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第191話 王都防衛戦
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「え? マッツィアーノ公爵?」
「あれ? 女? もしかして代替わりしたのか?」
「なんだ、知らなかったのか? この間、王太子殿下を見つけたって挨拶に来てたぞ」
「……あのマッツィアーノだぞ? 大丈夫なのか?」
「この襲撃だってマッツィアーノが裏で糸を引いてるんじゃ……」
これまでの悪評のせいか、出席者たちはひそひそとそんなことを話しながら冷たい視線を向けてくる。
「なんの証拠もないくせによくそんなことが言えるな。お前たちはマッツィアーノ公爵に対するその言葉に責任が持てるのか?」
王太子殿下の一言でピタリと静かになる。
「公爵は危機を打開するために協力を申し出てくれた。公爵に対する侮辱は俺に対する侮辱であると知れ」
王太子殿下に一喝されたが、それでも謝罪してくる者は一人もいない。嵐が過ぎ去るのを待っているようだ。
「王太子殿下、時間の無駄でしょう。それよりも早く出ないと手遅れになりますよ」
「公爵……そうだな。総員配置につけ」
こうして俺たちはレムロスを守るため、それぞれの持ち場へと向かうのだった。
◆◇◆
俺とティティは守護騎士団長と共に西門上の楼閣に設置された前線指揮所に陣取った。門の下ではすでに戦いが始まっており、騎士たちが懸命に門を破られまいと奮闘している。だがモンスターたちはすべて黒いオーラを纏っており、かなりの苦戦を強いられている様子だ。
「強化されてるね」
「そのようね」
ティティはそう言って初代マッツィアーノ公爵の杖をモンスターたちの群れのほうへと向ける。
「……ダメね。制御も奪えないわ。力が完全に弾かれる。あの黒いオーラに包まれているモンスターは従えられないわ」
「そっか。攻撃手段はある?」
「そうね……ちょっと試してみるわ」
ティティはそう言って再びモンスターに杖を向ける。するとその先端に黒い光が集まり、次の瞬間あの黒い弾丸が放たれた。
黒い弾丸はモンスターの集団の先頭付近にいたワイルドボアに命中する。ワイルドボアの体からは血が噴き出したものの、致命傷を与えることはできていないようだ。
だがその隙をついて一人の騎士が剣を突き立てた。
「ナイス援護」
「……そうね。こうすればファウストお兄さまのように支配できると思ったのだけれど」
ティティは少し悔しそうにしている。
「今の魔法の魔力の消費はどのくらい?」
「大したことはないわ。レイのおかげで私の魔力はかなり多いし、それにこの杖もあるから」
「なら、もうちょっと試してみない?」
「どういうこと?」
「ティティのその魔法、多分なんだけど、相手の力を抑え込むはずなんだ」
「そうなの?」
「俺が魔界の影って呼んでるモンスターが使ってきたときはそうだった。ファウストがティティにやったのはちょっと違ったけど……」
「……そう。分かったわ。試してみる」
そう言ってティティは黒い弾丸を次々とモンスターの群れに撃ち込んでいく。
それからしばらくモンスターのほうを観察してみたのだが、やはり黒い弾丸を受けたモンスターは明らかに弱体化している。
そのおかげもあってか、押されていた騎士たちが徐々にモンスターたちを押し返し始める。
「……もう大丈夫そうね」
「そうだね」
ティティが援護を止めると、守護騎士団長が頭を下げてきた。
「公爵閣下、ありがとうございます」
ティティはちらりと守護騎士団長のほうを見る。それからしばし沈黙したのち、小さく頷いたのだった。
◆◇◆
一方、北と東を担当することとなった金獅子騎士団は北門と東門にそれぞれ元銀狼騎士団の隊長クラスだったトンマーソとエリベルトを派遣し、マルコは城に残ることを選んだ。
その采配は功を奏し、トンマーソとエリベルトを中心とする元銀狼騎士団の騎士たちは黒いオーラを纏ったモンスターたちと互角の戦いを繰り広げていた。
銀狼の顎に合流した者たちと違ってすっかり実戦からは離れていたものの、元銀狼騎士団のメンバーだけあってモンスターとの戦いには慣れているのだろう。そのうえ彼らは明らかに訓練の足りていない騎士たちのフォローまで行っている。
