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第202話 瘴気の海
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「なんだ!? これは!」
レヴィヤの死体の残骸は、噴き出す瘴気で完全に吹き飛んでいった。だがそこには悪魔のコアが残されており、瘴気はその斜め上の一ヵ所から勢いよく噴き出している。
なんでそんな中途半端な場所から……ん?
よく見ると、瘴気が噴き出している場所にまるで刃物で切ったかのような傷がついている。
「そうか。俺がレヴィヤを斬ったときに……!」
「レクス卿! 手伝って! このままじゃ!」
「っ! はい!」
俺もキアーラさんに加勢し、サンクチュアリを展開する。だがほとんど焼け石に水で、どんどんと濃くなる瘴気は二人分のサンクチュアリすらも容易にすり抜けてくる。
「う……」
「キアーラ嬢……逃げ……」
「テオ!」
「殿下!」
サンクチュアリを発動していないテオと王太子殿下ががっくりと膝をついた。俺も瘴気の影響を受け、体から徐々に力が抜けていく。
ダメだ! このままじゃ! 早くあの瘴気をなんとかしないと!
……どうやって?
すでに高濃度の瘴気に包まれ、もうほんの数メートル先すらも見通せないまでになっている。
こうなっては悪魔のコアがどこにあるのかすら分からない。
万事休す。
そんな単語が脳裏をよぎったちょうどそのときだった。
突然風が吹き、俺たちの周囲にあった瘴気が晴れた。続いて二頭のワイバーンが舞い降りてきて、俺たちを掴んで上空へと飛び上がる。
「レイ、大丈夫?」
横からティティの声が聞こえてきた。振り向くと、なんとティティが自身の背中に生えた悪魔の翼で飛んでいるではないか!
「女の悪魔!?」
キアーラさんがすぐさま手に魔力を集中させ、ホーリーを放つ準備を始めたので俺は慌ててそれを制止する。
「キアーラさん! やめて! 彼女はティティだ! マッツィアーノ公爵だから!」
「え? どういうこと?」
「聖女キアーラ、その話は後でいいかしら? こんなところでする話ではないでしょう? それとも落ちたいのかしら?」
ティティは有無を言わさぬ口調でそう言うと、人差し指で下を指し示した。そこには瘴気の海が広がっており、もはや地面を視認することすらできない。
「あ、はい」
キアーラさんは状況を理解したのか、そのまま大人しくなった。
それから俺たちはレヴィヤと戦った部屋のバルコニーに降ろされた。
「レイ、私を元の姿に戻してちょうだい。自分じゃ戻れないみたいなの」
「え? ああ、うん。わかった。でもその前に」
俺は着ていたコートを脱ぎ、ティティに羽織らせた。そしてティティの体をそっと抱きしめ、サンクチュアリを発動する。
するとティティの角と翼は消え、瞳も肌もすべて元どおりになった。それと同時に翼が生えたことで破れた服がティティの肩からずり落ちそうになる。
「そのままコートの前を閉じて」
「……そうね。ありがとう。気が利くのね」
「当然だよ。それに、ティティの綺麗な体を他人に見せたくないし」
「もう……」
そのまましばし抱き合っていると、キアーラさんに後ろから声を掛けられる。
「二人ともこんなところでイチャイチャしないでください。それより状況を説明してもらいますよ。どうしてマッツィアーノ公爵まで悪魔になって……え? 人間?」
俺たちが抱き合うのを止め、ティティが姿を見せるとキアーラさんは絶句した。
「悪魔ってなんのことかしら? 聖女キアーラ」
「え? でもさっきまで……」
「見間違いじゃないかしら?」
「いや、見間違いではない。俺もその姿を見ていたぞ。マッツィアーノ公爵、どういうことか説明してもらおう」
いつの間にか復活していた王太子殿下がキアーラさんに援護射撃をしてきた。するとティティはすっと目を細める。
「王太子殿下、本当にそれを聞いてもよろしいのですか?」
「どういう意味だ?」
「王家の正統性に関わる問題ですよ?」
「何? どういうことだ?」
「本当に後悔しませんね?」
「だからどういうことかと聞いている」
「話せば後戻りできなくなりますから、こうして念を押しているんです。私は火の粉が降りかかるなら全力で振り払いますが、本当によろしいのですね?」
「ああ、話してくれ。何を言ったとしても、公爵を罰することはない」
「ええ、そうでしょうね。ですが正確には、できない、でしょう?」
すると王太子殿下は苦々しい表情を浮かべた。
「やはり公爵もマッツィアーノなのだな」
その言葉にティティはニコリと微笑んだ。
「分かった。教えてくれ。どういうことだ?」
「分かりました。マッツィアーノは――」
ティティはマッツィアーノが悪魔の子孫であるという話だけでなく、自分が建国王と初代マッツィアーノ公爵アンジェリカの子孫であることまで含め、すべてを説明した。
「なんだと! そんな馬鹿な話が!」
================
次回更新は通常どおり、2024/06/05 (水) 18:00 を予定しております。
レヴィヤの死体の残骸は、噴き出す瘴気で完全に吹き飛んでいった。だがそこには悪魔のコアが残されており、瘴気はその斜め上の一ヵ所から勢いよく噴き出している。
なんでそんな中途半端な場所から……ん?
