ」
「へい」
「そうですね」
「この臆病者が!」
「はっ! なんとでも言えや」
「……ならばイストール公には報告せざるを得んな」
「なんだと!?」
「依頼放棄に対するペナルティが契約に盛り込まれている。戦力が欠けたわけでもなく敵前逃亡すれば死罪は免れん」
「なんだとっ!? んなこと聞いてねぇぞ!」
トマはミレーヌさんに抗議をするが、ミレーヌさんは涼しい顔をしている。
「説明を聞いていなかっただけだろう。ヤニック、ジュゼッペ、お前たちも逃げるというのなら同罪だぞ?」
「……や、やだなぁ。逃げるわけないじゃないっすか」
「そ、そうですよ」
二人はそう言ってへらへらと笑ったが、俺はその取ってつけたような笑顔に妙な胸騒ぎを覚える。
何も起こらなければいいのだが……。
◆◇◆
翌朝もミレーヌたちはゴブリンを狩るために森へと入っていた。ミレーヌたちは三つの班に別れて行動しており、ミレーヌはトマとヤニックと共に高さ五メートルほどの崖の上に立っていた。
崖下には数百匹ものゴブリンの群れが不気味な声を上げながら蠢いている。
「あのぐらいの数ならなんとかなるな。問題は巣穴がどこにあるかだが……」
ミレーヌがさらりとそう言うと、トマは嫌そうな表情を浮かべた。
「ヤニック、どこかに袋小路にはないか? 誘い込んでまとめて叩こう」
「……そうっすね。ならあっちにいい場所がありますぜ」
ミレーヌたちはヤニックの案内に従い、崖沿いを進んでいく。
「ここなんかどうっすか?」
案内された場所は枯れ沢のようで、崖が十メートルほど抉られている。
「なるほど。ここなら良さそうだな。降りられる場所はあるか?」
「へい」
ヤニックは何か所かの崖下に降りられそうなポイントへと案内した。
「なるほど。これならあそこに集まっているゴブリンどもはどうにかなるな」
ミレーヌはそう言いながら地形を確認している。
するとミレーヌの背後でトマとヤニックが何やらこそこそと話をしている。
「兄貴、本当にやるんすか? もしバレたら……」
「バレねぇよ。俺は勝てる勝負しかしねぇんだ」
「ですが……」
「あんな数のゴブリンにたったこれだけのメンバーで戦うなんて自殺行為だろうが。絶対あれが全部じゃねぇぜ? それに逃げても死罪になるんだ。なら決まってるだろ?」
「……わかりやしたよ」
ヤニックはそう答えると、ミレーヌに近づいていった。
「ミレーヌの姐さん」
「姐さんはやめろと言っただろう。で、なんだ?」
「へい。ちょいとあっちに気になるモンがありまして」
「ん? なんだ?」
「いいから来てくだせぇ」
ミレーヌは眉をひそめながらもヤニックの後を追う。すると、先ほどミレーヌたちがゴブリンを上から観察していた場所にやってきた。
「ここっす」
「……ゴブリンに何かあったのか?」
「それがっすね」
「こういうことだよっ!」
「なっ!?」
ミレーヌはトマにつき飛ばされ、ゴブリンがひしめく崖下に転落してしまう。
「これでよし。ミレーヌは崖で足を滑らせ、転落した。そんでリーダーを失った俺たちは任務が続行できなくなった。だから俺たちはアスタルテ教との関係を最優先に考え、紫水晶の聖女を公都に連れて帰る。そのためには……」
トマは意味深にニヤリと笑った。
「はぁ、そうっすね」
こうしてトマたちはミレーヌを置いて、足早にその場を後にするのだった。
◆◇◆
そんなことが行われてたころ、日本のとある郵便局に洋子の姿があった。彼女は朱里と剛の口座から十万円ずつを引き出し、自分たちの住宅ローンの口座の返済口座にそのお金を入金したのだ。
「ああ、うまくいった。案外チョロいのね」
銀行から出てきた洋子はそう言って醜悪な笑みを浮かべると、意気揚々と自宅へ戻るのだった。
================
エンデガルドだけでなく日本でもえげつない裏切り行為がいともたやすく行われました。果たしてミレーヌの運命は、そして朱里と剛に遺された遺産の行方やいかに。
次回もお楽しみに!
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俺たちが宿に戻ると、食堂ではミレーヌさんとトマが言い争っていた。
「何を考えている! 冒険者が任務を放棄して逃げるだと!?」
「あんな数を相手にするのは無理だって言ってるんだ!」
「あれほどまでに増えたゴブリンを放置すればこの村も大変なことになる。撤退などあり得ん!」
「命あっての物種だろうが! お前、鮮血の戦乙女なんて呼ばれて調子乗ってんじゃねぇぞ! お前の鮮血は仲間の血か?」
「なんだと! 私がいつ仲間を殺したと言うんだ!」
ミレーヌさんはトマの侮辱に顔を紅潮させた。
「今、これからだよ! 俺はごめんだからな!」
……あいつ、昨日たしか村を守ってやるから夜の相手をしろとか偉そうなこと言ってなかったか?