そうして数時間、金獅子騎士団はなんとかモンスターを撃退し続けていた。
すると、金獅子騎士団がモンスターを撃退しているという報告を受けたマルコが前線に視察にやってきた。
東門の上にある楼閣にやってきたマルコの姿を見たエリベルトは慌てて駆け寄り、跪く。
「マルコ殿下! どうなさいましたか? 城に留まっておられるのでは……」
「俺が自らお前たちを激励に来てやったのだ」
「ははっ! ありがたき幸せにございます」
するとマルコは満足げな表情を浮かべると、眼下に広がる戦場を見回す。
「なんだ。モンスターどもも大したことないではないか」
「はっ! 日ごろからマルコ殿下にご指導いただいているおかげでございます」
見え透いたお世辞に気を良くしたマルコはさらに戦場の観察を続ける。
「なあ、エリベルト卿」
「なんでしょう?」
「なぜさっさと押し返してしまわないのだ? あそこはもうモンスターどもが途切れているぞ。あそこから突破すればモンスターどもを包囲し、一網打尽にできるではないか」
「いえ、それをしても我々の損害が大きくなるだけでしょう。ここで突破したところで意味がございません」
「なんだと? エリベルト卿、お前は兵法を学んだのか? 戦場においては突破と包囲殲滅は基本だろう。まさかそんなことすら知らずに隊長をしていたとはな」
「そ、そんな! 相手が人間の軍隊であれば仰るとおりです。ですがモンスターどもが相手となれば話が違います。奴らは――」
慌ててエリベルトは反論するが、マルコは聞く耳を持たない。
「ふん。お前を隊長から解任する。後任はオラツィオ卿、お前に任せる」
「はっ!」
するとマルコの隣に控えていた若い騎士が恭しく頭を下げた。
「殿下!? 一体何を仰っているのですか? オラツィオ卿には部隊を率いた経験が――」
「黙れ。兵法の基礎すら知らぬ隊長など信用できん。モンスター退治が得意だと聞いて任せたが、間違いだったようだ」
「殿下……」
エリベルトは唖然とした様子でマルコのほうを見ている。
「オラツィオ卿、モンスターどもの陣の弱点を突き、包囲殲滅してみせよ」
「はっ! お任せください」
マルコの命令に、オラツィオは自信満々な様子でそう答えたのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/05/25 (土) 18:00 を予定しております。
「あれ? 女? もしかして代替わりしたのか?」
「なんだ、知らなかったのか? この間、王太子殿下を見つけたって挨拶に来てたぞ」
「……あのマッツィアーノだぞ? 大丈夫なのか?」
「この襲撃だってマッツィアーノが裏で糸を引いてるんじゃ……」
これまでの悪評のせいか、出席者たちはひそひそとそんなことを話しながら冷たい視線を向けてくる。
「なんの証拠もないくせによくそんなことが言えるな。お前たちはマッツィアーノ公爵に対するその言葉に責任が持てるのか?」
王太子殿下の一言でピタリと静かになる。
「公爵は危機を打開するために協力を申し出てくれた。公爵に対する侮辱は俺に対する侮辱であると知れ」
王太子殿下に一喝されたが、それでも謝罪してくる者は一人もいない。嵐が過ぎ去るのを待っているようだ。
「王太子殿下、時間の無駄でしょう。それよりも早く出ないと手遅れになりますよ」
「公爵……そうだな。総員配置につけ」
こうして俺たちはレムロスを守るため、それぞれの持ち場へと向かうのだった。
◆◇◆
俺とティティは守護騎士団長と共に西門上の楼閣に設置された前線指揮所に陣取った。門の下ではすでに戦いが始まっており、騎士たちが懸命に門を破られまいと奮闘している。だがモンスターたちはすべて黒いオーラを纏っており、かなりの苦戦を強いられている様子だ。
「強化されてるね」
「そのようね」
ティティはそう言って初代マッツィアーノ公爵の杖をモンスターたちの群れのほうへと向ける。
「……ダメね。制御も奪えないわ。力が完全に弾かれる。あの黒いオーラに包まれているモンスターは従えられないわ」
「そっか。攻撃手段はある?」
「そうね……ちょっと試してみるわ」
ティティはそう言って再びモンスターに杖を向ける。するとその先端に黒い光が集まり、次の瞬間あの黒い弾丸が放たれた。
黒い弾丸はモンスターの集団の先頭付近にいたワイルドボアに命中する。ワイルドボアの体からは血が噴き出したものの、致命傷を与えることはできていないようだ。