よく見ると、瘴気が噴き出している場所にまるで刃物で切ったかのような傷がついている。
「そうか。俺がレヴィヤを斬ったときに……!」
「レクス卿! 手伝って! このままじゃ!」
「っ! はい!」
俺もキアーラさんに加勢し、サンクチュアリを展開する。だがほとんど焼け石に水で、どんどんと濃くなる瘴気は二人分のサンクチュアリすらも容易にすり抜けてくる。
「う……」
「キアーラ嬢……逃げ……」
「テオ!」
「殿下!」
サンクチュアリを発動していないテオと王太子殿下ががっくりと膝をついた。俺も瘴気の影響を受け、体から徐々に力が抜けていく。
ダメだ! このままじゃ! 早くあの瘴気をなんとかしないと!
……どうやって?
すでに高濃度の瘴気に包まれ、もうほんの数メートル先すらも見通せないまでになっている。
こうなっては悪魔のコアがどこにあるのかすら分からない。
万事休す。
そんな単語が脳裏をよぎったちょうどそのときだった。
突然風が吹き、俺たちの周囲にあった瘴気が晴れた。続いて二頭のワイバーンが舞い降りてきて、俺たちを掴んで上空へと飛び上がる。
「レイ、大丈夫?」
横からティティの声が聞こえてきた。振り向くと、なんとティティが自身の背中に生えた悪魔の翼で飛んでいるではないか!
「女の悪魔!?」
キアーラさんがすぐさま手に魔力を集中させ、ホーリーを放つ準備を始めたので俺は慌ててそれを制止する。
「キアーラさん! やめて! 彼女はティティだ! マッツィアーノ公爵だから!」
「え? どういうこと?」
「聖女キアーラ、その話は後でいいかしら? こんなところでする話ではないでしょう? それとも落ちたいのかしら?」
ティティは有無を言わさぬ口調でそう言うと、人差し指で下を指し示した。そこには瘴気の海が広がっており、もはや地面を視認することすらできない。
「あ、はい」
キアーラさんは状況を理解したのか、そのまま大人しくなった。
それから俺たちはレヴィヤと戦った部屋のバルコニーに降ろされた。
「レイ、私を元の姿に戻してちょうだい。自分じゃ戻れないみたいなの」
「え? ああ、うん。わかった。でもその前に」
俺は着ていたコートを脱ぎ、ティティに羽織らせた。そしてティティの体をそっと抱きしめ、サンクチュアリを発動する。
するとティティの角と翼は消え、瞳も肌もすべて元どおりになった。それと同時に翼が生えたことで破れた服がティティの肩からずり落ちそうになる。
「そのままコートの前を閉じて」
「……そうね。ありがとう。気が利くのね」
「当然だよ。それに、ティティの綺麗な体を他人に見せたくないし」
「もう……」
そのまましばし抱き合っていると、キアーラさんに後ろから声を掛けられる。
「二人ともこんなところでイチャイチャしないでください。それより状況を説明してもらいますよ。どうしてマッツィアーノ公爵まで悪魔になって……え? 人間?」
俺たちが抱き合うのを止め、ティティが姿を見せるとキアーラさんは絶句した。
「悪魔ってなんのことかしら? 聖女キアーラ」
「え? でもさっきまで……」
「見間違いじゃないかしら?」
「いや、見間違いではない。俺もその姿を見ていたぞ。マッツィアーノ公爵、どういうことか説明してもらおう」
いつの間にか復活していた王太子殿下がキアーラさんに援護射撃をしてきた。するとティティはすっと目を細める。
「王太子殿下、本当にそれを聞いてもよろしいのですか?」
「どういう意味だ?」
「王家の正統性に関わる問題ですよ?」
「何? どういうことだ?」
「本当に後悔しませんね?」
「だからどういうことかと聞いている」
「話せば後戻りできなくなりますから、こうして念を押しているんです。私は火の粉が降りかかるなら全力で振り払いますが、本当によろしいのですね?」
「ああ、話してくれ。何を言ったとしても、公爵を罰することはない」
「ええ、そうでしょうね。ですが正確には、できない、でしょう?」
すると王太子殿下は苦々しい表情を浮かべた。
「やはり公爵もマッツィアーノなのだな」
その言葉にティティはニコリと微笑んだ。
「分かった。教えてくれ。どういうことだ?」
「分かりました。マッツィアーノは――」
ティティはマッツィアーノが悪魔の子孫であるという話だけでなく、自分が建国王と初代マッツィアーノ公爵アンジェリカの子孫であることまで含め、すべてを説明した。
「なんだと! そんな馬鹿な話が!」
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