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第146話 魔の森の秘密
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「ほほう! あれが次元の裂け目なのじゃな! なるほど! 興味深いのう!」
マッシモさんは俺に制止されながらも、身を乗り出している。
「ええい、レクス卿。これでは調査ができんではないか」
「だって、手を放したらそのまま中に突入するじゃないですか。さすがに危ないですよ。魔界の影が出るかもしれないですし」
「むむむ……」
マッシモさんはしばらく悩んでいたが、突然突拍子もないことを言いだす。
「レクス卿、もしやこれは次元の裂け目の発生装置ではないか?」
「え? 発生装置?」
「ふむ。その様子からすると、レクス卿は今までに発生装置は見たことはないのじゃな?」
「はい……あれ? あ! いえ、ありますね」
「むっ!? それはどこでじゃ? どんなものじゃった?」
「ええと、魔竜ウルガーノのねぐらで、指輪がそうでした」
「ふむ。なるほどのう。そのときはどうしたのじゃ?」
「適当にホーリーとかサンクチュアリとか掛けたらいつの間にか消えてました」
「ふむふむ。そういうことなら、きっとこれも同じ方法でどうにかなるじゃろう。しばらくここから観察するのじゃ」
「はい」
こうして遠巻きに観察していると、次元の裂け目から黒い靄のようなものが噴き出してきた。それはすぐに黒い石畳に吸収され、続いて魔法陣が黒い光を放ち始める。
「おお! これは!」
マッシモさんは興奮が抑えきれないようだ。
やがて光が消えると、祭壇の正面にエルダーディアが出現した。
「むむむ!」
エルダーディアは左右をきょろきょろと見回すと、そのまま真っすぐに俺たちのほうへと歩いてくる。
どうやらエルダーディアは俺たちに気付いたようだ。
「リーダー、私が!」
キアーラさんはそう言うと矢を番えてホーリーをエンチャントし、狙いをつける。
パシン!
キアーラさんの放った矢は見事にエルダーディアの胴体に突き刺さり、すぐさまホーリーが発動した。エルダーディアはそのまま地面に崩れ落ちる。
「ふーむ、なるほどのう。あの黒い靄がモンスターの素というわけじゃな。もうしばらく観察するぞい」
「はい」
それからしばらく観察を続けた結果、この怪しげな祭壇はおよそ十分に一匹ほどのペースでモンスターを生み出していることが分かった。
「ふむ。次は魔法陣を調べるのじゃ」
そう言ってモンスターが出現する合間の時間を使ってマッシモさんは魔法陣の調査を開始する。
「ふむふむ。なるほどのう。ほほう! こんな使い方があるのじゃな。この発想はなかったのう。む? むむむ! そういうことか! これは面白いのう」
「マッシモさん! 時間です!」
「む? もうか。仕方ないのう」
マッシモさんを下げ、俺たちは出現したシルバーウルフを倒す。
「ふむ。やはり予想どおりじゃな。ということは……」
マッシモさんは再び調査を始めるのだった。
◆◇◆
そのまま俺たちは一週間ほどこの怪しげな場所に留まり、調査と狩りを続けた。
マッシモさんの調査によると、どうやらこの施設には次元の裂け目を生み出す機能はなく、次元の裂け目から出現するモンスターを制御するためのものなのだそうだ。
そこまで分かった時点で本来であればさっさと潰したほうが良いのだろうが、はっきり言ってここの狩りがあまりにも美味しすぎるのだ。
何しろモンスターの出現場所が数か所に固定されているうえ、出現周期もほぼ一定なのだ。しかもモンスターが現れる予兆まであるため、多少周期がズレたとしても簡単に対応できる。しかも湧いた瞬間のモンスターは周囲の状況を把握していないため、完全に無防備な状態だ。
そのためホーリーを込めた何かしらの刃物さえ持ってさえいれば、いわゆる湧き待ちでの狩りができてしまう。
そんなこんなで俺たちは大量の光の欠片と魔石、そして毛皮や角などの素材を手に入れた。
そしてついにマッシモさんが解析の完了を宣言した。
「うむ。これで次元の裂け目と闇の欠片さえあればどこにでも同じものを作れるはずじゃ」
そう言ってマッシモさんは魔法陣に何かを書き加えた。
「これでこの装置は動かぬぞ。さあ、次元の裂け目を潰すのじゃ。まずは闇の欠片にサンクチュアリを掛けて、装置から取り外すのじゃ」
「はい」
美味しい狩りができなくなってやや残念ではあるが、仕方がない。
俺はキアーラさんと手分けして、まずは柱に納められている闇の欠片から取り出していく。そして祭壇の巨大な闇の欠片にサンクチュアリを掛けてから回収した。
するとマッシモさんが魔法陣に何かを書き込み、魔力を通した。すると魔法陣が白い光を放つ。
「気を付けるのじゃ。次元の裂け目の制御が外れるぞ」
マッシモさんがそう警告をした次の瞬間、魔法陣が粉々に砕け散った。するとすぐに次元の裂け目から魔界の影がぬっと姿を現す。
「魔界の影だ! キアーラさん!」
「はい! リーダー!」
キアーラさんがホーリーを込めた矢を射掛けた。俺もすぐに身体強化を掛けて飛び上がり、魔界の影に全力でホーリーを叩き込む。
魔界の影は大ダメージを受けたのか、すぐに無差別モードとなった。俺はそれを石柱の陰に隠れてやり過ごし、再び攻撃を仕掛ける。
それを何度か繰り返していると、やがて魔界の影は闇の欠片を残して消滅した。
