147 / 208
第147話 聖女リーサの登場
しおりを挟む
俺たちは大量の荷物を背負い、ボアゾ村の跡地へと戻ってきた。するとそこにはクレートとバルドが呼んでくれた荷物持ちの元従騎士のメンバーたちがやってきていた。
「レクス卿! お帰りなさい! 良かった! 無事だったんですね!」
「ああ、ただいま。それに遅くなってすまない」
「いえ! それにしても、すごい量ですね」
「ああ。だが魔の森の奥にあった次元の裂け目は閉じたぞ。これで魔の森も少しは落ち着くはずだ」
すると元従騎士のメンバーたちはわぁっと歓声を上げる。
俺はちらりと森のほうを振り返った。すると俺たちをずっと上空で監視していたダーククロウが森のほうへと帰っていくのが見える。
「あ! あのダーククロウ……」
「本当にリーダーの言うとおり、何もしてこなかったわね」
テオとキアーラさんが不思議そうにその姿を見送っている。
すると、元従騎士の一人が話に割り込んできた。
「キアーラ卿、すみません。詳しく教えていただけませんか? ダーククロウがどうしたんですか?」
「え? ええ。私たちが森の中にいる間、ダーククロウがずっと付いて来ていたのよ。何もされなかったんだけど、ただ、モンスターなのにずっと襲ってこなかったのが変でね」
「やっぱり」
「やっぱり? それってどういうこと?」
「実は最近、各地でダーククロウの数がものすごい減ったんですよ。それに、人を襲わなくなっているんです」
「え? そうなの? そういえばここしばらくダーククロウに襲われた記憶がないわね。弱いモンスターだから気にも留めていなかったけれど……」
なるほど。そういうことか。理由はなんとなく察しがつくが、今は話すべきではないだろう。
「まあ、数が減ったのはいいことなんじゃないか?」
「それはそうですけど、やっぱり気持ち悪いじゃないですか。どうせならアサシンラットとかが減ってくれればいいんですけど……」
「ああ、たしかにそうね」
「はい……」」
「うーん、よく分からないけど、あたしたちの荷物、運ぶの手伝ってくれる?」
「はい!」
こうして俺たちは大量の素材を背負い、帰路に就くのだった。
◆◇◆
俺たちがレムロスへと戻ってくると、すでに六月になっていた。予定外の長期遠征となってしまったが、それだけの価値のある遠征だったと思う。
だが……。
「レクスくん、いくらマッシモ様に言われたからってどうしてこんなにずるずると予定を伸ばしたのかしら?」
「すみません」
帰ってくるなり、俺はニーナさんに大目玉をくらってしまった。
「もともと四月中には帰ってくる予定だったはずよね? しかも討伐依頼じゃなくてただの興味本位でしょう? どうして予定どおりにちゃんと戻って来ないのかしら? 銀狼の顎はレクスくんがリーダーでしょう? リーダーがきっちりしていないと信用をなくすわよ?」
「はい。すみません」
「じゃあ、依頼を頑張ってくれているマルツィオ卿とクレメンテ卿にちゃんとお礼を言っておいて。二人が上手くやりくりして依頼を回してくれてるんだから」
「はい。あの、二人はどこに?」
「出張中よ。それより、レクスくんは今から働いてもらうわよ」
「え?」
「レッサーポーションと光の矢、それに光のナイフも。もう在庫が空で、予約分もこんなにあるのよ。光属性魔法が使えるのはレクスくんだけなんだから、しっかり働いてもらうわよ」
「は、はい」
こうして俺は疲れた体を休める暇もなく、商品在庫の補充を行うのだった。
◆◇◆
そうして必死に在庫の補充を行っていると、国王様と王妃の連名で召喚状が届いた。詳しくは書かれていないが、何やらパーティーを開くので出席しろとのことだ。そして俺に引き合わせたい人がいるらしい。
王妃の名前が入っている時点で嫌な予感しかないが、さすがにこれを無視するわけにはいかない。
俺はキアーラさんにホーリーを込めるのを任せ、一人でお城のパーティー会場へとやってきた。会場が大ホールではなく小ホールなので、パーティーの規模はあまり大きくないようだ。
会場の隅でパーティーの開始を待っていると、続々と参加者がやってくる。こういうパーティーでは参加者が入ってくると名前が会場に告げられるのだが、大臣やら団長やら貴族家の長男やら、人数が少ない割にはやたらと呼ばれる名前が豪華なのは一体どういうことだろうか?
