ドン底から始まる下剋上~悪魔堕ちして死亡する幼馴染を救うためにゲームの知識で成り上がります~

一色孝太郎

文字の大きさ
上 下
113 / 208

第113話 ウルガーノの島

しおりを挟む
2024/03/07 誤字を修正しました
================

「レクス卿!」

 悔しさをみしめながら飛び去る魔竜ウルガーノの姿を眺めていると、慌てた様子のマルツィオ卿が駆け寄ってきた。

「取り逃がしてしまいましたね」
「そんなことより、レクス卿は大丈夫か? 直撃を受けていたではないか!」
「ああ、それですか。ヒヤッとしましたが、意外となんとかなりましたね」

 そう答えると、マルツィオ卿はホッとした表情を浮かべた。ふと周りを見回すと、テオやキアーラさん、それに他の騎士や従騎士たちまでもが俺の様子を心配そうに見ている。

 ああ、どうやらかなり心配を掛けてしまったようだ。

「みんな、大丈夫だ。実は大したダメージはないんだ」

 すると彼らはお互いに顔を見合わせる。

 心配されるのはうれしいが、まだやるべきことは残っている。

「それよりマルツィオ卿、王太子殿下に早く追撃の許可をいただかないと」
「む? あれで十分ではないのかね?」
「え? あれだけ弱ってるんですから、今がチャンスですよね?」
「それはそうだが……」
「このまま放っておいても、どうせまた何十年後かに襲ってくるんですよね? ならば今、倒してしまいましょう」
「そ、そうだな」
「では、まずは王太子殿下に合流しましょう」
「ああ」

 こうして俺たちは王太子殿下のいる丘の上の地下壕へと向かう。そして丘の上に到着すると、王太子殿下はすでに出発の準備を整えていた。

「王太子殿下!」
「レクスか。よくやったぞ。マルツィオ卿も見事だった。さあ、レクス。ウルガーノ島へと乗り込むぞ」
「はい。もちろんです」

 すると王太子殿下は満足げにうなずいた。

「お前たち! 我々はこれから魔竜ウルガーノにトドメを刺しに向かう! 奴はすでに虫の息だ! ここで魔竜ウルガーノを滅ぼせば! お前たちの名は英雄として! 永遠にパクシーニの歴史に刻まれるだろう! さあ! 行くぞ!」

 王太子殿下はそう言って剣を天に向かって突き上げた。

「「「「おー!」」」」

 俺たちもそれにならって剣を突き上げる。もちろんテオも、キアーラさんも、それにマルツィオ卿もだ。

 どうやら王太子殿下に檄を飛ばされ、一瞬でやる気になったらしい。さすが王太子殿下だ。

 こうして俺たちは丘から撤収し、港へと向かうのだった。

◆◇◆

 俺たちはウルガーノ島へと上陸した。ウルガーノ島は今も小規模な噴火を繰り返す活火山で、ごつごつとした黒い岩と火山灰に覆われた荒涼とした景色が広がっている。

 そんな島を俺たちは魔竜ウルガーノのねぐらとされている洞窟を目指して歩いている。

 なぜそんなことが分かっているのかというと、それはかつて嵐で乗っていた船が沈没してウルガーノ島に流れ着いた船乗りが、破壊の限りを尽くして戻ってきた魔竜ウルガーノが山の中腹の南斜面にある洞窟に入るのを目撃したという記録が残っているからだ。

 この洞窟は遠くから見ても分かるほど大きな洞窟で、俺たちも船からその存在を確認している。

 ちなみにそれを見た彼は闇夜に乗じて脱出し、泳いでシシル島まで逃げたのだとか。

 ものすごい泳力だと思うが、船乗りであればそのくらいできるものなのかもしれない。

 そんなわけで、俺たちは迷うことなく巨大な洞窟に到着した。入口からは魔竜ウルガーノの血と思われる染みが洞窟の奥へと向かって真っすぐに伸びている。

「では、俺が先行します」
「ああ。気をつけろ」
「はい」

 身体強化を発動しつつ、俺は慎重に魔竜ウルガーノの残した痕跡を辿たどる。すると百メートルほど奥に入ったところに大きなドーム状の空間があり、そこで魔竜ウルガーノは体を丸めて眠りについていた。矢は抜けたようで、もう刺さっていない。

 と、ここまではいい。予想の範囲内だ。

 ただ予想外だったのは、その奥に次元の裂け目があることだ。しかも魔竜ウルガーノは次元の裂け目から漏れ出てくる黒いもやのようなものを吸収しているように見える。

 今すぐにやってしまったほうがいいのではないか?

 もし魔界の影が現れ、魔竜ウルガーノを強化しようものなら大変なことになる。

 いや、ダメだ。戻って近づかないように言わなければ。すでに残りの部隊はこの洞窟に入っている。戦闘を始めれば間違いなく音で分かってしまい、そうすれば王太子殿下たちは加勢しようとするはずだ。

 一旦戻ろう。

 そう思って振り向くと、なんと向こうから王太子殿下たちがやってきているではないか。

「え? 王太子殿下?」
「ああ。特に危険はなさそうだったからな」

 そう言うと、王太子殿下は魔竜ウルガーノのほうへと視線を向ける。

「なるほど。眠っているようだな。すぐに起きそうか?」
「わかりませんが、それより緊急事態です。向かって左、魔竜ウルガーノの向こう側にある壁を見てください」
「む? あれは……次元の裂け目と言ったか?」
「はい」
「だが、魔界の影の姿はないようだな」
「はい。ですが、いつ現れるかわかりません。危険ですので、やはりここは俺が一人で――」
「いや、その必要はない」

================
 次回更新は通常どおり、2024/03/08 (金) 18:00 を予定しております。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

スキルが覚醒してパーティーに貢献していたつもりだったが、追放されてしまいました ~今度から新たに出来た仲間と頑張ります~

黒色の猫
ファンタジー
 孤児院出身の僕は10歳になり、教会でスキル授与の儀式を受けた。  僕が授かったスキルは『眠る』という、意味不明なスキルただ1つだけだった。  そんな僕でも、仲間にいれてくれた、幼馴染みたちとパーティーを組み僕たちは、冒険者になった。  それから、5年近くがたった。  5年の間に、覚醒したスキルを使ってパーティーに、貢献したつもりだったのだが、そんな僕に、仲間たちから言い渡されたのは、パーティーからの追放宣言だった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

処理中です...