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第129話 変人王宮魔術師(3)
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マッシモさんは子供のようにキラキラした目をしながら、一直線に俺のほうへと歩いてくる。
ああ、まずい。あの目をしているときのこの人を止められる人は誰もいない。
「む? なんだ? このジジイは?」
「汚い服を着やがって。ここはお前のような奴が来る場所じゃない。あっちへ行け!」
なんということだ!
この近衛騎士たちはマッシモさんが王宮魔術師であることに気付いていないようで、シッシッと追い払うような仕草をする。
たしかにマッシモさんはヨレヨレの白衣を着ている。しかもその白衣にはなんの染みか分からない様々な色の汚れがついているのだから汚い服というのはたしかにそのとおりだろう。
だがその下には一応王宮魔術師の制服を着ているのだ。
それにマッシモさんはあれでも一応、筆頭王宮魔術師だ。筆頭王宮魔術師といえば大臣クラスのポジションなわけで、近衛騎士がその顔を知らないというのはさすがにまずいのではないだろうか?
一方のマッシモさんはそんな近衛騎士を完全に無視し、俺のところまでやってきた。
「おお! レクス卿! 今時間あるじゃろう? な? な?」
「あの、時間があるように見えますか?」
「大丈夫じゃ。ちょっとだけじゃから! な? いいじゃろ?」
何が大丈夫なのかは分からないが、このモードのマッシモさんは説得できる相手ではない。
「今度は一体なんですか?」
「それは研究室で見せるのじゃ! さあさあ! 早く早く!」
「おい! 待て! このジジイ!」
「勝手に入ってきてなんだ!」
「こいつは反逆者だ! 王妃陛下より連行しろとの命令を受けている!」
「む? なんじゃ? おぬしら?」
マッシモさんは邪魔をされ、かなり不機嫌そうに近衛騎士たちをギロリと睨んだ。
「なんだ? その目は!」
「こいつも反逆罪で牢屋に入れればいいだろう」
「それもそうだな」
近衛騎士たちがとんでもないことを言っている。さすがにそれはやめておいたほうがいいと思うのだが……。
「ジジイ! 貴様は王妃陛下の命令を遂行する我々の妨害をした! 貴様を反逆罪で捕縛する!」
近衛兵たちはそう宣言し、剣を向けたままマッシモさんに向かって近づいていく。
「むむ? おぬしら、誰かと思えば近衛騎士じゃったか。しかもあの女の命令で儂を捕縛するじゃと?」
マッシモさんは邪魔をされてかなり怒っているようだ。マッシモさんは手を突き出し、すぐさま魔法を発動した。
するとすさまじい濁流が近衛騎士たちを襲い、あっという間に流されていく。
「ふん! 愚か者どもが! さあさあ! 邪魔者は消えたし、儂の研究室に来るのじゃ!」
「あ、はい。ええと、そういうわけで、ちょっと行ってきます」
こうして俺はマッシモさんの研究室へと連行されたのだった。
◆◇◆
「これじゃ。これならば理論上、お主の魔法を半年間は劣化なく保持できるはずじゃ」
マッシモさんが差し出してきたのは前から研究中の聖銀の鏃だ。
俺は渡されたすべての鏃にホーリーを込めてはマッシモさんに返していく。
「マッシモさん」
「なんじゃ?」
「申し訳ないんですが、これからはもう研究に協力できなくなると思います」
「む? なぜじゃ?」
「実は――」
俺は素直に事情を話した。
「ふーむ。なるほど。あの馬鹿王め。相変わらず耄碌しおってからに」
マッシモさんはばっさりと国王陛下を切り捨てた。
「そういうことならば仕方ないのう。これからレクス卿はどうするつもりじゃ?」
おや? どういうことだ? 今日はやけにマッシモさんの物分かりがいいぞ?
