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第132話 ヴェスピオレ山の調査
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翌日、俺たちは調査をするためヴェスピオレ山へと向かった。五十人で同じ場所に向かっても意味がないので、俺たちは三つの部隊に分かれての行動となる。
基本的な部隊の編成は銀狼騎士団と同じで、戦力は元騎士たちが荷い、荷物持ちなどといった補助的な役割は元従騎士たちにお願いしている。
それぞれの部隊のリーダーは俺、マルツィオ卿、クレメンテ卿で、マルツィオ卿とクレメンテ卿の場合は元々率いていた部隊がほぼ丸ごと残っているのでそのままお願いした。俺のところはテオとキアーラさんに入ってもらったが、残りは全員従騎士だ。マルツィオ卿とクレメンテ卿の部隊と比べて元騎士の人数は圧倒的に少ないが、Aランク冒険者とBランク冒険者がいるのでモンスター討伐という面では決して引けを取らないはずだ。
ちなみに他のメンバーは元銀狼騎士団という事情を考慮され、全員Eランクからのスタートとなった。さらに元騎士の者たちは筆記試験に合格し次第Dランクに上がれることになっている。Bランクは騎士と同じ扱いなのだからBランクではないのかと思うかもしれないが、Eランクからスタートさせることだけでもかなり異例の対応なのだという。
そもそも実力と関係があるのはCランクまでで、そこから先はほぼ政治的なものだ。それは俺が王太子殿下の鶴の一声でAランクになったことからも明らかだろう。権力者にとって利があれば、大義名分などいくらでもつけて昇格させて貰える。逆に昇格させないほうが権力者にとって利があるのであれば、コーザで黒狼の顎がそうされたように昇格の約束など簡単に反故にされてしまう。
当時はあまりピンと来ていなかったが、黒狼の顎のようにそれなりのメンバーが揃っていたクランがわざわざコーザのように小さな男爵領に居た理由も今ならよく理解できる。
と、そんな話はさておき、俺たちはすっかり葉が落ち、冬の装いとなったヴェスピオレ山のすそ野に広がる森へとやってきた。
ここはホーンラビットやフォレストディア、ワイルドボアなどが出るそうで、パクシーニ王国ではよくある普通のモンスターの出る森だ。
たしかにモンスターの発生頻度は少し高いように感じるが、スピネーゼやヴァリエーゼのように危機が差し迫っているような気配はない。
「なんだかちょっと拍子抜けね」
どうやらキアーラさんも同じ感想を抱いたようだ。
「ヴァリエーゼと比べてですか?」
「ええ。あのときはひっきりなしだったでしょう? でもこれくらいならちょっと多い程度だわ」
「ですね」
「でもこれなら余裕あるし、みんなの練習にはちょうどいいんじゃない?」
「ああ、なるほど。いい考えですね。テオ、手伝ってくれ」
「ああ、いいぜ」
こうして俺たちは急遽予定を変更し、元従騎士たちの解体の実地訓練をするのだった。
◆◇◆
それから一週間が経過し、俺たちはどうやらモンスターたちが双子のヴェスピオレ山のうち、北側の山の西斜面から降りてきているということを突き止めた。
今のところ、モンスターの質も量も大したことはない。だが山の上から降りてきているとなると、発生源となる次元の裂け目が存在している可能性が高いだろう。
それに元従騎士のメンバーたちも戦闘と解体に慣れてきて、少しずつ戦力になってきている。
マルツィオ卿とクレメンテ卿のところのメンバーたちも同じで、毛皮を傷めないようにモンスターを倒すように工夫してくれるようになった。騎士団では毛皮と魔石の回収をしていなかったので、そういう習慣が身についてくれただけでも大きな進歩だろう。
