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第205話 報告
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「ティティ? ちょっと待って!」
「何?」
「いや、何って……」
「何もないならお母さまのところに行きましょう?」
「え? あ、うん……」
その一言ですっかり気勢をそがれた俺はティティと並んで廊下を歩きだす。
「それと、さっきの連中のことなら気にしなくていいわ。どうせそのうちほとんど処分するから」
「え?」
「連中はマッツィアーノ公爵の権威を笠に着て、色々と悪事を働いていたわ。あそこまで罪を重ねられたら、いくらなんでもそのままお咎めなしになんてできないわ」
「それは……」
「私の仕事は監視だったのよ?」
「そっか。そうだったね……」
「そもそも」
ティティはそう言うと、やや小走りになって俺の前へ出て振り向いた。
「レイはこれからマッツィアーノの一員になるのよ。あんな連中の顔色なんて窺う必要はないわ。あいつらはね。どうやってマッツィアーノのおこぼれに預かるかしか考えていないんだから」
ティティはビシッとそう断言した。真面目な話をされているのに、その仕草があまりにも可愛くてついボーっとティティの顔を見つめてしまう。
「レイ、ちゃんと聞いてる?」
「うん」
「本当かしら……」
じっと俺の目を見てくるティティに、俺は小さく頷いた。
「大丈夫。分かったよ。あいつらのことはあまり気にしないようにする」
「そう。ならいいわ」
そう返事をすると、ティティはふっと小さく微笑んだ。
その笑顔がやはり可愛くて、先ほどの強気で冷徹な態度とのギャップがたまらない。
……ああ、もうティティに勝てる気がしないな。でも、それはそれでいいのかもしれない。
「じゃあ、行くわよ」
「うん」
するとティティは手を差し出してきた。俺はその手を握り、並んでマリア先生の部屋へと向かうのだった。
◆◇◆
俺たちが部屋を訪ねると、マリア先生はベッドの上で上体を起こしていた。
「あ、ティティ……レイ君も」
「お母さま」
「マリア先生、調子は……」
「ええ、大丈夫よ……」
マリア先生はそう答えたものの、決まりが悪そうにぎこちない笑みを浮かべながら視線を逸らした。
「お母さま、覚えていらっしゃるのですね?」
マリア先生はビクンとなって表情を硬くし、それから小さく頷いた。
「ごめんなさい。私は……」
「お母さま、あれはお母さまのせいではありません。悪魔のせいです。それにレイの魔法で元に戻れたということは、必死で抵抗してくださっていたのでしょう?」
「それは……」
マリア先生は俯いたまま、再び小さく頷いた。
「ティティ、どういうこと?」
「私も悪魔の姿になったでしょう?」
「うん」
「そのときに分かったのだけれど、瘴気を取り込むと破壊衝動とでも言うのかしら? そういうのが襲ってくるの。もしそれに呑み込まれたら、きっとレヴィヤの言っていたとおり理性を取り戻すことはできなかったと思うわ」
「そんな……ティティ……」
「そんな顔しないで。私はね。レイが絶対に連れ戻してくれるって信じていたから」
「……」
「話を戻すわね。つまり、戻って来られたってことは、お母さまも耐えて、ずっと抵抗し続けてくれていたってことなのよ」
「そっか……」
「でも、私は……ティティを!」
「お母さま」
ティティはマリア先生に近づき、そっと抱きしめる。
「戻ってきてくださり、ありがとうございます。お母さまがこうしていてくれるだけで私は嬉しいんです」
「う……ティティ……ごめんなさい。ごめんなさい……ううっ……」
マリア先生の嗚咽が聞こえてくる。俺は二人の様子をそっと見守るのだった。
◆◇◆
しばらくして、ようやく落ち着いたマリア先生にティティが話を切り出す。
「お母さま、私はレイと結婚することにしました」
「えっ? そう、レイ君と……」
マリア先生は少し驚いたようにこちらをちらりと見てきたが、すぐに真顔になってティティの目をじっと見つめる。
「二人が決めたなら私は反対しないわ。ただ、マッツィアーノ公爵家はどうするの?」
「もちろん、このまま私が当主となります。そのための教育は受けましたし、それだけの力もありますので」
「レイ君はいいの? マッツィアーノ公爵家の、しかも当主の夫なんて、とても大変な立場よ? 自由だってなくなるし、色々なやっかみだってきっと受けるわ」
「構いません。俺はずっとティティを、それにマリア先生を助けたいって思って生きてきたんです。それはこれからも変わりません! ずっとティティと一緒に生きていきたいですし、ずっと支えていきます」
「……でも身分は大丈夫なの? いくらマッツィアーノ公爵の夫とはいえ、平民だと……」
「問題ありません。レイは男爵位をいただき、ボアゾ村の領主になる予定ですので身分の問題はありません。このことは王太子殿下も快諾してくれました」
「そう。しっかりしているのね」
「はい。それに万が一レイの身分に文句を言ってくるような輩がいたとしても、処分すればいいだけですから」
ティティは表情を変えずにそう言い切った。マリア先生はその不穏当な言葉に少し眉をひそめたが、すぐに優しい表情になる。
「分かったわ。レイ君が一緒なら安心ね。レイ君、ありがとう。私の可愛いティティをよろしくね」
「はい!」
「ティティ、レイ君と仲良くね」
「もちろんです」
