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第123話 マッツィアーノの横暴
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2024/03/18 誤字を修正しました。
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その後、俺たちは迎賓館の一角にある小ぢんまりとした部屋にやってきた。交流会に先立って国王陛下、王太子殿下、マッツィアーノ公爵とサンドロ・ディ・マッツィアーノの四名による会談をするためだ。
俺はもちろん会場警備兼救護係として部屋の隅に待機している。
そうして一時間ほど待っていると、公爵家の二人がようやくやってきた。
去年に続いての遅刻だが、二時間が一時間になったということは、少しは進歩したのだろうか?
いや、そもそも遅刻してくること自体が論外なわけだが……。
さて、このサンドロ・ディ・マッツィアーノという男だが、中々危険そうで、侮れない雰囲気を纏っている。
この部屋に入ってきたときもどこに誰がいるのかを確認していたし、筋肉もかなりしっかりついているように見える。それになんというか、隙が無い感じなのだ。
それでいて強い魔力を持っているとなると、これはティティを助けるときに大きな障害となりそうだ。
「陛下、元気にしていたかな?」
「おお、公爵。そなたも元気そうじゃな」
「ははは。おかげでな。そういえば王子、何やら大変な目に遭ったそうじゃないか」
マッツィアーノ公爵はまるで悪びれた様子もなく、そんなことを言ってのけた。
「いえいえ。ですがおかげさまで元気にやっていますよ」
「そうかそうか。今はモンスターが大変な状況らしいな。王子の騎士団も大変なのではないかね? ええと、銀犬騎士団だったかな?」
「銀狼騎士団です」
「おお、そうだった。いやはや、すまないな。我が公爵領には暴れるモンスターなどいないからな」
「ええ。さすがマッツィアーノですね」
「そうだろうそうだろう。我々も本当は王国全体を守ってやりたいとは思うのだがね」
「いえいえ、国のことを思えば我々も汗をかくのが筋というものでしょう」
「ははは。王子は楽な道は選ばないということかな?」
「ええ。我々こそが民の代表ですからね。民に模範を示さねば良い王にはなれません」
「だそうだぞ、サンドロ。王子、これが息子のサンドロだ」
「サンドロ・ディ・マッツィアーノだ」
「ルカ・ディ・パクシーニだ」
二人はそう言って握手を交わすが、お互いにじっと目を合わせたまま固く握手をしている。それからすぐにサンドロは小さく笑い、手を離した。
「ははは。後継者同士、気が合ったようで何よりだ。サンドロ、どうだ? 二人で散歩でもしてきては」
「はい、父上。ではルカ王子」
「ああ」
こうして王太子殿下はサンドロ・ディ・マッツィアーノと並んで庭のほうへと散歩に出掛けた。何を話すのか気になるので後を追いかけたいが、勝手に持ち場を離れるわけにはいかない。
俺は二人の後ろ姿を見送ると、再び国王陛下のほうへと視線を移す。
「さて、陛下。後継者同士で親睦を深めてもらうとして、我々は大人の話をしようじゃないか」
「うむ」
「そろそろ後継者である王子には危険なことを止めさせるべきではないかね? 聞けば、あの魔竜ウルガーノを討伐したそうではないか」
「そうじゃのう。儂もさすがにそれは止めたのじゃ、ルカは今がチャンス、と言って聞かなくてのう」
「若いな」
「うむ。じゃが、実際に討ってしまったのじゃ。そうなればもう何も言えまい」
「おや? 若者が無謀なことをしていたら止めるのが年長者の役目だ、と言っていった陛下らしくない」
「……」
「それよりも、そろそろあの件を考えてくれたかね? 何も王権を寄越せなどと言っているわけではないのだ。王は変わらず陛下だし、パクシーニ家が王となればいい」
「だが、あのような条件を全国に布告しては民が持たん」
よく分からない会話が聞こえてくるが、口ぶりからするときっと国全体としてマッツィアーノにみかじめ料を払えと言ってきているのだろう。
「だが、今はモンスターがずいぶんと騒がしいと聞いているぞ? このまま徒に戦い続けていては、若い命が無為に散っていくだけではないか? そんなことは陛下も本意ではないだろう? うん?」
マッツィアーノ公爵は一見するとそれっぽいことを言っているが、モンスターが騒がしいのはマッツィアーノ公爵がけしかけているからのはずだ。もちろん証拠はないが、これほど酷いマッチポンプはそうそうないだろう。
「じゃが……」
「陛下、前線では万が一ということもあるのではないか? いくらルカ王子とて――」
「なっ!?」
「陛下、落ち着け。万が一の話だ。我々だって彼のように正義感溢れる有望な若者には長く活躍してほしいのだ」
マッツィアーノ公爵はそう言うと、ニタリと邪悪な笑みを浮かべた。その笑みには底知れない悪意を感じ、思わず王太子殿下の身を案じる。
と、次の瞬間、すさまじい爆音が外から聞こえてきた。それと同時にガラスが割れ、破片が室内に飛び散る。
「おやおや、何か起きたようだな。これでは会談どころではないだろう。陛下、今の話、よく考えてみてくれよ」
マッツィアーノ公爵はまるで動じた様子もなくそう言い放つと、そのまま席を立つのだった。
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次回更新は通常どおり、2024/03/18 (月) 18:00 を予定しております。
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その後、俺たちは迎賓館の一角にある小ぢんまりとした部屋にやってきた。交流会に先立って国王陛下、王太子殿下、マッツィアーノ公爵とサンドロ・ディ・マッツィアーノの四名による会談をするためだ。
俺はもちろん会場警備兼救護係として部屋の隅に待機している。
そうして一時間ほど待っていると、公爵家の二人がようやくやってきた。
去年に続いての遅刻だが、二時間が一時間になったということは、少しは進歩したのだろうか?
