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第110話 モグラ作戦(前編)
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お詫び:
前話の序盤がコピペミスにより抜けておりました。こちらは 2024/03/03 23:04 に修正しておりますが、まだの方はお手数ですが前話もご確認いただけますと幸いです。
ご迷惑をおかけし、大変申し訳ございませんでした。
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マッシモさんが鏃を作ってくれてから一週間ほどかけ、俺たちはしっかりと作戦を練った。そしてこれで行けると確信を持ったところで、王太子殿下は魔竜ウルガーノの討伐を高らかに宣言した。
銀狼騎士団が魔竜討伐に動く。
その報せは瞬く間に王国南部を駆け巡った。
もちろん国王陛下をはじめ、ほぼ全ての重鎮たちは反対した。だが王太子殿下は民を守るために自分たちは存在しているのだと言い切り、自らの主張を押し通してしまった。
この姿を見て、俺は王太子殿下に対する認識を改めた。
討伐を提案した本人がこんなことを言うのも気が引けるが、死ぬ可能性が大いにある魔竜ウルガーノとの戦いだ。そんな危険な戦いの最前線に、まさか王太子殿下がその身を投じるとは思わなかったのだ。しかも自分の利益ではなく民を守るために、だ。
この人が国王になってくれれば、何もかもうまくいくのではないか?
正直なところ、王太子殿下は俺にとって利害関係が一致した協力者でしかなかった。
王太子殿下だってどうせ貴族の一員で、いずれ利害関係が一致しなくなればいずれ切り捨てられる。そう思い、一歩引いた目で見ていたのだ。
そんな自分を深く恥じると共に、これからはもっと王太子殿下を信頼しようと強く思わされる出来事だった。
その話はさておき、俺たちは総勢五十名の討伐隊を結成した。
討伐隊はその全員が志願者なのだが、驚いたことに、いや、当然と言えば当然なのかもしれないが、討伐隊のほぼ全員が入団試験を受けて入団した平民出身者だった。
現在銀狼騎士団の隊長クラスはすべて騎士か貴族出身者で占められているわけだが、その中で志願してくれたのはクレメンテ卿とマルツィオ卿のたった二人だけだ。
その事を嘆いたメルクリオ卿が出陣を志願するなどということもあった。だが年齢的な体力の衰えに加えて古傷もあるそうで、戦場で長い間戦える体ではないらしい。そんなわけで王太子殿下が必死に説得し、なんとか諦めてもらったのだ。
なお、テオとキアーラさんも討伐隊に志願しており、テオとキアーラさんは二人ともマルツィオ卿の部隊に割り振られている。
そんなこんながありつつも、俺たち討伐隊は七十年前にバリスタが魔竜ウルガーノによって破壊されたとされる小高い丘の上にやってきている。
丘の北側は高さ五十メートルほどの断崖絶壁で、そこから先は数百メートルにわたって森が広がっている。その先は海が広がっており、その沖合には魔竜ウルガーノのねぐらがあるというウルガーノ島の姿が確認できる。
ここから見るとウルガーノ島は台形に見える。火山島だということなので、きっと円錐形の火山の山頂が噴火で吹き飛んだのだろう。
魔竜ウルガーノはすでに先週シシル島に飛来し、村を一つ滅ぼしてそこで飼われていた家畜をすべて食いつくしたのだという。。
過去の記録と照らし合わせて考えると、次に飛来するのは二・三週間後のはずだ。となるともうあまり時間がない。
王太子殿下は到着し次第、すぐに命令を下す。
「総員、作戦開始!」
