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第135話 アモルフィ侯爵の企み(前編)
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「いやあ、さすがは噂に名高い銀狼騎士団の竜殺したちだ。まさか年内に原因まで見つけて解決してくれるとは」
戻ってきた俺たちをアモルフィ侯爵は満面の笑みで出迎えてくれた。
「今日はそなたたちを労う晩さん会を開こう。皆、正装で来てくれたまえ」
「はい。感謝します」
するとアモルフィ侯爵は満足げに大きく頷く。
「うむ。レクス卿が来てくれると娘も喜ぶだろう。どうやら娘はかなりレクス卿のことを気に入ったようだからな」
なんとも露骨な勧誘に思わず苦笑いをしそうになるが、ぐっとこらえて頭を下げた。
「恐縮です」
こうして俺たちはアモルフィ侯爵に招待され、まだ疲れも取れていないというのに晩さん会に出席することとなったのだった。
◆◇◆
その日の夜、俺たちは元従騎士たちも含めて全員で晩さん会にやってきた。突如決まったはずの晩さん会にもかかわらず、しっかりと人数分の食事を用意できるあたりはさすが侯爵家だ。
俺はアモルフィ侯爵一家と並んでいわゆるお誕生日席に座る。
「銀狼騎士団の偉業を讃え、そして今後の益々の活躍を祈って、乾杯!」
アモルフィ侯爵の乾杯の音頭と共に晩さん会が始まった。
「レクス様、この度の戦いはいかがでしたか?」
「はい、マルゲリータ様。今回は――」
俺はヴェスピオレ山の山頂近くの洞窟で次元の裂け目を封じた話をざっくりとまとめて説明した。
「次元の裂け目などというものがあるのですね。初耳ですわ」
「あまり知られてはいないようですが、そこからジャイアントラットというモンスターが生み出される瞬間を目撃しました。我々も不意を突かれましたが、仲間がすぐに反応してくれてことなきを得ました」
「まあ! レクス様でも不意を突かれることがあるのですね」
「それはもちろんです」
それからもマルゲリータ様は常に俺に話し掛け続け、話題は討伐の話から徐々に移っていく。
「そういえば、レクス様はどちらのご出身なんですの?」
「ベルトーニ子爵領北部の山の中にあるボアゾという小さな村です」
「ベルトーニ子爵領? たしか、マッツィアーノ公爵領の近くでしたわね」
「はい。村の北にはモンスターの出る魔の森が広がっています」
「魔の森……名前だけでも恐ろしいですわ」
「ですが、実はあまり奥に入らなければそれほど危険ではないんです」
「そうなのですね。やはりレクス様はご出身の村の周りのモンスターを倒していたんですの? レクス様が村を発たれるとなると、きっと大騒ぎになったのではなくて?」
「いえ、そんなことはないです。実は色々ありまして、十歳のときに村を出て冒険者になりました」
「まあ! 十歳から? すごいですわ。そんなころからモンスターと戦ってらっしゃるなんて」
「それほど珍しいことじゃないですよ。特に貧しい家の子供や孤児なんかは小さいときから冒険者登録をして、少しでもお金を稼ごうとしますから」
「そうなんですの? でも従騎士になるのだって十四歳くらいからでなくって?」
「そうですね。そのくらいの年齢の子供が多いかもしれません」
「冒険者というのは大変なお仕事ですのね」
「そうかもしれません」
そうは答えたものの、死の危険があるという点を除けば冒険者は悪くない仕事だとも思っている。特に俺たち孤児にとってはかなりいい仕事の部類に入るはずだ。
というのも孤児には身元を保証してくれる親がいないため、雇ってもらうだけでも一苦労だ。もし雇ってもらったとしても下働きで数十年使い潰され、まるで技能が身につかないなんて話も聞いたことがある。
その点冒険者は誰でもなれるうえにギルドが色々と世話を焼いてくれるため、外部の人が想像するよりはよほどまともな環境だと思う。
「そんな大変なお仕事をされ、さらに銀狼騎士団に入って騎士になられるなんて、レクス様はすごいお方ですわ」
「ありがとうございます」
「わたくし、尊敬してしまいます」
マルゲリータ様はやや過剰なレベルでアピールをしてくる。俺はアモルフィ侯爵家に雇われるつもりも婿入りするつもりもないので勘弁してほしいのだが、無下にできない相手なのが困ったところだ。
おかげで食事の味も分からず、なんとか言質を取られないようにしつつご機嫌を取っていると、いつの間にかデザートのフルーツが出てきた。
良かった。これでようやく解放される。
そう思ったのだが、アモルフィ侯爵はこれで逃がしてくれるほど甘くはなかった。
デザートを食べ終え、皆が手持ち無沙汰になってきたところでアモルフィ侯爵は更なる追撃をかけてきた。
「皆さん、今日はお疲れでしょう。ベッドをご用意いたしましたのでぜひ泊まって行ってください」
マジで!? 五十人近くいるのに全員泊まれるのか?
