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第133話 サレルモの感謝祭
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俺たちは指定された日の夕方に正装――といっても銀狼騎士団のときに与えられたような儀礼服ではなく、銀狼騎士団の通常の制服のような感じの服だが――に身を包み、アモルフィ侯爵邸へとやってきた。
どうやらこの日はサレルモで感謝祭が行われるらしく、町は完全にお祭りムードに包まれている。ちなみにレムロスでの感謝祭は先月だった。
ここは地理的に南にあるため、収穫の時期がレムロスよりも遅いということなのかもしれない。
とはいえこういったお祭りに参加できるのであれば、アモルフィ侯爵邸に呼ばれていないメンバーたちにとってもきっといい休日になることだろう。
それはさておき、アモルフィ侯爵邸に到着した俺たちを執事が出迎えてくれている。
「銀狼騎士団の皆様、ようこそお越しくださいました。どうぞこちらへ」
執事に案内され、俺たちはパーティー会場へとやってきた。
「魔竜ウルガーノを討伐した英雄、銀狼騎士団ご一行のご到着です」
仰々しい紹介と共に中に入ると、会場中の視線が一気に俺たちに集まった。俺たちは整然と歩き、アモルフィ侯爵の前に歩み出る。
「おお! レクス卿! よくぞ来てくれた! マルツィオ卿にクレメンテ卿も!」
アモルフィ侯爵は満面の笑みで出迎えた。その隣は夫人と……娘さんだろうか? きっちりおめかしをした少女も控えている。
「おお! そうだ! レクス卿、紹介しよう。こちらが私の妻フロリアーナと娘のマルゲリータだ」
「レクス卿、お目に書かれて光栄ですわ」
「はじめまして、侯爵夫人、レクスと申します」
俺はまず挨拶をしてきた侯爵夫人に対して胸に手を当て、頭を下げた。侯爵夫人と侯爵令嬢は誰が見ても親子に見えるほどよく似ている。ものすごい美人というわけではないが、くりくりした緑色の瞳が特徴の可愛らしい感じの人だ。
「レクス様、マルゲリータと申します」
続いて侯爵令嬢がはにかんだ笑みを浮かべながらそう言い、俺のほうに右手の甲を上にして差し出してきた。
俺は片膝をつき、左手でそれをそっと受け止めるとそこにキスをする仕草をした。
「レクスと申します。アモルフィ侯爵令嬢、お目に書かれて光栄です」
「まあ、アモルフィ侯爵令嬢だなんて。どうぞ気軽にマルゲリータとお呼びくださいませ」
「は。マルゲリータ様、どうぞお見知りおきを」
俺はそう言ってから手を離し、立ち上がる。
と、この一連のやりとりの流れは騎士団に入って最初のころに習った内容だ。若い未婚の男女がこうした場で出会ったときのマナーのようなものだが、名前を呼ぶことを許されたということはかなり好意的に見られているということだ。
「マルゲリータ、彼が有名な王太子殿下の秘蔵っ子だ」
「まあ、そうでしたのね。レクス様、わたくし、レクス様のことをもっと知りたいですわ。少しあちらでお話しませんこと?」
「はい。よろこんで」
当然ながら俺に拒否権などないため、二つ返事で了承する。そして俺はマルゲリータ様をエスコートし、言われるがままにバルコニーへとやってきた。
「レクス様は光の魔法をお使いになられるのですよね?」
「はい」
「すごいですわ。男の方の光は魔を滅する希望の光と聞きます。やはりレクス様の魔法もそうなのですよね?」
「はい。そうですね」
「やはり! 見せていただくことはできますの?」
「もちろんです」
俺は手元でホーリーを発動させた。
「まあ! 綺麗……」
マルゲリータ様はうっとりした表情でホーリーの光を眺めている。マルゲリータ様の長い亜麻色の髪を飾っている金のアクセサリにホーリーの光がキラキラと反射しており……おや?
その髪飾り、どこか違和感があるような?