こうして俺たちは魔の森の奥にあった次元の裂け目を閉じることに成功したのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/04/10 (水) 18:00 を予定しております。
マッシモさんは俺に制止されながらも、身を乗り出している。
「ええい、レクス卿。これでは調査ができんではないか」
「だって、手を放したらそのまま中に突入するじゃないですか。さすがに危ないですよ。魔界の影が出るかもしれないですし」
「むむむ……」
マッシモさんはしばらく悩んでいたが、突然突拍子もないことを言いだす。
「レクス卿、もしやこれは次元の裂け目の発生装置ではないか?」
「え? 発生装置?」
「ふむ。その様子からすると、レクス卿は今までに発生装置は見たことはないのじゃな?」
「はい……あれ? あ! いえ、ありますね」
「むっ!? それはどこでじゃ? どんなものじゃった?」
「ええと、魔竜ウルガーノのねぐらで、指輪がそうでした」
「ふむ。なるほどのう。そのときはどうしたのじゃ?」
「適当にホーリーとかサンクチュアリとか掛けたらいつの間にか消えてました」
「ふむふむ。そういうことなら、きっとこれも同じ方法でどうにかなるじゃろう。しばらくここから観察するのじゃ」
「はい」
こうして遠巻きに観察していると、次元の裂け目から黒い靄のようなものが噴き出してきた。それはすぐに黒い石畳に吸収され、続いて魔法陣が黒い光を放ち始める。
「おお! これは!」
マッシモさんは興奮が抑えきれないようだ。
やがて光が消えると、祭壇の正面にエルダーディアが出現した。
「むむむ!」
エルダーディアは左右をきょろきょろと見回すと、そのまま真っすぐに俺たちのほうへと歩いてくる。
どうやらエルダーディアは俺たちに気付いたようだ。
「リーダー、私が!」
キアーラさんはそう言うと矢を番えてホーリーをエンチャントし、狙いをつける。
パシン!
キアーラさんの放った矢は見事にエルダーディアの胴体に突き刺さり、すぐさまホーリーが発動した。エルダーディアはそのまま地面に崩れ落ちる。
「ふーむ、なるほどのう。あの黒い靄がモンスターの素というわけじゃな。もうしばらく観察するぞい」
「はい」
それからしばらく観察を続けた結果、この怪しげな祭壇はおよそ十分に一匹ほどのペースでモンスターを生み出していることが分かった。
「ふむ。次は魔法陣を調べるのじゃ」
そう言ってモンスターが出現する合間の時間を使ってマッシモさんは魔法陣の調査を開始する。
「ふむふむ。なるほどのう。ほほう! こんな使い方があるのじゃな。この発想はなかったのう。む? むむむ! そういうことか! これは面白いのう」
「マッシモさん! 時間です!」
「む? もうか。仕方ないのう」
マッシモさんを下げ、俺たちは出現したシルバーウルフを倒す。
「ふむ。やはり予想どおりじゃな。ということは……」
マッシモさんは再び調査を始めるのだった。
◆◇◆
そのまま俺たちは一週間ほどこの怪しげな場所に留まり、調査と狩りを続けた。
マッシモさんの調査によると、どうやらこの施設には次元の裂け目を生み出す機能はなく、次元の裂け目から出現するモンスターを制御するためのものなのだそうだ。
そこまで分かった時点で本来であればさっさと潰したほうが良いのだろうが、はっきり言ってここの狩りがあまりにも美味しすぎるのだ。
何しろモンスターの出現場所が数か所に固定されているうえ、出現周期もほぼ一定なのだ。しかもモンスターが現れる予兆まであるため、多少周期がズレたとしても簡単に対応できる。しかも湧いた瞬間のモンスターは周囲の状況を把握していないため、完全に無防備な状態だ。
そのためホーリーを込めた何かしらの刃物さえ持ってさえいれば、いわゆる湧き待ちでの狩りができてしまう。
そんなこんなで俺たちは大量の光の欠片と魔石、そして毛皮や角などの素材を手に入れた。
そしてついにマッシモさんが解析の完了を宣言した。
「うむ。これで次元の裂け目と闇の欠片さえあればどこにでも同じものを作れるはずじゃ」
そう言ってマッシモさんは魔法陣に何かを書き加えた。
「これでこの装置は動かぬぞ。さあ、次元の裂け目を潰すのじゃ。まずは闇の欠片にサンクチュアリを掛けて、装置から取り外すのじゃ」
「はい」
美味しい狩りができなくなってやや残念ではあるが、仕方がない。
俺はキアーラさんと手分けして、まずは柱に納められている闇の欠片から取り出していく。そして祭壇の巨大な闇の欠片にサンクチュアリを掛けてから回収した。
するとマッシモさんが魔法陣に何かを書き込み、魔力を通した。すると魔法陣が白い光を放つ。
「気を付けるのじゃ。次元の裂け目の制御が外れるぞ」
マッシモさんがそう警告をした次の瞬間、魔法陣が粉々に砕け散った。するとすぐに次元の裂け目から魔界の影がぬっと姿を現す。
「魔界の影だ! キアーラさん!」
「はい! リーダー!」
キアーラさんがホーリーを込めた矢を射掛けた。俺もすぐに身体強化を掛けて飛び上がり、魔界の影に全力でホーリーを叩き込む。
魔界の影は大ダメージを受けたのか、すぐに無差別モードとなった。俺はそれを石柱の陰に隠れてやり過ごし、再び攻撃を仕掛ける。
それを何度か繰り返していると、やがて魔界の影は闇の欠片を残して消滅した。
こうして俺たちは魔の森の奥にあった次元の裂け目を閉じることに成功したのだった。
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