「「「はっ!」」」
短く敬礼し、俺たちはすぐに作戦を開始した。皆の手にあるのは剣ではなくスコップだ。
王太子殿下のバリスタ隊とクレメンテ隊は丘の上からトンネルを掘り、バリスタを設置する地下壕を掘る。俺とマルツィオ隊は丘の下に広がる森林地帯に地下壕を掘る。
これが俺たちがまずやるべきことだ。
聞いてわかるとおり、作戦のコンセプトは俺が提案したとおり変わっていないが、色々と案を出し合った結果、前線の俺たちも地下に潜ることにしたところが唯一の変更点だ。
こうすれば前線で戦うメンバーも炎や雷から身を守れるため、無駄な犠牲が減るはずだ。
ちなみに今回の作戦名はモグラ作戦で、命名は王太子殿下だ。
こうして俺たちは魔竜ウルガーノが飛来する前に大急ぎで穴を掘って掘って掘りまくるのだった。
◆◇◆
穴掘りを開始して二週間ほどで俺たちは予定していた地下壕を掘り終えた。そしてそのまま地下壕で寝泊りして一週間ほど経ったころ、ウルガーノ島から影が飛び立つのを丘の上から監視をしているメンバーが発見し、鐘を鳴らして伝えてきた。
俺たちはそれを聞いて急いで地下壕を飛び出し、砂浜へとやってきた。
魔竜ウルガーノは……ああ、あれか。まだ遠いのであまり実感はないが、あれほど遠い場所にいるのに肉眼で確認できるというのはそれだけ大きいということなのだろう。
魔竜ウルガーノはこちらに向かって一直線にやってきており、その姿がどんどんと大きくなっていく。
「レクス卿」
「はい」
俺はマルツィオ卿から矢を受け取り、すべてにホーリーを込めた。
「マルツィオ卿、お願いします」
「ああ。任せておけ。レクス卿、死ぬなよ」
「もちろんです」
マルツィオ卿はそう言い残すと、森の中に姿を消した。すぐにキアーラさんや他の弓使いのところにホーリーを込めた矢が届くだろう。
再び魔竜ウルガーノに視線を移した。赤黒い巨体がはっきりと見えるようになってきており、あまりに恐ろしいその姿に思わず本能的な恐怖を覚えてしまう。
だがそれをグッとこらえ、俺は魔竜ウルガーノを睨みつけた。
さあ、ここがお前の墓場だ。散々やってきた悪事のツケを払ってもらうぞ!
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次回更新は通常どおり、2024/03/05 (火) 18:00 を予定しております。
前話の序盤がコピペミスにより抜けておりました。こちらは 2024/03/03 23:04 に修正しておりますが、まだの方はお手数ですが前話もご確認いただけますと幸いです。
ご迷惑をおかけし、大変申し訳ございませんでした。
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マッシモさんが鏃を作ってくれてから一週間ほどかけ、俺たちはしっかりと作戦を練った。そしてこれで行けると確信を持ったところで、王太子殿下は魔竜ウルガーノの討伐を高らかに宣言した。
銀狼騎士団が魔竜討伐に動く。
その報せは瞬く間に王国南部を駆け巡った。
もちろん国王陛下をはじめ、ほぼ全ての重鎮たちは反対した。だが王太子殿下は民を守るために自分たちは存在しているのだと言い切り、自らの主張を押し通してしまった。
この姿を見て、俺は王太子殿下に対する認識を改めた。
討伐を提案した本人がこんなことを言うのも気が引けるが、死ぬ可能性が大いにある魔竜ウルガーノとの戦いだ。そんな危険な戦いの最前線に、まさか王太子殿下がその身を投じるとは思わなかったのだ。しかも自分の利益ではなく民を守るために、だ。
この人が国王になってくれれば、何もかもうまくいくのではないか?
