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第154話 再びの交流会(前編)
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十月も終わりに近づいた頃、俺たち銀狼の顎は総出でロネト伯爵領の領都ロネティアにやってきた。
ロネティアはロネト湖という巨大な湖の湖畔に築かれた町で、ロネト伯爵領はその水を利用した大規模な農業でパクシーニ王国を支える穀倉地帯として有名な領地だ。
そしてマッツィアーノ公爵との関係を深めている領地としても広く知られている。おかげでモンスターの脅威とも無縁で、冒険者の間では冒険者ギルドに討伐依頼が存在しないということでも有名だ。
ではなぜそんな町にやってきたのかというと、国王様から、いや、正確に言えば宰相の意見を聞いた直後の国王様から依頼を受けたからだ。その依頼内容は十月末に行われる交流会の会場警備となる。
国王様からの依頼ということに加え、報酬がかなり良かったということもあって俺たちはこの依頼を引き受けたというわけだ。
そんなわけで俺たちは入念に準備を重ね、交流会の当日を迎えた。
交流会の会場はロネティア要塞というロネト湖に浮かぶ島に築かれた要塞で行われる。要塞といってもマッツィアーノ公爵家の庇護下に入って以来要塞として使われたことは一度もなく、今は湖に浮かぶ風光明媚な迎賓館となっている。
基本的に銀狼の顎の担当は会場の外の警備だが、俺だけは国王様のすぐ近くで警護に当たる。
ちなみに今回の交流会には、第二王子と聖女リーサが参加するのだそうだ。にもかかわらずわざわざ俺をそばに置くということは、きっと聖女リーサのヒールが十分なレベルに到達していないのだろう。
また、これはどうでもいい話ではあるのだが、最近第二王子と聖女リーサがガルポーレで人魚を怒らせて出禁になったという妙な噂が流れている。
たしかにガルポーレと人魚の里の間にはマリンという架け橋がある。マリンはかなり明るい性格だし、村長とは血のつながった家族だ。そこに何かしらの交流が生まれているであろうことは十分に想像がつく。
ただ、出禁というのはさっぱり意味が分からない。一体何をしたら出禁になるのだろうか?
しかもこの国の第二王子だぞ? あのよく分からない聖女リーサはさておき、第二王子は王太子殿下がマッツィアーノに囚われている今、かなり有力な王位継承者候補だ。
普通に考えたら出禁になどできるはずがないのだが……。
……そういえば、マリンやアクアちゃん、それに人魚の里のみんなは元気だろうか?
すべてが終わったらあの長閑なガルポーレで少しゆっくりするのもいいかもしれないな。
と、そんな話はさておき、俺たちの警備するメインホールに国王様の一行がやってきた。メンバーは国王様と第二王子、そして聖女リーサの三名だ。
一方のマッツィアーノ側はというと、マッツィアーノ公爵とティティ、そしてサンドロ・ディ・マッツィアーノの三名が参加するという通告が来ている。
王太子殿下を誘拐したサンドロを連れてくるのは武力の誇示で、女性であるティティを連れてくるのは宥和の意思の現れということだろうか?
