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第157話 ファウストとサンドロ
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ファウストが反乱を起こした翌日、大規模なモンスターの群れがコルティナを襲った。執務室で書類の確認を行っていたファウストは慌てて飛び込んできた伝令の男によってそのことを知らされる。
「ファウスト坊ちゃま! いえ、公爵閣下! 大変です! サンドロ坊ちゃまが魔の森から戻られ、我々に攻撃を仕掛けてきております!」
「なっ!? どうしてこんなに早く!?」
ファウストは慌てた様子で伝令の男を問い詰めるが、伝令の男は困ったような表情を浮かべる。
「いえ、その……私にはさっぱり……」
「ちっ。まあいいでしょう。それはそうと、まずはサンドロの対処ですね」
ファウストはぶつぶつと何かを考え始めた。
「あの、我々はどうすれば……」
するとファウストは小さく舌打ちをした。
「モンスターは街壁を利用して迎え撃ちなさい。空を飛ぶモンスターはこちらで対処します」
「ええと、サンドロ坊ちゃまは……」
「それも私が対処します。何か不明点はありますか?」
「いえ……」
「ならさっさと行きなさい!」
「ははっ!」
こうしてファウストは想定外に早くコルティナに戻ってきたサンドロに対抗するため、執務室を後にしたのだった。
◆◇◆
コルティナの上空に、サンドロを乗せたレッドドラゴンに率いられたワイバーンの軍団が現れた。ワイバーンたちはマッツィアーノ公爵邸の中庭に着陸をしようと高度を下げていく。
それを阻止しようと多くの矢が放たれ、また吹雪や風による攻撃も行われているのだが……。
「やれ」
サンドロが短くそう命じると、レッドドラゴンは巨大な火の玉を中庭に向けて放った。するとあっという間に中庭を守る部隊は蹴散らされ、ワイバーンたちは次々と中庭に着陸していく。
そこへファウストが駆けつけ、上空から見下ろしてくるサンドロを睨みつけた。その顔には怒り、そして憎悪がはっきりと浮かんでいるが、一方のサンドロはそんなファウストを冷たい目で見下ろす。
「俺に勝てないことは分かっているはずだがな。もしや雑兵を寄せ集めれば勝てるとでも思ったか?」
「ふん。笑っていられるのも今のうちですよ!」
ファウストはそう叫ぶと、その身に黒いオーラを纏った。
「ご自慢のワイバーン軍団を奪ってやりましょう」
ファウストが手を突き出すと、どす黒いオーラの奔流が着陸したワイバーンたちを襲う。
「さあ、いい気になっているお前たちの元主人を叩き落としなさい」
するとワイバーンたちは一斉に飛び立ち、サンドロの騎乗するレッドドラゴンとそれを守るように待機していた数体のワイバーンに襲い掛かる。
「何っ!? くっ! 貴様ら! 止まれ!」
サンドロはそう言って慌てて手を突き出した。だがワイバーンたちはサンドロの命令を聞かず、サンドロの配下だったワイバーンたちも命令が遅れたこともあり、次々と倒されていく。
「はあっ!」
サンドロはすぐさまレッドドラゴンに命令を出して高度を上げた。ワイバーンとレッドドラゴンでは速度が違うのか、ワイバーンの群れは距離を離されていく。
ワイバーンたちはそれを追いかけるが、レッドドラゴンは火の玉を吐き出して応戦した。数体のワイバーンはその直撃を受けて落下していくが、残るワイバーンたちはそれを掻い潜ってレッドドラゴンに迫っていく。
サンドロはレッドドラゴンを巧みに操って次々とワイバーンを撃墜していくが、さすがに多勢に無勢だ。やがて一体のワイバーンがレッドドラゴンの尻尾に噛みつく。
レッドドラゴンはなんとかそれを振り落とそうとするが、そうして動きが鈍ったところに一体、また一体と噛みつき、やがて錐もみしながら地面に落下していく。
ドスン。
重たい音とともに地面から土煙が上がった。
そこへ残っていたワイバーンが襲い掛かる……かと思われたのだが、なんとワイバーンたちは突然ぴたりと攻撃を止めた。そしてくるりとファウストのほうへと向き直る。
「なるほど、お前のその力は制限時間があるのだな」
ワイバーンたちの間からサンドロが出てきた。体中から血を流してはいるものの、致命傷を負った様子はない。
一方のファウストはというと肩で息をしており、黒いオーラもいつの間にか消えていた。しかも吐血したようで、口元と左手に大量の血がこびりついている。
「弱者なりによく考えたようだな。だが、今俺を殺せなかった時点でお前は終わりだ」
サンドロは平然とした様子でそう言うと、剣をすらりと抜いた。
「いずれ殺すつもりだったからな。その時期が早まっただけだ。楽にしてやる」
サンドロはファウストのほうへゆっくりと歩いていく。だがファウストはがっくりとうなだれ、相変わらず呼吸が整っていない様子だ。そしてサンドロがファウストまであと数メートルの距離まで迫ったちょうどそのときだった。
ファウストは顔を上げ、ニタリと笑った。
「今です!」
ファウストの命令と共に隠れていた五名の兵士が一斉に、サンドロに向けて矢を放った。だがサンドロは事もなげにそれらをすべて剣で弾いた。
「なんだ。これだけか?」
するとファウストはニヤリと笑った。
と、次の瞬間、サンドロの背後から緑色の巨大な何かがものすごい速さでサンドロに向かって突っ込んできた。
「っ!?」
サンドロはすんでのところでそれを回避するが、その緑色の巨大な何かを見て驚愕の表情を浮かべた。
