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第105話 再会の夕べ
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テオが入団した週末、俺はテオと一緒に夕方の冒険者ギルドを訪れた。この時間のギルドは依頼を終えた冒険者たちでごった返しており、ニーナさんも忙しそうにその対応をしている。
そうしてしばらく待っていると窓口は閉まり、冒険者たちは併設の酒場へと吸い込まれていく。ニーナさんは左手をひらひらと振ってから奥へと姿を消し、十分ほどで普段着に着替えて戻ってきた。
「テオくん、久しぶりだね」
「はい! 久しぶりです! ニーナさんも元気そうで良かったです」
「うん。レクスくんも元気そうだね。あ! 今はレクス卿だっけ?」
「レクスくんでいいですよ」
「もう。二人とも出世したなぁ」
ニーナさんはそう言うと、まるで自分のことのように嬉しそうに笑ってくれた。
「さーて、それじゃあご飯にしようか」
「はい」
そして俺たちも他の冒険者たちと同じように併設の酒場へと向かう。
もっと豪華なレストランで、とも思ったが、俺たちにはきっと冒険者ギルドの併設酒場が一番お似合いの場所だ。
俺たちは壁際の席に座り、さっそくウェイトレスさんを呼んだ。
「いらっしゃいませ。あれ? ニーナじゃない。ここに来るなんて珍しいね~」
「あ、マリアンナ。うん、ちょっとお祝いでね」
「え? お祝い?」
そういってウェイトレスさんは俺たちのほうをじっと見る。今日は二人とも私服なので、騎士だとは思われないだろう。
「あ! 分かった! 昇格祝いだね! もしかしてDランク? ならもう一人前だね~」
ウェイトレスが客とこんな風に気安く会話をするのもこういった店ならではだろう。レベルが低いと言われればそうかもしれないが、アットホームとも言えるこの雰囲気も俺は嫌いではない。
一方のニーナさんは意味深な表情を浮かべる。
「え? 違うの? じゃあもしかしてCランク? その年でCランクってすごくない?」
するとニーナさんがそっと耳打ちしてきた。
「ねえ、言っちゃっていい?」
「え? でも大騒ぎになるのはちょっと……」
「ああ、それもそうだね」
ニーナさんはマリアンナさんのほうに顔を向ける。
「マリアンナ、昇格のお祝いじゃなくって、別のお祝いなの。この子がレムロスに戻ってきたから、そのお祝い」
「ふーん? 何か危険な依頼だったのかな?」
「そんなところかな。あ! あたしは赤ワインね。二人は?」
「俺はぶどう水で」
「俺も」
「はーい」
「あと食事はディナーセットを三つ」
「おっけー。じゃ、ちょっと待っててね」
マリアンナさんはそう言って奥へと消えていった。
それからすぐに飲み物が運ばれてきて、俺たちは乾杯した。
「テオくん、マリノまで行ってたんだって?」
「はい。そうなんです。寮に入るってだけ聞かされてたんですけど、まさかいきなり馬車で連れていかれるなんて思ってませんでした」
「あはは、そうなんだ。でもレクスくんからマリノいるらしいって聞いてホントにビックリしたんだからね?」
「すみません」
「全然顔を見せてくれないから、もう忘れられたのかと思っちゃったよ」
「そんなわけ!」
テオはその言葉に強く反応した。
「あはは、ごめんごめん。冗談だよ」
「ニーナさん、冗談でもそれは……」
「うん。そうだね。ごめん」
あれ? テオがニーナさんのことが大好きなのは知っていたけど、ここまでだったっけか?
