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第165話 主の異変と追手
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2024/04/29 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
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「王太子殿下? 大丈夫ですか!? 王太子殿下!」
「う……」
キアーラさんが心配そうに王太子殿下の前で膝をついた。しかし王太子殿下は蹲ったまま、苦し気にうめき声を上げている。
「失礼します!」
キアーラさんはそう断りを入れると王太子殿下の背中にそっと手を当てた。王太子殿下はビクッとなり、顔どころか首筋から耳まで真っ赤になっている。
これは、一体どうなっているんだろうか? もしや王太子殿下は何か病気に掛かっているのか?
「治療します! どうかしっかり!」
キアーラさんは心配そうに声を掛けながらヒールを掛けた。だが王太子殿下の容体が良くなる気配はない。
「キアー……ラ……」
「はい! 殿下! ここにおります!」
「す、すまない。少し……離れて……くれな……いか……」
「え? いけません! 苦しんでいらっしゃる殿下を置いて離れるなど!」
「そ、そうでは……うっ!」
王太子殿下は突然ビクンビクンと体を震わせた。
「殿下!? 殿下! しっかりしてください! 殿下!」
キアーラさんは懸命にヒールをかけ続けるが、王太子殿下はそのままうつ伏せに倒れ、意識を失ってしまった。
「え? 殿下? 殿下!」
キアーラさんは必死にヒールを掛け、俺たちもその様子を見守っていたのだが……。
「あらら? どこのドブネズミですの? わたくしのコレクションを盗もうとしているのは」
突然忘れもしないあの悪魔の声が聞こえ、俺は思わず振り返る。するとなんと小屋の中から三匹のディノウルフを先頭に十人ほどの兵士が出てきた。そしてさらにその後ろからはあの悪魔が姿を現す。
「お前は! ロザリナ・ディ・マッツィアーノ!」
「あら? 平民風情がわたくしの名を呼ぶだなんて、身の程知らずですわね」
ティティと同じ赤い縦長の瞳には明らかに侮蔑の色が浮かんでおり、その表情はまるで汚物でも見るかのようだ。
「それよりも、そこに落ちているわたくしのコレクションを返してくださる? 素直に返すなら、このまま見逃してあげてもいいですわよ?」
「誰が! お前のような奴に王太子殿下を!」
「あら、聞き分けの悪い犬ですわね……うん? お前、イヌですわね? 魔の森で死んだと聞いていましたのに、どうして生きてこんなところにいるんですの?」
こいつ! まさかまだ俺のことを覚えていたのか!
「まあ、いいですわ。イヌ、お前もわたくしのコレクションに加えてあげますわ。あのころのイヌもなかなかでしたけれど、今も悪くはありませんもの」
悪魔は一人で自分の世界に浸っている。どうやら自分の優位を疑っていないようだ。
「誰がお前のコレクションになど!」
剣を抜いて前に出ると、テオもすぐに隣に並ぶ。
「おい、レクス。一人でやろうとしてんじゃねぇ。こいつがラウロさんとケヴィンさんの仇なんだよな?」
「そうだ。あともう一人、ファウストという男もいる」
「よし。ならまずはこいつを殺そうぜ」
「ああ!」
俺たちは目の前の悪魔に剣を向ける。
「あら? もしかして、抵抗しようと言うんですの? マッツィアーノに逆らおうだなんて、やはり冒険者には知能がないんですのね」
悪魔は憐れむような目で俺たちを見てくる。
「黙れ! この人の皮を被った悪魔が! お前の悪行もここまでだ!」
すると悪魔は隣の兵士に話しかける。
「動物が何か話しているようですわ。ねえ、そこのあなた、なんて言っているのか分かって?」
「いえ」
「いくら卑しい我々でも犬語まではさすがに……」
「それもそうですわねぇ」
悪魔はそう言って俺たちをあざ笑う。
分かってはいたが、こいつと会話ができると考えるほうが間違いなのだろう。
「……お前たちは王太子殿下をお守りしろ! テオ」
「ああ」
俺たちが一歩前に出ると、ディノウルフたちも前に出る。
「おやりなさい!」
悪魔の命令でディノウルフたちが俺たちに向かって襲い掛かってきた。俺はホーリーを発動したまま剣を横に一閃する。