正直なところ、王太子殿下は俺にとって利害関係が一致した協力者でしかなかった。
王太子殿下だってどうせ貴族の一員で、いずれ利害関係が一致しなくなればいずれ切り捨てられる。そう思い、一歩引いた目で見ていたのだ。
そんな自分を深く恥じると共に、これからはもっと王太子殿下を信頼しようと強く思わされる出来事だった。
その話はさておき、俺たちは総勢五十名の討伐隊を結成した。
討伐隊はその全員が志願者なのだが、驚いたことに、いや、当然と言えば当然なのかもしれないが、討伐隊のほぼ全員が入団試験を受けて入団した平民出身者だった。
現在銀狼騎士団の隊長クラスはすべて騎士か貴族出身者で占められているわけだが、その中で志願してくれたのはクレメンテ卿とマルツィオ卿のたった二人だけだ。
その事を嘆いたメルクリオ卿が出陣を志願するなどということもあった。だが年齢的な体力の衰えに加えて古傷もあるそうで、戦場で長い間戦える体ではないらしい。そんなわけで王太子殿下が必死に説得し、なんとか諦めてもらったのだ。
なお、テオとキアーラさんも討伐隊に志願しており、テオとキアーラさんは二人ともマルツィオ卿の部隊に割り振られている。
そんなこんながありつつも、俺たち討伐隊は七十年前にバリスタが魔竜ウルガーノによって破壊されたとされる小高い丘の上にやってきている。
丘の北側は高さ五十メートルほどの断崖絶壁で、そこから先は数百メートルにわたって森が広がっている。その先は海が広がっており、その沖合には魔竜ウルガーノのねぐらがあるというウルガーノ島の姿が確認できる。
ここから見るとウルガーノ島は台形に見える。火山島だということなので、きっと円錐形の火山の山頂が噴火で吹き飛んだのだろう。
魔竜ウルガーノはすでに先週シシル島に飛来し、村を一つ滅ぼしてそこで飼われていた家畜をすべて食いつくしたのだという。。
過去の記録と照らし合わせて考えると、次に飛来するのは二・三週間後のはずだ。となるともうあまり時間がない。
王太子殿下は到着し次第、すぐに命令を下す。
「総員、作戦開始!」
「「「はっ!」」」
短く敬礼し、俺たちはすぐに作戦を開始した。皆の手にあるのは剣ではなくスコップだ。
王太子殿下のバリスタ隊とクレメンテ隊は丘の上からトンネルを掘り、バリスタを設置する地下壕を掘る。俺とマルツィオ隊は丘の下に広がる森林地帯に地下壕を掘る。
これが俺たちがまずやるべきことだ。
聞いてわかるとおり、作戦のコンセプトは俺が提案したとおり変わっていないが、色々と案を出し合った結果、前線の俺たちも地下に潜ることにしたところが唯一の変更点だ。
こうすれば前線で戦うメンバーも炎や雷から身を守れるため、無駄な犠牲が減るはずだ。
ちなみに今回の作戦名はモグラ作戦で、命名は王太子殿下だ。
こうして俺たちは魔竜ウルガーノが飛来する前に大急ぎで穴を掘って掘って掘りまくるのだった。
◆◇◆
穴掘りを開始して二週間ほどで俺たちは予定していた地下壕を掘り終えた。そしてそのまま地下壕で寝泊りして一週間ほど経ったころ、ウルガーノ島から影が飛び立つのを丘の上から監視をしているメンバーが発見し、鐘を鳴らして伝えてきた。
俺たちはそれを聞いて急いで地下壕を飛び出し、砂浜へとやってきた。
魔竜ウルガーノは……ああ、あれか。まだ遠いのであまり実感はないが、あれほど遠い場所にいるのに肉眼で確認できるというのはそれだけ大きいということなのだろう。
魔竜ウルガーノはこちらに向かって一直線にやってきており、その姿がどんどんと大きくなっていく。
「レクス卿」
「はい」
俺はマルツィオ卿から矢を受け取り、すべてにホーリーを込めた。
「マルツィオ卿、お願いします」
「ああ。任せておけ。レクス卿、死ぬなよ」
「もちろんです」
マルツィオ卿はそう言い残すと、森の中に姿を消した。すぐにキアーラさんや他の弓使いのところにホーリーを込めた矢が届くだろう。
再び魔竜ウルガーノに視線を移した。赤黒い巨体がはっきりと見えるようになってきており、あまりに恐ろしいその姿に思わず本能的な恐怖を覚えてしまう。
だがそれをグッとこらえ、俺は魔竜ウルガーノを睨みつけた。
さあ、ここがお前の墓場だ。散々やってきた悪事のツケを払ってもらうぞ!
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次回更新は通常どおり、2024/03/05 (火) 18:00 を予定しております。
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