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第179話 王太子の帰還
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2024/05/17 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
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翌日、マリア先生はワイバーンに運ばれて南東の空へと旅立って行った。そのとき初めて知ったのだが、なんとマッツィアーノ公爵家には貴婦人を乗せ、モンスターに運ばせる専用の客車のようなものがある。馬車の人が乗る部分の上部にモンスターが掴むための取っ手があり、そこをワイバーンが掴んで運んでいくという仕組みだ。
もっとも車輪は、ついていないので客『車』と呼ぶのはおかしい気もするが……。
ともあれ、馬車が発達したのは馬がそれに適した動物だったからなわけで、マッツィアーノ公爵家であればその役目をモンスターにやらせるのは自然なことだったのだろう。
「レイ、私たちも行くわよ」
「ああ」
マリア先生を見送った後、俺たちもワイバーンに乗ってソドリオの町を後にするのだった。
◆◇◆
俺たちは先行していた王太子殿下と合流し、たったの三日で王都レムロスまで戻ってきた。馬であればどんなに急いでも十日は掛かる道のりだ。空を飛べるということがいかにすごいことなのかがよく分かる。
俺たちはそのまま上空からお城へと向かい、中庭に着陸した。ティティが前もって連絡しておいてくれたそうで、特に攻撃されるようなこともなかった。
そうして俺たちはなんのトラブルもなく、国王陛下の待つ謁見の間へとやってきた。
俺たちが謁見の間に入るなり国王陛下は目を見開き、涙を溜めながらふらりと玉座から立ち上がった。一方の王妃はというと、ものすごい形相で王太子殿下のほうを睨んでいる。
「お、おおお。ルカ、ルカなのか?」
「はい、父上。ご心配をお掛けしましたが、ただいま戻りました」
そう言って王太子殿下は玉座の前で跪いた。俺たちもそれに倣うが、ティティだけは立ったままだ。
「おおお、ルカ! ルカ! よくぞ無事で!」
国王陛下はそう言ってフラフラと前に歩いてきた。王太子殿下も前に出て、礼儀作法など構わずに抱き合って喜びを露わにする。
「父上、新たなマッツィアーノ公爵となられたセレスティア殿をお連れしました。俺がこうして無事に帰れたのもすべては新公爵のおかげです」
「む? うむ。そうか。そうか。クルデルタ殿は逝ったのか。セレスティア嬢、証を見せてもらえるかな?」
「ええ」
ティティはそう言うとシグネットリングを使って紋章と名前を投影した。
「うむ。たしかに。公爵、感謝する。よくぞルカを、王太子を助けてくださった」
国王陛下は嬉しそうにそう言うと、ティティは無表情のまま小さく頷いた。
「儂からぜひとも礼をさせてほしい。儂にできることならば、なんでも言うのじゃ」
するとティティは小さく首を横に振った。
「その話はまたいずれ。それよりも今、大変な問題が起きています。王太子殿下」
「ああ。父上、聞いてください。実は――」
王太子殿下はことのあらましを説明した。
「そこで光属性魔法に目覚めた騎士キアーラを聖女とし、教会から聖女の杖を借り受けたいのです。ルカ殿下だけでなく、キアーラ卿、レクス卿という強力な光属性魔法の使い手が同時に存在しているということは、きっと神のお導きのはずです」
「うむ。そうじゃな。公爵のいうとおりじゃ。そういうことなら――」
「陛下、お待ちください」
王妃が話に割って入ってきた。
「教会にはすでに聖女がいます。それを王家の権力で無理やり挿げ替えるなど、それこそ神に対する冒涜でしょう」
「む? むむむ……」
「義母上、であればその聖女にも協力してもらえばいい話です。違いますか?」
王太子殿下がそう断言すると、王妃は再び悔しそうな表情となった。
「そもそも、誰が聖女であろうとどうでも良いのではありませんか? 肩書などに関係なく、民を守るためには立場を超えて協力するべきです。そうですね?」
