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第101話 交流会

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 その日の夜、ニーナさんの仕事が終わってからもう一度会って話したのだが、リナルドさんとアルバーノさんは遺体で見つかったのだそうだ。騎士たちも全滅し、生存者はほとんどいなかったのだという。

 人数が合ってしまったので、生き残ったのは俺とニーナさん、そしてテオの三人だけだったようだ。俺もケヴィンさんたちのことを話し、もう絶望的だということを伝えたのだが、ニーナさんは寂しそうに「そっか」とだけ言っていた。

 反応が薄いことに少し驚いたが、きっとニーナさんはもう諦めていて、心の中である程度の整理はついていたのだろう。

 それからしばらくしてテオから返事が来たのだが、そこには無事の知らせやケヴィンさんたちに対することはあまり触れられておらず、大半は死ぬほどしごかれているという愚痴が書かれていた。

 とりあえず愚痴が書けるということは元気だということなのだろう。

 また、そのことをニーナさんに伝えると嬉しそうに、頑張ってるんだね、と言っていた。

 そうこうしつつ忙しい日々を過ごしていると、俺は王太子殿下に呼ばれて執務室へとやってきた。

「失礼します」
「ああ、入れ」
「はい」

 俺が中に入ると、そこには王太子殿下の他にメルクリオ卿とヴァリエーゼで一緒に戦ったマルツィオ卿の姿があった。

「よく来たな。どうだ? もう慣れたか?」
「はい。おかげさまで」
「そうか。それは何よりだ。メルクリオからも吸収が早いと聞いている」
「ありがとうございます」

 すると王太子殿下は満足げにうなずいた。

「さて、今日呼んだのはな。レクス、お前を交流会に連れて行くためだ」

 交流会って言うと、たしか昔グラハムさんがちらっと話していたな。

「交流会のことは知っているか?」
「そういうものがあるというくらいは聞いたことがあります」
「そうか。交流会というのは、王家とマッツィアーノ公爵家が毎年十月ごろに開いている親睦会のことだ。目的は親睦を図り、お互いの結束を確認し合うことだ。場所はレムロスとコルティナのちょうど中間くらいにある都市で持ち回りで開いている」
「ご説明いただきありがとうございます」
「ああ。普段は陛下とマッツィアーノ公爵家の当主、それから数名が参加するが、今年は向こう側の参加者にはセレスティア・ディ・マッツィアーノ公爵令嬢の名前があった」
「っ!?」
「時間を作ってやれるかは分からないが、手紙やプレゼントを渡すくらいはできるはずだ」
「ありがとうございます」

 王太子殿下は再び満足げに頷く。

「レクス、お前の仕事は会場警備だ。そこのマルツィオが警備の責任者となる。よく相談し、しっかり任務にあたるように」
「はっ!」

 俺は王太子殿下に敬礼するのだった。

◆◇◆

 俺たちは一足先に交流会の会場であるモラッツァーニ伯爵領の領都マルゲーラにやってきた。そう、よりにもよってモラッツァーニ伯爵領が今回の交流会の会場だったのだ。

 そこで色々と聞いたのだが、モラッツァーニ伯爵は今年になってマッツィアーノ公爵にモンスターを追い払ってもらうようにお願いをしたそうだ。きっかけはスピネーゼでのあの事件で、モラッツァーニ伯爵は次期伯爵だったカミロ様を失い、同時に三百人近い精鋭の騎士たちを失った。

 この損害はさすがに大きく、自力では支えきれないと判断したモラッツァーニ伯爵はマッツィアーノ公爵の軍門に下ったのだ。どういった条件をんだのかは不明だが、領地の全収入の何割かを上納させられている、などとまことしやかにささやかれている。

 なんともやりきれない話ではあるが、俺がどうこう言える話でもないので仕方がない。

 俺は俺でやることをやるだけだ。

 そうしてしっかりと準備を整え、交流会の当日を迎えた。俺は会場の警備ということで、何かない限りはホールの隅で邪魔にならないように立っているのが仕事だ。

 高齢のモラッツァーニ伯爵と若い婦人、そしてカミロ様の弟なのだろう。十歳くらいの男の子がまず国王陛下と王太子殿下を迎える。

 あとはマッツィアーノの到着を待つだけなのだが……。

 来ない。もう開始予定時刻を三十分ほどオーバーしているというのに。

 だがそれに文句を言える者は誰もおらず、黙ってマッツィアーノが到着するのを待っている。

 一時間ほど経った。まだ来ない。

 そして二時間ほどが経過した。

 さすがにこれはドタキャンされたのではないか?

 そう思ったころ、突然会場の扉が開いた。

「クルデルタ・ディ・マッツィアーノ公爵閣下! ロザリナ・ディ・マッツィアーノ公爵令嬢! セレスティア・ディ・マッツィアーノ公爵令嬢のご到着です!」

 紹介され、ティティたちが入ってくる。先頭を歩く、黒髪にオールバックの見るからに悪人面をした男がマッツィアーノ公爵のようだ。後ろにあの悪魔と美しく着飾ったティティの姿がある。見惚れるほど美しいというのに、ティティの瞳は凍りついているように見え、きゅっと胸が締め付けられる。

「やあ、陛下。元気そうで何よりだ」

 クルデルタはそう言って国王陛下にフランクに話しかけた。

「うむ。公爵も元気そうじゃのう」

 そう言って二人は握手を交わした。その光景一つ見ても、クルデルタが国王陛下に従っているわけではないということがよく分かる。

「ロザリナ嬢も、久しぶりじゃな。ロザリナ嬢は会うたびに美しくなるのう」
「まあ、陛下。お上手ですこと」

 そう言って悪魔は淑やかに笑った。

「セレスティア嬢とは初めてじゃったな」
「ええ。お初お目にかかります。セレスティア・ディ・マッツィアーノと申します」

 そう言ってティティは優雅にカーテシーをした。

「ううむ。見事なカーテシーじゃのう。公爵、そなたに美しい娘がもう一人おったとはのう。こちらは男二人じゃから、美しい娘が二人もいるというのは、うらやましいのう」
「ああ。見てのとおり、よくできた娘たちだからな」

 クルデルタはそう言って笑ったのだが、なぜかそれを見ると不快な気持ちが沸き上がってくる。

「うむうむ。うらやましい限りじゃ。さて、そこでじゃ。我が息子のルカが、二人にプレゼントを贈りたいと言いだしてのう」
「ほう。それはそれは。ロザリナ、セレスティア。せっかくだ。受け取りなさい」
「まあ、うれしいですわ」
「ありがとうございます」

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 次回更新は通常どおり、2024/02/25 (日) 18:00 を予定しております。
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