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第141話 再びの魔の森
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「レクス卿、儂、次元の裂け目が見たいのう」
「え? 次元の裂け目ですか?」
「うむ。モンスターが多い場所には次元の裂け目があるのじゃろう?」
「いえ、必ずしもそういうわけでは……」
「いや、これほど多いのじゃ。ということは、きっとどこかに次元の裂け目があるはずじゃ」
マッシモさんはキラキラと目を輝かせながらそう言ってきた。本来なら止めるべきところだが、このモードになったマッシモさんは一人でも魔の森に突っ込んでいってしまうだろう。
「仕方ないですね。どうせ止めても一人で行きますよね?」
「うむうむ。レクス卿も分かってきたではないか」
満足げに胸を張るマッシモさんに俺は思わずため息をつく。
「少しだけですよ? 見つからなかったらすぐに戻りますからね?」
「うむ。ちょっとだけじゃから!」
こうして俺たちは行き詰まった泉の調査を止め、魔の森の探索へと向かうのだった。
◆◇◆
俺たちはまず、泉の周囲に集まってきたモンスターを駆除した。そして荷物持ちをしてくれているメンバーにその素材の売却と補給物資の追加をお願いし、魔の森へと突入した。
魔の森のモンスターの密度は相変わらずで、あのときあれほど駆除したというのにモンスターの数はもう元に戻ったようだ。
あまりの数にキアーラさんは緊張した面持ちで呟く。
「すごい数ね」
「はい。魔の森って言うくらいですから」
「獲物がたくさんいるのはいいけれど、さすがにこれはちょっと多すぎね。注意していきましょう」
そんな中、マッシモさんは好奇心が抑えきれない様子だ。
「うむ。そうじゃのう。ワクワクするのう。これはきっと、特大の次元の裂け目があるに違いないのう……む? そこじゃ!」
マッシモさんはこちらに向かって来ようとしていたフォレストウルフを水の矢で撃ち抜いた。
さすがは王宮魔術師の筆頭なだけはあって、その魔法は強力で、魔法のチョイスも的確だ。遠くにいるモンスターは長射程の水の矢で、近寄ってくるモンスターは水流で接近を拒否する。まさに魔術師のお手本のような戦い方だ。
どうやらAランク冒険者だというのも決して伊達ではないようだ。
そうしてひたすらにモンスターを駆除しながら森の中を進んでいると、マッシモさんが何かに気が付いたようだ。
「うむ?」
「どうしたんですか? 何か見つけたんですか?」
「ううむ、この森は……」
マッシモさんが突然近くの木や地面を調べ始めた。一体何をしているのだろう?」
「レクス卿、以前にもここに来たことがあると言っておったな?」
「はい」
「この先に集落、いや、廃集落はなかったかね?」
「え? よくわかりましたね」
「やはり!」
「やはり? どういうことですか?」
「うむ。ここを見るのじゃ。ここに結界の痕跡があるのが分かるじゃろう?」
「え?」
マッシモさんの指し示した地面を見るが、さっぱり分からない。
「何をしておるんじゃ。魔力を感じ取るんじゃ。結界の残滓のせいで自然の魔力の流れが歪になっておるじゃろう?」
「ええと……」
言われてみればどことなく変なような、そんなこともないような?
「ふむ。レクス卿もまだまだじゃのう。ほれ、ここじゃ。ここに手を当ててみい」
「はい……」
マッシモさんの指し示した場所に手を付いてみた。するとたしかに自分の魔力がほんのわずかではあるが、妙な動きをしている。
「あ、たしかに……」
「じゃろう? これはエルフの隠れ里を守る結界の痕跡じゃ。ここまで薄くなっておるということは、結界がなくなってかなりの時間が経っておる。百年、いや、もしかすると数百年経っておるかもしれんのう」
「よく知っていますね」
「うむ。エルフの結界はなんども調べたからのう」
「……もしかして、現役の結界も調べてたりします?」
「もちろんじゃ! アレは興味深かったぞ。何せ――」
マッシモさんはそのままエルフの隠れ里を守る結界について三十分ほど話し続けた。細かい仕組みはさっぱり理解できなかったが、どうやら人間はその結界に気付くことができず、歩いているうちにいつの間にか森の外に追い出されるらしい。
ただ、それよりも疑問なのはなぜ人間であるマッシモさんがその結界に気付けたのかということだ。
……気にするだけ野暮なのかもしれないが。
「ようし! レクス卿、その廃墟に行くのじゃ。きっとエルフは次元の裂け目から現れるモンスターに対処しきれず、森を捨てたに違いないのじゃ。となれば、何かエルフの宝が残っているかもしれんぞ?」
マッシモさんはいつものキラキラした少年のような目でそう言った。
……言えない。宝はもうレシピになっていて、その残骸も闇の聖女の首飾りになってティティのところにあるなんて。
「わかりました。じゃあ、案内します」
