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第113話 ウルガーノの島
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2024/03/07 誤字を修正しました
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「レクス卿!」
悔しさを噛みしめながら飛び去る魔竜ウルガーノの姿を眺めていると、慌てた様子のマルツィオ卿が駆け寄ってきた。
「取り逃がしてしまいましたね」
「そんなことより、レクス卿は大丈夫か? 直撃を受けていたではないか!」
「ああ、それですか。ヒヤッとしましたが、意外となんとかなりましたね」
そう答えると、マルツィオ卿はホッとした表情を浮かべた。ふと周りを見回すと、テオやキアーラさん、それに他の騎士や従騎士たちまでもが俺の様子を心配そうに見ている。
ああ、どうやらかなり心配を掛けてしまったようだ。
「みんな、大丈夫だ。実は大したダメージはないんだ」
すると彼らはお互いに顔を見合わせる。
心配されるのはうれしいが、まだやるべきことは残っている。
「それよりマルツィオ卿、王太子殿下に早く追撃の許可をいただかないと」
「む? あれで十分ではないのかね?」
「え? あれだけ弱ってるんですから、今がチャンスですよね?」
「それはそうだが……」
「このまま放っておいても、どうせまた何十年後かに襲ってくるんですよね? ならば今、倒してしまいましょう」
「そ、そうだな」
「では、まずは王太子殿下に合流しましょう」
「ああ」
こうして俺たちは王太子殿下のいる丘の上の地下壕へと向かう。そして丘の上に到着すると、王太子殿下はすでに出発の準備を整えていた。
「王太子殿下!」
「レクスか。よくやったぞ。マルツィオ卿も見事だった。さあ、レクス。ウルガーノ島へと乗り込むぞ」
「はい。もちろんです」
すると王太子殿下は満足げに頷いた。
「お前たち! 我々はこれから魔竜ウルガーノにトドメを刺しに向かう! 奴はすでに虫の息だ! ここで魔竜ウルガーノを滅ぼせば! お前たちの名は英雄として! 永遠にパクシーニの歴史に刻まれるだろう! さあ! 行くぞ!」
王太子殿下はそう言って剣を天に向かって突き上げた。
「「「「おー!」」」」
俺たちもそれに倣って剣を突き上げる。もちろんテオも、キアーラさんも、それにマルツィオ卿もだ。
どうやら王太子殿下に檄を飛ばされ、一瞬でやる気になったらしい。さすが王太子殿下だ。
こうして俺たちは丘から撤収し、港へと向かうのだった。
◆◇◆
俺たちはウルガーノ島へと上陸した。ウルガーノ島は今も小規模な噴火を繰り返す活火山で、ごつごつとした黒い岩と火山灰に覆われた荒涼とした景色が広がっている。
そんな島を俺たちは魔竜ウルガーノのねぐらとされている洞窟を目指して歩いている。
なぜそんなことが分かっているのかというと、それはかつて嵐で乗っていた船が沈没してウルガーノ島に流れ着いた船乗りが、破壊の限りを尽くして戻ってきた魔竜ウルガーノが山の中腹の南斜面にある洞窟に入るのを目撃したという記録が残っているからだ。
この洞窟は遠くから見ても分かるほど大きな洞窟で、俺たちも船からその存在を確認している。
ちなみにそれを見た彼は闇夜に乗じて脱出し、泳いでシシル島まで逃げたのだとか。
ものすごい泳力だと思うが、船乗りであればそのくらいできるものなのかもしれない。
そんなわけで、俺たちは迷うことなく巨大な洞窟に到着した。入口からは魔竜ウルガーノの血と思われる染みが洞窟の奥へと向かって真っすぐに伸びている。
「では、俺が先行します」
「ああ。気をつけろ」
「はい」
身体強化を発動しつつ、俺は慎重に魔竜ウルガーノの残した痕跡を辿る。すると百メートルほど奥に入ったところに大きなドーム状の空間があり、そこで魔竜ウルガーノは体を丸めて眠りについていた。矢は抜けたようで、もう刺さっていない。
と、ここまではいい。予想の範囲内だ。
ただ予想外だったのは、その奥に次元の裂け目があることだ。しかも魔竜ウルガーノは次元の裂け目から漏れ出てくる黒い靄のようなものを吸収しているように見える。
今すぐにやってしまったほうがいいのではないか?
