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第142話 精霊の泉の秘密

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 俺たちは聖女の首飾りを手に入れた廃集落へとやってきた。何もかもがあのときのままで、まるで時が止まったかのような光景だ。

「ほほう! ここがそうか! これはかなり古い廃集落じゃのう」

 マッシモさんは嬉々としてあちこちを調べて回っている。

 もしかして俺の気付かなかった何かが残っているのだろうか?

 そんなことを考えつつマッシモさんを見守っていたのだが、どうやら何もなかったようで、結局聖女の首飾りのあった塔にやってきた。あの日開いたはずの入口は閉じており、かつて俺が侵入した形跡はどこにも残っていない。

「ふーむ。この塔は封印されておるようじゃな」

 マッシモさんは塔の周囲から順番に色々なところを触って調べている。

「むむむ、儂の魔力では開かぬようじゃな。じゃがレクス卿、お主、前に来たときにここに入ったじゃろう?」
「え? どうしてそれを?」
「古いが、開いた跡があるからのう。見れば分かる」

 な、なるほど。さすがマッシモさんだ。

「さあ、それよりも早く開くのじゃ」
「はい」

 俺が入口の壁に触れると扉が開く。

「ふむ。やはり光属性の魔力が鍵じゃったな。中には何があったんじゃ?」
「階段があって、最上階には祭壇がありました」
「ふむ。祭壇か! それは楽しみじゃな」

 マッシモさんはワクワクしているのを隠すこともなく、塔の中へと入っていった。俺たちは慌ててそれを追いかける。

「ふーむ。なるほどのう」

 俺たちが最上階に着くと、マッシモさんはすでに祭壇の調査をしていた。

「おそらくここにはエルフの秘宝が納められておったのじゃろうな。特に封印の跡もないということは、おそらく秘宝はこの集落を廃棄するときに持ちだされておるはずじゃ」
「……」

 本当は聖女の首飾りがあったのだが、さすがにそれは口が裂けても言えない。

「じゃが、この祭壇には面白いことが書かれておるぞ」

 マッシモさんは祭壇の側面に掘られた何かの文字らしきものを見てニヤリと笑った。

「え? 何か分かったんですか?」
「うむ。簡単に言うと、満月が精霊の泉に宿る、いや映り込むときじゃな。切実で強い願いを持った無垢なる魂を持つ者がその在り様を答えることで、精霊の祝福を受けられると書かれておるのじゃ」
「えっ!?」
「つまり、あの泉の使い方が分かったということじゃ。さあ、精霊の泉に戻るのじゃ」

 そう言うと、マッシモさんは階段のほうへと向かった。

「え? え? もう?」
「何をしておるのじゃ。早くせい」
「あ、はい……」

 こうして俺たちは塔を出て、泉へと戻るのだった。

◆◇◆

 俺たちは次の満月に間に合うように、大急ぎで泉へと戻ってきた。泉にはすでに荷物持ちをしてくれているメンバーたちが補給物資を持って待機してくれている。

「ギリギリ間に合ったのう。さあ、どうじゃ?」

 マッシモさんはざぶざぶと泉の中へと入ったが、すぐにがっくりとうなだれた。

「あれ? ダメでした?」
「うむ。何も聞こえんのう。やはり儂はダメなようじゃ。ほれほれ、おぬしらも試してみるのじゃ」

 マッシモさんはテオとキアーラさんに話を振った。

「え? 俺らも?」
「うむ。おぬしら、童貞と処女じゃろ?」
「「はっ!?」」

 突然の指摘に二人の顔は真っ赤になった。

「うむ。やはりのう。それなら大丈夫じゃろ」
「マッシモさん、一体なんの関係があるんですか?」
「む? 知らんのか? エルフたちの伝承によると、精霊は混ざった魔力を嫌うとされておるのじゃ。セックスすると色々混ざるからのう」
「はい?」
「エルフがほとんどセックスしないのも魔力が混ざるのを嫌うからじゃな。元に戻すには大体百年ほどご無沙汰する必要があるそうじゃぞ」

 どうしてマッシモさんはそんなことを知っているのだろうか?

「む? なんじゃ? その顔は?」
「いえ、なんでそんんことを……」
「それは簡単なことじゃ。昔こっそりエルフの隠れ里に忍び込んだときに教えてもらったんじゃよ」
「はあ!? マッシモさん、エルフに会ったことあるんですか?」
「もちろんじゃ。あ、どこにあるか教えることはできんぞ。エルフの隠れ里の場所を教えたら死ぬ呪いを掛けられておるからな」
「……」

 なんというか、マッシモさんの経験があまりにもぶっ飛んでいて言葉が見つからない。

「というわけじゃ。おぬしらならどうにかなるかもしれんぞ?」
「じゃ、じゃあ俺から。レクス、どう答えればいいんだ?」
「ああ。それは――」

 俺は宣言するときの文言を教えた。するとテオは小さくうなずき、泉へと入っていく。

「我が名はテオ。剣をもって道を切り拓く者なり。我が意思は炎となり、必ずや我が敵を打ち倒さん。願わくば、我に追い風を!」

 テオが突如そう叫んだ。すると泉からは赤と緑の光の粒子が湧きあがり、テオの体を包み込む。光の粒子はその輝きを増していき、一瞬まばゆい光を放つとすぐに消えた。

「お、おい! レクス! おい! できたぞ!」
「テオ! やったな!」

 泉から上がってきたテオと俺は抱き合って喜んだ。

「これで俺も魔法使いだ。絶対に王太子殿下を助けて、ケヴィンさんたちの仇を取ってやる。ありがとう! レクス!」
「ああ」

 俺たちが喜び合っていると、キアーラさんが少し弾んだ声で声を掛けてくる。

「ねえ、リーダー。あたしにも教えてほしいな」
「はい」

 俺はキアーラさんにも文言を説明すると、キアーラさんは大きく頷いて泉に入っていった。

「我が名はキアーラ。弓を以て我が道を切り拓く者なり。我が意思は光となり、必ずや我が友を救わん。願わくば、我に命の水を!」

 キアーラさんはそう宣言した。すると泉からは白と青の光の粒子が沸き上がり、キアーラさんの体を包み込むと眩い光を放って消えた。

「やった! あたしも! あたしもできた!」
「キアーラさん、おめでとうございます。光と水ですか」
「ええ、そうなの。あたし、モンスターを絶対許せないし、助けられる人を助けたいからね」
「それで支援型に?」
「ええ。弓使いだし、こういうほうがいいでしょ?」
「それもそうですね」

 こうしてテオとキアーラさんの二人は精霊の祝福を受けることに成功したのだった。

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 次回更新は通常どおり、2024/04/06 (土) 18:00 を予定しております。
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