ちなみに魔石はマッシモさんが研究室に割り当てられた予算でまとめて買い上げてくれることになっている。冒険者ギルドによる手数料がかからない分マッシモさんとしても安く魔石を入手できるし、俺たちも高値で買い取ってもらえるのでお互いにWin-Winの取引だ。
さて、ベースキャンプで状況を確認していると、冒険者ギルドに行っていたサポート部隊が戻ってきた。サポート部隊には元従騎士のメンバーに交代でお願いしており、毛皮などの素材の納品と伝令、そして食料などの物資の補給をお願いしている。
「レクス卿! ただいま戻りました!」
「ああ、ご苦労。何かあったか?」
「はっ! アモルフィ侯爵からの伝言で、銀狼騎士団の騎士たちは三日後、正装でアモルフィ侯爵邸に来て欲しいとのことです」
「は? ちょっと待て。任務を中断して、正装で来い?」
「はっ! そう聞いております!」
「……そうか。ご苦労」
俺がちらりとマルツィオ卿のほうを見ると、マルツィオ卿はやれやれといった表情を浮かべている。
「マルツィオ卿……」
「仕方ありません。おそらく、何かのパーティーをしたいのでしょうな」
「パーティーですか……」
「アモルフィ侯爵は我々をずっと銀狼騎士団と呼んでおりましたし、銀狼騎士団の竜殺しと親密であるということをアピールしたいのでしょう」
ああ、そういうことか。仕方ないとは分かっているが、やはりこの手のしがらみからは逃れられないようだ。
残念ながら今の俺たちは国から生活を保証された騎士団ではなく、一介の冒険者クランだ。権力者であるアモルフィ侯爵のご機嫌取りなど面倒ではあるが、これもやらなければならない仕事だ。
「仕方ないですね」
「はい。残念ながら……」
俺がそう言うと、マルツィオ卿も面倒くさそうな表情でそう答えた。
「総員! これよりベースキャンプを撤収し、サレルモに帰還する! 依頼主であるアモルフィ侯爵からの呼び出しだ!」
その言葉にメンバーたちは一瞬驚いた様子だったが、アモルフィ侯爵の呼び出しと聞いて諦めたような表情を浮かべるのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/03/27 (水) 18:00 を予定しております。
基本的な部隊の編成は銀狼騎士団と同じで、戦力は元騎士たちが荷い、荷物持ちなどといった補助的な役割は元従騎士たちにお願いしている。
それぞれの部隊のリーダーは俺、マルツィオ卿、クレメンテ卿で、マルツィオ卿とクレメンテ卿の場合は元々率いていた部隊がほぼ丸ごと残っているのでそのままお願いした。俺のところはテオとキアーラさんに入ってもらったが、残りは全員従騎士だ。マルツィオ卿とクレメンテ卿の部隊と比べて元騎士の人数は圧倒的に少ないが、Aランク冒険者とBランク冒険者がいるのでモンスター討伐という面では決して引けを取らないはずだ。
ちなみに他のメンバーは元銀狼騎士団という事情を考慮され、全員Eランクからのスタートとなった。さらに元騎士の者たちは筆記試験に合格し次第Dランクに上がれることになっている。Bランクは騎士と同じ扱いなのだからBランクではないのかと思うかもしれないが、Eランクからスタートさせることだけでもかなり異例の対応なのだという。
そもそも実力と関係があるのはCランクまでで、そこから先はほぼ政治的なものだ。それは俺が王太子殿下の鶴の一声でAランクになったことからも明らかだろう。権力者にとって利があれば、大義名分などいくらでもつけて昇格させて貰える。逆に昇格させないほうが権力者にとって利があるのであれば、コーザで黒狼の顎がそうされたように昇格の約束など簡単に反故にされてしまう。
当時はあまりピンと来ていなかったが、黒狼の顎のようにそれなりのメンバーが揃っていたクランがわざわざコーザのように小さな男爵領に居た理由も今ならよく理解できる。