王太子殿下の追撃を受け、王妃は引きつった表情のまま渋々といった様子で首を縦に振った。それを見た王太子殿下はニヤリと笑ったが、すぐに悲し気な表情を浮かべる。
「ところで義母上、マッツィアーノと交渉して私を取り戻すと豪語していたそうですね。それなのに、こうして帰ってきた私に一言もいただけないとは……悲しい限りですね」
突然の王太子殿下の切り返しに王妃はさっと顔を赤くしたが、すぐに笑みを浮かべる。
「ルカ、ちょっと驚いただけですよ。お帰りなさい。よくぞ帰ってきましたね」
「ええ、義母上。ただいま戻りました」
それから二人は顔に仮初めの笑顔を貼り付けたまま、バチバチと睨み合っていたのだった。
◆◇◆
俺たちは王太子殿下と共に銀狼の顎の拠点へと戻ってきた。すると店番をしていたニーナさんが俺たちを出迎えてくれる。
「ああ、皆さんお帰りなさ……え?」
「王太子殿下、彼女がお話していたクランの事務をお願いしているニーナです」
「そうか。ニーナ嬢、ルカ・ディ・パクシーニだ」
「銀狼の顎の事務員をしていますニーナと申します。王太子殿下にお目にかかれて光栄です」
ニーナさんはそう言うと慌てて立ち上がり、カーテシーをした。
「ああ。楽にしてくれ。ニーナ嬢のことはレクスから聞いている。ニーナ嬢が裏方の役目をしっかり果たし、銀狼騎士団の有志を支えてくれたおかげでこうして生きて戻ることができた。感謝しているぞ」
「ええっ!? 生きて戻る? どういうことですか?」
「ニーナさん、実は――」
俺はことのあらましを説明した。
「そう、そうだったのね。まさかそんなことになっていたなんて……」
「ずっと秘密にしててごめんなさい」
「いいわ。いくらなんでもそんなこと、言えるわけないもんね」
「すみません」
「いいのよ。謝らないで。逆に知らなくて良かったわ。もし銀狼の顎の目的が王太子殿下の救出だなんて知っていたらきっと普通に生活なんてできなかったもの」
そう言ってニーナさんは明るく笑ってくれたが、すぐに冴えない表情になる。
「ニーナさん?」
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次回更新は通常どおり、2024/05/13 (月) 18:00 を予定しております。
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翌日、マリア先生はワイバーンに運ばれて南東の空へと旅立って行った。そのとき初めて知ったのだが、なんとマッツィアーノ公爵家には貴婦人を乗せ、モンスターに運ばせる専用の客車のようなものがある。馬車の人が乗る部分の上部にモンスターが掴むための取っ手があり、そこをワイバーンが掴んで運んでいくという仕組みだ。
もっとも車輪は、ついていないので客『車』と呼ぶのはおかしい気もするが……。
ともあれ、馬車が発達したのは馬がそれに適した動物だったからなわけで、マッツィアーノ公爵家であればその役目をモンスターにやらせるのは自然なことだったのだろう。
「レイ、私たちも行くわよ」
「ああ」
マリア先生を見送った後、俺たちもワイバーンに乗ってソドリオの町を後にするのだった。
◆◇◆
俺たちは先行していた王太子殿下と合流し、たったの三日で王都レムロスまで戻ってきた。馬であればどんなに急いでも十日は掛かる道のりだ。空を飛べるということがいかにすごいことなのかがよく分かる。
俺たちはそのまま上空からお城へと向かい、中庭に着陸した。ティティが前もって連絡しておいてくれたそうで、特に攻撃されるようなこともなかった。
そうして俺たちはなんのトラブルもなく、国王陛下の待つ謁見の間へとやってきた。
俺たちが謁見の間に入るなり国王陛下は目を見開き、涙を溜めながらふらりと玉座から立ち上がった。一方の王妃はというと、ものすごい形相で王太子殿下のほうを睨んでいる。
「お、おおお。ルカ、ルカなのか?」
「はい、父上。ご心配をお掛けしましたが、ただいま戻りました」
そう言って王太子殿下は玉座の前で跪いた。俺たちもそれに倣うが、ティティだけは立ったままだ。