「レクス様? どうなさいました?」
気付けばマルゲリータ様が不安げに俺の顔をじっと見つめていた。
「あ、いえ。マルゲリータ様の髪飾りに、なんと言いますか、こう、不思議な感覚になりまして」
「まあ! 本当ですの? やはり……!」
「何かお心当たりがおありなのですか?」
「ええ、そうなのです」
マルゲリータ様は嬉しそうに微笑み、髪飾りの謂れを教えてくれる。
「この髪飾りはアモルフィ侯爵家に代々伝わる家宝で、かつて聖女様がお召しになったされているものなのですわ」
「聖女様が……」
「ええ。聖女様といえば癒しの光ですわ。男性のレクス様とは違いますけれど、同じ光ですもの。きっと通じるものがあるに違いありませんわ」
「それはそれは、道理で……」
見覚えがあるわけだ。マルゲリータ様の身に着けている髪飾りはブラウエルデ・クロニクルに出てきた聖女の髪飾り、聖女の首飾りや聖女の耳飾りとセットの元イベントアイテムだ。
「ふふ。素敵でしょう? わたくし、この髪飾りがとても気に入っていますの」
「はい。とてもお似合いです」
「ありがとう存じますわ」
マルゲリータ様はそう言って、ふわりと笑った。
「実はこの髪飾り、本当はアモルフィ侯爵家の娘が結婚式で身に着けるものなんですのよ」
「え? そうなんですか?」
「ええ。でも今、アモルフィ侯爵家に娘はわたくししかいないでしょう? だから、大切な日には身に着けることにしているんですの」
「ああ、なるほど。感謝祭といえば、神の恵みに感謝し、領民たちの苦労を労う大切な日ですからね。さすがマルゲリータ様です」
「え? もうっ!」
するとなぜかマルゲリータ様が少し不機嫌になってしまった。
あれ? どういうことだ? 何を間違えたんだ?
「ねえ、レクス様」
「はい」
「わたくしも光属性の魔力が良かったですわ」
「え?」
「わたくし、お母さまから水属性の魔力を受け継ぎましたわ。でも、とても弱い魔力で、せいぜい花壇に水をやるくらいしかできませんの。でも光属性なら、きっと人を癒して差し上げることができるでしょう?」
マルゲリータ様は寂しそうな表情でそう言った。
「……水も大切です。水がなければ人は生きていけません。それにもし干ばつが起きれば、光属性よりもきっと水属性のほうが重宝されるはずです」
「まぁ……そんなこと、考えたこともありませんでしたわ」
マルゲリータ様はそう言うと、複雑な表情を浮かべた。
「レクス様は、お優しいんですわね」
「ありがとうございます」
俺の返事にマルゲリータ様は小さく頷き、そのまま少し押し黙った。それから意を決したかのような表情で口を開く。
「ねえ、レクス様?」
「はい。なんでしょう?」
「戻って、踊りましょう? そろそろダンスが始まる時間ですわ」
「え? いえ、その、実はダンスは一度もやったことがなく……」
「え? そうなんですの?」
「はい」
「もう! レクス様ったら……」
「申し訳ありません」
するとマルゲリータ様はくしゃりと表情を崩した。
「仕方ありませんわね。ダンスの時間にわたくしがいないと皆を困らせてしまいますわ。戻りましょう」
「はい」
こうして俺たちはパーティー会場へと戻るのだった。
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次回更新は通常どおり、2024/03/28 (木) 18:00 を予定しております。
どうやらこの日はサレルモで感謝祭が行われるらしく、町は完全にお祭りムードに包まれている。ちなみにレムロスでの感謝祭は先月だった。
ここは地理的に南にあるため、収穫の時期がレムロスよりも遅いということなのかもしれない。
とはいえこういったお祭りに参加できるのであれば、アモルフィ侯爵邸に呼ばれていないメンバーたちにとってもきっといい休日になることだろう。
それはさておき、アモルフィ侯爵邸に到着した俺たちを執事が出迎えてくれている。
「銀狼騎士団の皆様、ようこそお越しくださいました。どうぞこちらへ」
執事に案内され、俺たちはパーティー会場へとやってきた。
「魔竜ウルガーノを討伐した英雄、銀狼騎士団ご一行のご到着です」
仰々しい紹介と共に中に入ると、会場中の視線が一気に俺たちに集まった。俺たちは整然と歩き、アモルフィ侯爵の前に歩み出る。
「おお! レクス卿! よくぞ来てくれた! マルツィオ卿にクレメンテ卿も!」
アモルフィ侯爵は満面の笑みで出迎えた。その隣は夫人と……娘さんだろうか? きっちりおめかしをした少女も控えている。
「おお! そうだ! レクス卿、紹介しよう。こちらが私の妻フロリアーナと娘のマルゲリータだ」
「レクス卿、お目に書かれて光栄ですわ」
「はじめまして、侯爵夫人、レクスと申します」
俺はまず挨拶をしてきた侯爵夫人に対して胸に手を当て、頭を下げた。侯爵夫人と侯爵令嬢は誰が見ても親子に見えるほどよく似ている。ものすごい美人というわけではないが、くりくりした緑色の瞳が特徴の可愛らしい感じの人だ。
「レクス様、マルゲリータと申します」
続いて侯爵令嬢がはにかんだ笑みを浮かべながらそう言い、俺のほうに右手の甲を上にして差し出してきた。
俺は片膝をつき、左手でそれをそっと受け止めるとそこにキスをする仕草をした。
「レクスと申します。アモルフィ侯爵令嬢、お目に書かれて光栄です」
「まあ、アモルフィ侯爵令嬢だなんて。どうぞ気軽にマルゲリータとお呼びくださいませ」
「は。マルゲリータ様、どうぞお見知りおきを」
俺はそう言ってから手を離し、立ち上がる。
と、この一連のやりとりの流れは騎士団に入って最初のころに習った内容だ。若い未婚の男女がこうした場で出会ったときのマナーのようなものだが、名前を呼ぶことを許されたということはかなり好意的に見られているということだ。
「マルゲリータ、彼が有名な王太子殿下の秘蔵っ子だ」
「まあ、そうでしたのね。レクス様、わたくし、レクス様のことをもっと知りたいですわ。少しあちらでお話しませんこと?」
「はい。よろこんで」
当然ながら俺に拒否権などないため、二つ返事で了承する。そして俺はマルゲリータ様をエスコートし、言われるがままにバルコニーへとやってきた。
「レクス様は光の魔法をお使いになられるのですよね?」
「はい」
「すごいですわ。男の方の光は魔を滅する希望の光と聞きます。やはりレクス様の魔法もそうなのですよね?」
「はい。そうですね」
「やはり! 見せていただくことはできますの?」
「もちろんです」
俺は手元でホーリーを発動させた。
「まあ! 綺麗……」
マルゲリータ様はうっとりした表情でホーリーの光を眺めている。マルゲリータ様の長い亜麻色の髪を飾っている金のアクセサリにホーリーの光がキラキラと反射しており……おや?