らしくないマッシモさんに違和感を覚えつつも、俺は話を続ける。
「冒険者クランを作ったので、そこでモンスター退治をしつつ王太子殿下の奪還を目指します」
「ふむ。なるほど。じゃあ、儂もそこに加入するのじゃ」
「えっ!?」
「そうすればお主は儂の研究を手伝うじゃろう? 何しろ同じクランのメンバーじゃからのう」
「はい?」
「それに、お主は儂を不思議な泉に案内すると約束したじゃろう? そこにも行きやすくなるのう」
「えっ? えっ? で、でも冒険者でないとクランには――」
「ふむ。安心せい。儂はAランク冒険者じゃ」
「はい!?」
「どうじゃ? 驚いたじゃろう」
「は、はい……でもまたなんで?」
「そもそも、儂は元々冒険者じゃったからのう」
「ええっ!?」
「それなのにあの馬鹿王がのう。どうしても来て欲しいと言うてな。勝手にAランクの地位を寄越してきたのじゃよ」
「はぁ。ええと……」
「あとはあの女が問題なんじゃったな。なあに、馬鹿王に一筆書かせれば良いだけじゃ。さあ、行くぞ」
俺はあまりの展開に頭がついていけず、マッシモさんに言われるがままお城の中を歩いていくのだった。
◆◇◆
「国王陛下は誰にもお会いにならぬ! 今すぐた立ち去……マッシモ様!?」
「ほれ、どけ。おーい! 儂じゃ! 入るぞ!」
「お、お待ちください! マッシモ様! 国王陛下は」
「黙れ! 寝ておるとき以外、儂が望めばいつでも会う! そういう約束じゃろうが!」
マッシモさんが国王陛下の寝室の前に立つ近衛騎士を一喝した。
一体どこまですごい条件を付けたんだと疑問に思うが、そんな重要人物の顔を覚えていない近衛騎士がいるということにも衝撃を覚える。
マッシモさんは勝手に扉を開けて国王陛下の寝室に入っていく。それを追いかけて近衛騎士が、さらに続いて俺も中に入る。
「ええい! この馬鹿王が! 一体何を呆けておるのじゃ」
「……む? マッシモか? はぁ……」
国王陛下は大きなため息をついた。
「儂はもうダメじゃ。ルカが、ルカが……」
「ええい! しっかりせんか! お主がそんななら儂は見限って野に降るぞ!」
「なっ! それは……」
「イヤならしゃんとせい! あの女、殿下の騎士たちにまで手を突っ込んでおるぞ? 本当に良いのか?」
「何?」
「あの女の騎士が儂を反逆罪で処刑すると言っておったぞ。そこのレクス卿も反逆罪がどうのと言われておったのう」
「じゃ、じゃが、妃はルカを助けると……」
「バッカモーン! あの女がそんなことを考えるわけがなかろう! 耄碌しおって、このボケジジイが!」
「なっ!? ジジイが儂をジジイじゃと!?」
「ジジイをジジイと言うて何が悪い? そもそも、儂はジジイではない! 儂はまだ若いのじゃ!」
「なんじゃと!? お主のほうが年上じゃろうが!」
なんというか、ものすごい光景だ。ジジイ同士がお互いをジジイと言って罵り合っている。
それからしばらくの間、二人は壮絶な口喧嘩を続けるのだった。
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次回更新は通常どおり、2024/03/24 (日) 18:00 を予定しております。
ああ、まずい。あの目をしているときのこの人を止められる人は誰もいない。
「む? なんだ? このジジイは?」
「汚い服を着やがって。ここはお前のような奴が来る場所じゃない。あっちへ行け!」
なんということだ!
この近衛騎士たちはマッシモさんが王宮魔術師であることに気付いていないようで、シッシッと追い払うような仕草をする。
たしかにマッシモさんはヨレヨレの白衣を着ている。しかもその白衣にはなんの染みか分からない様々な色の汚れがついているのだから汚い服というのはたしかにそのとおりだろう。
だがその下には一応王宮魔術師の制服を着ているのだ。
それにマッシモさんはあれでも一応、筆頭王宮魔術師だ。筆頭王宮魔術師といえば大臣クラスのポジションなわけで、近衛騎士がその顔を知らないというのはさすがにまずいのではないだろうか?
