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第125話 新たなるペット
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コルティナにあるマッツィアーノ公爵邸に大量のワイバーンが飛来した。使用人たちは庭に整列し、それを恭しく出迎えており、その先頭にはセレスティアの姿がある。
ワイバーンたちが着陸すると、すぐにセレスティアが歩み出る。
「お父さま、サンドロお兄さま、お帰りなさいませ」
「ああ。出迎えご苦労。留守中、何か変わりはあったか?」
「いえ。平穏そのものでした」
無表情でそう答えたセレスティアだったが、サンドロが肩に担いでいる縄でぐるぐる巻きのルカの姿を見て眉をひそめた。ルカは目を閉じており、暴れるそぶりも見せない。
「これか? 戦利品だ。中々いいペットだろう?」
クルデルタはニタリと邪悪な笑みを浮かべた。するとセレスティアもニタリと同じように邪悪な笑みを浮かべる。
「ええ、中々の毛並みですね」
「だろう? 一点モノだからな。誰にやるかは後で決める」
「はい」
クルデルタが歩きだすと、セレスティアはその三歩後ろをついて歩くのだった。
◆◇◆
「さて、お前たち。一番面白そうな提案をした者にこのペットをくれてやろう」
クルデルタは会議室に赤い瞳を持つ五人の子供を集め、そう言い放った。サンドロに乱暴に床へと放り投げられ、猿ぐつわを噛まされたルカは苦しそうなうめき声を上げる。
「お父さま、そのペットはルカ・ディ・パクシーニですわよね?」
「ああ、そうだ」
「ならばぜひともわたくしにくださいませ。ルカ・ディ・パクシーニを標本にして、エントランスに飾ったら素敵じゃありませんこと?」
ロザリナはまるで新しいオモチャを手にした子供のようにキラキラした瞳でそう言った。するとルカが何か抗議をしようとしているのか、もごもごと喋ろうとしている。だが猿ぐつわのせいもあり、何を言っているか聞き取れた者はいない。
「静かにしろ!」
「っ!」
クルデルタはそんなルカの腹を蹴り、黙らせた。
そんなクルデルタとルカを横目に、サルヴァトーレがロザリナに噛みつく。
「あ? ロザリナはいつもそれだ。こういうクソ生意気な男はサンドバッグの代わりにするのが一番だろうが」
「あら、サルヴァトーレお兄さまだっていつも同じじゃありませんこと?」
「なんだと?」
「それに、殴って壊してしまえばそれで終わりですわ。それよりもずっと飾っておけるほうがいいに決まっていますわ」
「はっ。ムカつく顔を家に帰る度に見るなんて趣味が悪いと思うけどな。一体どれだけのモンスターがこいつに殺されたと思ってるんだ」
「あらあら」
ロザリナは馬鹿にしたような笑みをサルヴァトーレに向ける。
「おい、なんだ? その顔は」
「いいえ? ただ、この愉しみが分からないだなんて……」
「ああん?」
「静かにしろ。喧嘩をするならお前たちにはやらんぞ」
クルデルタに睨まれ、二人はすぐに静かになった。
するとファウストが手を上げる。
「ぜひとも、新しい実験体としていただきたい。光属性魔法に適性のある実験体などそうそう見つかりま――」
「さっさと処分すべきです。危険分子はさっさと殺し、モンスターのエサにでもしてしまうのが一番です」
ファウストの発言をサンドロがそう言って遮った。ファウストが抗議の視線を向けるが、サンドロはどこ吹く風だ。
「お前たちの意見は分かった。ではセレスティア、お前はどう思う?」
話を振られたセレスティアはじっと何かを考えるそぶりをみせ、それからニタァとクルデルタそっくりの邪悪な笑みを浮かべた。
「いいことを思いつきました」
「ほう。どんなだ?」
「この男は光属性魔法を操り、魔竜ウルガーノをも討伐した王家の希望の光。そうですね?」
するとクルデルタは苦々しい表情を浮かべつつも、それを肯定する。
「そのとおりだ。王座に座っているのは我々のおかげなことを忘れて、な」
「ええ、そのとおりです。ですからそんな王家の連中に、希望の光が私を常に求め、私の姿を見るだけで、声を聞くだけで所かまわず発情し、私に踏まれただけで無様に果てる。そんな姿を見せつけたら面白いと思いませんか?」
それを聞いたクルデルタは虚を突かれた様な表情となったが、すぐにあの邪悪な笑みを浮かべる。
「く、くくくくく。いいぞ、セレスティア。それでこそ私の自慢の娘だ。くはははははは」
クルデルタはそうしてひとしきり大笑いすると、きっぱりと宣言する。
「ルカ・ディ・パクシーニはセレスティアのペットとする」
「そんな! どうかわたくしに!」
「黙れ!」
食い下がるロザリナだったが、クルデルタに一喝されて口を噤んだ。
「セレスティア、しっかり調教してみせろ」
「ええ、お父さま。お任せください」
セレスティアはそう言うと、ニタリと邪悪に微笑むのだった。
◆◇◆
ルカは、かつてレクスが繋がれていた地下牢に閉じ込められた。当時のレクスと同じように両手は鎖に繋がれているが、レクスのときとは違ってルカの怪我はしっかりと手当てがなされている。
ルカは硬いベッドに寝そべりながら、ぼそりと呟く。
「まさか、マッツィアーノ公爵がここまでやるとはな」
それからルカは大きくため息をついた。
「しかしレクスよ。本当にあの女を信じて大丈夫なのか? 私には他のマッツィアーノと何も変わらない、いや、より危険なようにすら見えるぞ?」
