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第197話 悪魔の城
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2024/06/02 誤字を修正しました
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拳を握りしめ、体を震わせているティティの両肩に手を置いて語り掛ける。
「ティティ、落ち着いて。ティティ」
するとティティは顔を上げ、俺の目をじっと見てきた。その瞳の奥には明らかに怒りの炎が燃えている。
「レイ、私、行かなきゃ。力を貸して」
「もちろん。でも行くってどこへ?」
「コルティナよ」
「え? コルティナ? でも悪魔はティティのいるところに来るんじゃなかったっけ?」
「お母さまが連れていかれたの!」
「マリア先生が? どういうこと?」
「悪魔がミラツィアに来て、お母さまを攫って行ったのよ」
「ええっ!? あの悪魔が?」
あの悪魔にそこまでの知能があるようには見えなかったが……。
「そうなのよ! それで私にコルティナに来いって、そうじゃなきゃお母さまを殺すって!」
ここまで感情的になっているティティを見るのはあの日以来だ。
そうだよな。いくらマッツィアーノで英才教育を受けさせられたとはいえ、ティティだって一人の女の子なんだ。
俺がちゃんと、一緒に背負ってあげないと。
「ティティ、やっぱりティティは遠くのものを見る力があるんだね」
するとティティははっとしたような表情を浮かべたが、すぐに観念したように俯いた。
「……そうよ。私は従えているダーククロウが見聞きしたものをすべて同じように見聞きできるわ。それがたとえどれだけ離れた場所であっても」
「そっか。じゃあダーククロウが突然人を襲わなくなったのは……」
「ええ、私が従えたからよ。国中の人を監視して、弱みを握ってお父さまに報告するために」
「……」
「もちろんレイ、あなたのことだって……」
「そっか」
「……レイ? 私のことが気持ち悪くないの?」
「どうして?」
「だって、あなたのことも監視していたのよ?」
「いいよ。ティティになら。それに心配してくれてたんでしょ?」
「それは……そうだけど……」
「だからいいって。気にしないで。ティティに見られて困るようなことはしていないつもりだから」
「レイ……」
「そんなことより、コルティナに乗り込むんでしょ?」
「え? ええ、そうよ。早くしないと!」
「なら最低限、キアーラさんにだけはついて来てもらわないと。できれば王太子殿下とテオにも来て欲しいけれど……」
「俺がどうかしたのか?」
「えっ?」
振り向くと、そこには王太子殿下の姿があった。
「王太子殿下? 北門のほうに向かわれたんじゃ……」
「いや、トンマーソが予想以上に上手く戦っていてな。加勢の必要はなさそうだったから戻ってきたのだ。それで公爵とレクスにも休むように言おうと思ってきたのだが、何かあったのだろう?」
「はい。どうやら悪魔は人質を取ってコルティナに留まっているようです」
「何?」
「それで彼女に対し、コルティナに来なければ人質を殺すと脅迫してきました。王太子殿下、急いでコルティナに向かい、悪魔を討ちましょう。お願いします!」
俺はそう言って頭を下げた。
「なるほど。よほど価値のある人質を取ったのだな。だが、その状況を考えると確実に罠があるはずだ」
「はい」
「ならば、突入部隊は二手に分けるほうがいいだろうな。公爵はレクスと共に正面から向かい、悪魔の目を引き付けてくれ。俺とキアーラ嬢、そしてテオはあの脱出ルートから潜入し、人質を探して奪還する。それでどうだ?」
「わかりました」
こうして俺たちはワイバーンに乗り、大急ぎでレムロスを出発するのだった。
◆◇◆
俺たちは今、マッツィアーノ公爵邸を目指して廃墟と化したコルティナの町中を歩いている。もちろん王太子殿下たちとはかなり前から別行動だ。
町には瘴気が漂っており、そこかしこに動物や鳥の死骸が転がっている。常にサンクチュアリを発動させているおかげでなんともないが、もしそれがなければきっとすぐにでも俺たちはその仲間入りをすることになるだろう。
こうして死の町と化したコルティナだが、そこには人間や動物たちに代わって黒いオーラを纏ったモンスターたちが闊歩している。
だが……。
「やっぱり襲ってこないね」
モンスターのくせに、俺たちの姿を見ても襲ってくる気配がまるでない。
「わざわざ私を呼び出すくらいだもの。きっと盛大な歓迎を用意しているんじゃないかしら?」
「……そうだね」
きっと、ファウストの恨みは単にモンスターに殺させる程度では済まないレベルなのだろう。
だからこそマリア先生を誘拐したのだろうが……ティティにショックを与えるような復讐となると目の前でマリア先生を殺すくらいしか思いつかない。
そうこうしているうちに、俺たちは何事もなくマッツィアーノ公爵邸の正門前にやってきた。
「ティティ、開けるよ」
「ええ」
門を開けて敷地に入り、そのままメインの建物のエントランスまでやってきた。エントランスの鍵は開いており、その内部は先日脱出したときのままだ。
と、階段の上から黒いオーラを纏ったレッドスライムが姿を現した。このレッドスライムもまた襲ってくることはないのだが、町のモンスターたちのようにこちらを無視しているわけではなく、まるで俺たちを手招きするかのような仕草でふるふると震えている。
「ティティ、あれって……」
「ついて行ってみましょう。罠だとしても、行くしかないわ」
「そうだね。ティティ」
俺はティティに左手を差し出した。
「ええ」
ティティは俺の手をしっかりと握ってきたので、俺もその手を握り返した。
暖かな温もりがはっきりと伝わってくる。
ティティは、俺が必ず守る!