「え?」
ホーリーに触れたディノウルフたちは一撃で倒れ、そのまま動かなくなる。悪魔は少し驚いた様子だが、すぐにパンパンと手を叩いた。
すると古井戸のある小屋の中から次々とディノウルフたちが飛び出してくる。
「あそこを通ってモンスターが来てるのか」
「そうみたいだな。レクス、あの小屋は潰すぜ」
「ああ」
テオは火球を作り出し、小屋に向けて放った。火球は小屋に命中し、そのまま燃え上がる。
そして俺たちは向かってくるディノウルフたちを次々と斬り伏せていった。そして数分ほどで、ディノウルフが炎上する小屋から飛び出してくることはなくなった。
「どうなっているんですの? イヌのくせにわたくしのモンスターを!」
一方の悪魔は慌てた様子でそう叫んだ。
「お前たち、あの者たちを殺しなさい」
「はっ」
兵士たちは悪魔の前に出ると、剣を向けてくる。
「テオ、少し離れてろ。アレを使う」
「分かった」
テオが下がったのを確認し、俺は身体強化を使って一気に兵士たちとの距離を詰める。
「なっ!?」
「速い!?」
俺は剣にボルトを纏わせたまま、先頭の兵士と剣を合わせた。
キイイイン! バチン!
激しい金属音と共に兵士が行動不能した。
バチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチン!
密集していた兵士全員にボルトが連鎖し、あっという間に残る兵士たちも行動不能した。だが残念ながら、あの悪魔は少し離れていたおかげでボルトの連鎖を免れている。
「なっ!? お前たち! 一体何をしているんですの!? 早くこいつらを殺しなさい! わたくしの命令が聞こえないんですの!?」
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次回更新は通常どおり、2024/04/29 (月) 18:00 を予定しております。
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「王太子殿下? 大丈夫ですか!? 王太子殿下!」
「う……」
キアーラさんが心配そうに王太子殿下の前で膝をついた。しかし王太子殿下は蹲ったまま、苦し気にうめき声を上げている。
「失礼します!」
キアーラさんはそう断りを入れると王太子殿下の背中にそっと手を当てた。王太子殿下はビクッとなり、顔どころか首筋から耳まで真っ赤になっている。
これは、一体どうなっているんだろうか? もしや王太子殿下は何か病気に掛かっているのか?
「治療します! どうかしっかり!」
キアーラさんは心配そうに声を掛けながらヒールを掛けた。だが王太子殿下の容体が良くなる気配はない。
「キアー……ラ……」
「はい! 殿下! ここにおります!」
「す、すまない。少し……離れて……くれな……いか……」
「え? いけません! 苦しんでいらっしゃる殿下を置いて離れるなど!」
「そ、そうでは……うっ!」
王太子殿下は突然ビクンビクンと体を震わせた。
「殿下!? 殿下! しっかりしてください! 殿下!」
キアーラさんは懸命にヒールをかけ続けるが、王太子殿下はそのままうつ伏せに倒れ、意識を失ってしまった。
「え? 殿下? 殿下!」
キアーラさんは必死にヒールを掛け、俺たちもその様子を見守っていたのだが……。
「あらら? どこのドブネズミですの? わたくしのコレクションを盗もうとしているのは」
突然忘れもしないあの悪魔の声が聞こえ、俺は思わず振り返る。するとなんと小屋の中から三匹のディノウルフを先頭に十人ほどの兵士が出てきた。そしてさらにその後ろからはあの悪魔が姿を現す。
「お前は! ロザリナ・ディ・マッツィアーノ!」
「あら? 平民風情がわたくしの名を呼ぶだなんて、身の程知らずですわね」
ティティと同じ赤い縦長の瞳には明らかに侮蔑の色が浮かんでおり、その表情はまるで汚物でも見るかのようだ。
「それよりも、そこに落ちているわたくしのコレクションを返してくださる? 素直に返すなら、このまま見逃してあげてもいいですわよ?」
「誰が! お前のような奴に王太子殿下を!」
「あら、聞き分けの悪い犬ですわね……うん? お前、イヌですわね? 魔の森で死んだと聞いていましたのに、どうして生きてこんなところにいるんですの?」
こいつ! まさかまだ俺のことを覚えていたのか!