こうして俺たちはマリア先生に結婚することを報告し、承諾をもらったのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/06/08 (土) 18:00 を予定しております。
「何?」
「いや、何って……」
「何もないならお母さまのところに行きましょう?」
「え? あ、うん……」
その一言ですっかり気勢をそがれた俺はティティと並んで廊下を歩きだす。
「それと、さっきの連中のことなら気にしなくていいわ。どうせそのうちほとんど処分するから」
「え?」
「連中はマッツィアーノ公爵の権威を笠に着て、色々と悪事を働いていたわ。あそこまで罪を重ねられたら、いくらなんでもそのままお咎めなしになんてできないわ」
「それは……」
「私の仕事は監視だったのよ?」
「そっか。そうだったね……」
「そもそも」
ティティはそう言うと、やや小走りになって俺の前へ出て振り向いた。
「レイはこれからマッツィアーノの一員になるのよ。あんな連中の顔色なんて窺う必要はないわ。あいつらはね。どうやってマッツィアーノのおこぼれに預かるかしか考えていないんだから」
ティティはビシッとそう断言した。真面目な話をされているのに、その仕草があまりにも可愛くてついボーっとティティの顔を見つめてしまう。
「レイ、ちゃんと聞いてる?」
「うん」
「本当かしら……」
じっと俺の目を見てくるティティに、俺は小さく頷いた。
「大丈夫。分かったよ。あいつらのことはあまり気にしないようにする」
「そう。ならいいわ」
そう返事をすると、ティティはふっと小さく微笑んだ。
その笑顔がやはり可愛くて、先ほどの強気で冷徹な態度とのギャップがたまらない。
……ああ、もうティティに勝てる気がしないな。でも、それはそれでいいのかもしれない。
「じゃあ、行くわよ」
「うん」
するとティティは手を差し出してきた。俺はその手を握り、並んでマリア先生の部屋へと向かうのだった。
◆◇◆
俺たちが部屋を訪ねると、マリア先生はベッドの上で上体を起こしていた。
「あ、ティティ……レイ君も」
「お母さま」
「マリア先生、調子は……」
「ええ、大丈夫よ……」
マリア先生はそう答えたものの、決まりが悪そうにぎこちない笑みを浮かべながら視線を逸らした。
「お母さま、覚えていらっしゃるのですね?」
マリア先生はビクンとなって表情を硬くし、それから小さく頷いた。
「ごめんなさい。私は……」
「お母さま、あれはお母さまのせいではありません。悪魔のせいです。それにレイの魔法で元に戻れたということは、必死で抵抗してくださっていたのでしょう?」
「それは……」
マリア先生は俯いたまま、再び小さく頷いた。
「ティティ、どういうこと?」
「私も悪魔の姿になったでしょう?」
「うん」
「そのときに分かったのだけれど、瘴気を取り込むと破壊衝動とでも言うのかしら? そういうのが襲ってくるの。もしそれに呑み込まれたら、きっとレヴィヤの言っていたとおり理性を取り戻すことはできなかったと思うわ」
「そんな……ティティ……」
「そんな顔しないで。私はね。レイが絶対に連れ戻してくれるって信じていたから」
「……」
「話を戻すわね。つまり、戻って来られたってことは、お母さまも耐えて、ずっと抵抗し続けてくれていたってことなのよ」
「そっか……」
「でも、私は……ティティを!」
「お母さま」
ティティはマリア先生に近づき、そっと抱きしめる。
「戻ってきてくださり、ありがとうございます。お母さまがこうしていてくれるだけで私は嬉しいんです」
「う……ティティ……ごめんなさい。ごめんなさい……ううっ……」
マリア先生の嗚咽が聞こえてくる。俺は二人の様子をそっと見守るのだった。
◆◇◆
しばらくして、ようやく落ち着いたマリア先生にティティが話を切り出す。
「お母さま、私はレイと結婚することにしました」
「えっ? そう、レイ君と……」
マリア先生は少し驚いたようにこちらをちらりと見てきたが、すぐに真顔になってティティの目をじっと見つめる。
「二人が決めたなら私は反対しないわ。ただ、マッツィアーノ公爵家はどうするの?」
「もちろん、このまま私が当主となります。そのための教育は受けましたし、それだけの力もありますので」
「レイ君はいいの? マッツィアーノ公爵家の、しかも当主の夫なんて、とても大変な立場よ? 自由だってなくなるし、色々なやっかみだってきっと受けるわ」
「構いません。俺はずっとティティを、それにマリア先生を助けたいって思って生きてきたんです。それはこれからも変わりません! ずっとティティと一緒に生きていきたいですし、ずっと支えていきます」
「……でも身分は大丈夫なの? いくらマッツィアーノ公爵の夫とはいえ、平民だと……」
「問題ありません。レイは男爵位をいただき、ボアゾ村の領主になる予定ですので身分の問題はありません。このことは王太子殿下も快諾してくれました」
「そう。しっかりしているのね」
「はい。それに万が一レイの身分に文句を言ってくるような輩がいたとしても、処分すればいいだけですから」
ティティは表情を変えずにそう言い切った。マリア先生はその不穏当な言葉に少し眉をひそめたが、すぐに優しい表情になる。
「分かったわ。レイ君が一緒なら安心ね。レイ君、ありがとう。私の可愛いティティをよろしくね」
「はい!」
「ティティ、レイ君と仲良くね」
「もちろんです」
こうして俺たちはマリア先生に結婚することを報告し、承諾をもらったのだった。
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