160 / 201
第160話 反乱の余波
しおりを挟む
クルデルタとセレスティアは空路でコルティナへと急行していた。クルデルタはブラックドラゴンに、セレスティアはワイバーンに騎乗しており、その周囲をすさまじい数のワイバーンが固めている。
だがその途中の町にはモンスターたちが襲撃を掛けている。
「ちっ。サンドロの制御を外れたモンスターどもか。後先を考えずに反乱なんぞを起こすからだ。あの馬鹿めが!」
クルデルタは顔を怒りに歪ませる。
「お父さま、どうなさいますか?」
「ファウストの馬鹿を始末するのが先だ。モンスターどもはその後間引けばいい」
「分かりました。私はまだ少し余裕があります。必要なときはお命じください」
「何? お前は国中のダーククロウをすべて従えていたはずだ。まだ余裕があるのか?」
「はい。最近はこの状態にも慣れてきましたので」
「……」
クルデルタはじっと考えるような素振りを見せると、ニヤリと小さく笑った。
「セレスティア、お前はまだ魔力が成長しきっていないのだろうな。これからは俺が直々にお前を指導してやる」
「まあ、本当ですか? ありがとうございます。尊敬するお父さまに直接ご指導いただけるなんて」
セレスティアが嬉しそうに微笑むと、クルデルタは満更でもない表情を浮かべた。だがクルデルタが前を向くと、セレスティアはニタリと邪悪な笑みを浮かべるのだった。
◆◇◆
その日の夕方、クルデルタとセレスティアはコルティナから南西におよそニ十キロメートルほどの位置にあるソドリオという小さな町に到着した。
クルデルタの騎乗するブラックドラゴンは一切の警告なく、いきなり町長邸に火球を撃ち込んだ。突然の出来事に兵士も使用人も皆パニックを起こし、逃げ惑っている。
「ジュスト・フラーヴィ! 出てこい!」
クルデルタはそう怒鳴り散らし、ブラックドラゴンがもう一発火球を撃ち込んだ。町長邸から一人の中年男性が飛び出してくる。
クルデルタは高度を下げ、彼の前に着陸する。
「ジュストよ。町長を任せてやったのに裏切るとはいい度胸だな」
「こ、こ、こ、公爵様!? 生きておられたのですか!?」
「ほう? 俺がいつ死んだというのだ?」
「そ、それは、ファウスト坊ちゃまから、公爵様とサンドロ坊ちゃまがお亡くなりになったとご連……絡が……」
「ほう? 言い残すことはそれだけか?」
「も、申し訳ございません! 私はマッツィアーノ公爵家に忠誠を誓っております! 公爵様! どうか! どうかご慈悲を!」
「ふん。事の真偽も確認せずに早とちりをする者など必要ない」
クルデルタにそう断じられたジュストは顔面蒼白となったが、そこにセレスティアが降りてきた。
「お父さま、お待ちください」
「なんだ? セレスティア」
「このような愚か者でも今は利用できます。すぐさま兵を率いさせ、コルティナへと向かわせて反乱の鎮圧を手伝わせましょう」
クルデルタは険しい表情になり、小さく舌打ちをした。
「ジュスト、セレスティアに感謝することだな。貴様の処分は保留にしてやる。今すぐ兵をまとめ、コルティナへ向かえ。反乱を起こしたファウストを討つのだ」
「へ? 今からですか? 今からですと途中で野営が必要になってしまいますし、それにこの町に余分な兵は――」
「なんだと?」
言い繕うジュストをクルデルタはギロリと睨みつけた。
「い、いえ! 今すぐ準備いたします!」
ジュストは大慌てで町長邸に入っていく。そして二時間ほどでおよそ二百人の部隊を編成し、コルティナへと出陣していった。その様子をクルデルタとセレスティアは町長邸から見送るのだった。
◆◇◆
翌朝、クルデルタとセレスティアはコルティナにやってきた。コルティナにはもともとサンドロが支配していたモンスターが大量に押し寄せており、一部はすでに街壁を突破して都市の内部にまで侵入している。
「チッ。セレスティア、いくら余裕があるとはいえ、あの数すべてはさすがに無理だな?」
「はい。ですがそこの一団くらいでしたら」
「いいだろう。町中で暴れているモンスターどもを始末しろ」
「はい、お父さま」
「俺は先にファウストを始末しておく」
「分かりました」
セレスティアはそうしてクルデルタと別れ、門が破られている場所にやってきた。すでに街壁の上にまでモンスターたちが侵入しており、警備兵のものと思われる血だまりがあちこちにできている。
また、付近の家屋にも当然のようにモンスターたちが侵入しており、門の周辺は地獄絵図と化していた。
セレスティアは無表情のまま、街壁にいるモンスターたちに向かって手をかざした。するとそのモンスターたちはピタリと大人しくなる。
「町中で暴れている他のモンスターたちを始末しなさい」
セレスティアの命令を受け、セレスティアの制御下にないモンスターたちを攻撃し始める。
と、街壁の上から男の苦しそうな声が聞こえてくる。
「セ、セレスティアお嬢様……」
セレスティアがちらりとそちらを見ると、血まみれになった兵士の姿があった。その表情は恐怖に歪んでいるが、一方で縋るような視線も向けている。
だがセレスティアはその兵士を助けることはせず、そのまま高度を上げていく。すると一羽のダーククロウが近づいてきた。
「そう。順調ね……」
セレスティアはそう呟くと、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべるのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/04/24 (水) 18:00 を予定しております。