疑問に思っていると、ファンファーレが鳴り響いた。
「国王陛下、王妃陛下のご到着です」
そう告げられ、国王様と王妃が俺たちの入場した扉とは別の扉から入ってきた。高齢の国王様に若い王妃が寄り添っている。
「皆さん、今日はようこそお越しくださいました」
王妃が通る声でホールに集まった招待客に話し掛ける。
「本日は我が国に新たに現れた希望の光、聖女リーサを皆さんにご紹介します」
聖女リーサ? あれ? どこかで聞き覚えがあるような?
……だめだ。思い出せない。絶対に知っている名前のはずなのだが……。
そうしてモヤモヤしながら登場を待っていると、第二王子が隣にピンク色のやたらと目立つ髪色の美少女を連れて入室してきた。
あっ! 思い出した! 聖女リーサって、ブラウエルデ・クロニクルのオープニングムービーにだけ登場した原作小説の聖女様じゃないか!
たしか……聖女リーサの力は受け継がれなかった、みたいな文言が添えられていたような?
ということはつまり、原作小説の敵役だったティティを殺した女でもあるということでもある。
聖女なのだからきっと善人なんだろうとは思うが、ティティにとっては最悪の敵ということにもなりかねない相手だ。念には念を入れて、警戒しておくに越したことはないだろう。
そんなことを考えつつ、俺は入場してくる聖女リーサと第二王子の姿をじっと見つめるのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/04/11 (木) 18:00 を予定しております。
「レクス卿! お帰りなさい! 良かった! 無事だったんですね!」
「ああ、ただいま。それに遅くなってすまない」
「いえ! それにしても、すごい量ですね」
「ああ。だが魔の森の奥にあった次元の裂け目は閉じたぞ。これで魔の森も少しは落ち着くはずだ」
すると元従騎士のメンバーたちはわぁっと歓声を上げる。
俺はちらりと森のほうを振り返った。すると俺たちをずっと上空で監視していたダーククロウが森のほうへと帰っていくのが見える。
「あ! あのダーククロウ……」
「本当にリーダーの言うとおり、何もしてこなかったわね」
テオとキアーラさんが不思議そうにその姿を見送っている。
すると、元従騎士の一人が話に割り込んできた。
「キアーラ卿、すみません。詳しく教えていただけませんか? ダーククロウがどうしたんですか?」
「え? ええ。私たちが森の中にいる間、ダーククロウがずっと付いて来ていたのよ。何もされなかったんだけど、ただ、モンスターなのにずっと襲ってこなかったのが変でね」
「やっぱり」
「やっぱり? それってどういうこと?」
「実は最近、各地でダーククロウの数がものすごい減ったんですよ。それに、人を襲わなくなっているんです」
「え? そうなの? そういえばここしばらくダーククロウに襲われた記憶がないわね。弱いモンスターだから気にも留めていなかったけれど……」
なるほど。そういうことか。理由はなんとなく察しがつくが、今は話すべきではないだろう。
「まあ、数が減ったのはいいことなんじゃないか?」
「それはそうですけど、やっぱり気持ち悪いじゃないですか。どうせならアサシンラットとかが減ってくれればいいんですけど……」
「ああ、たしかにそうね」
「はい……」」
「うーん、よく分からないけど、あたしたちの荷物、運ぶの手伝ってくれる?」
「はい!」
こうして俺たちは大量の素材を背負い、帰路に就くのだった。
◆◇◆
俺たちがレムロスへと戻ってくると、すでに六月になっていた。予定外の長期遠征となってしまったが、それだけの価値のある遠征だったと思う。
だが……。