ちなみにもう毎度のことで疑問にすら思わなくなってきているのだが、もちろんマッツィアーノの参加者が来る気配はまったくない。
感覚が完全に麻痺している俺たちは今さらなんとも思わないが、そうでない第二王子はすでにイライラし始めている。
「父上! これはどういうことですか! 王家との交流会に遅刻するなど!」
「マルコ、落ち着くのじゃ。いつものことじゃ」
「いつも!? 父上! これは王家に対する侮辱です!」
「マルコ……」
国王様はすっかり困り果ててしまったようだ。なんとか第二王子をなだめすかそうとしているが、マルコは怒りが収まらないらしく、ずっと文句を言い続けている。
聖女リーサも国王様に加わってなだめようとしてはいるものの、マッツィアーノが失礼なことをしているのは事実であるためそれも上手くいっていない。
そして、一時間が経過した。
マッツィアーノはやって来ない。
二時間が経過した。
まだ来ない。
三時間が経過した。第二王子は文句を言い続けることのに疲れてしまったのか、隅に置かれた椅子に座ってすっかり不貞腐れている。
だがやはりマッツィアーノは来ない。
そして四時間が経過した。さすがにもう来ないだろうという雰囲気になり、撤収を考え始めたころにようやくマッツィアーノがやってきた。
だが現れたのはクルデルタとティティの二人だけで、サンドロの姿がない。
俺は久しぶりに元気そうなティティの姿を見ることができ、ホッとしたのと同時に胸が高鳴った。
なぜならティティは見違えるほど綺麗になっていて、一昨年よりももっともっと魅力的になっていたからだ。背こそもう俺のほうが高くなっているが、体つきははっきりと丸みを帯び、大人の女性とも遜色が、いや、一般的な大人の女性よりもかなりスタイルがいい。
それに顔つきからもあどけなさがかなり抜けていて、かなり大人の女性のそれへと変わっている。
そんなティティは贅を尽くした薄紫の煌びやかなドレスに身を包んでおり、レースで隠された胸元には俺のプレゼントした闇の聖女の首飾りが輝いている。
似合っている。普通の女性ならその派手なドレスに負けてしまいそうだが、ティティにはものすごく似合っている。
「やあ、陛下。待たせてしまったな。本当はサンドロも連れてきたかったのだが、少々仕事が立て込んでしまっていてな。明日のパーティーには参加できるはずだから気を悪くしないでくれ」
「うむ。公爵よ。気にしておらんぞ。儂と公爵の仲ではないか」
「ははは、そうだな」
なんと珍しくマッツィアーノが待たせたことを認めた。四時間遅刻しておいて謝罪しないあたりはさすがだが、それでも待たせたことを認めるなんて明日は槍でも降るのではないだろうか?
だがマッツィアーノがこういう態度ということは、さすがに今回は平穏に終わるだろう。
そんな期待を抱いてしまったのだが、すぐにそれが幻想だということを思い知らされる。
「おや? 今回は第二王子が来ると聞いていたが……ああ、アレがそうか」
クルデルタは意地の悪い笑みを浮かべ、国王様を煽り始めたのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/04/18 (木) 18:00 を予定しております。
ロネティアはロネト湖という巨大な湖の湖畔に築かれた町で、ロネト伯爵領はその水を利用した大規模な農業でパクシーニ王国を支える穀倉地帯として有名な領地だ。
そしてマッツィアーノ公爵との関係を深めている領地としても広く知られている。おかげでモンスターの脅威とも無縁で、冒険者の間では冒険者ギルドに討伐依頼が存在しないということでも有名だ。
ではなぜそんな町にやってきたのかというと、国王様から、いや、正確に言えば宰相の意見を聞いた直後の国王様から依頼を受けたからだ。その依頼内容は十月末に行われる交流会の会場警備となる。
国王様からの依頼ということに加え、報酬がかなり良かったということもあって俺たちはこの依頼を引き受けたというわけだ。
そんなわけで俺たちは入念に準備を重ね、交流会の当日を迎えた。
交流会の会場はロネティア要塞というロネト湖に浮かぶ島に築かれた要塞で行われる。要塞といってもマッツィアーノ公爵家の庇護下に入って以来要塞として使われたことは一度もなく、今は湖に浮かぶ風光明媚な迎賓館となっている。
基本的に銀狼の顎の担当は会場の外の警備だが、俺だけは国王様のすぐ近くで警護に当たる。
ちなみに今回の交流会には、第二王子と聖女リーサが参加するのだそうだ。にもかかわらずわざわざ俺をそばに置くということは、きっと聖女リーサのヒールが十分なレベルに到達していないのだろう。
また、これはどうでもいい話ではあるのだが、最近第二王子と聖女リーサがガルポーレで人魚を怒らせて出禁になったという妙な噂が流れている。
たしかにガルポーレと人魚の里の間にはマリンという架け橋がある。マリンはかなり明るい性格だし、村長とは血のつながった家族だ。そこに何かしらの交流が生まれているであろうことは十分に想像がつく。
ただ、出禁というのはさっぱり意味が分からない。一体何をしたら出禁になるのだろうか?