「おおお、ルカ! ルカ! よくぞ無事で!」
国王陛下はそう言ってフラフラと前に歩いてきた。王太子殿下も前に出て、礼儀作法など構わずに抱き合って喜びを露わにする。
「父上、新たなマッツィアーノ公爵となられたセレスティア殿をお連れしました。俺がこうして無事に帰れたのもすべては新公爵のおかげです」
「む? うむ。そうか。そうか。クルデルタ殿は逝ったのか。セレスティア嬢、証を見せてもらえるかな?」
「ええ」
ティティはそう言うとシグネットリングを使って紋章と名前を投影した。
「うむ。たしかに。公爵、感謝する。よくぞルカを、王太子を助けてくださった」
国王陛下は嬉しそうにそう言うと、ティティは無表情のまま小さく頷いた。
「儂からぜひとも礼をさせてほしい。儂にできることならば、なんでも言うのじゃ」
するとティティは小さく首を横に振った。
「その話はまたいずれ。それよりも今、大変な問題が起きています。王太子殿下」
「ああ。父上、聞いてください。実は――」
王太子殿下はことのあらましを説明した。
「そこで光属性魔法に目覚めた騎士キアーラを聖女とし、教会から聖女の杖を借り受けたいのです。ルカ殿下だけでなく、キアーラ卿、レクス卿という強力な光属性魔法の使い手が同時に存在しているということは、きっと神のお導きのはずです」
「うむ。そうじゃな。公爵のいうとおりじゃ。そういうことなら――」
「陛下、お待ちください」
王妃が話に割って入ってきた。
「教会にはすでに聖女がいます。それを王家の権力で無理やり挿げ替えるなど、それこそ神に対する冒涜でしょう」
「む? むむむ……」
「義母上、であればその聖女にも協力してもらえばいい話です。違いますか?」
王太子殿下がそう断言すると、王妃は再び悔しそうな表情となった。
「そもそも、誰が聖女であろうとどうでも良いのではありませんか? 肩書などに関係なく、民を守るためには立場を超えて協力するべきです。そうですね?」
王太子殿下の追撃を受け、王妃は引きつった表情のまま渋々といった様子で首を縦に振った。それを見た王太子殿下はニヤリと笑ったが、すぐに悲し気な表情を浮かべる。
「ところで義母上、マッツィアーノと交渉して私を取り戻すと豪語していたそうですね。それなのに、こうして帰ってきた私に一言もいただけないとは……悲しい限りですね」
突然の王太子殿下の切り返しに王妃はさっと顔を赤くしたが、すぐに笑みを浮かべる。
「ルカ、ちょっと驚いただけですよ。お帰りなさい。よくぞ帰ってきましたね」
「ええ、義母上。ただいま戻りました」
それから二人は顔に仮初めの笑顔を貼り付けたまま、バチバチと睨み合っていたのだった。
◆◇◆
俺たちは王太子殿下と共に銀狼の顎の拠点へと戻ってきた。すると店番をしていたニーナさんが俺たちを出迎えてくれる。
「ああ、皆さんお帰りなさ……え?」
「王太子殿下、彼女がお話していたクランの事務をお願いしているニーナです」
「そうか。ニーナ嬢、ルカ・ディ・パクシーニだ」
「銀狼の顎の事務員をしていますニーナと申します。王太子殿下にお目にかかれて光栄です」
ニーナさんはそう言うと慌てて立ち上がり、カーテシーをした。
「ああ。楽にしてくれ。ニーナ嬢のことはレクスから聞いている。ニーナ嬢が裏方の役目をしっかり果たし、銀狼騎士団の有志を支えてくれたおかげでこうして生きて戻ることができた。感謝しているぞ」
「ええっ!? 生きて戻る? どういうことですか?」
「ニーナさん、実は――」
俺はことのあらましを説明した。
「そう、そうだったのね。まさかそんなことになっていたなんて……」
「ずっと秘密にしててごめんなさい」
「いいわ。いくらなんでもそんなこと、言えるわけないもんね」
「すみません」
「いいのよ。謝らないで。逆に知らなくて良かったわ。もし銀狼の顎の目的が王太子殿下の救出だなんて知っていたらきっと普通に生活なんてできなかったもの」
そう言ってニーナさんは明るく笑ってくれたが、すぐに冴えない表情になる。
「ニーナさん?」
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