俺はうしろめたさを胸の奥に押し込め、平静を装ってそう答えたのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/04/05 (金) 18:00 を予定しております。
「え? 次元の裂け目ですか?」
「うむ。モンスターが多い場所には次元の裂け目があるのじゃろう?」
「いえ、必ずしもそういうわけでは……」
「いや、これほど多いのじゃ。ということは、きっとどこかに次元の裂け目があるはずじゃ」
マッシモさんはキラキラと目を輝かせながらそう言ってきた。本来なら止めるべきところだが、このモードになったマッシモさんは一人でも魔の森に突っ込んでいってしまうだろう。
「仕方ないですね。どうせ止めても一人で行きますよね?」
「うむうむ。レクス卿も分かってきたではないか」
満足げに胸を張るマッシモさんに俺は思わずため息をつく。
「少しだけですよ? 見つからなかったらすぐに戻りますからね?」
「うむ。ちょっとだけじゃから!」
こうして俺たちは行き詰まった泉の調査を止め、魔の森の探索へと向かうのだった。
◆◇◆
俺たちはまず、泉の周囲に集まってきたモンスターを駆除した。そして荷物持ちをしてくれているメンバーにその素材の売却と補給物資の追加をお願いし、魔の森へと突入した。
魔の森のモンスターの密度は相変わらずで、あのときあれほど駆除したというのにモンスターの数はもう元に戻ったようだ。
あまりの数にキアーラさんは緊張した面持ちで呟く。
「すごい数ね」
「はい。魔の森って言うくらいですから」
「獲物がたくさんいるのはいいけれど、さすがにこれはちょっと多すぎね。注意していきましょう」
そんな中、マッシモさんは好奇心が抑えきれない様子だ。
「うむ。そうじゃのう。ワクワクするのう。これはきっと、特大の次元の裂け目があるに違いないのう……む? そこじゃ!」
マッシモさんはこちらに向かって来ようとしていたフォレストウルフを水の矢で撃ち抜いた。
さすがは王宮魔術師の筆頭なだけはあって、その魔法は強力で、魔法のチョイスも的確だ。遠くにいるモンスターは長射程の水の矢で、近寄ってくるモンスターは水流で接近を拒否する。まさに魔術師のお手本のような戦い方だ。
どうやらAランク冒険者だというのも決して伊達ではないようだ。
そうしてひたすらにモンスターを駆除しながら森の中を進んでいると、マッシモさんが何かに気が付いたようだ。
「うむ?」
「どうしたんですか? 何か見つけたんですか?」
「ううむ、この森は……」
マッシモさんが突然近くの木や地面を調べ始めた。一体何をしているのだろう?」
「レクス卿、以前にもここに来たことがあると言っておったな?」
「はい」
「この先に集落、いや、廃集落はなかったかね?」
「え? よくわかりましたね」
「やはり!」
「やはり? どういうことですか?」
「うむ。ここを見るのじゃ。ここに結界の痕跡があるのが分かるじゃろう?」
「え?」
マッシモさんの指し示した地面を見るが、さっぱり分からない。
「何をしておるんじゃ。魔力を感じ取るんじゃ。結界の残滓のせいで自然の魔力の流れが歪になっておるじゃろう?」
「ええと……」
言われてみればどことなく変なような、そんなこともないような?
「ふむ。レクス卿もまだまだじゃのう。ほれ、ここじゃ。ここに手を当ててみい」
「はい……」
マッシモさんの指し示した場所に手を付いてみた。するとたしかに自分の魔力がほんのわずかではあるが、妙な動きをしている。
「あ、たしかに……」
「じゃろう? これはエルフの隠れ里を守る結界の痕跡じゃ。ここまで薄くなっておるということは、結界がなくなってかなりの時間が経っておる。百年、いや、もしかすると数百年経っておるかもしれんのう」
「よく知っていますね」
「うむ。エルフの結界はなんども調べたからのう」
「……もしかして、現役の結界も調べてたりします?」
「もちろんじゃ! アレは興味深かったぞ。何せ――」
マッシモさんはそのままエルフの隠れ里を守る結界について三十分ほど話し続けた。細かい仕組みはさっぱり理解できなかったが、どうやら人間はその結界に気付くことができず、歩いているうちにいつの間にか森の外に追い出されるらしい。
ただ、それよりも疑問なのはなぜ人間であるマッシモさんがその結界に気付けたのかということだ。
……気にするだけ野暮なのかもしれないが。
「ようし! レクス卿、その廃墟に行くのじゃ。きっとエルフは次元の裂け目から現れるモンスターに対処しきれず、森を捨てたに違いないのじゃ。となれば、何かエルフの宝が残っているかもしれんぞ?」
マッシモさんはいつものキラキラした少年のような目でそう言った。
……言えない。宝はもうレシピになっていて、その残骸も闇の聖女の首飾りになってティティのところにあるなんて。
「わかりました。じゃあ、案内します」
俺はうしろめたさを胸の奥に押し込め、平静を装ってそう答えたのだった。
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