「俺は明日、帰らせてもらうぜ。おい、ヤニック、ジュゼッペ。撤収準備だ」
「へい」
「そうですね」
「この臆病者が!」
「はっ! なんとでも言えや」
「……ならばイストール公には報告せざるを得んな」
「なんだと!?」
「依頼放棄に対するペナルティが契約に盛り込まれている。戦力が欠けたわけでもなく敵前逃亡すれば死罪は免れん」
「なんだとっ!? んなこと聞いてねぇぞ!」
トマはミレーヌさんに抗議をするが、ミレーヌさんは涼しい顔をしている。
「説明を聞いていなかっただけだろう。ヤニック、ジュゼッペ、お前たちも逃げるというのなら同罪だぞ?」
「……や、やだなぁ。逃げるわけないじゃないっすか」
「そ、そうですよ」
二人はそう言ってへらへらと笑ったが、俺はその取ってつけたような笑顔に妙な胸騒ぎを覚える。
何も起こらなければいいのだが……。
◆◇◆
翌朝もミレーヌたちはゴブリンを狩るために森へと入っていた。ミレーヌたちは三つの班に別れて行動しており、ミレーヌはトマとヤニックと共に高さ五メートルほどの崖の上に立っていた。
崖下には数百匹ものゴブリンの群れが不気味な声を上げながら蠢いている。
「あのぐらいの数ならなんとかなるな。問題は巣穴がどこにあるかだが……」
ミレーヌがさらりとそう言うと、トマは嫌そうな表情を浮かべた。
「ヤニック、どこかに袋小路にはないか? 誘い込んでまとめて叩こう」
「……そうっすね。ならあっちにいい場所がありますぜ」
ミレーヌたちはヤニックの案内に従い、崖沿いを進んでいく。
「ここなんかどうっすか?」
案内された場所は枯れ沢のようで、崖が十メートルほど抉られている。
「なるほど。ここなら良さそうだな。降りられる場所はあるか?」
「へい」
ヤニックは何か所かの崖下に降りられそうなポイントへと案内した。
「なるほど。これならあそこに集まっているゴブリンどもはどうにかなるな」
ミレーヌはそう言いながら地形を確認している。
するとミレーヌの背後でトマとヤニックが何やらこそこそと話をしている。
「兄貴、本当にやるんすか? もしバレたら……」
「バレねぇよ。俺は勝てる勝負しかしねぇんだ」
「ですが……」
「あんな数のゴブリンにたったこれだけのメンバーで戦うなんて自殺行為だろうが。絶対あれが全部じゃねぇぜ? それに逃げても死罪になるんだ。なら決まってるだろ?」
「……わかりやしたよ」
ヤニックはそう答えると、ミレーヌに近づいていった。
「ミレーヌの姐さん」
「姐さんはやめろと言っただろう。で、なんだ?」
「へい。ちょいとあっちに気になるモンがありまして」
「ん? なんだ?」
「いいから来てくだせぇ」
ミレーヌは眉をひそめながらもヤニックの後を追う。すると、先ほどミレーヌたちがゴブリンを上から観察していた場所にやってきた。
「ここっす」
「……ゴブリンに何かあったのか?」
「それがっすね」
「こういうことだよっ!」
「なっ!?」
ミレーヌはトマにつき飛ばされ、ゴブリンがひしめく崖下に転落してしまう。
「これでよし。ミレーヌは崖で足を滑らせ、転落した。そんでリーダーを失った俺たちは任務が続行できなくなった。だから俺たちはアスタルテ教との関係を最優先に考え、紫水晶の聖女を公都に連れて帰る。そのためには……」
トマは意味深にニヤリと笑った。
「はぁ、そうっすね」
こうしてトマたちはミレーヌを置いて、足早にその場を後にするのだった。
◆◇◆
そんなことが行われてたころ、日本のとある郵便局に洋子の姿があった。彼女は朱里と剛の口座から十万円ずつを引き出し、自分たちの住宅ローンの口座の返済口座にそのお金を入金したのだ。
「ああ、うまくいった。案外チョロいのね」
銀行から出てきた洋子はそう言って醜悪な笑みを浮かべると、意気揚々と自宅へ戻るのだった。
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エンデガルドだけでなく日本でもえげつない裏切り行為がいともたやすく行われました。果たしてミレーヌの運命は、そして朱里と剛に遺された遺産の行方やいかに。
次回もお楽しみに!
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