いや、そもそも遅刻してくること自体が論外なわけだが……。
さて、このサンドロ・ディ・マッツィアーノという男だが、中々危険そうで、侮れない雰囲気を纏っている。
この部屋に入ってきたときもどこに誰がいるのかを確認していたし、筋肉もかなりしっかりついているように見える。それになんというか、隙が無い感じなのだ。
それでいて強い魔力を持っているとなると、これはティティを助けるときに大きな障害となりそうだ。
「陛下、元気にしていたかな?」
「おお、公爵。そなたも元気そうじゃな」
「ははは。おかげでな。そういえば王子、何やら大変な目に遭ったそうじゃないか」
マッツィアーノ公爵はまるで悪びれた様子もなく、そんなことを言ってのけた。
「いえいえ。ですがおかげさまで元気にやっていますよ」
「そうかそうか。今はモンスターが大変な状況らしいな。王子の騎士団も大変なのではないかね? ええと、銀犬騎士団だったかな?」
「銀狼騎士団です」
「おお、そうだった。いやはや、すまないな。我が公爵領には暴れるモンスターなどいないからな」
「ええ。さすがマッツィアーノですね」
「そうだろうそうだろう。我々も本当は王国全体を守ってやりたいとは思うのだがね」
「いえいえ、国のことを思えば我々も汗をかくのが筋というものでしょう」
「ははは。王子は楽な道は選ばないということかな?」
「ええ。我々こそが民の代表ですからね。民に模範を示さねば良い王にはなれません」
「だそうだぞ、サンドロ。王子、これが息子のサンドロだ」
「サンドロ・ディ・マッツィアーノだ」
「ルカ・ディ・パクシーニだ」
二人はそう言って握手を交わすが、お互いにじっと目を合わせたまま固く握手をしている。それからすぐにサンドロは小さく笑い、手を離した。
「ははは。後継者同士、気が合ったようで何よりだ。サンドロ、どうだ? 二人で散歩でもしてきては」
「はい、父上。ではルカ王子」
「ああ」
こうして王太子殿下はサンドロ・ディ・マッツィアーノと並んで庭のほうへと散歩に出掛けた。何を話すのか気になるので後を追いかけたいが、勝手に持ち場を離れるわけにはいかない。
俺は二人の後ろ姿を見送ると、再び国王陛下のほうへと視線を移す。
「さて、陛下。後継者同士で親睦を深めてもらうとして、我々は大人の話をしようじゃないか」
「うむ」
「そろそろ後継者である王子には危険なことを止めさせるべきではないかね? 聞けば、あの魔竜ウルガーノを討伐したそうではないか」
「そうじゃのう。儂もさすがにそれは止めたのじゃ、ルカは今がチャンス、と言って聞かなくてのう」
「若いな」
「うむ。じゃが、実際に討ってしまったのじゃ。そうなればもう何も言えまい」
「おや? 若者が無謀なことをしていたら止めるのが年長者の役目だ、と言っていった陛下らしくない」
「……」
「それよりも、そろそろあの件を考えてくれたかね? 何も王権を寄越せなどと言っているわけではないのだ。王は変わらず陛下だし、パクシーニ家が王となればいい」
「だが、あのような条件を全国に布告しては民が持たん」
よく分からない会話が聞こえてくるが、口ぶりからするときっと国全体としてマッツィアーノにみかじめ料を払えと言ってきているのだろう。
「だが、今はモンスターがずいぶんと騒がしいと聞いているぞ? このまま徒に戦い続けていては、若い命が無為に散っていくだけではないか? そんなことは陛下も本意ではないだろう? うん?」
マッツィアーノ公爵は一見するとそれっぽいことを言っているが、モンスターが騒がしいのはマッツィアーノ公爵がけしかけているからのはずだ。もちろん証拠はないが、これほど酷いマッチポンプはそうそうないだろう。
「じゃが……」
「陛下、前線では万が一ということもあるのではないか? いくらルカ王子とて――」
「なっ!?」
「陛下、落ち着け。万が一の話だ。我々だって彼のように正義感溢れる有望な若者には長く活躍してほしいのだ」
マッツィアーノ公爵はそう言うと、ニタリと邪悪な笑みを浮かべた。その笑みには底知れない悪意を感じ、思わず王太子殿下の身を案じる。
と、次の瞬間、すさまじい爆音が外から聞こえてきた。それと同時にガラスが割れ、破片が室内に飛び散る。
「おやおや、何か起きたようだな。これでは会談どころではないだろう。陛下、今の話、よく考えてみてくれよ」
マッツィアーノ公爵はまるで動じた様子もなくそう言い放つと、そのまま席を立つのだった。
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