そう思ったのだがどうやらアモルフィ侯爵はきちんと準備を整えていたようだ。メンバー一人一人に専属のお世話係と称した若いメイドさんが一人付き、それぞれの部屋へと案内していく。
俺はその意味が分からないほど子供ではない。
「レクス様はわたくしがお部屋までご案内しますわ」
「ありがとうございます」
立場上断れないのはなんと苦しいことか。
俺はなるべく表情に出さないように気をつけつつ、なんとか笑顔を浮かべながらマルゲリータ様にお礼を言うのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/03/30 (土) 18:00 を予定しております。
戻ってきた俺たちをアモルフィ侯爵は満面の笑みで出迎えてくれた。
「今日はそなたたちを労う晩さん会を開こう。皆、正装で来てくれたまえ」
「はい。感謝します」
するとアモルフィ侯爵は満足げに大きく頷く。
「うむ。レクス卿が来てくれると娘も喜ぶだろう。どうやら娘はかなりレクス卿のことを気に入ったようだからな」
なんとも露骨な勧誘に思わず苦笑いをしそうになるが、ぐっとこらえて頭を下げた。
「恐縮です」
こうして俺たちはアモルフィ侯爵に招待され、まだ疲れも取れていないというのに晩さん会に出席することとなったのだった。
◆◇◆
その日の夜、俺たちは元従騎士たちも含めて全員で晩さん会にやってきた。突如決まったはずの晩さん会にもかかわらず、しっかりと人数分の食事を用意できるあたりはさすが侯爵家だ。
俺はアモルフィ侯爵一家と並んでいわゆるお誕生日席に座る。
「銀狼騎士団の偉業を讃え、そして今後の益々の活躍を祈って、乾杯!」
アモルフィ侯爵の乾杯の音頭と共に晩さん会が始まった。
「レクス様、この度の戦いはいかがでしたか?」
「はい、マルゲリータ様。今回は――」
俺はヴェスピオレ山の山頂近くの洞窟で次元の裂け目を封じた話をざっくりとまとめて説明した。
「次元の裂け目などというものがあるのですね。初耳ですわ」
「あまり知られてはいないようですが、そこからジャイアントラットというモンスターが生み出される瞬間を目撃しました。我々も不意を突かれましたが、仲間がすぐに反応してくれてことなきを得ました」
「まあ! レクス様でも不意を突かれることがあるのですね」
「それはもちろんです」
それからもマルゲリータ様は常に俺に話し掛け続け、話題は討伐の話から徐々に移っていく。
「そういえば、レクス様はどちらのご出身なんですの?」
「ベルトーニ子爵領北部の山の中にあるボアゾという小さな村です」
「ベルトーニ子爵領? たしか、マッツィアーノ公爵領の近くでしたわね」
「はい。村の北にはモンスターの出る魔の森が広がっています」
「魔の森……名前だけでも恐ろしいですわ」
「ですが、実はあまり奥に入らなければそれほど危険ではないんです」
「そうなのですね。やはりレクス様はご出身の村の周りのモンスターを倒していたんですの? レクス様が村を発たれるとなると、きっと大騒ぎになったのではなくて?」
「いえ、そんなことはないです。実は色々ありまして、十歳のときに村を出て冒険者になりました」
「まあ! 十歳から? すごいですわ。そんなころからモンスターと戦ってらっしゃるなんて」
「それほど珍しいことじゃないですよ。特に貧しい家の子供や孤児なんかは小さいときから冒険者登録をして、少しでもお金を稼ごうとしますから」
「そうなんですの? でも従騎士になるのだって十四歳くらいからでなくって?」
「そうですね。そのくらいの年齢の子供が多いかもしれません」
「冒険者というのは大変なお仕事ですのね」
「そうかもしれません」
そうは答えたものの、死の危険があるという点を除けば冒険者は悪くない仕事だとも思っている。特に俺たち孤児にとってはかなりいい仕事の部類に入るはずだ。
というのも孤児には身元を保証してくれる親がいないため、雇ってもらうだけでも一苦労だ。もし雇ってもらったとしても下働きで数十年使い潰され、まるで技能が身につかないなんて話も聞いたことがある。
その点冒険者は誰でもなれるうえにギルドが色々と世話を焼いてくれるため、外部の人が想像するよりはよほどまともな環境だと思う。
「そんな大変なお仕事をされ、さらに銀狼騎士団に入って騎士になられるなんて、レクス様はすごいお方ですわ」
「ありがとうございます」
「わたくし、尊敬してしまいます」
マルゲリータ様はやや過剰なレベルでアピールをしてくる。俺はアモルフィ侯爵家に雇われるつもりも婿入りするつもりもないので勘弁してほしいのだが、無下にできない相手なのが困ったところだ。
おかげで食事の味も分からず、なんとか言質を取られないようにしつつご機嫌を取っていると、いつの間にかデザートのフルーツが出てきた。
良かった。これでようやく解放される。
そう思ったのだが、アモルフィ侯爵はこれで逃がしてくれるほど甘くはなかった。
デザートを食べ終え、皆が手持ち無沙汰になってきたところでアモルフィ侯爵は更なる追撃をかけてきた。
「皆さん、今日はお疲れでしょう。ベッドをご用意いたしましたのでぜひ泊まって行ってください」
マジで!? 五十人近くいるのに全員泊まれるのか?
そう思ったのだがどうやらアモルフィ侯爵はきちんと準備を整えていたようだ。メンバー一人一人に専属のお世話係と称した若いメイドさんが一人付き、それぞれの部屋へと案内していく。
俺はその意味が分からないほど子供ではない。
「レクス様はわたくしがお部屋までご案内しますわ」
「ありがとうございます」
立場上断れないのはなんと苦しいことか。
俺はなるべく表情に出さないように気をつけつつ、なんとか笑顔を浮かべながらマルゲリータ様にお礼を言うのだった。
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