しかもこの国の第二王子だぞ? あのよく分からない聖女リーサはさておき、第二王子は王太子殿下がマッツィアーノに囚われている今、かなり有力な王位継承者候補だ。
普通に考えたら出禁になどできるはずがないのだが……。
……そういえば、マリンやアクアちゃん、それに人魚の里のみんなは元気だろうか?
すべてが終わったらあの長閑なガルポーレで少しゆっくりするのもいいかもしれないな。
と、そんな話はさておき、俺たちの警備するメインホールに国王様の一行がやってきた。メンバーは国王様と第二王子、そして聖女リーサの三名だ。
一方のマッツィアーノ側はというと、マッツィアーノ公爵とティティ、そしてサンドロ・ディ・マッツィアーノの三名が参加するという通告が来ている。
王太子殿下を誘拐したサンドロを連れてくるのは武力の誇示で、女性であるティティを連れてくるのは宥和の意思の現れということだろうか?
ちなみにもう毎度のことで疑問にすら思わなくなってきているのだが、もちろんマッツィアーノの参加者が来る気配はまったくない。
感覚が完全に麻痺している俺たちは今さらなんとも思わないが、そうでない第二王子はすでにイライラし始めている。
「父上! これはどういうことですか! 王家との交流会に遅刻するなど!」
「マルコ、落ち着くのじゃ。いつものことじゃ」
「いつも!? 父上! これは王家に対する侮辱です!」
「マルコ……」
国王様はすっかり困り果ててしまったようだ。なんとか第二王子をなだめすかそうとしているが、マルコは怒りが収まらないらしく、ずっと文句を言い続けている。
聖女リーサも国王様に加わってなだめようとしてはいるものの、マッツィアーノが失礼なことをしているのは事実であるためそれも上手くいっていない。
そして、一時間が経過した。
マッツィアーノはやって来ない。
二時間が経過した。
まだ来ない。
三時間が経過した。第二王子は文句を言い続けることのに疲れてしまったのか、隅に置かれた椅子に座ってすっかり不貞腐れている。
だがやはりマッツィアーノは来ない。
そして四時間が経過した。さすがにもう来ないだろうという雰囲気になり、撤収を考え始めたころにようやくマッツィアーノがやってきた。
だが現れたのはクルデルタとティティの二人だけで、サンドロの姿がない。
俺は久しぶりに元気そうなティティの姿を見ることができ、ホッとしたのと同時に胸が高鳴った。
なぜならティティは見違えるほど綺麗になっていて、一昨年よりももっともっと魅力的になっていたからだ。背こそもう俺のほうが高くなっているが、体つきははっきりと丸みを帯び、大人の女性とも遜色が、いや、一般的な大人の女性よりもかなりスタイルがいい。
それに顔つきからもあどけなさがかなり抜けていて、かなり大人の女性のそれへと変わっている。
そんなティティは贅を尽くした薄紫の煌びやかなドレスに身を包んでおり、レースで隠された胸元には俺のプレゼントした闇の聖女の首飾りが輝いている。
似合っている。普通の女性ならその派手なドレスに負けてしまいそうだが、ティティにはものすごく似合っている。
「やあ、陛下。待たせてしまったな。本当はサンドロも連れてきたかったのだが、少々仕事が立て込んでしまっていてな。明日のパーティーには参加できるはずだから気を悪くしないでくれ」
「うむ。公爵よ。気にしておらんぞ。儂と公爵の仲ではないか」
「ははは、そうだな」
なんと珍しくマッツィアーノが待たせたことを認めた。四時間遅刻しておいて謝罪しないあたりはさすがだが、それでも待たせたことを認めるなんて明日は槍でも降るのではないだろうか?
だがマッツィアーノがこういう態度ということは、さすがに今回は平穏に終わるだろう。
そんな期待を抱いてしまったのだが、すぐにそれが幻想だということを思い知らされる。
「おや? 今回は第二王子が来ると聞いていたが……ああ、アレがそうか」
クルデルタは意地の悪い笑みを浮かべ、国王様を煽り始めたのだった。
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