その髪飾り、どこか違和感があるような?
「レクス様? どうなさいました?」
気付けばマルゲリータ様が不安げに俺の顔をじっと見つめていた。
「あ、いえ。マルゲリータ様の髪飾りに、なんと言いますか、こう、不思議な感覚になりまして」
「まあ! 本当ですの? やはり……!」
「何かお心当たりがおありなのですか?」
「ええ、そうなのです」
マルゲリータ様は嬉しそうに微笑み、髪飾りの謂れを教えてくれる。
「この髪飾りはアモルフィ侯爵家に代々伝わる家宝で、かつて聖女様がお召しになったされているものなのですわ」
「聖女様が……」
「ええ。聖女様といえば癒しの光ですわ。男性のレクス様とは違いますけれど、同じ光ですもの。きっと通じるものがあるに違いありませんわ」
「それはそれは、道理で……」
見覚えがあるわけだ。マルゲリータ様の身に着けている髪飾りはブラウエルデ・クロニクルに出てきた聖女の髪飾り、聖女の首飾りや聖女の耳飾りとセットの元イベントアイテムだ。
「ふふ。素敵でしょう? わたくし、この髪飾りがとても気に入っていますの」
「はい。とてもお似合いです」
「ありがとう存じますわ」
マルゲリータ様はそう言って、ふわりと笑った。
「実はこの髪飾り、本当はアモルフィ侯爵家の娘が結婚式で身に着けるものなんですのよ」
「え? そうなんですか?」
「ええ。でも今、アモルフィ侯爵家に娘はわたくししかいないでしょう? だから、大切な日には身に着けることにしているんですの」
「ああ、なるほど。感謝祭といえば、神の恵みに感謝し、領民たちの苦労を労う大切な日ですからね。さすがマルゲリータ様です」
「え? もうっ!」
するとなぜかマルゲリータ様が少し不機嫌になってしまった。
あれ? どういうことだ? 何を間違えたんだ?
「ねえ、レクス様」
「はい」
「わたくしも光属性の魔力が良かったですわ」
「え?」
「わたくし、お母さまから水属性の魔力を受け継ぎましたわ。でも、とても弱い魔力で、せいぜい花壇に水をやるくらいしかできませんの。でも光属性なら、きっと人を癒して差し上げることができるでしょう?」
マルゲリータ様は寂しそうな表情でそう言った。
「……水も大切です。水がなければ人は生きていけません。それにもし干ばつが起きれば、光属性よりもきっと水属性のほうが重宝されるはずです」
「まぁ……そんなこと、考えたこともありませんでしたわ」
マルゲリータ様はそう言うと、複雑な表情を浮かべた。
「レクス様は、お優しいんですわね」
「ありがとうございます」
俺の返事にマルゲリータ様は小さく頷き、そのまま少し押し黙った。それから意を決したかのような表情で口を開く。
「ねえ、レクス様?」
「はい。なんでしょう?」
「戻って、踊りましょう? そろそろダンスが始まる時間ですわ」
「え? いえ、その、実はダンスは一度もやったことがなく……」
「え? そうなんですの?」
「はい」
「もう! レクス様ったら……」
「申し訳ありません」
するとマルゲリータ様はくしゃりと表情を崩した。
「仕方ありませんわね。ダンスの時間にわたくしがいないと皆を困らせてしまいますわ。戻りましょう」
「はい」
こうして俺たちはパーティー会場へと戻るのだった。
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