「なっ!? まさか……」
================
次回更新は通常どおり、2024/04/21 (日) 18:00 を予定しております。
「ファウスト坊ちゃま! いえ、公爵閣下! 大変です! サンドロ坊ちゃまが魔の森から戻られ、我々に攻撃を仕掛けてきております!」
「なっ!? どうしてこんなに早く!?」
ファウストは慌てた様子で伝令の男を問い詰めるが、伝令の男は困ったような表情を浮かべる。
「いえ、その……私にはさっぱり……」
「ちっ。まあいいでしょう。それはそうと、まずはサンドロの対処ですね」
ファウストはぶつぶつと何かを考え始めた。
「あの、我々はどうすれば……」
するとファウストは小さく舌打ちをした。
「モンスターは街壁を利用して迎え撃ちなさい。空を飛ぶモンスターはこちらで対処します」
「ええと、サンドロ坊ちゃまは……」
「それも私が対処します。何か不明点はありますか?」
「いえ……」
「ならさっさと行きなさい!」
「ははっ!」
こうしてファウストは想定外に早くコルティナに戻ってきたサンドロに対抗するため、執務室を後にしたのだった。
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コルティナの上空に、サンドロを乗せたレッドドラゴンに率いられたワイバーンの軍団が現れた。ワイバーンたちはマッツィアーノ公爵邸の中庭に着陸をしようと高度を下げていく。
それを阻止しようと多くの矢が放たれ、また吹雪や風による攻撃も行われているのだが……。
「やれ」
サンドロが短くそう命じると、レッドドラゴンは巨大な火の玉を中庭に向けて放った。するとあっという間に中庭を守る部隊は蹴散らされ、ワイバーンたちは次々と中庭に着陸していく。
そこへファウストが駆けつけ、上空から見下ろしてくるサンドロを睨みつけた。その顔には怒り、そして憎悪がはっきりと浮かんでいるが、一方のサンドロはそんなファウストを冷たい目で見下ろす。
「俺に勝てないことは分かっているはずだがな。もしや雑兵を寄せ集めれば勝てるとでも思ったか?」
「ふん。笑っていられるのも今のうちですよ!」
ファウストはそう叫ぶと、その身に黒いオーラを纏った。
「ご自慢のワイバーン軍団を奪ってやりましょう」
ファウストが手を突き出すと、どす黒いオーラの奔流が着陸したワイバーンたちを襲う。
「さあ、いい気になっているお前たちの元主人を叩き落としなさい」
するとワイバーンたちは一斉に飛び立ち、サンドロの騎乗するレッドドラゴンとそれを守るように待機していた数体のワイバーンに襲い掛かる。
「何っ!? くっ! 貴様ら! 止まれ!」
サンドロはそう言って慌てて手を突き出した。だがワイバーンたちはサンドロの命令を聞かず、サンドロの配下だったワイバーンたちも命令が遅れたこともあり、次々と倒されていく。
「はあっ!」
サンドロはすぐさまレッドドラゴンに命令を出して高度を上げた。ワイバーンとレッドドラゴンでは速度が違うのか、ワイバーンの群れは距離を離されていく。
ワイバーンたちはそれを追いかけるが、レッドドラゴンは火の玉を吐き出して応戦した。数体のワイバーンはその直撃を受けて落下していくが、残るワイバーンたちはそれを掻い潜ってレッドドラゴンに迫っていく。
サンドロはレッドドラゴンを巧みに操って次々とワイバーンを撃墜していくが、さすがに多勢に無勢だ。やがて一体のワイバーンがレッドドラゴンの尻尾に噛みつく。
レッドドラゴンはなんとかそれを振り落とそうとするが、そうして動きが鈍ったところに一体、また一体と噛みつき、やがて錐もみしながら地面に落下していく。
ドスン。
重たい音とともに地面から土煙が上がった。
そこへ残っていたワイバーンが襲い掛かる……かと思われたのだが、なんとワイバーンたちは突然ぴたりと攻撃を止めた。そしてくるりとファウストのほうへと向き直る。
「なるほど、お前のその力は制限時間があるのだな」
ワイバーンたちの間からサンドロが出てきた。体中から血を流してはいるものの、致命傷を負った様子はない。
一方のファウストはというと肩で息をしており、黒いオーラもいつの間にか消えていた。しかも吐血したようで、口元と左手に大量の血がこびりついている。
「弱者なりによく考えたようだな。だが、今俺を殺せなかった時点でお前は終わりだ」
サンドロは平然とした様子でそう言うと、剣をすらりと抜いた。
「いずれ殺すつもりだったからな。その時期が早まっただけだ。楽にしてやる」
サンドロはファウストのほうへゆっくりと歩いていく。だがファウストはがっくりとうなだれ、相変わらず呼吸が整っていない様子だ。そしてサンドロがファウストまであと数メートルの距離まで迫ったちょうどそのときだった。
ファウストは顔を上げ、ニタリと笑った。
「今です!」
ファウストの命令と共に隠れていた五名の兵士が一斉に、サンドロに向けて矢を放った。だがサンドロは事もなげにそれらをすべて剣で弾いた。
「なんだ。これだけか?」
するとファウストはニヤリと笑った。
と、次の瞬間、サンドロの背後から緑色の巨大な何かがものすごい速さでサンドロに向かって突っ込んできた。
「っ!?」
サンドロはすんでのところでそれを回避するが、その緑色の巨大な何かを見て驚愕の表情を浮かべた。
「なっ!? まさか……」
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