だがその隙をついて一人の騎士が剣を突き立てた。
「ナイス援護」
「……そうね。こうすればファウストお兄さまのように支配できると思ったのだけれど」
ティティは少し悔しそうにしている。
「今の魔法の魔力の消費はどのくらい?」
「大したことはないわ。レイのおかげで私の魔力はかなり多いし、それにこの杖もあるから」
「なら、もうちょっと試してみない?」
「どういうこと?」
「ティティのその魔法、多分なんだけど、相手の力を抑え込むはずなんだ」
「そうなの?」
「俺が魔界の影って呼んでるモンスターが使ってきたときはそうだった。ファウストがティティにやったのはちょっと違ったけど……」
「……そう。分かったわ。試してみる」
そう言ってティティは黒い弾丸を次々とモンスターの群れに撃ち込んでいく。
それからしばらくモンスターのほうを観察してみたのだが、やはり黒い弾丸を受けたモンスターは明らかに弱体化している。
そのおかげもあってか、押されていた騎士たちが徐々にモンスターたちを押し返し始める。
「……もう大丈夫そうね」
「そうだね」
ティティが援護を止めると、守護騎士団長が頭を下げてきた。
「公爵閣下、ありがとうございます」
ティティはちらりと守護騎士団長のほうを見る。それからしばし沈黙したのち、小さく頷いたのだった。
◆◇◆
一方、北と東を担当することとなった金獅子騎士団は北門と東門にそれぞれ元銀狼騎士団の隊長クラスだったトンマーソとエリベルトを派遣し、マルコは城に残ることを選んだ。
その采配は功を奏し、トンマーソとエリベルトを中心とする元銀狼騎士団の騎士たちは黒いオーラを纏ったモンスターたちと互角の戦いを繰り広げていた。
銀狼の顎に合流した者たちと違ってすっかり実戦からは離れていたものの、元銀狼騎士団のメンバーだけあってモンスターとの戦いには慣れているのだろう。そのうえ彼らは明らかに訓練の足りていない騎士たちのフォローまで行っている。
そうして数時間、金獅子騎士団はなんとかモンスターを撃退し続けていた。
すると、金獅子騎士団がモンスターを撃退しているという報告を受けたマルコが前線に視察にやってきた。
東門の上にある楼閣にやってきたマルコの姿を見たエリベルトは慌てて駆け寄り、跪く。
「マルコ殿下! どうなさいましたか? 城に留まっておられるのでは……」
「俺が自らお前たちを激励に来てやったのだ」
「ははっ! ありがたき幸せにございます」
するとマルコは満足げな表情を浮かべると、眼下に広がる戦場を見回す。
「なんだ。モンスターどもも大したことないではないか」
「はっ! 日ごろからマルコ殿下にご指導いただいているおかげでございます」
見え透いたお世辞に気を良くしたマルコはさらに戦場の観察を続ける。
「なあ、エリベルト卿」
「なんでしょう?」
「なぜさっさと押し返してしまわないのだ? あそこはもうモンスターどもが途切れているぞ。あそこから突破すればモンスターどもを包囲し、一網打尽にできるではないか」
「いえ、それをしても我々の損害が大きくなるだけでしょう。ここで突破したところで意味がございません」
「なんだと? エリベルト卿、お前は兵法を学んだのか? 戦場においては突破と包囲殲滅は基本だろう。まさかそんなことすら知らずに隊長をしていたとはな」
「そ、そんな! 相手が人間の軍隊であれば仰るとおりです。ですがモンスターどもが相手となれば話が違います。奴らは――」
慌ててエリベルトは反論するが、マルコは聞く耳を持たない。
「ふん。お前を隊長から解任する。後任はオラツィオ卿、お前に任せる」
「はっ!」
するとマルコの隣に控えていた若い騎士が恭しく頭を下げた。
「殿下!? 一体何を仰っているのですか? オラツィオ卿には部隊を率いた経験が――」
「黙れ。兵法の基礎すら知らぬ隊長など信用できん。モンスター退治が得意だと聞いて任せたが、間違いだったようだ」
「殿下……」
エリベルトは唖然とした様子でマルコのほうを見ている。
「オラツィオ卿、モンスターどもの陣の弱点を突き、包囲殲滅してみせよ」
「はっ! お任せください」
マルコの命令に、オラツィオは自信満々な様子でそう答えたのだった。
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