そう決意を新たに、俺たちは階段を登り始めるのだった。
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次回更新は通常どおり、2024/05/31 (金) 18:00 を予定しております。
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拳を握りしめ、体を震わせているティティの両肩に手を置いて語り掛ける。
「ティティ、落ち着いて。ティティ」
するとティティは顔を上げ、俺の目をじっと見てきた。その瞳の奥には明らかに怒りの炎が燃えている。
「レイ、私、行かなきゃ。力を貸して」
「もちろん。でも行くってどこへ?」
「コルティナよ」
「え? コルティナ? でも悪魔はティティのいるところに来るんじゃなかったっけ?」
「お母さまが連れていかれたの!」
「マリア先生が? どういうこと?」
「悪魔がミラツィアに来て、お母さまを攫って行ったのよ」
「ええっ!? あの悪魔が?」
あの悪魔にそこまでの知能があるようには見えなかったが……。
「そうなのよ! それで私にコルティナに来いって、そうじゃなきゃお母さまを殺すって!」
ここまで感情的になっているティティを見るのはあの日以来だ。
そうだよな。いくらマッツィアーノで英才教育を受けさせられたとはいえ、ティティだって一人の女の子なんだ。
俺がちゃんと、一緒に背負ってあげないと。
「ティティ、やっぱりティティは遠くのものを見る力があるんだね」
するとティティははっとしたような表情を浮かべたが、すぐに観念したように俯いた。
「……そうよ。私は従えているダーククロウが見聞きしたものをすべて同じように見聞きできるわ。それがたとえどれだけ離れた場所であっても」
「そっか。じゃあダーククロウが突然人を襲わなくなったのは……」
「ええ、私が従えたからよ。国中の人を監視して、弱みを握ってお父さまに報告するために」
「……」
「もちろんレイ、あなたのことだって……」
「そっか」
「……レイ? 私のことが気持ち悪くないの?」
「どうして?」
「だって、あなたのことも監視していたのよ?」
「いいよ。ティティになら。それに心配してくれてたんでしょ?」
「それは……そうだけど……」
「だからいいって。気にしないで。ティティに見られて困るようなことはしていないつもりだから」
「レイ……」
「そんなことより、コルティナに乗り込むんでしょ?」
「え? ええ、そうよ。早くしないと!」
「なら最低限、キアーラさんにだけはついて来てもらわないと。できれば王太子殿下とテオにも来て欲しいけれど……」
「俺がどうかしたのか?」
「えっ?」
振り向くと、そこには王太子殿下の姿があった。
「王太子殿下? 北門のほうに向かわれたんじゃ……」
「いや、トンマーソが予想以上に上手く戦っていてな。加勢の必要はなさそうだったから戻ってきたのだ。それで公爵とレクスにも休むように言おうと思ってきたのだが、何かあったのだろう?」
「はい。どうやら悪魔は人質を取ってコルティナに留まっているようです」
「何?」
「それで彼女に対し、コルティナに来なければ人質を殺すと脅迫してきました。王太子殿下、急いでコルティナに向かい、悪魔を討ちましょう。お願いします!」
俺はそう言って頭を下げた。
「なるほど。よほど価値のある人質を取ったのだな。だが、その状況を考えると確実に罠があるはずだ」
「はい」
「ならば、突入部隊は二手に分けるほうがいいだろうな。公爵はレクスと共に正面から向かい、悪魔の目を引き付けてくれ。俺とキアーラ嬢、そしてテオはあの脱出ルートから潜入し、人質を探して奪還する。それでどうだ?」
「わかりました」
こうして俺たちはワイバーンに乗り、大急ぎでレムロスを出発するのだった。
◆◇◆
俺たちは今、マッツィアーノ公爵邸を目指して廃墟と化したコルティナの町中を歩いている。もちろん王太子殿下たちとはかなり前から別行動だ。
町には瘴気が漂っており、そこかしこに動物や鳥の死骸が転がっている。常にサンクチュアリを発動させているおかげでなんともないが、もしそれがなければきっとすぐにでも俺たちはその仲間入りをすることになるだろう。
こうして死の町と化したコルティナだが、そこには人間や動物たちに代わって黒いオーラを纏ったモンスターたちが闊歩している。
だが……。
「やっぱり襲ってこないね」
モンスターのくせに、俺たちの姿を見ても襲ってくる気配がまるでない。
「わざわざ私を呼び出すくらいだもの。きっと盛大な歓迎を用意しているんじゃないかしら?」
「……そうだね」
きっと、ファウストの恨みは単にモンスターに殺させる程度では済まないレベルなのだろう。
だからこそマリア先生を誘拐したのだろうが……ティティにショックを与えるような復讐となると目の前でマリア先生を殺すくらいしか思いつかない。
そうこうしているうちに、俺たちは何事もなくマッツィアーノ公爵邸の正門前にやってきた。
「ティティ、開けるよ」
「ええ」
門を開けて敷地に入り、そのままメインの建物のエントランスまでやってきた。エントランスの鍵は開いており、その内部は先日脱出したときのままだ。
と、階段の上から黒いオーラを纏ったレッドスライムが姿を現した。このレッドスライムもまた襲ってくることはないのだが、町のモンスターたちのようにこちらを無視しているわけではなく、まるで俺たちを手招きするかのような仕草でふるふると震えている。
「ティティ、あれって……」
「ついて行ってみましょう。罠だとしても、行くしかないわ」
「そうだね。ティティ」
俺はティティに左手を差し出した。
「ええ」
ティティは俺の手をしっかりと握ってきたので、俺もその手を握り返した。
暖かな温もりがはっきりと伝わってくる。
ティティは、俺が必ず守る!
そう決意を新たに、俺たちは階段を登り始めるのだった。
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