ルカはそう呟き、再び小さなため息をつくのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/03/20 (水) 18:00 を予定しております。
ワイバーンたちが着陸すると、すぐにセレスティアが歩み出る。
「お父さま、サンドロお兄さま、お帰りなさいませ」
「ああ。出迎えご苦労。留守中、何か変わりはあったか?」
「いえ。平穏そのものでした」
無表情でそう答えたセレスティアだったが、サンドロが肩に担いでいる縄でぐるぐる巻きのルカの姿を見て眉をひそめた。ルカは目を閉じており、暴れるそぶりも見せない。
「これか? 戦利品だ。中々いいペットだろう?」
クルデルタはニタリと邪悪な笑みを浮かべた。するとセレスティアもニタリと同じように邪悪な笑みを浮かべる。
「ええ、中々の毛並みですね」
「だろう? 一点モノだからな。誰にやるかは後で決める」
「はい」
クルデルタが歩きだすと、セレスティアはその三歩後ろをついて歩くのだった。
◆◇◆
「さて、お前たち。一番面白そうな提案をした者にこのペットをくれてやろう」
クルデルタは会議室に赤い瞳を持つ五人の子供を集め、そう言い放った。サンドロに乱暴に床へと放り投げられ、猿ぐつわを噛まされたルカは苦しそうなうめき声を上げる。
「お父さま、そのペットはルカ・ディ・パクシーニですわよね?」
「ああ、そうだ」
「ならばぜひともわたくしにくださいませ。ルカ・ディ・パクシーニを標本にして、エントランスに飾ったら素敵じゃありませんこと?」
ロザリナはまるで新しいオモチャを手にした子供のようにキラキラした瞳でそう言った。するとルカが何か抗議をしようとしているのか、もごもごと喋ろうとしている。だが猿ぐつわのせいもあり、何を言っているか聞き取れた者はいない。
「静かにしろ!」
「っ!」
クルデルタはそんなルカの腹を蹴り、黙らせた。
そんなクルデルタとルカを横目に、サルヴァトーレがロザリナに噛みつく。
「あ? ロザリナはいつもそれだ。こういうクソ生意気な男はサンドバッグの代わりにするのが一番だろうが」
「あら、サルヴァトーレお兄さまだっていつも同じじゃありませんこと?」
「なんだと?」
「それに、殴って壊してしまえばそれで終わりですわ。それよりもずっと飾っておけるほうがいいに決まっていますわ」
「はっ。ムカつく顔を家に帰る度に見るなんて趣味が悪いと思うけどな。一体どれだけのモンスターがこいつに殺されたと思ってるんだ」
「あらあら」
ロザリナは馬鹿にしたような笑みをサルヴァトーレに向ける。
「おい、なんだ? その顔は」
「いいえ? ただ、この愉しみが分からないだなんて……」
「ああん?」
「静かにしろ。喧嘩をするならお前たちにはやらんぞ」
クルデルタに睨まれ、二人はすぐに静かになった。
するとファウストが手を上げる。
「ぜひとも、新しい実験体としていただきたい。光属性魔法に適性のある実験体などそうそう見つかりま――」
「さっさと処分すべきです。危険分子はさっさと殺し、モンスターのエサにでもしてしまうのが一番です」
ファウストの発言をサンドロがそう言って遮った。ファウストが抗議の視線を向けるが、サンドロはどこ吹く風だ。
「お前たちの意見は分かった。ではセレスティア、お前はどう思う?」
話を振られたセレスティアはじっと何かを考えるそぶりをみせ、それからニタァとクルデルタそっくりの邪悪な笑みを浮かべた。
「いいことを思いつきました」
「ほう。どんなだ?」
「この男は光属性魔法を操り、魔竜ウルガーノをも討伐した王家の希望の光。そうですね?」
するとクルデルタは苦々しい表情を浮かべつつも、それを肯定する。
「そのとおりだ。王座に座っているのは我々のおかげなことを忘れて、な」
「ええ、そのとおりです。ですからそんな王家の連中に、希望の光が私を常に求め、私の姿を見るだけで、声を聞くだけで所かまわず発情し、私に踏まれただけで無様に果てる。そんな姿を見せつけたら面白いと思いませんか?」
それを聞いたクルデルタは虚を突かれた様な表情となったが、すぐにあの邪悪な笑みを浮かべる。
「く、くくくくく。いいぞ、セレスティア。それでこそ私の自慢の娘だ。くはははははは」
クルデルタはそうしてひとしきり大笑いすると、きっぱりと宣言する。
「ルカ・ディ・パクシーニはセレスティアのペットとする」
「そんな! どうかわたくしに!」
「黙れ!」
食い下がるロザリナだったが、クルデルタに一喝されて口を噤んだ。
「セレスティア、しっかり調教してみせろ」
「ええ、お父さま。お任せください」
セレスティアはそう言うと、ニタリと邪悪に微笑むのだった。
◆◇◆
ルカは、かつてレクスが繋がれていた地下牢に閉じ込められた。当時のレクスと同じように両手は鎖に繋がれているが、レクスのときとは違ってルカの怪我はしっかりと手当てがなされている。
ルカは硬いベッドに寝そべりながら、ぼそりと呟く。
「まさか、マッツィアーノ公爵がここまでやるとはな」
それからルカは大きくため息をついた。
「しかしレクスよ。本当にあの女を信じて大丈夫なのか? 私には他のマッツィアーノと何も変わらない、いや、より危険なようにすら見えるぞ?」
ルカはそう呟き、再び小さなため息をつくのだった。
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