もし魔界の影が現れ、魔竜ウルガーノを強化しようものなら大変なことになる。
いや、ダメだ。戻って近づかないように言わなければ。すでに残りの部隊はこの洞窟に入っている。戦闘を始めれば間違いなく音で分かってしまい、そうすれば王太子殿下たちは加勢しようとするはずだ。
一旦戻ろう。
そう思って振り向くと、なんと向こうから王太子殿下たちがやってきているではないか。
「え? 王太子殿下?」
「ああ。特に危険はなさそうだったからな」
そう言うと、王太子殿下は魔竜ウルガーノのほうへと視線を向ける。
「なるほど。眠っているようだな。すぐに起きそうか?」
「わかりませんが、それより緊急事態です。向かって左、魔竜ウルガーノの向こう側にある壁を見てください」
「む? あれは……次元の裂け目と言ったか?」
「はい」
「だが、魔界の影の姿はないようだな」
「はい。ですが、いつ現れるかわかりません。危険ですので、やはりここは俺が一人で――」
「いや、その必要はない」
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次回更新は通常どおり、2024/03/08 (金) 18:00 を予定しております。
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「レクス卿!」
悔しさを噛みしめながら飛び去る魔竜ウルガーノの姿を眺めていると、慌てた様子のマルツィオ卿が駆け寄ってきた。
「取り逃がしてしまいましたね」
「そんなことより、レクス卿は大丈夫か? 直撃を受けていたではないか!」
「ああ、それですか。ヒヤッとしましたが、意外となんとかなりましたね」
そう答えると、マルツィオ卿はホッとした表情を浮かべた。ふと周りを見回すと、テオやキアーラさん、それに他の騎士や従騎士たちまでもが俺の様子を心配そうに見ている。
ああ、どうやらかなり心配を掛けてしまったようだ。
「みんな、大丈夫だ。実は大したダメージはないんだ」
すると彼らはお互いに顔を見合わせる。
心配されるのはうれしいが、まだやるべきことは残っている。
「それよりマルツィオ卿、王太子殿下に早く追撃の許可をいただかないと」
「む? あれで十分ではないのかね?」
「え? あれだけ弱ってるんですから、今がチャンスですよね?」
「それはそうだが……」
「このまま放っておいても、どうせまた何十年後かに襲ってくるんですよね? ならば今、倒してしまいましょう」
「そ、そうだな」
「では、まずは王太子殿下に合流しましょう」
「ああ」
こうして俺たちは王太子殿下のいる丘の上の地下壕へと向かう。そして丘の上に到着すると、王太子殿下はすでに出発の準備を整えていた。
「王太子殿下!」
「レクスか。よくやったぞ。マルツィオ卿も見事だった。さあ、レクス。ウルガーノ島へと乗り込むぞ」
「はい。もちろんです」
すると王太子殿下は満足げに頷いた。
「お前たち! 我々はこれから魔竜ウルガーノにトドメを刺しに向かう! 奴はすでに虫の息だ! ここで魔竜ウルガーノを滅ぼせば! お前たちの名は英雄として! 永遠にパクシーニの歴史に刻まれるだろう! さあ! 行くぞ!」
王太子殿下はそう言って剣を天に向かって突き上げた。
「「「「おー!」」」」
俺たちもそれに倣って剣を突き上げる。もちろんテオも、キアーラさんも、それにマルツィオ卿もだ。
どうやら王太子殿下に檄を飛ばされ、一瞬でやる気になったらしい。さすが王太子殿下だ。
こうして俺たちは丘から撤収し、港へと向かうのだった。
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俺たちはウルガーノ島へと上陸した。ウルガーノ島は今も小規模な噴火を繰り返す活火山で、ごつごつとした黒い岩と火山灰に覆われた荒涼とした景色が広がっている。
そんな島を俺たちは魔竜ウルガーノのねぐらとされている洞窟を目指して歩いている。
なぜそんなことが分かっているのかというと、それはかつて嵐で乗っていた船が沈没してウルガーノ島に流れ着いた船乗りが、破壊の限りを尽くして戻ってきた魔竜ウルガーノが山の中腹の南斜面にある洞窟に入るのを目撃したという記録が残っているからだ。
この洞窟は遠くから見ても分かるほど大きな洞窟で、俺たちも船からその存在を確認している。
ちなみにそれを見た彼は闇夜に乗じて脱出し、泳いでシシル島まで逃げたのだとか。
ものすごい泳力だと思うが、船乗りであればそのくらいできるものなのかもしれない。
そんなわけで、俺たちは迷うことなく巨大な洞窟に到着した。入口からは魔竜ウルガーノの血と思われる染みが洞窟の奥へと向かって真っすぐに伸びている。
「では、俺が先行します」
「ああ。気をつけろ」
「はい」
身体強化を発動しつつ、俺は慎重に魔竜ウルガーノの残した痕跡を辿る。すると百メートルほど奥に入ったところに大きなドーム状の空間があり、そこで魔竜ウルガーノは体を丸めて眠りについていた。矢は抜けたようで、もう刺さっていない。
と、ここまではいい。予想の範囲内だ。
ただ予想外だったのは、その奥に次元の裂け目があることだ。しかも魔竜ウルガーノは次元の裂け目から漏れ出てくる黒い靄のようなものを吸収しているように見える。
今すぐにやってしまったほうがいいのではないか?
もし魔界の影が現れ、魔竜ウルガーノを強化しようものなら大変なことになる。
いや、ダメだ。戻って近づかないように言わなければ。すでに残りの部隊はこの洞窟に入っている。戦闘を始めれば間違いなく音で分かってしまい、そうすれば王太子殿下たちは加勢しようとするはずだ。
一旦戻ろう。
そう思って振り向くと、なんと向こうから王太子殿下たちがやってきているではないか。
「え? 王太子殿下?」
「ああ。特に危険はなさそうだったからな」
そう言うと、王太子殿下は魔竜ウルガーノのほうへと視線を向ける。
「なるほど。眠っているようだな。すぐに起きそうか?」
「わかりませんが、それより緊急事態です。向かって左、魔竜ウルガーノの向こう側にある壁を見てください」
「む? あれは……次元の裂け目と言ったか?」
「はい」
「だが、魔界の影の姿はないようだな」
「はい。ですが、いつ現れるかわかりません。危険ですので、やはりここは俺が一人で――」
「いや、その必要はない」
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