「もしかしてテオとニーナさんて、付き合ってたりするんですか?」
「はっ?」
「え? 何それ? そんなわけないでしょ。テオくんはあたしのとってもカワイイ弟分だよ。あ! もちろんレクスくんもだぞ」
ニーナさんはそう言って俺の頭を撫でてきた。
「そうだったんですか。なんだか前とちょっと関係が違いそうだなって思って」
「え? そうかなぁ? ねっ、テオくん?」
しかしテオはそれに答えず、神妙な面持ちをしている。
「あれ? テオくん、もしかしてまだ気にしてる? やだなぁ。気にしなくていいんだよ」
ニーナさんは明るくそう言ったが、テオは真剣な表情でゆっくりと口を開く。
「ニーナさんがああなったのは、俺のせいなんだ」
「えっ?」
「俺がいなければ、ニーナさんは逃げ切れたし、腕を失うこともなかった。足に障害が残ることもなかった。あのとき逃げ遅れた俺を庇ったせいで、ニーナさんは――」
ニーナさんがテオの口を左手で押さえ、その言葉を遮った。
「テオくん、いいんだよ」
ニーナさんは優しく、諭すように話す。
「あたしにとってね。テオくんもレクスくんも、大事な弟分なんだよ。だからあたしは、大事な弟分を守れて満足。それにさ? 冒険者をやっていたのに、まだ生きてるんだもの。これを幸せだって思わなきゃ。まだあと一年は仕事に困らないんだし。ね?」
テオはそれでも自分を許せないのだろう。悔しそうに唇を噛んでいる。
そんな重苦しい雰囲気をなんとかしようと思ったのか、ニーナさんが話題を変えてくる。
「そういえばさ。レクスくんは今どんな仕事してるの? やっぱり騎士の勉強って大変なの?」
「勉強は去年のうちに終わらせたんで、もう大丈夫です。ただ、去年は大変でしたね。午前中訓練で午後は勉強って感じで、ほとんど休む暇がなかったです」
「そうなんだぁ。王太子殿下とどこかに行った?」
「外出したのは一回だけです。警備の仕事でした。その間も王太子殿下は色々と回っていたみたいですけど、俺はいきなり騎士になりましたからね」
「あー、そういえば従騎士をすっ飛ばしてだもんね」
「はい」
「そういえば、どうやってそうなったの?」
「Cランクになったとき、そこの領主に指名依頼を受けてヴァリエーゼっていうところの防衛に行ったんですけど、そのときに」
「へぇ。じゃあそこで魔法を見せたんだ」
「はい。チャンスだって思ったんで」
「そうかぁ。しっかり考えてるねぇ。えらいえらい」
ニーナさんはそう言って俺の頭を撫でてくれる。
「テオくんはどう? 訓練は大変?」
「こっちに戻ってからは全然です。マリノでの一年のほうがよっぽどですよ。ただ、マリノにいなかった貴族連中がちょっと温くてイライラしますけど」
「こら、そんなこと言っちゃダメでしょ」
「でもあいつら弱いし体力ないし、あいつらもマリノ送りにするべきですよ」
ほんの数日しか経っていないのに、テオは推薦組にかなりのストレスを感じているらしい。
「それにあいつら……」
テオの推薦組に関する愚痴は留まるところを知らない。
こうしてテオの愚痴を聞きつつニーナさんの近況なども聞き、俺たちは楽しい夕食の時間を過ごしたのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/02/29 (木) 18:00 を予定しております。
そうしてしばらく待っていると窓口は閉まり、冒険者たちは併設の酒場へと吸い込まれていく。ニーナさんは左手をひらひらと振ってから奥へと姿を消し、十分ほどで普段着に着替えて戻ってきた。
「テオくん、久しぶりだね」
「はい! 久しぶりです! ニーナさんも元気そうで良かったです」
「うん。レクスくんも元気そうだね。あ! 今はレクス卿だっけ?」
「レクスくんでいいですよ」
「もう。二人とも出世したなぁ」
ニーナさんはそう言うと、まるで自分のことのように嬉しそうに笑ってくれた。
「さーて、それじゃあご飯にしようか」
「はい」
そして俺たちも他の冒険者たちと同じように併設の酒場へと向かう。
もっと豪華なレストランで、とも思ったが、俺たちにはきっと冒険者ギルドの併設酒場が一番お似合いの場所だ。
俺たちは壁際の席に座り、さっそくウェイトレスさんを呼んだ。
「いらっしゃいませ。あれ? ニーナじゃない。ここに来るなんて珍しいね~」
「あ、マリアンナ。うん、ちょっとお祝いでね」
「え? お祝い?」
そういってウェイトレスさんは俺たちのほうをじっと見る。今日は二人とも私服なので、騎士だとは思われないだろう。
「あ! 分かった! 昇格祝いだね! もしかしてDランク? ならもう一人前だね~」
ウェイトレスが客とこんな風に気安く会話をするのもこういった店ならではだろう。レベルが低いと言われればそうかもしれないが、アットホームとも言えるこの雰囲気も俺は嫌いではない。
一方のニーナさんは意味深な表情を浮かべる。
「え? 違うの? じゃあもしかしてCランク? その年でCランクってすごくない?」
するとニーナさんがそっと耳打ちしてきた。
「ねえ、言っちゃっていい?」
「え? でも大騒ぎになるのはちょっと……」
「ああ、それもそうだね」
ニーナさんはマリアンナさんのほうに顔を向ける。
「マリアンナ、昇格のお祝いじゃなくって、別のお祝いなの。この子がレムロスに戻ってきたから、そのお祝い」
「ふーん? 何か危険な依頼だったのかな?」
「そんなところかな。あ! あたしは赤ワインね。二人は?」
「俺はぶどう水で」
「俺も」
「はーい」
「あと食事はディナーセットを三つ」
「おっけー。じゃ、ちょっと待っててね」
マリアンナさんはそう言って奥へと消えていった。
それからすぐに飲み物が運ばれてきて、俺たちは乾杯した。
「テオくん、マリノまで行ってたんだって?」
「はい。そうなんです。寮に入るってだけ聞かされてたんですけど、まさかいきなり馬車で連れていかれるなんて思ってませんでした」
「あはは、そうなんだ。でもレクスくんからマリノいるらしいって聞いてホントにビックリしたんだからね?」
「すみません」
「全然顔を見せてくれないから、もう忘れられたのかと思っちゃったよ」
「そんなわけ!」
テオはその言葉に強く反応した。
「あはは、ごめんごめん。冗談だよ」
「ニーナさん、冗談でもそれは……」
「うん。そうだね。ごめん」
あれ? テオがニーナさんのことが大好きなのは知っていたけど、ここまでだったっけか?