一方のマッシモさんはそんな近衛騎士を完全に無視し、俺のところまでやってきた。
「おお! レクス卿! 今時間あるじゃろう? な? な?」
「あの、時間があるように見えますか?」
「大丈夫じゃ。ちょっとだけじゃから! な? いいじゃろ?」
何が大丈夫なのかは分からないが、このモードのマッシモさんは説得できる相手ではない。
「今度は一体なんですか?」
「それは研究室で見せるのじゃ! さあさあ! 早く早く!」
「おい! 待て! このジジイ!」
「勝手に入ってきてなんだ!」
「こいつは反逆者だ! 王妃陛下より連行しろとの命令を受けている!」
「む? なんじゃ? おぬしら?」
マッシモさんは邪魔をされ、かなり不機嫌そうに近衛騎士たちをギロリと睨んだ。
「なんだ? その目は!」
「こいつも反逆罪で牢屋に入れればいいだろう」
「それもそうだな」
近衛騎士たちがとんでもないことを言っている。さすがにそれはやめておいたほうがいいと思うのだが……。
「ジジイ! 貴様は王妃陛下の命令を遂行する我々の妨害をした! 貴様を反逆罪で捕縛する!」
近衛兵たちはそう宣言し、剣を向けたままマッシモさんに向かって近づいていく。
「むむ? おぬしら、誰かと思えば近衛騎士じゃったか。しかもあの女の命令で儂を捕縛するじゃと?」
マッシモさんは邪魔をされてかなり怒っているようだ。マッシモさんは手を突き出し、すぐさま魔法を発動した。
するとすさまじい濁流が近衛騎士たちを襲い、あっという間に流されていく。
「ふん! 愚か者どもが! さあさあ! 邪魔者は消えたし、儂の研究室に来るのじゃ!」
「あ、はい。ええと、そういうわけで、ちょっと行ってきます」
こうして俺はマッシモさんの研究室へと連行されたのだった。
◆◇◆
「これじゃ。これならば理論上、お主の魔法を半年間は劣化なく保持できるはずじゃ」
マッシモさんが差し出してきたのは前から研究中の聖銀の鏃だ。
俺は渡されたすべての鏃にホーリーを込めてはマッシモさんに返していく。
「マッシモさん」
「なんじゃ?」
「申し訳ないんですが、これからはもう研究に協力できなくなると思います」
「む? なぜじゃ?」
「実は――」
俺は素直に事情を話した。
「ふーむ。なるほど。あの馬鹿王め。相変わらず耄碌しおってからに」
マッシモさんはばっさりと国王陛下を切り捨てた。
「そういうことならば仕方ないのう。これからレクス卿はどうするつもりじゃ?」
おや? どういうことだ? 今日はやけにマッシモさんの物分かりがいいぞ?
らしくないマッシモさんに違和感を覚えつつも、俺は話を続ける。
「冒険者クランを作ったので、そこでモンスター退治をしつつ王太子殿下の奪還を目指します」
「ふむ。なるほど。じゃあ、儂もそこに加入するのじゃ」
「えっ!?」
「そうすればお主は儂の研究を手伝うじゃろう? 何しろ同じクランのメンバーじゃからのう」
「はい?」
「それに、お主は儂を不思議な泉に案内すると約束したじゃろう? そこにも行きやすくなるのう」
「えっ? えっ? で、でも冒険者でないとクランには――」
「ふむ。安心せい。儂はAランク冒険者じゃ」
「はい!?」
「どうじゃ? 驚いたじゃろう」
「は、はい……でもまたなんで?」
「そもそも、儂は元々冒険者じゃったからのう」
「ええっ!?」
「それなのにあの馬鹿王がのう。どうしても来て欲しいと言うてな。勝手にAランクの地位を寄越してきたのじゃよ」
「はぁ。ええと……」
「あとはあの女が問題なんじゃったな。なあに、馬鹿王に一筆書かせれば良いだけじゃ。さあ、行くぞ」
俺はあまりの展開に頭がついていけず、マッシモさんに言われるがままお城の中を歩いていくのだった。
◆◇◆
「国王陛下は誰にもお会いにならぬ! 今すぐた立ち去……マッシモ様!?」
「ほれ、どけ。おーい! 儂じゃ! 入るぞ!」
「お、お待ちください! マッシモ様! 国王陛下は」
「黙れ! 寝ておるとき以外、儂が望めばいつでも会う! そういう約束じゃろうが!」
マッシモさんが国王陛下の寝室の前に立つ近衛騎士を一喝した。
一体どこまですごい条件を付けたんだと疑問に思うが、そんな重要人物の顔を覚えていない近衛騎士がいるということにも衝撃を覚える。
マッシモさんは勝手に扉を開けて国王陛下の寝室に入っていく。それを追いかけて近衛騎士が、さらに続いて俺も中に入る。
「ええい! この馬鹿王が! 一体何を呆けておるのじゃ」
「……む? マッシモか? はぁ……」
国王陛下は大きなため息をついた。
「儂はもうダメじゃ。ルカが、ルカが……」
「ええい! しっかりせんか! お主がそんななら儂は見限って野に降るぞ!」
「なっ! それは……」
「イヤならしゃんとせい! あの女、殿下の騎士たちにまで手を突っ込んでおるぞ? 本当に良いのか?」
「何?」
「あの女の騎士が儂を反逆罪で処刑すると言っておったぞ。そこのレクス卿も反逆罪がどうのと言われておったのう」
「じゃ、じゃが、妃はルカを助けると……」
「バッカモーン! あの女がそんなことを考えるわけがなかろう! 耄碌しおって、このボケジジイが!」
「なっ!? ジジイが儂をジジイじゃと!?」
「ジジイをジジイと言うて何が悪い? そもそも、儂はジジイではない! 儂はまだ若いのじゃ!」
「なんじゃと!? お主のほうが年上じゃろうが!」
なんというか、ものすごい光景だ。ジジイ同士がお互いをジジイと言って罵り合っている。
それからしばらくの間、二人は壮絶な口喧嘩を続けるのだった。
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