「まあ、いいですわ。イヌ、お前もわたくしのコレクションに加えてあげますわ。あのころのイヌもなかなかでしたけれど、今も悪くはありませんもの」
悪魔は一人で自分の世界に浸っている。どうやら自分の優位を疑っていないようだ。
「誰がお前のコレクションになど!」
剣を抜いて前に出ると、テオもすぐに隣に並ぶ。
「おい、レクス。一人でやろうとしてんじゃねぇ。こいつがラウロさんとケヴィンさんの仇なんだよな?」
「そうだ。あともう一人、ファウストという男もいる」
「よし。ならまずはこいつを殺そうぜ」
「ああ!」
俺たちは目の前の悪魔に剣を向ける。
「あら? もしかして、抵抗しようと言うんですの? マッツィアーノに逆らおうだなんて、やはり冒険者には知能がないんですのね」
悪魔は憐れむような目で俺たちを見てくる。
「黙れ! この人の皮を被った悪魔が! お前の悪行もここまでだ!」
すると悪魔は隣の兵士に話しかける。
「動物が何か話しているようですわ。ねえ、そこのあなた、なんて言っているのか分かって?」
「いえ」
「いくら卑しい我々でも犬語まではさすがに……」
「それもそうですわねぇ」
悪魔はそう言って俺たちをあざ笑う。
分かってはいたが、こいつと会話ができると考えるほうが間違いなのだろう。
「……お前たちは王太子殿下をお守りしろ! テオ」
「ああ」
俺たちが一歩前に出ると、ディノウルフたちも前に出る。
「おやりなさい!」
悪魔の命令でディノウルフたちが俺たちに向かって襲い掛かってきた。俺はホーリーを発動したまま剣を横に一閃する。
「え?」
ホーリーに触れたディノウルフたちは一撃で倒れ、そのまま動かなくなる。悪魔は少し驚いた様子だが、すぐにパンパンと手を叩いた。
すると古井戸のある小屋の中から次々とディノウルフたちが飛び出してくる。
「あそこを通ってモンスターが来てるのか」
「そうみたいだな。レクス、あの小屋は潰すぜ」
「ああ」
テオは火球を作り出し、小屋に向けて放った。火球は小屋に命中し、そのまま燃え上がる。
そして俺たちは向かってくるディノウルフたちを次々と斬り伏せていった。そして数分ほどで、ディノウルフが炎上する小屋から飛び出してくることはなくなった。
「どうなっているんですの? イヌのくせにわたくしのモンスターを!」
一方の悪魔は慌てた様子でそう叫んだ。
「お前たち、あの者たちを殺しなさい」
「はっ」
兵士たちは悪魔の前に出ると、剣を向けてくる。
「テオ、少し離れてろ。アレを使う」
「分かった」
テオが下がったのを確認し、俺は身体強化を使って一気に兵士たちとの距離を詰める。
「なっ!?」
「速い!?」
俺は剣にボルトを纏わせたまま、先頭の兵士と剣を合わせた。
キイイイン! バチン!
激しい金属音と共に兵士が行動不能した。
バチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチン!
密集していた兵士全員にボルトが連鎖し、あっという間に残る兵士たちも行動不能した。だが残念ながら、あの悪魔は少し離れていたおかげでボルトの連鎖を免れている。
「なっ!? お前たち! 一体何をしているんですの!? 早くこいつらを殺しなさい! わたくしの命令が聞こえないんですの!?」
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