「もしかしてテオとニーナさんて、付き合ってたりするんですか?」
「はっ?」
「え? 何それ? そんなわけないでしょ。テオくんはあたしのとってもカワイイ弟分だよ。あ! もちろんレクスくんもだぞ」
ニーナさんはそう言って俺の頭を撫でてきた。
「そうだったんですか。なんだか前とちょっと関係が違いそうだなって思って」
「え? そうかなぁ? ねっ、テオくん?」
しかしテオはそれに答えず、神妙な面持ちをしている。
「あれ? テオくん、もしかしてまだ気にしてる? やだなぁ。気にしなくていいんだよ」
ニーナさんは明るくそう言ったが、テオは真剣な表情でゆっくりと口を開く。
「ニーナさんがああなったのは、俺のせいなんだ」
「えっ?」
「俺がいなければ、ニーナさんは逃げ切れたし、腕を失うこともなかった。足に障害が残ることもなかった。あのとき逃げ遅れた俺を庇ったせいで、ニーナさんは――」
ニーナさんがテオの口を左手で押さえ、その言葉を遮った。
「テオくん、いいんだよ」
ニーナさんは優しく、諭すように話す。
「あたしにとってね。テオくんもレクスくんも、大事な弟分なんだよ。だからあたしは、大事な弟分を守れて満足。それにさ? 冒険者をやっていたのに、まだ生きてるんだもの。これを幸せだって思わなきゃ。まだあと一年は仕事に困らないんだし。ね?」
テオはそれでも自分を許せないのだろう。悔しそうに唇を噛んでいる。
そんな重苦しい雰囲気をなんとかしようと思ったのか、ニーナさんが話題を変えてくる。
「そういえばさ。レクスくんは今どんな仕事してるの? やっぱり騎士の勉強って大変なの?」
「勉強は去年のうちに終わらせたんで、もう大丈夫です。ただ、去年は大変でしたね。午前中訓練で午後は勉強って感じで、ほとんど休む暇がなかったです」
「そうなんだぁ。王太子殿下とどこかに行った?」
「外出したのは一回だけです。警備の仕事でした。その間も王太子殿下は色々と回っていたみたいですけど、俺はいきなり騎士になりましたからね」
「あー、そういえば従騎士をすっ飛ばしてだもんね」
「はい」
「そういえば、どうやってそうなったの?」
「Cランクになったとき、そこの領主に指名依頼を受けてヴァリエーゼっていうところの防衛に行ったんですけど、そのときに」
「へぇ。じゃあそこで魔法を見せたんだ」
「はい。チャンスだって思ったんで」
「そうかぁ。しっかり考えてるねぇ。えらいえらい」
ニーナさんはそう言って俺の頭を撫でてくれる。
「テオくんはどう? 訓練は大変?」
「こっちに戻ってからは全然です。マリノでの一年のほうがよっぽどですよ。ただ、マリノにいなかった貴族連中がちょっと温くてイライラしますけど」
「こら、そんなこと言っちゃダメでしょ」
「でもあいつら弱いし体力ないし、あいつらもマリノ送りにするべきですよ」
ほんの数日しか経っていないのに、テオは推薦組にかなりのストレスを感じているらしい。
「それにあいつら……」
テオの推薦組に関する愚痴は留まるところを知らない。
こうしてテオの愚痴を聞きつつニーナさんの近況なども聞き、俺たちは楽しい夕食の時間を過ごしたのだった。
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