「レクスくん、いくらマッシモ様に言われたからってどうしてこんなにずるずると予定を伸ばしたのかしら?」
「すみません」
帰ってくるなり、俺はニーナさんに大目玉をくらってしまった。
「もともと四月中には帰ってくる予定だったはずよね? しかも討伐依頼じゃなくてただの興味本位でしょう? どうして予定どおりにちゃんと戻って来ないのかしら? 銀狼の顎はレクスくんがリーダーでしょう? リーダーがきっちりしていないと信用をなくすわよ?」
「はい。すみません」
「じゃあ、依頼を頑張ってくれているマルツィオ卿とクレメンテ卿にちゃんとお礼を言っておいて。二人が上手くやりくりして依頼を回してくれてるんだから」
「はい。あの、二人はどこに?」
「出張中よ。それより、レクスくんは今から働いてもらうわよ」
「え?」
「レッサーポーションと光の矢、それに光のナイフも。もう在庫が空で、予約分もこんなにあるのよ。光属性魔法が使えるのはレクスくんだけなんだから、しっかり働いてもらうわよ」
「は、はい」
こうして俺は疲れた体を休める暇もなく、商品在庫の補充を行うのだった。
◆◇◆
そうして必死に在庫の補充を行っていると、国王様と王妃の連名で召喚状が届いた。詳しくは書かれていないが、何やらパーティーを開くので出席しろとのことだ。そして俺に引き合わせたい人がいるらしい。
王妃の名前が入っている時点で嫌な予感しかないが、さすがにこれを無視するわけにはいかない。
俺はキアーラさんにホーリーを込めるのを任せ、一人でお城のパーティー会場へとやってきた。会場が大ホールではなく小ホールなので、パーティーの規模はあまり大きくないようだ。
会場の隅でパーティーの開始を待っていると、続々と参加者がやってくる。こういうパーティーでは参加者が入ってくると名前が会場に告げられるのだが、大臣やら団長やら貴族家の長男やら、人数が少ない割にはやたらと呼ばれる名前が豪華なのは一体どういうことだろうか?
疑問に思っていると、ファンファーレが鳴り響いた。
「国王陛下、王妃陛下のご到着です」
そう告げられ、国王様と王妃が俺たちの入場した扉とは別の扉から入ってきた。高齢の国王様に若い王妃が寄り添っている。
「皆さん、今日はようこそお越しくださいました」
王妃が通る声でホールに集まった招待客に話し掛ける。
「本日は我が国に新たに現れた希望の光、聖女リーサを皆さんにご紹介します」
聖女リーサ? あれ? どこかで聞き覚えがあるような?
……だめだ。思い出せない。絶対に知っている名前のはずなのだが……。
そうしてモヤモヤしながら登場を待っていると、第二王子が隣にピンク色のやたらと目立つ髪色の美少女を連れて入室してきた。
あっ! 思い出した! 聖女リーサって、ブラウエルデ・クロニクルのオープニングムービーにだけ登場した原作小説の聖女様じゃないか!
たしか……聖女リーサの力は受け継がれなかった、みたいな文言が添えられていたような?
ということはつまり、原作小説の敵役だったティティを殺した女でもあるということでもある。
聖女なのだからきっと善人なんだろうとは思うが、ティティにとっては最悪の敵ということにもなりかねない相手だ。念には念を入れて、警戒しておくに越したことはないだろう。
そんなことを考えつつ、俺は入場してくる聖女リーサと第二王子の姿をじっと見つめるのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/04/11 (木) 18:00 を予定しております。
22
お気に入りに追加
155
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる