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第139話 変人王宮魔術師(5)
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「はい? ちょっと待ってください。今なんて言いました?」
「うむ? なんじゃ。レクス卿はまだ若いのに、もう耳が遠くなってしまったのか?」
「いえ、そういうことじゃなくて、今レムロス大聖堂に忍び込んだって言いませんでした?」
「なんじゃ。ちゃんと聞こえとるではないか」
……どうやら聞き間違いではなかったようだ。
「あの、どうしてまたレムロス大聖堂に忍び込んだんでしょうか……?」
「なぜ、とはおかしなことを聞いてくるのう。水を入れ、法王が祈りを捧げるだけでポーションができる神器だなどと聞けば研究してみたくなるに決まっておるじゃろうに」
マッシモさんはさも当然といった表情でそう言ってのけた。
「……もしかして、大聖堂に調査を拒否されたのに、どうしても調べたくて忍び込んだんですか?」
「うむ。そのとおりじゃ」
「……」
それはいくらなんでも……いや、でもマッシモさんだしなぁ。
「そういえばレクス卿、解析もできると言っておったな?」
「はい。なんでも解析できるわけじゃないですし、解析に使ったものは壊れちゃいますけど」
「ふむ。では、この鏃を解析してみてくれんか?」
「はい」
俺はマッシモさんから渡された鏃を錬金釜に入れ、解析を行おうとしたが、何も起こらなかった。
「うむ? どうしたのじゃ?」
「ダメみたいです。この鏃、マジックアイテムじゃないですよね?」
「うむ。そうじゃな」
「じゃあ、試しにこうしてみましょう」
俺は鏃にホーリーを込めてから再び解析をしてみると、なんと鏃は粉々に砕け散った。
「おお! なんと!」
マッシモさんは目をキラキラと輝かせ、錬金釜の中を興味深そうに見つめている。
「……どうやらこの鏃は、鋼の鏃、聖銀の粉末を錬金釜に入れ、光属性の魔力を注ぐことで錬成できるようです」
「ふむ。材料は合っておるのう。どれ、試してみるがよい」
「はい」
俺はマッシモさんから鏃と聖銀の粉末を受け取る。そして錬金釜に入れて錬成をすると、すぐにホーリーの付与された鏃が出来上がった。
「ううむ。すごいのう。まさかこのようなことが……」
マッシモさんは感心したようにそう呟くと、出来上がった鏃を手に取って観察を始めるのだった。
◆◇◆
それからマッシモさんのアドバイスを貰いながら色々と錬成を試した結果、なんとあっさりレベル3のヒールポーションまで完成してしまった。レベル2ではなく、レベル3だ。
そしてちょっと痛い実験の結果、通常であればレベル2のヒールポーションで十分だということが分かった。というのも、レベル2のヒールポーションでも剣でつけた刺し傷が一瞬で治ってしまったのだ。
となるとレベル3はそれ以上の大怪我でも治せるということなのだろう。さすがにそこまでの大怪我を自分でするのはどうしても抵抗があってできなかったが……。
どちらにせよ、レベル3のヒールポーションのレシピは希少な素材をたくさん使うため、量産することは難しい。
その点レベル2であれば希少な素材は必要ないため、こちらは量産可能なはずだ。銀狼騎士団で使っていたポーションもレベル1相当だったので、レベル2であっても十分なインパクトはあるはずだ。
「レクス卿、このポーションを売る気なのじゃな?」
「はい」
「ならば、市販するのはレベル1のもののみにしておくべきじゃな。レベル2のものを売ると、恐らく教会が黙っていないはずじゃ。何せ、儂に聖水の壺を調べさせぬような連中じゃからな」
調べさせてもらえなかったのはある意味当然な気もするが、教会もヒールポーションで稼いでいるのだとすると商売敵ということになってしまう。
「教会はどのくらいの値段で売っているんですか?」
「相手によって値段を変えておるな。たしか城の連中は小瓶一つで三十万リレ支払っておったはずじゃ」
「三十万もですか……」
壺に魔力を注ぐだけでそれはいくらなんでも暴利ではないだろうか?
「しかも品質にもばらつきがあってのう。大体お主の作ったレベル1よりも少し効果が高い程度なのじゃが、たまにほとんど効果がないものあるのじゃ」
「え? 効果がないポーションって……」
「うむ。じゃが教会は、効果がないのは信仰心が足りないせいと言っておるのう」
いやいや、それは単に粗悪品だっただけで、普通に詐欺なのではないだろうか?
「じゃから、お主が効果の高いポーションを安値で売り出せば大変なことになるじゃろうな」
「そうですね」
「うむ。レベル2は様子を見て、特別な客にだけ売るようにすることじゃ。何百万と吹っ掛けても売れるじゃろうて」
本来はあまり暴利を貪るべきではないが、ここで教会を敵に回すようなことはしたくない。
「はい。そうします。とういかもっと効果の低いポーションを作れないか試してみます」
俺の返事を聞き、マッシモさんは満足げに頷いた。
「それとマッシモさん、もう一つお願いがあります」
「なんじゃ?」
「この鏃も売ろうと思っているんですけど、良かったらマッシモさんの名前を使わせてもらいたいんですけど――」
「構わんぞ」
「え? いいんですか?」
あっさりと了承され、思わず俺は聞き返してしまった。
「うむ。儂も銀狼の顎のメンバーじゃからのう。それに、儂の名前が入っておれば文句を言う輩もおるまいて。レクス卿もそれが狙いなのじゃろう?」
「はい。そのとおりです」
「これからも研究をさせてもらうからのう。この程度であれば、お安い御用じゃ」
「ありがとうございます」
俺はマッシモさんに頭を下げる。
「ところでレクス卿」
「はい。なんでしょう?」
「儂、そろそろお主の故郷にあるという泉を調べに行きたいのじゃが?」
「え? 今からですか? さすがに今の季節は雪で埋まっていると思いますよ」
「なら、いつならいいんじゃ?」
「そうですね。三月の中ごろなら大丈夫だと思います」
「本当じゃな! 約束じゃぞ!」
マッシモさんはまるで少年のようにキラキラした目でそう念を押してきたのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/04/03 (水) 18:00 を予定しております。
「うむ? なんじゃ。レクス卿はまだ若いのに、もう耳が遠くなってしまったのか?」
「いえ、そういうことじゃなくて、今レムロス大聖堂に忍び込んだって言いませんでした?」
「なんじゃ。ちゃんと聞こえとるではないか」
……どうやら聞き間違いではなかったようだ。
「あの、どうしてまたレムロス大聖堂に忍び込んだんでしょうか……?」
「なぜ、とはおかしなことを聞いてくるのう。水を入れ、法王が祈りを捧げるだけでポーションができる神器だなどと聞けば研究してみたくなるに決まっておるじゃろうに」
マッシモさんはさも当然といった表情でそう言ってのけた。
「……もしかして、大聖堂に調査を拒否されたのに、どうしても調べたくて忍び込んだんですか?」
「うむ。そのとおりじゃ」
「……」
それはいくらなんでも……いや、でもマッシモさんだしなぁ。
「そういえばレクス卿、解析もできると言っておったな?」
「はい。なんでも解析できるわけじゃないですし、解析に使ったものは壊れちゃいますけど」
「ふむ。では、この鏃を解析してみてくれんか?」
「はい」
俺はマッシモさんから渡された鏃を錬金釜に入れ、解析を行おうとしたが、何も起こらなかった。
「うむ? どうしたのじゃ?」
「ダメみたいです。この鏃、マジックアイテムじゃないですよね?」
「うむ。そうじゃな」
「じゃあ、試しにこうしてみましょう」
俺は鏃にホーリーを込めてから再び解析をしてみると、なんと鏃は粉々に砕け散った。
「おお! なんと!」
マッシモさんは目をキラキラと輝かせ、錬金釜の中を興味深そうに見つめている。
「……どうやらこの鏃は、鋼の鏃、聖銀の粉末を錬金釜に入れ、光属性の魔力を注ぐことで錬成できるようです」
「ふむ。材料は合っておるのう。どれ、試してみるがよい」
「はい」
俺はマッシモさんから鏃と聖銀の粉末を受け取る。そして錬金釜に入れて錬成をすると、すぐにホーリーの付与された鏃が出来上がった。
「ううむ。すごいのう。まさかこのようなことが……」
マッシモさんは感心したようにそう呟くと、出来上がった鏃を手に取って観察を始めるのだった。
◆◇◆
それからマッシモさんのアドバイスを貰いながら色々と錬成を試した結果、なんとあっさりレベル3のヒールポーションまで完成してしまった。レベル2ではなく、レベル3だ。
そしてちょっと痛い実験の結果、通常であればレベル2のヒールポーションで十分だということが分かった。というのも、レベル2のヒールポーションでも剣でつけた刺し傷が一瞬で治ってしまったのだ。
となるとレベル3はそれ以上の大怪我でも治せるということなのだろう。さすがにそこまでの大怪我を自分でするのはどうしても抵抗があってできなかったが……。
どちらにせよ、レベル3のヒールポーションのレシピは希少な素材をたくさん使うため、量産することは難しい。
その点レベル2であれば希少な素材は必要ないため、こちらは量産可能なはずだ。銀狼騎士団で使っていたポーションもレベル1相当だったので、レベル2であっても十分なインパクトはあるはずだ。
「レクス卿、このポーションを売る気なのじゃな?」
「はい」
「ならば、市販するのはレベル1のもののみにしておくべきじゃな。レベル2のものを売ると、恐らく教会が黙っていないはずじゃ。何せ、儂に聖水の壺を調べさせぬような連中じゃからな」
調べさせてもらえなかったのはある意味当然な気もするが、教会もヒールポーションで稼いでいるのだとすると商売敵ということになってしまう。
「教会はどのくらいの値段で売っているんですか?」
「相手によって値段を変えておるな。たしか城の連中は小瓶一つで三十万リレ支払っておったはずじゃ」
「三十万もですか……」
壺に魔力を注ぐだけでそれはいくらなんでも暴利ではないだろうか?
「しかも品質にもばらつきがあってのう。大体お主の作ったレベル1よりも少し効果が高い程度なのじゃが、たまにほとんど効果がないものあるのじゃ」
「え? 効果がないポーションって……」
「うむ。じゃが教会は、効果がないのは信仰心が足りないせいと言っておるのう」
いやいや、それは単に粗悪品だっただけで、普通に詐欺なのではないだろうか?
「じゃから、お主が効果の高いポーションを安値で売り出せば大変なことになるじゃろうな」
「そうですね」
「うむ。レベル2は様子を見て、特別な客にだけ売るようにすることじゃ。何百万と吹っ掛けても売れるじゃろうて」
本来はあまり暴利を貪るべきではないが、ここで教会を敵に回すようなことはしたくない。
「はい。そうします。とういかもっと効果の低いポーションを作れないか試してみます」
俺の返事を聞き、マッシモさんは満足げに頷いた。
「それとマッシモさん、もう一つお願いがあります」
「なんじゃ?」
「この鏃も売ろうと思っているんですけど、良かったらマッシモさんの名前を使わせてもらいたいんですけど――」
「構わんぞ」
「え? いいんですか?」
あっさりと了承され、思わず俺は聞き返してしまった。
「うむ。儂も銀狼の顎のメンバーじゃからのう。それに、儂の名前が入っておれば文句を言う輩もおるまいて。レクス卿もそれが狙いなのじゃろう?」
「はい。そのとおりです」
「これからも研究をさせてもらうからのう。この程度であれば、お安い御用じゃ」
「ありがとうございます」
俺はマッシモさんに頭を下げる。
「ところでレクス卿」
「はい。なんでしょう?」
「儂、そろそろお主の故郷にあるという泉を調べに行きたいのじゃが?」
「え? 今からですか? さすがに今の季節は雪で埋まっていると思いますよ」
「なら、いつならいいんじゃ?」
「そうですね。三月の中ごろなら大丈夫だと思います」
「本当じゃな! 約束じゃぞ!」
マッシモさんはまるで少年のようにキラキラした目でそう念を押してきたのだった。
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