と、そんな話はさておき、俺たちはすっかり葉が落ち、冬の装いとなったヴェスピオレ山のすそ野に広がる森へとやってきた。
ここはホーンラビットやフォレストディア、ワイルドボアなどが出るそうで、パクシーニ王国ではよくある普通のモンスターの出る森だ。
たしかにモンスターの発生頻度は少し高いように感じるが、スピネーゼやヴァリエーゼのように危機が差し迫っているような気配はない。
「なんだかちょっと拍子抜けね」
どうやらキアーラさんも同じ感想を抱いたようだ。
「ヴァリエーゼと比べてですか?」
「ええ。あのときはひっきりなしだったでしょう? でもこれくらいならちょっと多い程度だわ」
「ですね」
「でもこれなら余裕あるし、みんなの練習にはちょうどいいんじゃない?」
「ああ、なるほど。いい考えですね。テオ、手伝ってくれ」
「ああ、いいぜ」
こうして俺たちは急遽予定を変更し、元従騎士たちの解体の実地訓練をするのだった。
◆◇◆
それから一週間が経過し、俺たちはどうやらモンスターたちが双子のヴェスピオレ山のうち、北側の山の西斜面から降りてきているということを突き止めた。
今のところ、モンスターの質も量も大したことはない。だが山の上から降りてきているとなると、発生源となる次元の裂け目が存在している可能性が高いだろう。
それに元従騎士のメンバーたちも戦闘と解体に慣れてきて、少しずつ戦力になってきている。
マルツィオ卿とクレメンテ卿のところのメンバーたちも同じで、毛皮を傷めないようにモンスターを倒すように工夫してくれるようになった。騎士団では毛皮と魔石の回収をしていなかったので、そういう習慣が身についてくれただけでも大きな進歩だろう。
ちなみに魔石はマッシモさんが研究室に割り当てられた予算でまとめて買い上げてくれることになっている。冒険者ギルドによる手数料がかからない分マッシモさんとしても安く魔石を入手できるし、俺たちも高値で買い取ってもらえるのでお互いにWin-Winの取引だ。
さて、ベースキャンプで状況を確認していると、冒険者ギルドに行っていたサポート部隊が戻ってきた。サポート部隊には元従騎士のメンバーに交代でお願いしており、毛皮などの素材の納品と伝令、そして食料などの物資の補給をお願いしている。
「レクス卿! ただいま戻りました!」
「ああ、ご苦労。何かあったか?」
「はっ! アモルフィ侯爵からの伝言で、銀狼騎士団の騎士たちは三日後、正装でアモルフィ侯爵邸に来て欲しいとのことです」
「は? ちょっと待て。任務を中断して、正装で来い?」
「はっ! そう聞いております!」
「……そうか。ご苦労」
俺がちらりとマルツィオ卿のほうを見ると、マルツィオ卿はやれやれといった表情を浮かべている。
「マルツィオ卿……」
「仕方ありません。おそらく、何かのパーティーをしたいのでしょうな」
「パーティーですか……」
「アモルフィ侯爵は我々をずっと銀狼騎士団と呼んでおりましたし、銀狼騎士団の竜殺しと親密であるということをアピールしたいのでしょう」
ああ、そういうことか。仕方ないとは分かっているが、やはりこの手のしがらみからは逃れられないようだ。
残念ながら今の俺たちは国から生活を保証された騎士団ではなく、一介の冒険者クランだ。権力者であるアモルフィ侯爵のご機嫌取りなど面倒ではあるが、これもやらなければならない仕事だ。
「仕方ないですね」
「はい。残念ながら……」
俺がそう言うと、マルツィオ卿も面倒くさそうな表情でそう答えた。
「総員! これよりベースキャンプを撤収し、サレルモに帰還する! 依頼主であるアモルフィ侯爵からの呼び出しだ!」
その言葉にメンバーたちは一瞬驚いた様子だったが、アモルフィ侯爵の呼び出しと聞いて諦めたような表情を浮かべるのだった。
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