だがその途中の町にはモンスターたちが襲撃を掛けている。
「ちっ。サンドロの制御を外れたモンスターどもか。後先を考えずに反乱なんぞを起こすからだ。あの馬鹿めが!」
クルデルタは顔を怒りに歪ませる。
「お父さま、どうなさいますか?」
「ファウストの馬鹿を始末するのが先だ。モンスターどもはその後間引けばいい」
「分かりました。私はまだ少し余裕があります。必要なときはお命じください」
「何? お前は国中のダーククロウをすべて従えていたはずだ。まだ余裕があるのか?」
「はい。最近はこの状態にも慣れてきましたので」
「……」
クルデルタはじっと考えるような素振りを見せると、ニヤリと小さく笑った。
「セレスティア、お前はまだ魔力が成長しきっていないのだろうな。これからは俺が直々にお前を指導してやる」
「まあ、本当ですか? ありがとうございます。尊敬するお父さまに直接ご指導いただけるなんて」
セレスティアが嬉しそうに微笑むと、クルデルタは満更でもない表情を浮かべた。だがクルデルタが前を向くと、セレスティアはニタリと邪悪な笑みを浮かべるのだった。
◆◇◆
その日の夕方、クルデルタとセレスティアはコルティナから南西におよそニ十キロメートルほどの位置にあるソドリオという小さな町に到着した。
クルデルタの騎乗するブラックドラゴンは一切の警告なく、いきなり町長邸に火球を撃ち込んだ。突然の出来事に兵士も使用人も皆パニックを起こし、逃げ惑っている。
「ジュスト・フラーヴィ! 出てこい!」
クルデルタはそう怒鳴り散らし、ブラックドラゴンがもう一発火球を撃ち込んだ。町長邸から一人の中年男性が飛び出してくる。
クルデルタは高度を下げ、彼の前に着陸する。
「ジュストよ。町長を任せてやったのに裏切るとはいい度胸だな」
「こ、こ、こ、公爵様!? 生きておられたのですか!?」
「ほう? 俺がいつ死んだというのだ?」
「そ、それは、ファウスト坊ちゃまから、公爵様とサンドロ坊ちゃまがお亡くなりになったとご連……絡が……」
「ほう? 言い残すことはそれだけか?」
「も、申し訳ございません! 私はマッツィアーノ公爵家に忠誠を誓っております! 公爵様! どうか! どうかご慈悲を!」
「ふん。事の真偽も確認せずに早とちりをする者など必要ない」
クルデルタにそう断じられたジュストは顔面蒼白となったが、そこにセレスティアが降りてきた。
「お父さま、お待ちください」
「なんだ? セレスティア」
「このような愚か者でも今は利用できます。すぐさま兵を率いさせ、コルティナへと向かわせて反乱の鎮圧を手伝わせましょう」
クルデルタは険しい表情になり、小さく舌打ちをした。
「ジュスト、セレスティアに感謝することだな。貴様の処分は保留にしてやる。今すぐ兵をまとめ、コルティナへ向かえ。反乱を起こしたファウストを討つのだ」
「へ? 今からですか? 今からですと途中で野営が必要になってしまいますし、それにこの町に余分な兵は――」
「なんだと?」
言い繕うジュストをクルデルタはギロリと睨みつけた。
「い、いえ! 今すぐ準備いたします!」
ジュストは大慌てで町長邸に入っていく。そして二時間ほどでおよそ二百人の部隊を編成し、コルティナへと出陣していった。その様子をクルデルタとセレスティアは町長邸から見送るのだった。
◆◇◆
翌朝、クルデルタとセレスティアはコルティナにやってきた。コルティナにはもともとサンドロが支配していたモンスターが大量に押し寄せており、一部はすでに街壁を突破して都市の内部にまで侵入している。
「チッ。セレスティア、いくら余裕があるとはいえ、あの数すべてはさすがに無理だな?」
「はい。ですがそこの一団くらいでしたら」
「いいだろう。町中で暴れているモンスターどもを始末しろ」
「はい、お父さま」
「俺は先にファウストを始末しておく」
「分かりました」
セレスティアはそうしてクルデルタと別れ、門が破られている場所にやってきた。すでに街壁の上にまでモンスターたちが侵入しており、警備兵のものと思われる血だまりがあちこちにできている。
また、付近の家屋にも当然のようにモンスターたちが侵入しており、門の周辺は地獄絵図と化していた。
セレスティアは無表情のまま、街壁にいるモンスターたちに向かって手をかざした。するとそのモンスターたちはピタリと大人しくなる。
「町中で暴れている他のモンスターたちを始末しなさい」
セレスティアの命令を受け、セレスティアの制御下にないモンスターたちを攻撃し始める。
と、街壁の上から男の苦しそうな声が聞こえてくる。
「セ、セレスティアお嬢様……」
セレスティアがちらりとそちらを見ると、血まみれになった兵士の姿があった。その表情は恐怖に歪んでいるが、一方で縋るような視線も向けている。
だがセレスティアはその兵士を助けることはせず、そのまま高度を上げていく。すると一羽のダーククロウが近づいてきた。
「そう。順調ね……」
セレスティアはそう呟くと、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべるのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/04/24 (水) 18:00 を予定しております。
応援ありがとうございます!
41
お気に入りに追加
122
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる